セカンドキャリアとは|企業による支援策と人材採用のポイント
人生100年時代を迎え、退職後のキャリア形成、転職や再就職を伴うキャリアプランの変更など、セカンドキャリアへの関心が高まっています。
本コラムでは、セカンドキャリアの意味や重要性、年齢別の特徴、企業による社員のキャリア支援策について紹介します。さらに、セカンドキャリア人材を採用するメリット、注意点なども併せて解説します。
セカンドキャリアとは
セカンドキャリアの概念は、社会の変化や個人の価値観の多様化に伴い、その意味合いが少しずつ変化してきました。
まずは、定義の変遷と、現代におけるセカンドキャリアの意味について見ていきましょう。
狭義のセカンドキャリア
従来、セカンドキャリアは主に「第二の人生における2つめの職業」を指す言葉として、ビジネスパーソンの定年退職後や、プロスポーツ選手の引退後に就く仕事を意味していました。
これは、終身雇用がまだ一般的で、「1つの会社で定年まで勤め上げる」という働き方が主流だった時代に生まれた概念です。
広義のセカンドキャリア
その後、社会の変化に合わせて、セカンドキャリアの定義は「長期的なビジョンに基づいたキャリアチェンジ」へと変わっていきます。
かつては「失敗」と捉えられがちだった20代・30代の転職。現在は、自身のキャリアビジョンに基づいた戦略的な選択であれば、セカンドキャリアの一環として肯定的に捉えられています。
さらに、副業解禁の流れを受け、本業と並行して新たな領域に挑戦する動きも活発化してきました。これも将来的なキャリアの選択肢を広げる「セカンドキャリアの準備段階」といえるでしょう。
セカンドキャリアが注目されている背景
セカンドキャリアへの関心が高まっている背景には、長寿社会における人生設計の変化、女性の社会進出、働き方の多様化など、様々な要因があります。
では、こうした要因は、セカンドキャリアを考える個人の意識にどのような影響を与えているのでしょうか?
長寿社会における人生設計の変化
日本は世界トップクラスの長寿国。平均寿命の伸長に伴い、定年退職後の人生が20~30年と大幅に長くなりました。長寿社会においては、定年退職後の再就職も含め、生涯現役でいるための人生設計が大きな課題となっています。
まだ定年には時間がある人生の早い段階でも、セカンドキャリアに向けて新たな分野への挑戦やスキルの習得などを行うことは重要です。こうした取り組みが、その後の人生における選択肢を広げることにつながるからです。
女性の社会進出
ライフイベントを機に離職した女性の場合、かつては子育てが落ち着いてから社会復帰を試みても、ブランクなどを理由に採用を断られるケースが少なくありませんでした。
しかし、近年は社会全体で女性の職場復帰や再就職を支援する機運が高まり、状況は変わりつつあります。
育児と両立しやすい職種への転職や、ブランク期間中に得た経験を活かせる新たな分野への挑戦など、女性のセカンドキャリアを支援する動きが活発化しています。
働き方の多様化とライフスタイルの変化
終身雇用や年功序列といった従来の雇用システムが崩壊しつつある今、フリーランスや起業など、自分らしい働き方を求める人が増えてきました。ワークライフバランスの重視、育児や介護といったライフイベントと並行して、キャリアアップを目指す傾向も強まっています。
企業側も、人材不足の解消や離職防止策として、リモートワークやフレックスタイム制の導入、副業・兼業の自由化など、多様な働き方を受け入れ始めています。
こうした社会全体の変化が、自分らしいキャリアの追求につながり、セカンドキャリアに対する関心の高まりを後押ししているのです。
セカンドキャリアは何歳から?年代別の特徴
セカンドキャリアを考え始める時期は、人によって異なります。ここでは、30代、40代、50代のセカンドキャリアの特徴について解説します。
30代:キャリアの模索とスキルアップ
30代はそれまでの社会人経験を振り返り、自身のキャリアパスについて見つめ直す時期です。入社時に描いていたキャリアビジョンと、現在の仕事内容やスキルのギャップに悩む人も少なくないでしょう。
結婚や出産、育児といったライフイベントを迎える時期でもあるため、ワークライフバランスを意識したキャリア選択を迫られる人もいます。
まだ若く、体力やバイタリティーもある年代ですので、より自分に合った職業や働き方を求めて、新たなスキルの習得やキャリアチェンジに挑戦する人が多く見られます。
40代:専門性の向上と長期的なキャリア形成
40代は、管理職や専門職としてのキャリアを積み重ねながら、今後のキャリアパスやライフプランについて真剣に考え始める時期です。
仕事面では、これまでの経験を活かしつつ専門性をさらに高めることが求められるでしょう。他方、プライベートでは子育てが本格化し、ワークライフバランスの重要性を実感する人も多いはず。子育てがない場合でも、ファーストキャリアの目標を達成して「次」を考える人もいます。
40代からのセカンドキャリアには、こうした仕事とプライベートの両立を目指し、ワークライフバランスを重視する傾向があります。
50代:定年後を見据えた準備と新たな挑戦
多くの人は、50代以降の定年退職で生活や働き方について具体的に考え始めるでしょう。
仕事面では、これまで培ってきた経験やスキルを活かして後進の指導・育成に力を注ぐ人もいれば、独立や起業、社会貢献活動など新たな挑戦をスタートさせる人もいます。
一方で、老後の生活設計や親の介護問題など、新たな課題に直面するケースも少なくありません。
こうした事情から、ファーストキャリアが一段落したあとの安定した生活に向けて、収入源を確保しつつ無理のない働き方ができる仕事を探すことになります。
企業によるセカンドキャリア支援
昨今、社員のセカンドキャリア支援に力を入れる企業も増えてきました。ここでは、企業が実施できる支援策、その効果や意義について解説します。
企業によるセカンドキャリア支援策の例
企業によるセカンドキャリア支援には、様々な具体的な取り組みがあります。社員のキャリア形成やスキルアップを目的とした研修の実施、リカレント教育の推進、経済的・時間的なサポート、キャリア相談窓口の設置などです。
以下の表に、各支援策の概要をまとめました。
支援の種類 | 概要 |
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キャリア研修の実施 |
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リカレント教育の推進 |
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経済的支援 |
セカンドキャリアに向けた準備にかかる経済的な支援
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時間的支援 |
社員がキャリアチェンジに向き合う時間的余裕のサポート
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情報的支援 |
セカンドキャリア構築に役立つ情報提供
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社外副業・兼業の許可 |
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キャリア相談窓口の設置 |
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社外の支援サポートや助成金・給付金制度も活用することで、より充実した支援が可能になるでしょう。政府が提供する制度として、次のようなものがあります。
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キャリア形成サポートセンター
厚生労働省が推進するジョブ・カード制度(個人のキャリアプランの作成や職業能力の証明のためのツール)を活用した、企業の人材育成・採用選考などの支援
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人材開発支援助成金
企業が社員に職業訓練を行う際に、経費の一部や訓練期間中の賃金の一部などを助成する制度
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教育訓練給付制度
雇用保険の被保険者が厚生労働大臣指定の教育訓練講座を受講する際に、教育訓練経費の一定割合をハローワークから支給する制度
セカンドキャリア支援で得られる企業のメリット
社員のセカンドキャリアを支援することは、離職者の増加につながるという懸念があるかもしれません。
しかし、適切なセカンドキャリア支援を行えば、企業にとって以下のようなメリットが生まれます。
主なメリット | 内容 |
---|---|
学びと仕事への意欲向上 | セカンドキャリア支援によって社員自身のキャリアビジョンが明確化し、目標達成に向けた学びや仕事への意欲的向上、モチベーション向上につながる |
企業イメージが向上 | セカンドキャリア支援を企業の社会的責任(CSR)の一環として実施することで、企業の社会的評価を高め、ステークホルダーからの信頼獲得とイメージ向上につなげる |
他社との信頼関係構築 | セカンドキャリアを見据えた社員に対し、その知識やスキルを活かせる転職先や再就職先を自社でサポートすることで、「良い人材を紹介してもらえる」など、他社との信頼関係構築につながる |
セカンドキャリア人材の活用が企業にもたらす価値
近年、企業が抱える課題を解決する手段として、セカンドキャリア人材の採用も注目されています。
自社でセカンドキャリア支援を行った人材であれ、他社からの転職や再就職を希望する人材であれ、豊富な経験とスキルを持つ人材の活用は企業に様々なメリットをもたらすでしょう。
(1)即戦力としての貢献
セカンドキャリア人材の多くは、これまでの経験で培った知識やスキルを有しています。特定分野の専門知識や業務経験を持つ人も少なくありません。採用後は即戦力として活躍してくれるでしょう。
特に高度な専門性が求められる職種や人材不足に悩む業界では、セカンドキャリア人材の採用が、事業の成長を加速させる重要な戦略となります。
新卒採用や若手社員の育成には多大なコストと時間がかかりますが、セカンドキャリア人材にはそうした初期の研修・教育が不要。即戦力となるセカンドキャリア人材を採用することで、コスト削減やより効率的な人材投資が可能になるということです。
(2)イノベーションと組織活性化
異なる業界や職種での経験を持つセカンドキャリア人材は、これまでのキャリアで培った独自の視点や自社とは異なる価値観をもたらします。これは社内のイノベーションを促すとともに、新たなビジネスチャンスにつながる可能性があります。
セカンドキャリア人材には管理職経験者もいますので、メンターやリーダーの役割を担うことも可能です。若手社員の育成やチーム活性化に貢献し、組織全体の成長を促進してくれるでしょう。
(3)企業ブランディングの強化
セカンドキャリア人材の採用によって、企業に多様な人材を受け入れる姿勢があること、社会的責任を重視していることもアピールできます。
多様性を重視する現代社会において、セカンドキャリア人材に注目し、活躍の場を与えることは、企業のブランドイメージ向上につながるでしょう。「働きやすい職場」として、優秀な人材の獲得にも好影響を与えることが期待できます。
セカンドキャリア人材採用の注意点
セカンドキャリア人材の採用は、企業に多くのメリットをもたらしますが、同時に注意すべき点もあります。採用後にミスマッチが生じないよう、事前に十分な検討を行いましょう。
(1)採用基準と評価制度の見直し
これまでの採用基準や評価制度は、新卒や若手社員を前提としたものが一般的でした。しかし、セカンドキャリア人材は、経験やスキル、価値観が多様なため、従来の基準では適切に評価できない可能性があります。
そこで、セカンドキャリア人材に特化した採用基準や評価制度を設けることが重要となってきます。これまでの経験やスキルを活かせるポジションを明確にし、実績や成果だけでなく、ポテンシャルやリーダーシップといった要素も評価に組み込むようにしましょう。
(2)柔軟な働き方の導入
セカンドキャリア人材の中には、家庭の事情や健康上の理由から、フルタイムでの勤務が難しい人もいます。そのため、リモートワークやフレックスタイム制など、柔軟な働き方を導入することで、多様な人材が能力を発揮できる環境を整えることが大切です。
年齢や体力に合わせた業務内容の調整、休憩時間の確保など、個々の状況にも十分配慮しましょう。
(3)ミスマッチを防ぐためのコミュニケーション
人材採用では、企業と応募者双方の期待値、価値観の擦り合わせが重要となります。
企業は、選考段階で自社の求める人物像や求めるスキル、キャリアパスなどを明確に伝えましょう。応募者には、自身のキャリアビジョンや現在のスキル、経験を率直に伝えてもらうことが重要です。このような情報共有と擦り合わせにより、業務と人材のミスマッチを防止できます。
入社後も定期的な面談やフィードバックを行い、双方の認識にズレがないかを確認しましょう。