働き方改革とは|推進するメリット・デメリットと企業事例
本コラムでは、働き方改革の概要や推進の背景、メリット・デメリットなどを解説。働き方改革におけるポイントや導入事例もご紹介します。
働き方改革とは
働き方改革とは、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方の選択肢を設け、労働者が選べるようにする取り組みです。日本が直面している少子高齢化に伴う労働力人口の減少や、働く人のニーズの多様化に対応するため、一人ひとりが働きやすい環境の整備が求められています。
働き方改革の概要
働き方改革は、働く人のさまざまな事情に応じた多様な働き方を実現するための改革であり、一億総活躍社会に向けた取り組みとして、2016年頃から政府主導で進められてきました。
まず2016年9月に「働き方改革実現会議」が設置され、2017年3月には「働き方改革実行計画」を決定。2018年には「働き方改革関連法案」が可決・成立し、2019年4月から順次施行されています。
働き方改革の具体的な議論には、人手不足を解消するための生産性向上に加えた魅力ある職場づくりとして、以下のようなトピックがあります。
- 時間外・休日労働、長時間労働の規制、労働時間の見える化
- 年次有給休暇の確実な取得
- 正規雇用と非正規雇用の不合理な待遇格差の是正(同一労働同一賃金)
- 働き方の多様性(フレックスタイム制、勤務間インターバル制度など)
- 出産・育児・介護を行う従業員の短時間勤務や在宅勤務
働き方改革が必要とされる背景
すでに触れたように、働き方改革が必要とされる背景は、大きく分けて2つあります。
- 少子高齢化による労働力人口の減少
- 働き方に対するニーズの多様化
現在、深刻な人手不足に悩まされている中小企業は多く、従来の制度では働きたくても働けない人々の就業機会の拡大、職場環境改善、少ない労働力で生産性を高める取り組みが求められています。
働き方の多様化では、特に出産・育児・介護と仕事の両立というニーズへの対応が重要です。そのため、女性の活躍推進施策や男性の育児休業取得、柔軟な勤務体制の導入、長時間労働の是正が注目されてきました。
働き方改革の目的は、少子高齢化の中で人手不足を軽減し、働く人が育児や介護とも両立しやすい環境を整えること。これらに対応することは、労働者の人数を確保するだけでなく、優秀な人材の就業機会拡大にもつながります。
従来の働き方からの変更点
従来の働き方に関する制度で大きく変わった点として、例えば中小企業の残業割増賃金率に関する猶予措置の廃止と割増賃金率の引き上げ、男性の育児休業取得状況の公開などがあります。また、フレックスタイム制の拡充や勤務間インターバル制度の導入も重要です。
中小企業の残業割増賃金率の引き上げ
改正労働基準法の2023年4月1日施行分に、中小企業における月60時間超の時間外労働に関する割増賃金率の猶予措置の終了があります。同時に、割増賃金率が、大企業・中小企業を問わず一律50%となりました。
2023年3月31日までは、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率は大企業が50%、中小企業は25%でした。これが、施行後は中小企業でも大企業と同じ50%まで割増賃金率が引き上げられています。月60時間を超える時間外労働を22時~5時(深夜)に行わせる場合は、深夜割増賃金率も加算され、合計で75%です。
これらの改正による賃金の未払いが起こらないよう、企業側は雇用管理システムの導入・運用などを行い、適正な労働時間の把握に努めなければなりません。就業規則を変更しなければならない場合もあります。
フレックスタイム制・勤務間インターバル制度
従業員のそれぞれの事情に応じた多様な働き方を実現するには、固定された始業時間や就業時間の見直しも視野にいれる必要があります。そうした施策の1つが、フレックスタイム制です。
フレックスタイム制とは、一定の期間について定められた総労働時間の範囲内で、従業員自身が日々の始業時刻と終業時刻、労働時間を決めて働ける制度。午前中の出勤が難しい場合や中抜けが必要な場合、子どものお迎えなどで早めに終業しなければならない場合などでも、欠勤せずに働けます。通勤ラッシュを避けて出社・退社したい従業員にもうれしい制度でしょう。
フレックスタイム制を導入するには、就業規則等への規定と、労使協定における制度の基本的枠組みの定めが必要です。また、時間外労働は通常とは異なる基準で扱われるため、ご注意ください。
また、働き方改革関連法によって労働時間等設定改善法が改正され、2019年4月から「勤務間インターバル制度」の導入が企業の努力義務となりました。勤務間インターバル制度とは、終業時刻から次の始業時刻の間に、一定時間以上の休息時間を設ける制度。これにより、従業員の健康や生活を守るものです。
勤務間インターバル制度の努力義務化の背景には、深夜や早朝に及ぶ長時間労働が、従業員の睡眠時間不足、疲労回復できない生活につながること、ひいては過労死につながることがあります。導入にあたっては、労使による話し合いを行うとともに、就業規則での規定を行います。
男性の育児休業取得状況の公表義務化
さらに、育児・介護休業法の改正により、2023年4月から、男性従業員の育児休業取得状況を年に1度公表することが義務化されました。公開が義務付けられているのは、従業員数が1,000人を超える企業です。
公表内容は、以下2つのいずれかの割合です。
- (1)(育児休業等をした男性労働者の数)÷(配偶者が出産した男性労働者の数)
- (2)(育児休業等をした男性労働者の数+小学校就学前の子の育児を目的とした休暇制度を利用した男性労働者の数)÷(配偶者が出産した男性労働者の数)
公表が義務となっている企業は、インターネットなどの一般の人が閲覧できる方法で、これらのうちいずれかの割合を公表しなければなりません。公表時期は、公表前事業年度終了後の大体3カ月以内が目安です。
厚生労働省は、運営サイト「両立支援ひろば」での公表を推奨しています。同サイトでは、女性の活躍推進に関する情報公開も可能。女性の育児休業取得率や、育児休業平均取得日数などを公表する仕組みもあります。
働き方改革を推進する3つのメリット
人手不足や多様な働き方の実現への対応が目的の働き方改革は、企業にとって大きな変革を求められるものです。そのため、制度設計や導入・運用に大きな負担を感じるかもしれません。
一方で、メリットが複数あることも認識しておくとよいでしょう。メリットを意識して取り組むことで、柔軟な働き方と労働生産性向上の好循環を生み出せる可能性が高まります。今回は、主な3つのメリットをご紹介します。
時間外労働の制限により業務が効率化される
働き方改革では、従業員のワークライフバランスを充実させるために多角的な取り組みが可能です。例えば時間外労働の制限は、従業員の生活と睡眠時間を守り、趣味や勉強の時間、家族との時間の確保にもつながります。労働による疲労も回復しやすいでしょう。
さらに、労働時間に上限があることで、「時間内で業務を終わらせる」という意識が働きやすくなります。「終わらなければ残業すればいい」という従来の考え方から、業務効率の向上へと目が向けられるでしょう。
気力・体力ともに回復した従業員が、より効率的な働き方を意識するようになることで、労働生産性の向上が期待できます。
優秀な従業員の離職を防げる
働き方改革で柔軟な働き方を実現できれば、これまでは離職せざるを得なかった育児世代の従業員、病気やけがなどでフルタイムでの出社が難しい従業員、家族の介護のための時間が必要な従業員も、働き続けられるでしょう。
人手不足が深刻化している今、新しい人材を雇用して一から育てること自体が難しくなっています。離職した優秀な人材に匹敵するレベルまで育てるには、多大な時間と費用、人的リソースが必要。一方で、テレワークやフレックス制度、短時間勤務といった柔軟な働き方を従業員自らが選択できれば、こうしたリソースを削減しながら、引き続き優秀な人材に活躍してもらいやすくなります。
中小企業にも優秀な人材が集まりやすくなる
従業員にとって働きやすい職場環境を整備することは、企業のイメージアップにつながります。また、実際に働くことを考えている人にとっても、自分の希望に合った働き方をイメージしやすくなるでしょう。テレワーク環境が整備されていれば、会社から離れた場所に居住する人材の採用も可能です。
こうしたイメージアップと働き方の選択肢が増えることで、より多くの求職者にアプローチができます。優秀な人材も集まりやすくなるでしょう。
中小企業の場合、大企業に比べて知名度は低くなりがちです。求人広告を出しても求職者の目にとまりにくかったり、候補から外されたりすることがあるでしょう。しかし、安定した事業には優秀な人材の確保が欠かせません。働きやすい職場づくりを進め、アピールすることで、自社の魅力をより伝えやすくなります。
働き方改革推進における2つのデメリット
メリットを最大化するには、クリアすべき課題も把握していなければなりません。働き方改革における2つのデメリットを見ていきましょう。
職場環境の整備などにコストがかかる
働き方改革の推進には、制度設計や導入、設備の整備、従業員への研修など、多方面でコストがかかります。
例えば、テレワーク環境を整える場合、社内で使用するチャットアプリやWeb会議アプリの導入、リモートでの人材育成にかかる制度設計や運用、セキュリティ対策などが必要。ツールの利用料金、パソコンや周辺機器の整備、テレワークでのトラブルを防ぐための研修など、時間・費用・人的リソースを割かなければなりません。
フレックスタイム制や勤務間インターバル制度の導入と同様に、労使協定による検討と決定、就業規則の改正も検討する必要があります。
費用面については、厚生労働省による「働き方改革推進支援助成金」などを活用することで、ある程度軽減できるでしょう。制度設計や従業員への研修に関しては、他企業の成功事例を参照したり、外部研修を利用したりすると、効率的に進められます。
働き方を変更する負担が大きい
働き方改革では、長時間労働の是正やテレワーク、フレックスタイム制など、働き方自体を大きく変える施策も検討します。
例えば、以前は残業を使って1営業日で行っていた仕事が、残業時間削減の影響から1営業日では終わらないかもしれません。従来のやり方で業務を進めれば期限に間に合わず、無理な進め方をするという事態が起こりえます。そうなれば、かえって従業員の負担は大きくなってしまうでしょう。
実際、残業時間の上限が設けられたことで、就業時間内に終わらなかった仕事を家に持ち帰る従業員や、タイムカードを切ってから仕事を続ける「サービス残業」が指摘されたこともあります。
繰り返しになりますが、働き方改革の目的は、働きやすい職場づくりによって、人材不足と多様な働き方のニーズにおける課題に対応することです。「どのように進めれば、業務時間内で必要な作業を無理なく完遂できるか」という視点で、業務フローの見直しや効率化に寄与するシステム等の導入を検討しましょう。
働き方改革における4つのポイント
以上のメリット・デメリットを踏まえて、働き方改革を推進するための4つのポイントをご紹介します。
自社にとって一番良い方法を見極める
働き方改革で実施するべき取り組みは、企業が抱える課題や目標によって異なります。課題解決や目標達成につながる効果を最大限に引き出すには、自社の現状や課題の要因などをしっかり分析しましょう。
例えば、ダイバーシティ&インクルージョンの推進を目的とするのであれば、女性やマイノリティも働きやすい仕組みを整えなければなりません。なぜ現状の体制では働きにくいのかをヒアリングすることが大切です。労働時間が問題であれば短時間勤務制度やフレックスタイム制などの導入を、通勤が問題であればテレワーク制度の導入を検討するというパターンが多く見られます。
そうした課題の解決策を検討する際は、働き方改革に関する他社の事例も参照するとよいでしょう。業態や事業規模が近い企業、自社と同様の課題を抱える企業が、どのような施策で成功したかを知ることで、方向性を見極めやすくなります。
ただ、他社の事例をそのまま取り入れても同じ効果を得られるとは限りません。自社に合う形にブラッシュアップする視点も大切です。
社内の体制や規定を変更する
働き方改革として導入する施策には、社内の体制や就業規則、労使協定の変更が必要になるものがあります。
例えば、テレワーク環境を整える場合、会社の備品や情報を安全に管理するための体制をしっかり構築しなければなりません。企業が従業員に貸与する端末の利用場所や社内ネットワーク等への接続方法、就業場所等の規定は、セキュリティ対策の一環としても重要です。テレワークを行う時間帯や労働時間の記録・管理についても、あらかじめ定めておかなければ混乱を招いてしまうでしょう。
年休や育児休業等の取得、残業時間の削減といった労働時間や業務の割り振りの調整が必要な施策については、業務フローの見直し、効率化に貢献するツールやシステムの導入も検討する必要があります。管理職によるマネジメント方法も従来の働き方と異なる部分がありますので、マネジメント研修の内容更新も必要です。
浸透させるまでのフローを計画する
働き方改革は、従業員にも大きな変化をもたらすものです。従来の行動習慣を変えるため、「なぜ実施するのか」「どのように実施するのか」をきちんと伝えなければなりません。具体的な方法としては、資料配布や社内報、社内ポータルサイトへの掲載、研修の実施などが有効です。一度伝えただけで終わりにせず、導入後も常に確認しやすい場所にポイントを掲示しておくとよいでしょう。
全社的な導入が難しい施策については、一部の部署やチームから実験的に進める手もあります。小さな規模であっても、その成功体験が徐々に広がり、より多くの従業員のやる気を喚起するでしょう。
人事評価制度を見直す
働き方改革によって労働時間や就業場所、勤務体制などが変わる場合、従来の働き方から大きく変化するため、人事評価制度も更新しなければなりません。
例えばテレワークや時短勤務の場合、出社によるフルタイムでの勤務に比べて、「働いている様子を直接観察する」「業務量などで評価する」という視点では、適切な評価ができないことがあります。また、正規雇用か非正規雇用かで報酬体系を別にしている場合、働き方改革の「同一労働同一賃金」の原則に反する制度となるでしょう。
働き方の多様性を前提としながら、公正に従業員を評価できる人事評価制度が必要です。従業員自身が自分の頑張りや業績がきちんと評価されていると感じられれば、モチベーション向上や、さらなる生産性向上も期待できます。
働き方改革の企業事例
最後に、働き方改革の企業事例を2つ見ていきましょう。多様な施策がありますので、方針の決定や制度設計などにお役立てください。
大和ハウス工業株式会社の事例
大和ハウス工業株式会社では、働き方改革の一環として、長時間労働の防止、年次有給休暇取得の促進、育児やワークライフバランス推進に寄与する各種制度の導入、業務効率化につながるRPAへの取り組みを行ってきました。
まず、建設業界で課題となりやすい長時間労働を是正するため、終業時刻以降は事務所を閉鎖する「ロックアウト制度」を導入。基準を超えた長時間労働を行った事業所にペナルティーを課す「ブラック事業所認定制度」で是正に努めました。
出産・育児支援やワークライフバランスでは、
- 子1人に対して100万円を支給する「次世代育成一時金制度」
- 子が3歳まで休業できる「育児休業制度」
- 子が小学3年生まで短時間勤務ができる「出産・育児短時間勤務制度」
- 育児・学童施設やベビーシッター等の利用補助を行う「育キャリサポート制度」
- 家庭サービスやリフレッシュ、自己啓発のために計画的に年休を取得する「ホームホリデー制度」
- 在宅勤務での水光熱費補助を行う「在宅勤務手当」
- 「フレックスタイム制度」
など、多彩な制度を運用しています。ワークライフバランスの推進施策は性別を問わず適用され、男性の育休も取得しやすい環境を整備してきました。また、テレワーク時の働き方を記載したハンドブックも全社員に配信しています。
さらに特徴的といえる取り組みは、長時間労働の削減や業務品質・効率向上を目指して取り組んできたRPA(Robotic Process Automation)です。
コロナ禍でテレワークが必要な環境となったことで、2020年に出社を前提としない業務フローを確立。社内において手作業で進めてきた業務のデジタル化を行う際に、RPAを活用しました。RPAのロボット開発のため、情報システム部内に専門チームも設置。現在はさらに業務基幹システムとSaaSとの連携ロボット開発を進め、バリューチェーン全体の自動化にも取り組んでいます。
これらの取り組みにより、大和ハウス工業は、従業員の労働時間削減やプライベートの充実と業務効率化を両立。AIやクラウドサービスとの連携も含め、取り組みを進めています。
株式会社ベネッセコーポレーションの事例
株式会社ベネッセコーポレーションでも、残業時間の削減策などの働き方改革に取り組んできました。同時に、多様な人々が活躍できる環境を整備することで、従業員同士の切磋琢磨を促し、「ワークライフマネジメント」の考え方を徹底しています。
残業時間の削減については、特定の時期に残業が増える事業部門があったことから、事業部門ごとに残業時間数の目標を設定。従業員の意識改革を目的として、「ノー残業デー」も推進しました。残業時間は、事前に見込み時間を申請する必要があるとともに、業務に使用しているパソコンログを記録し、勤怠と照合することでサービス残業を防いでいます。
さらに、個人の勤務状況に合わせて出社か在宅勤務かを選べる「ハイブリッド勤務」もあります。在宅勤務制度の導入にあたっては、はじめ一部の社員を対象に実証実験を実施。そこで労働時間の配分や業務の進捗コントロールにおける課題が明らかとなり、制度の調整を行ってきました。2022年度の在宅勤務制度利用率は70%とのことです。
他にも、
- 1日の標準労働時間を7時間として7:00-21:00の間で働ける「スーパーフレックス勤務」
- 子が1歳になった直後の規定日まで延長できる「育児休職」
- 子の出生後8週間以内のうち4週間の休職ができる「産後パパ育休」
- 子が小学3年生の3月末まで使える最大3年間の「時短勤務」
- 自己研鑽のための学びに対する年3日の休暇を付与する「リスキル休暇」
などを実施しています。