人材育成とは

update更新日:2023.10.18 published公開日:2021.02.01
人材育成とは
目次

人材育成とは

皆さんは人材育成とは何ですか?と問われたら何と答えるでしょうか?まずは、様々な解釈のある「人材育成」の定義と、似た言葉である「人材開発」「教育訓練」のちがいを見ていきます。

人材育成の定義

当社では、人材育成を「人と組織のケイパビリティを高めることである」と定義しています。
こう定義すると、何だか堅苦しい、難しそう...と感じる方もいるかもしれません。ケイパビリティとは、一般的には能力や才能、組織の総合力を意味しており、現在有しているものだけでなく、 将来に渡っての可能性、発展性、成長性というニュアンスを含みます。
つまり、人材育成の定義をもう少し噛み砕いてみると、 「人と組織の力を高めて、可能性を広げること」と言えるかと思います。

人材育成と人材開発、教育訓練のちがい

一般的には、「人材育成」「人材開発」「教育訓練」は同義とされることもありますが、以下のとおり、それぞれの言葉を区別する場合もあります。

人材開発:社員の内側にある能力を引き出し、対象者の成長を促進させる取り組みのこと
教育訓練:社員が元々持っていない能力を与え、習得させるための取り組みのこと

このように読み比べてみると、「人と組織のケイパビリティを高めること」である人材育成は、「社員が持っているものも高め」「社員が持っていないものも習得させる」上述の「人材開発」「教育訓練」の双方の意味を内包します。
それに加えて「人間が学習し、発達し、成長を遂げるプロセス」を含む意味合いもあります。よって、人材育成は、教育訓練や人材開発と比較し広義で使用されることが多いのです。

企業の人材育成における代表的な目的・目標(目指す姿)とよくある課題

次に、企業が人材育成に取り組む目的を確認していきたいと思います。「当社は何のために人材育成を行なうのか?」という目的について、しっかりと設定され、経営者・現場責任者・人事部門で共通認識を持つことができている企業は意外と多くありません。そこで、企業の人材育成における代表的な目的と、その実現にあたってのよくある課題をご紹介します。

企業の人材育成における代表的な目的・目標(目指す姿)

企業の人材育成における代表的な目的は、経営に資する人材を輩出することです。「経営に資する人材」とは、「企業の存続とミッション・ビジョン・経営目標を実現するのに寄与する人材」を意味します。

上記の目的を、現場管理職の視点で捉えると「部門目標の達成に貢献する人材を輩出すること」と言い換えることができます。その実現のために行う具体的な育成施策の例として、以下のような様々な知識やスキル習得するための勉強会やトレーニングが挙げられます。

  • 「基本的なコミュニケーションスキル」
  • 「業務を効率的に推進するためのプランニング及び業務遂行スキル」
  • 「成果を出すための専門スキル」
  • 「課題が発生した際の原因分析スキル」
  • 「チームの一体感を醸成するためのチームビルディング」
  • 「モチベーションを高めるためのセルフマネジメント」

また、人事担当者の視点では、「中長期的に活躍する人材の輩出」「優秀な社員の離職防止」と捉えることもできます。
こう捉えた場合の施策の例としては、ごく一部ではありますが、以下のようなものが挙げられます。

  • 「職場環境の整備」
  • 「社員同士のコミュニティづくり」
  • 「表彰制度」
  • 「メンターメンティ制度」
  • 「自己啓発・資格取得支援」

企業の人材育成におけるよくある課題

企業の人材育成における課題は多岐に渡りますが、厚生労働省が公開している 「人材育成の現状と課題」の中では、以下のような課題が挙げられています。

  1. (1)育成する側の管理職が、業務多忙により育成の時間的余裕がない
  2. (2)育成する側の管理職の育成能力や指導意識が不足している
  3. (3)人材育成が計画的・体系的に行なわれていない
  4. (4)育成を受ける部下の意欲が低い
  5. (5)人材育成に係る予算が不足している
  6. (6)コスト負担の割に効果が感じられない

また、上記の他にも、当社にてご支援させていただいているお客様からは以下のような課題をよく伺います。

  1. (1)経営層・部門責任者・人事部門のいずれかが人材育成を重要テーマと認識していない
  2. (2)学びと成長が見える化できておらず、人材育成のPDCAがまわらない

もしかすると、皆さまの企業でもあてはまると感じた課題が1つ、2つあったのではないでしょうか。

企業において人材育成施策を検討し、実施し、振り返る際は、各施策が「企業のミッション・ビジョン・経営目標の達成につながるのか」「企業の存続につながるのか」を常に念頭におく必要があります。

企業の階層別にみる人材育成上の課題(傾向)

上述の2では、企業が人材育成というテーマそのものにおいて感じている課題を上げました。では、企業が各階層に対して抱いている人材育成上の課題(傾向)にはどんなものが挙げられるのかを見てみましょう。

管理職層に対して感じる課題

  • 成果要求の高まり
  • 育成意識と育成スキルのバラツキ
  • 過去の育成手法が通用しないことによるとまどい

ベテラン層に対して感じる課題

  • 変化への対応スピードの遅れ
  • 過去の成功体験のアンラーニングの遅れ
  • 学びの習慣が少ない

中堅層に対して感じる課題

  • 成果要求の高まり
  • 業務負担の増加と後輩育成時間の不足
  • リーダーシップが育まれない

若手層に対して感じる課題

  • "一人前"になるまでの期間短縮要求の高まり
  • 職場の人員構成のアンバランス(少ない先輩・指導員)
  • "任せられる仕事"の減少(失敗から学ぶ機会の減少)

また、こうした課題が浮かび上がってくる背景としては以下のような要素が考えられます。

  • 外部環境の変化スピードのアップ
  • それに伴う事業・製品のライフサイクルの短期化
  • 組織のスリム化・フラット化
  • 雇用人材の多様化(女性、高齢者、外国人、障害者)
  • 雇用形態の多様化(契約社員、派遣社員、時短勤務)
  • テクノロジーの変化
  • 働き方や仕事観のジェネレーションギャップ

人材育成を成功に導くためのポイント

上述した目的や課題を踏まえて、企業における人材育成を成功に導くためのポイントを考えてみたいと思います。企業が人材育成を成功に導くためのポイントは大きく以下6つになります。

  1. 1. 社員に、学び成長する必要性を認識してもらえる環境がある
  2. 2. 持続可能な体系的育成機会がある
  3. 3. 学習した内容を、実務実践につなげるためのサポート体制がある
  4. 4. 人を育てる人を育成する環境がある
  5. 5. 経営層・部門責任者・人事部門が人材育成を重要テーマと認識し、連携して推進している
  6. 6. 学びと成長を見える化して、人材育成の仕組みを構築している

では、一つ一つのポイントを詳しく見ていきましょう。

学習した内容を、実務実践につなげるためのサポート体制がある

学び、成長する目的や理由を明確に認識している社員は、学ぶということに対して準備が整った状態であり、研修や新たな学びを効率的に吸収し、実践に結び付けやすくなる傾向があります。

持続可能な体系的育成機会がある

短期的・場当たり的な人材育成施策に終始すると、「いくらやっても成果があがらない」「必要な時期に必要な知識やスキルが身についていない (例:新入社員・若手社員の時点から思考力を鍛えていなかったため、管理職昇進後に部門課題の原因分析や解決策の立案ができず、マネジメント不全になってしまっている)」 という状態に陥ってしまいます。そのため、企業で定めた階層・役割ごとの人材要件を改めて見直した上で、各要件を満たすためのスキルマップや教育計画を策定し、実行することが求められます。

学習した内容を、実務実践につなげるためのサポート体制がある

社員が能力を身につけるにあたり、何から学んでいるのでしょうか?実はこの要素は、ロンバルトとアイチンガーという学者の研究結果から明らかになっており、「70%を仕事の経験」、「20%を上司や同僚など他者からの助言」、「10%を研修など」から学んでいることが分かっています。そして、この70%という大半を占める「仕事の経験から学ぶこと」を「経験学習」と言い、社会人における「経験学習」の重要性を示唆しています。したがって、人材育成施策を通じて学んだ内容を定着させるためには、実務上でのアウトプットの機会が必要です。部下が学んだ内容を実際の業務で活用する機会をつくるために、上司である管理職は部下の学んだ内容を正しく把握し、業務の割り当てを行なう必要があります。

人を育てる人を育成する環境がある

「人を育てる人」役割である管理職・OJTトレーナーを育成する環境を整えることにより、企業の人材育成力が向上し、効果的・継続的に多くの社員が育ちます。一方で、プレイヤーとしての業務を兼務している管理職・OJTトレーナーは、多忙を理由に、研修などの人材育成施策への参加や、部下・後輩への指導経験を積むことが後回しになってしまっている傾向があります。これは、管理職・OJTトレーナー一人ひとりに任せていては解決しないことが多いため、経営としての優先・劣後順位決めによる既存業務の低減と、管理職・OJTトレーナーに対する明確な役割の伝達が必要です。

経営層・部門責任者・人事部門が人材育成を重要テーマと認識し、連携して推進している

上記三者が揃ってこそ、企業の人材育成が継続的・効果的に機能します。まずは、企業のミッション・ビジョンと、それを実現していく上での人材育成の位置づけについての共通認識を得るための対話の場を設けることを推奨いたします。

学びと成長を見える化して、人材育成の仕組みを構築している

学びと成長を見える化するからこそ、企業としての人材育成のPDCAがまわります。人事評価制度や目標管理制度などで、定性的な学びや成長を既に見える化し蓄積している企業も多くありますが、最近では客観的かつ定量的に社員の知識・スキルレベルを把握できるテストを導入し見える化の一助としている企業も見受けられます。

人材育成の企業成功事例

ご紹介したポイントを踏まえ、人材育成が成功している企業の事例をいくつかご紹介します。

「背中を見て覚えろ」で育った世代の指導力向上(避難器具 製造業)

(1)人材育成課題

ベテラン社員は「背中を見て覚えろ」で育った世代で、かつ長年若手がいない職場もあったため、新入社員への指導の仕方がわからない。そのため、指導者としてはもちろん、仕事の進め方やコミュニケーションの取り方など、基本的なスキル・知識を身につけてもらう必要があると感じていた。

(2)解決策

ベテラン社員に対して、仕事の進め方やコミュニケーションの取り方など、基本的なスキルを改めて学んでもらう仕組みをつくった。

(3)結果

全社員の当たり前基準の向上などの変化が見られるようになった。
例えば工場では、「標準化」の動きとして、今までは職人気質が強く「目で見て、感覚で覚えろ」といった指導が中心だった状態が、最近は誰でも同じ作業ができるよう、作業手順書を作成して指導するようになった。客観的な指標を文書化することで、新入社員であっても基準を満たした作業を再現できるようになり、技術伝承にも寄与している。
* より詳細の情報はこちら:https://www.all-different.co.jp/cases/oriro.html

拠点や部門ごとにバラバラだった育成を全社横断で実施
(製造業向け生産管理・在庫管理・工程管理のシステム開発業)

(1)人材育成課題

研修は内製の方針だったが、すべての拠点のすべての階層に対する研修プログラムを自社で作成し実施することはできておらず、拠点間格差が発生している状態だった。また、更なる事業拡大を目指し、新しい事業や新規拠点の開設に必要な人員の拡大が急務となっていたため採用に力を入れたが、社員の定着率も高くなく、状況を打破することができていなかった。

(2)解決策

「拠点間格差の是正」「社員の定着率の向上」を目的として、勤務地を問わず、全社員が共通のカリキュラムを受講できる環境を整え、全社横断の体系的な育成の仕組みを構築した。

(3)結果

全社横断の仕組みを構築できたため、拠点格差の是正が解消された。また、教育部門で定めた研修受講目標を約8割の社員が達成。「学びの必要性」の啓蒙に関しても一定の成果が出た。
* より詳細の情報はこちら:https://www.all-different.co.jp/cases/bc_uni_com.html

人材育成を通じて経営陣の意識が変革
(クラウド録画型映像プラットフォームの開発業)

(1)人材育成課題

経営者・幹部・管理職に、チームをつくっていく意識・知識・スキルが希薄、役職に合った仕事ができていないなどの課題があり、結果として組織の機能不全や退職予備軍の増加などが発生していた。

(2)解決策

各役割の転換点を捉えるリーダーシップパイプラインモデルに基づき経営者・幹部・管理職への役割認識の強化を促し、信頼関係を構築しながら問題の解決を促す対話型トレーニングを導入した。

(3)結果

経営者・幹部・管理職の対話の姿勢が変わり、信頼関係の構築や、コーチングなどの人材育成を促す対話に努めるようになった。結果として部下への権限移譲など、仕事を任せることに成功し、自身はマネジメント業務に徹することができるようになった。また、「自分が変わることにより組織が変わる」という自己変革意識が経営者・幹部に芽生えた。
* より詳細の情報はこちら:https://www.all-different.co.jp/cases/safie.html

ぜひ、皆さまの企業でも参考にできる部分がありましたら、参考にしてみていただければと思います。

人材育成に取り組む上での注意点
~企業内人材育成に取り組む際に陥りがちな落とし穴~

何のために人材育成に取り組むのか不明確なまま進めてしまう

目的が不明確なまま進めてしまうと、以下のようなデメリットがあります。

  1. (1)育成施策の一貫性・整合性がなくなりやすい
      (例:場当たり的な育成施策が乱立する、基準が都度変わりPDCAがまわらない など)
  2. (2)社員の納得感が得られない
  3. (3)経営層や現場部門を巻き込めない
  4. (4)人材育成の継続性や効果を高めるための仕組みとの連動ができない

場当たり的な育成施策になってしまう

対応する社員のコスト(時間・労力・費用)が無駄になるだけでなく、徒労感の蓄積にもつながってしまいます。

部下が学ぶ内容が管理職に共有されていない

学ぶ前の動機づけや、学んだ後の実務での実践サポートが期待できなくなってしまいます。最悪の場合、部下が学んだ内容と真逆のことを管理職が実施してしまい、学んだ内容を部下が実践しにくくなる、モチベーションダウンにつながるなどの悪影響を及ぼすリスクもあります。

経営者・部門責任者の巻き込み不足

「経営者の理解が得られず施策が途中で頓挫してしまった」「部門責任者が育成施策に懐疑的で現場社員も後ろ向きになってしまった」など、経営者・部門責任者の巻き込みが不足し育成施策の効果が薄れてしまったケースは多いです。人材育成施策の効果を高めるためにも、できる限り早い段階で、経営者・現場責任者への積極的な情報発信・提案活動と、育成施策実施後の報告を通じ、経営者・現場責任者を巻き込みステークホルダーになってもらうことが必要です。

人事評価制度との連動ができていない

例えば「OJTトレーナーを担当しており多くの時間を投下しているが、育成に関連する評価項目がないため、いくら頑張っても評価されない」など、人事評価制度と人材育成施策の連動ができていないと、良い結果は得られません。

人材育成に取り組む意義

最後に企業が人材育成に取り組む意義についてお伝えできればと思います。人材育成とは、人や組織の過去、現在、未来に向き合い関与する活動であるため、多くの大いなる意義があります。ここでは、その数多ある意義の中から、当社が考える代表的なものを3つ挙げます。

人材育成は人生の充実につながる

人材育成に取り組むことにより、意識や知識・スキルの向上により社員は今までできなかったことができるようになり、「有能感」や「自己肯定感」「成長実感」が湧きやすくなります。意識・知識・スキルの向上、有能感・自己肯定感・成長実感の醸成により、社員は自身の強みにも注目しやすくなり、より良い状態を生み出す環境が整います。 また、実際に部下が育ち活躍する姿を見るという経験を積んだ管理職には「他者貢献感」が醸成されるなど、育てる、育てられるという立場に関係なく、人材育成を通じ人生の充実につながる大切な要素を得ることができます。

人材育成は人と組織の可能性を広げる

人材育成を通じて社員一人ひとりのケイパビリティが高まることで、組織としても今まで手が届かなかったビジョンや目標の実現に近づく可能性が高まります。

人材育成は社会を変える

社会の変化は人によってもたらされます。人材育成を通じてケイパビリティが高まり充実感のある人や組織が増えることにより、社会はより良い変化を遂げることができると信じています。