さとり世代とは?年齢や特徴、仕事観から見る効果的な指導方法
さとり世代とは、1980年代後半から2000年代前半生まれの世代を指す言葉です。幼少期に日本経済の低迷や大規模災害を経験し、現実主義的で堅実な価値観を持つことが特徴とされています。まるで悟りを開いたかのような態度から、この呼称が生まれました。
本コラムでは、さとり世代の年齢や特徴、仕事観、指導する際のポイントを詳しく解説します。
さとり世代とは?
はじめに、さとり世代という言葉の意味と年齢、「さとり」と呼ばれるようになった背景について見ていきましょう。
さとり世代の意味と年齢
さとり世代とは、主に1990年代生まれの人々を指す言葉です。具体的には1980年代後半から2000年代前半生まれが該当し、2024年時点では20代から30代後半の年齢層となります。
さとり世代という名称は、まるで「悟り」を開いているかのような、現実的で合理的な考え方や生活態度に由来しています。
さとり世代が生まれた背景
さとり世代が生まれ育った時代は、以下のような日本経済が大きく揺れ動いた時期と重なります。
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1980年代後半から1990年代
バブル経済の崩壊。「失われた20年」と呼ばれる長期的な経済低迷期の始まり
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1995年
阪神淡路大震災
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1990年代後半から2000年代初頭
就職氷河期。新卒の就職率が大幅に低迷
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2008年
リーマンショックによる世界的金融危機
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2011年
東日本大震災
このような不安定で変化の激しい社会環境で育ったことから、さとり世代は現実主義的で堅実な価値観を持つようになったといわれています。
さとり世代の特徴と価値観
さとり世代の特徴や価値観について、さらに詳しく見ていきましょう。
現実主義的な価値観を持つ
さとり世代は不安定な経済状況のもとで育ったため、大きな夢や野心よりも現実的な生活を重視する傾向があります。高い目標を掲げて頑張るよりも、現状維持を意識し、無理をせずほどほどに生きることを選ぶ人が多いのが特徴です。
そのため、物欲や出世欲が少ないという特徴も見られます。
堅実な消費行動
令和4年版消費者白書によると、さとり世代の消費行動には、実用性とコストパフォーマンスを重視する傾向があるそうです。商品やサービスを選ぶ際は、SNSでの口コミや評価、友人・知人からの情報を参考にしています。
さらに、さとり世代の平均消費性向は2015年以降、減少傾向にあり、平均貯蓄率は他世帯より高いことがわかりました。この点からも、支出を抑えて貯蓄に回すという消費行動の堅実さが見受けられます。
*参考:消費者庁「令和4年版消費者白書 第1部 第2章 第2節 (1)若者の消費行動」
デジタルネイティブである
さとり世代は、生まれたときからインターネットやデジタル機器が身近にある環境で育ちました。そのため、ITリテラシーが高く、デジタル技術を積極的に活用する傾向があります。
さとり世代の多くは、SNSでの情報収集やオンラインでのコミュニケーションを日常的に行います。仕事においても、デジタルツールを駆使して効率的に業務をこなせる人が多いでしょう。
プライベートを重視し、穏やかな人間関係を好む
さとり世代にとって、仕事を最優先せず、プライベートを重視する働き方は一般的なものです。趣味や家族との時間、自己啓発など様々な面で人生を充実させるため、ワークライフバランスを大切にします。
人間関係においては、穏やかで衝突の少ない関係性を好むようです。さとり世代は比較的ストレス耐性が低いこともあり、協調性を重視し、周囲の意見に合わせる傾向も見られます。
さとり世代の仕事観
仕事に対する考え方は、育ってきた社会背景や価値観と密接に関連しています。以下に、さとり世代の仕事観の主な特徴をまとめてみました。
効率重視の働き方
デジタルネイティブである、さとり世代は、ITツールを駆使して効率的に仕事を進めることが得意です。無駄な作業や形式的な付き合いを好まず、限られた時間内で最大の成果を出すことに価値を置きます。
この特性は業務の生産性向上に貢献する一方で、ときとして過程で得られる気づきや可能性を見逃してしまう危険性も否めません。
指示への忠実さ
さとり世代は、上司や先輩からの指示に対して忠実に従う傾向があります。これは、不必要なリスクを避けたいという思いの表れかもしれません。しかし、この特徴が行きすぎると、主体性の欠如や「指示待ち」の姿勢につながる可能性もあります。
さとり世代の能力を引き出すには、明確に指示を出すことと同時に、自主的な判断を促す環境づくりが重要です。
プライベート重視の姿勢
ワークライフバランスを重視するさとり世代は、「できれば定時で帰宅したい」「急な残業や休日出勤には抵抗がある」といった人も多いようです。
職場の人間関係においても、必要以上に深入りすることを避け、適度な距離感を保つことを好みます。
安定志向と現実主義
さとり世代は、日本の経済不況を経験してきた世代であるため、経済的な安定性を重視する傾向が見られます。しかし、これは必ずしも1つの会社に長く勤めるということではありません。むしろ、自分のスキルを磨き市場価値を高めることで、どのような環境でも適応できる能力を身につけることを「安定」と捉える傾向があります。
企業への帰属意識の低さ
さとり世代は、終身雇用制度の崩壊を目の当たりにしてきたため、特定の企業への帰属意識が比較的低いといえます。会社のために自己犠牲を払うよりも、自分の成長や経験を重視する考え方が一般的です。
このため、キャリアアップのための転職を当然のことと考える人も少なくありません。
成長よりも現状維持を重視
さとり世代の多くは、大きな夢や野心を追い求めるよりも、現状の安定を維持することを好む傾向にあります。昇進や昇給にこだわらず、今の仕事に満足している人も珍しくないでしょう。
この現状維持の価値観は、一見消極的に見えるかもしれません。しかし、実際には現実的な視点を持ち、着実に仕事をこなす能力の表れともいえるでしょう。
さとり世代を指導する際の7つのポイント
人材育成において、さとり世代の能力を最大限に引き出すには、この世代の特性に合わせたアプローチが不可欠です。以下に、さとり世代を指導する際の主なポイントを7つご紹介します。
「なぜ」を説明する
さとり世代は指示に忠実に従う傾向がありますが、ただ言われたことをするだけでは主体性が育ちません。
指示を出す際は、なぜその仕事が必要なのか、どのような意義があるのかを丁寧に説明することが大切です。本人が自分の仕事の意味をよく理解することで、仕事に対する意欲も高まるでしょう。
具体的なマニュアルを提示する
さとり世代は、仕事において具体的に指示されることを好みます。業務の進め方や評価基準を明確にしたマニュアルを用意しておくと、安心して仕事に取り組めるでしょう。
ただし、いつまでもマニュアルに頼り続けるのではなく、状況に応じて柔軟に対応する力を育てていくことも重要です。
プロセスを重視して評価する
さとり世代は現実主義的な傾向があるため、努力したことが認められないと意欲を失う可能性があります。そのため、結果だけでなく、そこに至るまでの過程を評価することが求められます。
日々の小さな進歩や工夫を見逃さず、適切に評価し、定期的にフィードバックを行いましょう。
指摘方法を工夫する
さとり世代は他人との衝突を避ける傾向があるため、注意や指摘を行う際は配慮を要します。
例えば、指摘する内容をポジティブな内容で挟む「PNP法」を活用するなど、相手の自尊心を傷つけないよう工夫することが大切です。
精神論ではなく論理的に説明する
「頑張れ」「根性を見せろ」といった精神論は、さとり世代には通用しにくいものです。代わりに、具体的な数字や事実に基づいた論理的な説明を心がけてください。さとり世代の合理的な思考に訴えかけることで、より効果的な指導が可能となります。
主体性を引き出す
指示待ち傾向のあるさとり世代ですが、適切な環境があれば主体性を発揮する可能性があります。
「こうしたらどうか」と提案を促したり、小さな決定権を与えたりすることで、徐々に主体性を育んでいくことができるでしょう。本人の意見や提案を積極的に取り入れ、自信をつけさせることも重要です。
プライベートを尊重した関わり方をする
さとり世代はプライベートを大切にする傾向があります。業務時間外の付き合いを強制したり、私生活に過度に踏み込んだりすることは避けるべきでしょう。
公私の境界線をしっかりと守り、仕事に関することは仕事の時間内で完結させるよう努めましょう。
さとり世代とほかの世代(ゆとり世代・Z世代・つくし世代)との違い
さとり世代に該当する年代には、ほかにもいくつかの呼称があります。それぞれ異なる視点から、同時期の若者を捉えているのです。
最後に、さとり世代と近接する「ゆとり世代」「Z世代」「つくし世代」についてご紹介しましょう。
さとり世代とゆとり世代の違い
ゆとり世代はさとり世代とほぼ同じ年代ですが、その呼称の起源と意味合いに違いがあります。
ゆとり世代は、2002年に開始され、その後、約10年間続く「ゆとり教育」政策に基づいた呼称です。そのため、「個性や協調性を大切にするゆとり教育を受けた世代」といった特徴を意味する場合が多いでしょう。
一方、さとり世代は、厳しい社会情勢を早くから認識し、現実的な考え方を持つようになった若者の特徴を表現する言葉として使われています。
さとり世代とZ世代の違い
さとり世代とZ世代も年代的に重複する部分が多く、しばしば混同されますが、その特徴や捉え方には微妙な違いがあります。
Z世代はアメリカ発祥の概念で、一般的に1990年代半ばから2010年代生まれの世代を指す言葉です。さとり世代は、Z世代の前半部分と重なっています。
両世代ともデジタル技術への親和性が高いですが、Z世代は「真のデジタルネイティブ世代」と呼ばれるほど、デジタルツールをより積極的に活用します。
価値観の面では、さとり世代が現状に満足し、大きな野心を持たない傾向があるのに対し、Z世代は社会問題や環境問題に関心を持ち、積極的に関与しようとする人も少なくありません。さらに、Z世代は現実主義であるさとり世代以上にコストパフォーマンスやタイムパフォーマンスを重視し、効率的に物事を進める傾向が強いのが特徴です。
さとり世代とつくし世代との違い
つくし世代にも厳密な定義はありませんが、主に1992年以降に小学校に入学した世代を指すことが多いようです。「つくし」という呼称は「尽くし」に由来し、他者への献身的な行動や考え方、強い共感力が特徴的な世代であることを表しています。
つくし世代は、ゆとり世代やさとり世代から派生した概念です。ゆとり世代やさとり世代がしばしばネガティブな特徴に焦点を当てて語られてきたのに対し、つくし世代は、この年代の若者が持つポジティブな特徴や能力に注目した呼称だといわれています。
さとり世代・ゆとり世代・Z世代・つくし世代の分類比較
さとり世代に近接する各世代の特徴は、以下のように分類できます。
【さとり世代と近接する世代の分類比較】
世代 | 生まれ年 | 主な特徴や価値観 | デジタル親和性 |
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さとり世代 | 1980年代後半から2000年代前半生まれ(1990年代生まれが中心) |
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非常に高い |
ゆとり世代 | 1987年4月2日から2004年4月1日生まれ |
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高い |
Z世代 | 1990年代半ばから2010年代生まれ |
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極めて高い |
つくし世代 | 1980年代後半~1990年代前半生まれ |
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比較的高い |
これらの世代区分は年代的に重複する部分が多く、明確に境界線を引けるものではありません。世代の分類はあくまで一般的な傾向と捉え、各個人と向き合う際はその人の特性や価値観を理解し、柔軟に対応していくことが大切です。