今こそ考えるワーク・ライフ・バランスとは?定義と具体的な取り組みご紹介
本コラムでは、ワーク・ライフ・バランスの概要・メリット・具体的な取り組みをご紹介します。
ワーク・ライフ・バランスとは?
そもそも、ワーク・ライフ・バランスとは、一体いつから社会的に言われ始め、我々の働き方をどのように変えていったのでしょうか。
(1)ワーク・ライフ・バランスとは
2018年7月6日に「働き方改革関連法」が交付され、「働き方」に大きな改革の波が起こりました。生産年齢人口の減少に直面する中、働く人の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方ができる社会を実現することが国を挙げて推進されることになったのです。また、2020年から世界に大きな変化を促した新型コロナウィルスも、オフィスに出社して働くという従来の働き方を大きく変えました。
そうした大きな改革や変化において、改めて注目されているのが「ワーク・ライフ・バランス」という考え方です。もともと働き方改革は、このワーク・ライフ・バランスを支援する取り組みとして始まりました。
内閣府男女共同参画局などによれば、ワーク・ライフ・バランスは「仕事と生活の調和」を意味します。子育てや介護、地域社会活動など、個人が置かれた状況はさまざまです。仕事だけを優先する社会のままでは、子育てと仕事の両立は困難です。また、プライベートの充実が仕事へのモチベーションにつながる人もいるでしょう。
誰もが意欲的に仕事ができるよう、仕事と生活のバランス取り、その結果として日本の活力と成長を高めること、それによって労働人口減少の課題を解消することが、ワーク・ライフ・バランスの目的です。
(2)ワーク・ライフ・バランスは企業の生産性を向上させる
ただ、ワーク・ライフ・バランスに対して誤解も多く見られます。代表的なのは、「ワーク・ライフ・バランス=残業時間の制限」という誤解です。ワーク・ライフ・バランスにおいて重要なのは、仕事(ワーク)と生活(ライフ)の双方を充実させることで、社員ひとりひとりの生産性アップにつなげること。そして、社員の生活環境が変化しても働き続けられる体制を創り、企業の生産性向上を目指すことです。
「プライベ―トの充実は社員(個人)にとってメリットになるが、企業にとってはデメリットも多いのではないか?」といった疑問を抱く経営者や管理職の方は少なくありません。しかし、例えば、十分に休養をとることで、心身ともにより健康に働くことができたり、プライベートの時間を充実させることで、仕事とは異なる観点から商品やサービスを分析できるなど、企業にとってもメリットはあります。
ワーク・ライフ・バランスに対する誤解
ワーク・ライフ・バランスが「仕事はほどほどにしてプライベートを充実させること」であるという誤解が生じたのは、働き方改革関連法案において労働生産性の向上と長時間労働の是正が掲げられたことや「残業を減らしたい!」という従業員の期待が背景にあると考えられます。その結果、"ワーク・ライフ・バランスの取り組み"として「強制的に退社時間を定め、残業を制限する」ことに多くの企業が取り組みました。
しかし、社員に残業制限を求めるだけで仕事の進め方を変えない場合、ワーク・ライフ・バランスによるメリットはありません。むしろ、今まで残業して終わらせていた仕事が期限内に終わらなくなる恐れがあります。早く帰らなければならない焦りからミスが発生し、品質や生産性の低下をもたらす可能性もあります。進捗の遅れや品質・生産性の低下は業績悪化につながるだけでなく、社員のモチベーションにも悪影響を及ぼすでしょう。
ワーク・ライフ・バランスに対して消極的な経営者や管理職の方の多くはこのような誤解に基づく取り組みから生まれるデメリットばかりを考えてしまい、ワーク・ライフ・バランスに取り組むことを躊躇されます。
ワーク・ライフ・バランスがもたらすメリットを十分に引き出すには、その目的と手段をしっかり意識することが重要です。
ワーク・ライフ・バランスに取り組むメリット
では、ワーク・ライフ・バランスは企業にどのようなメリットをもたらすのでしょうか? 具体例も交えてご紹介します。
(1)社員のパフォーマンスが維持・向上する
メリハリをつけて働くことは社員のパフォーマンスを向上させます。睡眠時間の不足は仕事の効率・生産性を著しく下げると言われています。日本人の睡眠時間はOECDの調査によると世界WORST1位だと言われています。残業を減らし適切な睡眠・休息時間を確保することはパフォーマンスの維持・向上につながるといえるでしょう。
また、プライベート時間の充実は職業生活を含めた生活全般に対する満足度の向上に寄与するという分析結果があります。そして、生活満足度のスコアが高い国は、GDP、つまり生産性も高い傾向があると言われます。こうした点からも、ワーク・ライフ・バランスは仕事におけるパフォーマンスの維持・向上につながるともいえます。
(2)業務の効率化・見直しが促進される
ワーク・ライフ・バランスを重視することは、業務の効率化・見直しにつながります。業務の効率化とは今までやっていた仕事、或いは出していた成果を少ない労力で行うこと。前の章で残業を制限する話を採りあげましたが、残業時間を制限してプライベート時間を確保するとともに、その限られた業務時間内でどうやって生産性を維持・向上させていくか、業務の方法を見直すことが大切です。
では、業務効率を高めるために何をすればよいでしょうか? それは、徹底して仕事に優先順位をつけることです。
たとえば、皆様の部・課内で仕事そのものを以下の4ステップで見直してみてください。
- ①やめる仕事を決める:本当にやるべき仕事なのかを見極め、惰性や理由なく前例踏襲で行っている仕事を捨てる
- ②他の人に任せる仕事を決める:やるべき仕事の中で、外部やシステム化できる仕事を決める
- ③やり方を見直す仕事を決める:やるべき仕事の中で、より効率的な進め方をすべき仕事を決める
- ④継続する仕事を決める:今まで通りのやり方、時間で行うべき仕事を決める
(3)会社の風土・雰囲気が改善される
ワーク・ライフ・バランスを意識した業務効率化によって得られるメリットは、社員一人ひとりのプライベートの時間の確保だけではありません。効率化によって時間の使い方がうまくなり、社員の気持ちにゆとりが生まれたり、他の社員を手伝う余裕ができたりするなど、組織風土の改善にもつながります。
プライベートの時間においても、読書や自己学習などのインプットを行い、その内容を仕事で活かせるでしょう。ひいては個人の成長実感に繋がり、仕事や学習の意欲向上につながります。プライベートの時間に社外の人と趣味などで交流する場合も、仕事に活かせる人脈形成になる可能性を秘めています。
このように充実した日々を過ごす社員のいる会社は、離職率が低くなるのも特徴です。
ワーク・ライフ・バランス実現に向けた取り組み例
では、ワーク・ライフ・バランスの実現に向け、どのような取り組みを行えばよいのでしょうか?
ここでは、6つご紹介します。
(1)柔軟な勤務形態
1つめの取り組み例は、テレワーク導入など勤務形態の見直しと、それに伴う人事制度の見直しです。
社員の中には、介護や育児など家族の事情でオフィスに出社してフルタイムで働き続けることが難しい社員もいます。これまで、ワーク・ライフ・バランスの「ライフ」は個人の趣味など「仕事に比較すると優先順位の低いもの」として捉えられていました。しかし、今後は育児や介護など「決しておざなりにできない」ライフを抱えながら仕事をする人も増えることが想定されます。
「100%仕事に時間を投入できないが優秀な人材」が働き続けるために、柔軟な勤務形態の導入が求められます。
もし、すでにテレワークを実施しているなら、管理職が積極的に活用しましょう。管理職が実践しないと一般社員には浸透しません。
(2)会議体の見直し
1日の仕事で多くの時間を奪われるのが、会議への出席です。直接会って話す必要がない、いちいち了解をとらなくてもよいなどの小さなことにまで会議を設定すると、それだけ他の業務の時間が減ってしまいます。
会議時間を減らすには、メールで通達するなど会議以外の代替手段を検討しましょう。必要と判断された会議でも、明確なゴール設定やファシリテーションスキルの向上を図るなど、参加者が一丸となって生産性を高める工夫が欠かせません。
こちらの取り組みも、管理職が積極的に関与する必要があります。
(3)ITツールの導入
勤怠管理・経費申請など人事労務に関するITツールの採用は、業務効率化や正確な労働時間・利用経費の管理だけでなく、紙で保管する帳票や印刷コストの削減などにも役立ちます。
具体的には、人材育成領域でのITツールの活用などがあります。特に近年は、社員の研修受講状況や研修アンケート結果を管理できる「LMS(ラーニングマネジメントシステム)」の利用が拡大しています。
(4)社員以外のリソースの活用
単純作業や繰り返しの業務に関してはITツールの導入のほかに、社外のリソース活用という解決策も考えられます。
特に、長時間労働が常態化している場合は、各メンバーの業務を洗い出し、「この業務は本当にこの社員がやるべきか?」と問い直してみることが必要です。
最近は専門性が高いクラウドワーカーを紹介するサービスも存在しますので、そうしたサービスの活用も選択肢のひとつでしょう。
(5)社員の能力開発
社員それぞれの生産性を高めるために訓練・能力開発を行うことも、ワーク・ライフ・バランス実現に向けた重要な取り組みです。
生産性の継続的な向上は、社員自らが継続して学習することによってもたらされます。そうした社員の継続学習を助けるには、外部研修への参加、プライベートでのインプット、自己学習の時間など、業務経験だけでは得られない気づきや体系化された知識を獲得する機会を提供する必要があるでしょう。書籍の購入に関する手当を出している企業もあります。
(6)積極的なコミュニケーション・自己開示
普段から定時退社する社員の中には、家族の事情で心苦しく思いながら帰宅する社員もいます。反対に、定時に帰宅する必要があるのに、周囲に助けを求められず、我慢し続けている社員もいるかもしれません。
互いの事情に配慮したり助け合ったりする体制をつくるためには、社員一人ひとりが開示できる範囲のプライベートな事情や業務状況を共有しておく必要があります。具体的な事例としては、社員がお互いの家族への理解を深め、協力体制を構築するための「職業参観日」があります。
さまざまな企業の取り組みがまとめられた、内閣府による好事例集も参考になるでしょう。
まとめ
今回は、ワーク・ライフ・バランスを実現することで得られる、社員個人のメリットと企業のメリット、その関係性、取り組みの進め方などについて具体例を交えてご紹介しました。
ワーク・ライフ・バランスによるメリットを得るには、ただ「早く帰る」ことを奨励するのではなく、「賢く働く」方法を社員に与える・伝えることが重要です。ITツールの活用やシステムの見直しなど投資が必要なものもありますが、少しの制度変更や社員の意識改革で変えられる部分も多くあります。
もちろん、賢い働き方は一部の社員が個人的に取り組んでも組織としての成果にはつながりません。研修を行うにしても「一回きり」の取り組みではなく、組織全体の行動変容に繋げるために「階層ぐるみ」での相乗効果を得ることがポイントです。
当社でも、ワーク・ライフ・バランスや業務効率化に関する企業内研修を取り扱っております。ご興味ある方はぜひお問い合わせください。会場/オンラインのどちらにも対応しております。
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