在宅勤務とは?メリット・デメリットや注意点、導入事例

published公開日:2023.11.09
在宅勤務とは?メリット・デメリットや注意点、導入事例
目次
多様な働き方が重視される今、在宅勤務は従業員のワーク・ライフ・バランスを実現する重要な手段となりました。しかし、一度は在宅勤務制度を導入しても「なかなか続けられない」という企業は多いようです。

本コラムでは、在宅勤務の目的やメリット・デメリット、導入・運用上のポイントを解説。働きやすい環境づくりに、ぜひお役立てください。

在宅勤務とは‍

新型コロナウイルス感染症の流行により、働き方の一つとして在宅勤務が普及しました。コロナ禍以前から、在宅勤務を選択肢とする働き方改革は叫ばれてきたものの、感染症拡大という現実的な課題に直面し、その重要性を再認識した企業は多いはず。あらためて、在宅勤務とはどのような働き方なのか、その定義やテレワークとの違いを把握しておきましょう。

在宅勤務の定義

在宅勤務とは、オフィスに出社せず自宅を就業場所とする働き方のことです。1日の業務全てを自宅で行う場合もあれば、勤務時間の一部のみ自宅で働く場合もあります。在宅で働くフリーランスと混同されがちですが、一般に在宅勤務と言えば、企業に雇用されながら自宅で働くことを意味します。

感染症拡大の時期では、「ほぼ毎日在宅勤務だった」という方もいるでしょう。現在は、在宅勤務が可能な従業員を対象に、週1~2日など決められた範囲で利用できる企業が多いようです。

在宅勤務が注目されたきっかけは、少子高齢化などにともなう人材不足でした。具体的には、育児や介護により従来の勤務形態では働き続けられないケースや、優秀な人材であるにもかかわらず遠隔地に居住しているため雇用できないケース、業務遂行能力はあるのに通勤が大きな障害となっているケースなどです。

業務を自宅で行えれば、通勤の負担がなくなり、これまで働けなかった人材が働けるようになります。出社して業務を行ってきた人にとっても、よりプライベートの時間を確保しやすくなり、ワーク・ライフ・バランスの向上につなげやすくなりました。

テレワークとの違い

在宅勤務と同様に、オフィスの外で業務を行う働き方に「テレワーク」があります。総務省や厚生労働省によれば、テレワークとは、ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を問わず業務を行う就業形態のことです。

テレワークと在宅勤務との違いは、そこに含まれる働き方の範囲です。テレワークの範囲は在宅勤務よりも広く、在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務を含む概念となっています。そのため、観光地などの施設で休暇を楽しみながら働くワーケーションも、テレワークの一形態です。

リモートワークとの違い

もう一つ、職場や自宅以外の場所で働くことを意味する「リモートワーク」という言葉をご存じの方もいるでしょう。実のところ、リモートワークには明確な定義がなく、「オフィス以外の場所で仕事をする」程度の意味で用いられます。

総務省や厚生労働省がテレワークの特徴にICT活用を含めている点と比較すれば、“ICT活用を前提としない遠隔地での就業も含む概念がテレワークである”と言ってもよいかもしれません。とは言え、明確な線引きがあるわけでもないため、ほぼ同義語と考えてよさそうです。

在宅勤務(テレワーク・リモートワーク)のメリット・デメリット‍

多様な働き方の実現において推奨されてきた在宅勤務。対象となる従業員だけでなく、企業にとって大きなメリットがあります。一方、対策が不十分なままでは重大なデメリットも発生するかもしれません。

在宅勤務のメリット・デメリットを事前に把握し、制度設計に役立てましょう。

在宅勤務4つのメリット

在宅勤務には、従業員が出社せず働けることで生まれるメリットがあります。大きく分ければ、時間・コスト・人材・災害時の事業継続性の4つのメリットです。

(1)生産性・業務効率が向上する

在宅勤務の最大の特徴は、通勤時間が削減されることです。そして、自宅で業務を進められるため、周囲の物音や雑談による業務の中断が少なくなります。通勤時間がなくなれば、体力の消耗も大きく軽減できるでしょう。

従業員にとって出社の負担が減り、自分に合った作業環境を確保しやすくなることにより、1人で集中して作業することができます。疲れた時は自分のペースで小休憩をとることもできます。時間を効果的に活用できますので、生産性や業務効率にもつながるでしょう。

また、自宅で家族を見守りながら働くという選択肢が生まれ、育児中の人や介護がある人なども、仕事を進めやすくなります。

(2)コストの削減につながる

従来の出社を前提とした働き方では、従業員が使う座席を確保する必要がありました。しかし、在宅勤務によりオフィスに滞在する人数を減らせば、全員分の座席を常に確保する必要がなくなります。

このことは、会社で購入・管理する什器の削減、オフィスとして必要なスペースの削減に寄与するでしょう。つまり、維持管理費や家賃の削減です。実際、多くの従業員を在宅勤務に切り替え、オフィスの面積を縮小した企業が複数見られます。

従業員の通勤が不要であることは、交通費の削減にもなります。営業職など業務としての移動がある場合は別ですが、毎日発生していた出社・退社にかかる費用がなくなるのです。

また、在宅勤務という柔軟な働き方が可能になれば、出社が難しい人材も働き続けることができます。ライフステージや健康状態の変化などに対応した安定的な就業は、従業員の離職防止に役立つでしょう。人材の流出を抑えられますので、採用にかかるコストも削減できるでしょう。

(3)優秀な人材を確保しやすい

在宅勤務は、これまでの働き方にとらわれない柔軟な働き方。育児や介護などで出社が難しい人材、健康状態や特性などで出社時の混雑に耐えられない人材、遠隔地の人材などが自社の従業員として働き続けられる重要な選択肢です。

雇用する人材の条件を大きく拡大することで、より広い選択肢から優秀な人材を探すことができるとともに、そうした人材に安定して働いてもらえるでしょう。在宅勤務と労働時間短縮制度やフレックスタイム制、時間単位の年休を組み合わせれば、さらに多様な働き方が実現します。

より働きやすい魅力的な制度をもつ企業の求人は、多くの求職者の目にとまりやすくなります。人材不足が叫ばれる中で、より優秀な人材に応募してもらうには、在宅勤務を含む多様な働き方に理解があり、それを実現できる企業が選ばれやすいでしょう。

(4)災害時など出社が困難な状況でも事業を継続できる

そして、在宅勤務の4つめのメリットが、災害時などの緊急事態における事業の継続性です。

地震や大雨、感染症の流行期など、社屋が被害にあったり交通機関が使えなかったり、あるいは出社すること自体が従業員の安全上のリスクにつながったりする場合、オフィスでしか働けない会社では、業務を進められません。

一方、在宅勤務ができる企業では、もともと社外で業務を進める設備や制度が整っていました。オフィスに被害がある場合でも、業務に必要な機器は従業員の自宅にありますので、引き続き仕事ができます。感染症拡大期で人混みを控える必要がある場合でも、自宅で安心して作業できるでしょう。

不測の事態が生じても事業継続が可能な体制を構築することは、変化の激しい社会における柔軟な対応力や安定性の強化につながります。

在宅勤務2つのデメリット

在宅勤務のデメリットは、仕事に必要なデータを社外に持ち出すこと、対面でのコミュニケーションやマネジメントが難しいことに起因します。いずれも重大なトラブルに発展する可能性があるため、事前対策が不可欠です。

(1)セキュリティリスクが生じる

在宅勤務を導入するにはPCや記録媒体の持ち出しが必要です。これは、機密情報を自宅という社外で閲覧・編集することを意味します。従業員へのセキュリティ教育を徹底しなければ、情報漏洩のリスクが高まるでしょう。

まずは、従業員の自宅で使う機器やインターネット環境について、セキュリティ対策を行いましょう。セキュリティソフトの導入はもちろんのこと、安全な回線を使うこと、社内の情報にアクセスできる権限をしっかり定めることなどです。VPN(仮想専用線)や安全なクラウドサービスの利用も選択肢に入ります。

さらに、機器を持ち運んでいる途中の紛失や、部外者によるパソコン画面ののぞき見、盗難など、情報が盗まれて悪用されるリスクも考えなければなりません。これらの機器を持ち出したり、社外で使用したりする際のルールを定めましょう。

(2)労働時間を把握しにくい

在宅勤務では、従業員の勤務状態を常にチェックすることは困難です。それまで「出社したらタイムカードを切る」「社員証を通す」という行動で労働時間の把握をしてきた場合、在宅勤務では別のやり方で労働時間を記録しなければなりません。

しかも、従業員の目の前に立って「やってください」と言えるわけではないため、労働時間の管理や記録自体が従業員任せになるという側面があります。

こうした状況から発生するのが、勤務時間中のサボりや、記録を付けないまま働き続ける無断残業です。サボりは生産性低下につながりますし、無断残業は長時間労働による体調不良を引き起こしかねません。

在宅勤務での労働時間の把握は、休憩時間に関する明確なルールの設定や、在宅勤務用の勤怠管理システムなどが解決策になるでしょう。パソコンなどの機器を使用した時間のデータをとったり、メールやチャットでの連絡時間を活用したりする方法もあります。定期的な報告、朝礼や終礼での業務報告なども上手に使ってください。

在宅勤務(テレワーク・リモートワーク)の導入方法‍

これまで見てきたように、在宅勤務には多様な働き方に関わる多くのメリットがある一方で、安易な導入によるデメリットもあります。リスクを抑えながらメリットを最大化するには、5つのステップで導入していくとよいでしょう。

(1)目的や方針を策定し従業員に周知する

自社への在宅勤務制度導入を行う前に、まずは目的や全体の方針を決めましょう。

在宅勤務を導入する目的には、以下のような例があります。

  • 働き方改革の推進(ライフステージやスタイルに応じた働き方の選択など)
  • 業務効率・生産性の向上(通勤の負担軽減など)
  • コストの削減(家賃、交通費など)
  • 人材確保(育児・介護中の人材、遠隔地の人材、出社困難な人材など)

在宅勤務の目的と方針を決定したら、必ず従業員に周知してください。何も知らされずに在宅勤務制度が突然始まると、現場は混乱してしまいます。事前の周知を徹底することで、在宅勤務での業務の割り振りや連絡方法など、導入後の働き方を検討する時間ができますし、その後のルール設定もスムーズに進められるでしょう。

従業員への説明では、在宅勤務を導入するメリットを具体的に示すと、より前向きに受け入れてもらいやすくなります。

(2)導入計画を立てて環境整備を進める

次に行うことは、具体的な導入計画の立案です。一般的に、次のようなステップを計画に盛り込むとよいでしょう。

  • 在宅勤務制度・ルールの検討・設定
  • テレワーク環境の構築に必要なものの選定と、実際の構築手順
  • 在宅勤務に関するセミナーや研修の開催(労務管理、マネジメント、報連相、面談など)
  • 在宅勤務の試験的実施を行う部署の選定と実施手順
  • 試験結果の分析と施策改善
  • 全社的導入に向けた計画

在宅勤務の導入にあたって、出社しないことで困難になる業務は見直す必要があります。例えば、不必要な押印や署名を廃止したり、書類のペーパーレス化などに取り組んだりすることで、導入後の業務がよりスムーズになるでしょう。

(3)小規模で試験的に導入を始める

いよいよ在宅勤務を試験的に実施する部署の選定と環境を整えたら、実際に自社での在宅勤務を試してみましょう。

小規模から始めることで、万が一トラブルが発生しても全社的なダメージを防ぐことができます。対応も小規模で済みますので、検証と改善を行いやすいでしょう。試験に参加する従業員には、定期的にヒアリングも行ってください。実際に在宅勤務で働く立場としての利点や不都合な点を聞き取り、全社的な運用に活かしましょう。

在宅勤務での生産性や労務管理の状況、マネジメントの成否など、適正なデータを取るには、試験期間は3~6か月ほどかかると考えてください。

(4)試験運用で見つかった改善点を洗い出す

試験運用において従業員へのアンケートや聞き取りを行ったら、具体的な改善点がないかチェックすることが大切です。在宅勤務でできた業務、できなかった業務は何か、できなかった業務を在宅勤務でもできるようにする方法はあるか、コミュニケーションにおける課題は何かなど、多角的に分析しましょう。

もし大きな改善点が見つかった場合は、制度設計やルール自体を見直す必要があるかもしれません。権限の変更、ツールの新規導入や変更など、より働きやすい環境整備ができないか、確認してください。

こうした試験運用と改善を繰り返すことで、より実践に合った制度にブラッシュアップすることができます。一定の効果が出たら、本格的な導入に向けて準備を進めましょう。

(5)改善策を盛り込み運用を開始する

試験運用で制度やルールの改善を行ったあとは、いよいよ全社的な導入の準備に入ります。

ルール設定の中で特に重要なことは、就業規則やセキュリティに関するルールの再設定でしょう。在宅勤務に関するルールは、労使での協議によって最終決定し、就業規則に明記してください。その後、あらためて在宅勤務制度の導入目的とルールを全従業員に伝えることが大切です。

また、在宅勤務は利用者が増えるほど、多様な課題が発生します。試験運用中は生じなかったトラブルが発生するかもしれませんし、社会状況の変化によって新たな対応が求められるかもしれません。「導入したら終わり」とせずに、定期的なヒアリングと見直しを行ってください。

在宅勤務・テレワークの事例

最後に、これまで多方面から評価されてきた取り組みの中から、代表的な事例として、カルビー株式会社、日産自動車株式会社、株式会社PHONE APPLIの取り組みを見ていきましょう。実際の事例からは、在宅勤務・テレワークの成功に向けた多くのヒントを得られます。

カルビー株式会社の事例

カルビー株式会社では、1991年から働き方改革を推進してきました。2014年には週2回までの利用を可能とする「在宅勤務制度」を導入し、2017年には「モバイルワーク制度」として場所や日数の制限を撤廃。2020年からは「Calbee New Workstyle」という新しい取り組みを始めています。

「Calbee New Workstyle」では、勤務場所を自宅だけでなくカフェなどでも可能とし、モバイルワークを標準化しました。生産性や創造性を高めることを目的とした、主体的に勤務場所を選べるシステムです。さらに、コアタイムなしのフレックスタイム制も導入し、場所だけでなく時間も自分で選べるようになっています。

こうした働き方改革成功の鍵となるのは、「圧倒的当事者意識」の醸成です。従来のやり方やコミュニケーションを見直すため、ITツールの拡充・整備やITスキル向上を重視するとともに、職場や個人が生産性向上に成功した事例などを共有しています。

日産自動車株式会社の事例

日産自動車株式会社では2015年から多様な働き方に力を入れ、「Happy8」プログラムを実施してきました。これは、1日8時間勤務を意識した働き方。仕事への意欲や貢献度向上、生産性向上などの仕事面の意識改革を図るとともに、従業員自身の健康や管理職のワークライフマネジメントを重視するものです。

在宅勤務制度自体は、2006年に導入済み。ただ、当時の対象者は育児・介護両立社員に限られていました。2010年からは利用時間や場所を拡大し、対象も全従業員に。特筆すべきは、2016年という早い段階で、それまで在宅勤務が難しいとされていた生産部門で在宅勤務の導入に成功している点です(製造工程を除く)。

2020年になると、自宅・実家以外の公共の場所でも勤務可能となり、2021年には時間における利用制限を撤廃。コアタイムなしのスーパーフレックスタイム制、半休制度と組み合わせることで、それぞれのライフステージや状況に応じた柔軟な働き方が可能となりました。

在宅勤務を拡大させた成功ポイントは、

  • 在宅勤務の目的や有効性をきちんと伝える
  • 社内でトライアル・パイロット活動を進める
  • 管理職が率先して在宅勤務制度を活用する
  • 社内での好事例やICTツール活用方法を共有する
  • テレワークのノウハウなど、e-ラーニングも活用する
などです。

通勤時間や移動時間の削減によって生まれた時間を仕事と生活の質の向上にあてることはもとより、リモートワークにおけるチームの業務分析・可視化も定期的に実施。こうした取り組みが、生産性やマネジメント力の向上に寄与しています。

株式会社PHONE APPLIの事例

株式会社PHONE APPLIでは、2014年の冬から春にかけて在宅勤務のトライアルを実施し、従業員の意見をもとに在宅勤務の規則を策定。2015年7月に本格的な導入を開始しました。その取り組みは大きく評価され、令和4年度には「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」を受賞しました。

「最もパフォーマンスが出せる、場所や働き方」を実現する取り組みは、「ルール」「ツール」「プレイス」の3軸で構成されています。

【PHONE APPLIのテレワークにおける3つの軸】

ルール ● 柔軟な人事制度
● 上司と部下は毎週30分の1on1を実施
● 社長から新卒まで、全員目標を公開
ツール ● どこでも働けるIT環境
● 全てのツールは、クラウドで活用
● チャット、Web会議をベースとしたコミュニケーション
プレイス ● 最もパフォーマンスを出せる場所で働く
● 自然と自由にコミュニケーションできる「CaMP」オフィスの活用
● 在宅勤務環境の支援

これらの施策は毎月見直しを行い、全社員に実施するパルスサーベイの結果をもとに改善し続けてきました。在宅勤務で孤独感を感じる社員が増えた際は、セルフケアやラインケアの研修を導入し、必要に応じて社外カウンセラーなどの専門家へもつながれる仕組みを構築しました。