リスクヘッジとは?意味や重要性、方法などをわかりやすく解説

published公開日:2024.09.03
リスクヘッジとは?意味や重要性、方法などをわかりやすく解説
目次

リスクヘッジは、企業の危機管理において基本となる対策です。

本コラムでは「企業経営におけるリスクヘッジとは何か」という視点で、意味や定義、リスクヘッジの重要性、種類、やり方などを解説します。またリスクヘッジが上手い人の特徴をおさえたリスクヘッジ能力の高め方もご紹介します。

リスクヘッジとは

リスクヘッジとは、これから発生する可能性のある損害を軽減・回避するための対策です。リスクは「危険」、ヘッジは「回避」を意味しています。

一般的なビジネス用語としてのリスクヘッジと、金融取引で用いられるリスクヘッジには違いがあります。

ビジネス用語としての意味

一般的なビジネス用語としてのリスクヘッジは、事業において直面する可能性のあるリスクを予測し、それらを回避するために取る対策を指します。

日々の業務に関して可能な限りリスクヘッジを行っておくことで、万が一の事態が発生しても迅速な対応が可能になり、事業の安定化につなげられます。

金融取引における定義

ちなみに、リスクヘッジは金融取引で用いられてきた用語です。

金融取引におけるリスクヘッジは、市場の変動や不確実性から資産を保護するために対策することを意味します。具体的には、分散投資などを行い、リスクを最小限に抑える方法などがあります。

リスクヘッジと似た用語

リスクヘッジと似た言葉として、「リスクマネジメント」「リスクアセスメント」「リスクテイク」が挙げられます。

これらの用語とリスクヘッジとの違いを見ていきましょう。

リスクマネジメントとの違い

「リスクマネジメント」とは、企業が直面する可能性のあるリスクを把握し、その影響を評価し、対応策を講じるためのプロセス全体のことです。

リスクの回避を目指すリスクヘッジは、リスクマネジメントの一部です。

両者の違いは、リスクヘッジが特定のリスクを回避するために具体的な手段を講じるのに対して、リスクマネジメントは企業全体のリスクを広範囲に分析・評価し、対策を講じる全体のプロセスを指す点です。

後述するリスクアセスメントやリスクテイクも、リスクマネジメントに含まれます。

リスクアセスメントとの違い

「リスクアセスメント」とは、前述したリスクマネジメントのステップの1つで、リスクを特定・分析し、その影響を評価するプロセスです。

リスクヘッジはリスクを回避する対策であるのに対し、リスクアセスメントはリスクヘッジの前段階であるリスクの内容や程度の予測を行います。つまり、リスクアセスメントによってリスクを理解したうえで、その対策を講じるリスクヘッジのプロセスに入るという流れです。

リスクテイクは対義語

「リスクテイク」はリスクヘッジの対義語です。リスクヘッジがリスクの回避を目指す対策である一方、リスクテイクは、ある程度のリスクを受け入れることを指します。

企業活動において、リスクを完全に排除することはほとんど不可能でしょう。そのため、リスクを避けることだけを考えるのではなく、リスクを受け入れられる範囲に抑える施策も重要です。

リスクマネジメントでは、リスクアセスメントにおいてリスクの把握と評価を行い、その上でリスクヘッジをとるかリスクテイクをとるかを判断することになります。

リスクヘッジの重要性

では、なぜ企業にはリスクヘッジが必要なのでしょうか?

主なポイントは、予期しないリスクへの対応、信頼や評判の維持、持続可能性の確保です。リスクヘッジによって、予期しない出来事や損失から組織を守り、安定した状態を保つということです。

企業におけるリスクヘッジの必要性を順番に確認していきましょう。

予期しないリスクへの対応

自然災害、市場の変化、経済の変動、技術革新など、企業経営においては予測不可能な要因が多くあります。

特に日本は災害大国であり、災害という不測の事態により、物流が停滞する、取引先との連絡がとれない、ライフラインの復旧に時間がかかり業務を再開できないといった事態が生じるかもしれません。

こうしたリスクを具体的に想定し、各拠点における災害時の備えを普段から行うなど適切なリスクヘッジを講じることで、緊急事態への対応力を高め、その影響を最小限に抑えることができます。

信頼や評判の維持

リスクヘッジは、顧客や投資家、パートナー企業からの信頼を得て、評判を維持するうえでも重要です。

適切なリスクヘッジを行う企業は、社会からの評価や安定した事業継続を念頭に置いて活動しています。社会からの不信を招くような行動はせず、常に現状分析と課題への対応を行うことで、顧客やパートナー企業、投資家などから信頼を得ています。

リスクヘッジによって企業の信頼や評判を維持することが、その後の安定した企業活動につながるのです。

長期的な計画と持続可能性の確保

リスクヘッジは、企業の中長期経営計画や事業の持続可能性の確保にも欠かせないものです。グローバル化が進み、かつ外部環境の変化が激しいVUCAの時代にあっては、社会課題に関連する自社の課題の認識と対策が欠かせません。

日本国内での需要の変化、少子高齢化による人材不足、世界情勢の変化による原材料調達の課題など様々な脅威にさらされている今、企業の生き残りや安定的成長には、長期的な視点で多角的に生じ得る困難を予測し、悪影響を軽減・回避する施策を講じなければなりません。

リスクヘッジを行うことは、将来にわたって持続可能な成長や発展を支えるための経営基盤を作ることにつながります。

企業が行うべきリスクヘッジの種類

リスクヘッジには、主に4つの種類があります。リスクヘッジを行う際は、どのような種類のリスクヘッジかを意識すると、より効果的です。

ミス・トラブル対処のためのリスクヘッジ

1つめは日常業務で発生しやすいミス・トラブルを防ぐためのリスクヘッジです。

新入社員から経営層まで、情報の抜け漏れや情報共有上のミス、ネットワーク関連のトラブルなどを事前に想定し、それを回避するための業務フローやチェック体制を構築することが重要です。

例えば、次のようなリスクヘッジのやり方が考えられます。

  • 誤入力・誤送信に備え、決済の入力作業はダブルチェックを行う
  • データの損失に備え、バックアップを取る
  • 災害発生時にスムーズに対処するため、定期的に災害対応訓練を実施する

情報漏洩防止に向けたリスクヘッジ

2つめは、クラウドやSNS活用、テレワークなどの浸透によって一層重要性が高まっている情報漏洩防止のためのリスクヘッジです。

機密情報や顧客情報、従業員の個人情報などの漏洩が起こると、企業は社会からの信用を大きく損ない、ステークホルダーにも無視できない影響が及びます。適切な情報管理を行い、顧客に安心して取引を続けてもらうためにも、十分な対策を行わなければなりません。

情報漏洩防止を目的とするリスクヘッジには、以下のようなものがあります。

  • 機密情報の取り扱い方法やパスワード設定のルールなどを明確に規定した情報セキュリティポリシーを策定し、従業員に周知徹底する
  • 従業員に与えるアクセス権限を最小限にすることで、情報への不正アクセスを防ぐ
  • セキュリティソフトやファイアウォール、暗号化など技術的な対策を導入し、社外からのハッキングなどの攻撃を防ぐ

人材確保に向けたリスクヘッジ

3つめは、人材の流出に関するリスクヘッジです。

少子高齢化による労働力人口の減少や転職の一般化が顕著となった昨今、人材流出は多くの企業における重要課題となっています。

人材流出を放置すれば、その人材を雇用するためにかけたコスト、育成コストなどが無駄になり、自社のノウハウの流出や残った従業員の業務負担増加といった悪影響につながります。

こうした事態を防ぐには、社内環境の整備や相談窓口の設置など、従業員がより働きやすい職場づくりが欠かせません。

具体的には、以下のような施策が考えられます。

  • 適正な給与や働きやすい環境を提供することで、従業員の満足度を向上させる
  • 長時間労働を是正するための労働時間管理を徹底する
  • 業務フローの見直しを行い、さらなる業務効率化を図る
  • テレワーク制度や短時間勤務制度などを導入し、多様な働き方に対応する
  • 定期的に従業員アンケートを実施し、社内の課題を把握する
  • ハラスメント対策を担うチームを発足させ、相談窓口を設置する
  • 組織内の風通しを良くし、従業員と経営者が直接意見交換できる場を設ける

不祥事が発生した場合のリスクヘッジ

4つめのリスクヘッジは、不祥事への対応です。

近年、企業の不祥事がメディアで報道されると、SNSなどで拡散されて大きな炎上を招くケースが見られます。炎上騒動が大きくなるほど、企業の社会的イメージは大きく損なわれ、業績や人材採用にもネガティブな影響を与えかねません。

まずは不祥事が起こらないよう、コンプライアンスを意識した施策を講じなければなりません。そのうえで、万が一不祥事が発生した場合を想定し、対応マニュアルを作成する必要があります。

具体的には、以下のような対策が挙げられます。

  • 組織内のコンプライアンスを確立し、法律や業界内のルールに確実に従えるような体制を作る
  • 内部統制の仕組みを確立し、業務プロセスを監視することで、不正や不祥事の発生を防ぐ
  • 不祥事が発生した際に、適切な対応を迅速に行えるように、危機管理計画を策定する

リスクヘッジのやり方

リスクヘッジは「リスクを特定する」「リスクの影響範囲と発生確率を把握する」「対策の立案を行う」という3つのプロセスで行います。

リスクを特定する

まずは、事業に関連する潜在的なリスクを特定します。情報収集によって事業の全体像を把握し、企業の内部環境と外部環境を分析することで、起こりうるリスクを予測しましょう。

リスクには以下のような種類があります。

【リスクの種類】

リスクの種類 概要
市場リスク 株価、金利、商品価格、為替レートなどの市場変動によるリスク
信用リスク 取引相手が契約条件を履行しないリスク
流動性リスク 資金が不足するリスクや資産を速やかに現金化できないリスク
法的リスク 法律の改正や新たな規制の導入による影響
環境リスク 自然災害や気候変動による影響
地政学的リスク 政治の不安定化や国際関係の緊張によるリスク
技術リスク 技術の陳腐化や新技術の導入失敗などによるリスク

リスクの影響範囲と発生確率を把握する

次に特定したリスクを評価し、その影響範囲と発生確率を分析します。この時、それぞれのリスクについて量的、質的に評価することが重要です。リスクの評価を適切に行い、リスクごとに対応の優先順位をつけることで、スムーズにリスクヘッジを行うことができます。

具体的な手順は下表の通りです。

  1. ①リスクの影響の評価

    リスク発生時にどのような影響があるか、定性的(高・中・低)または定量的(数値化)に評価する

  2. ②リスクの発生確率の評価

    過去のデータを収集して頻度や条件を調査し、発生確率を定性的(高・中・低)または定量的(パーセンテージや頻度)に評価する

  3. ③リスク評価マトリックスの作成

    縦軸に影響範囲、横軸に発生確率を取り、各リスクをこのマトリックス上にプロットして、「リスク評価マトリックス」を作成する

  4. ④リスクヘッジの優先度の評価

    広い影響範囲と高い発生確率を持つリスクを優先度の高いリスク、狭い影響範囲と低い発生確率を持つリスクを優先度の低いリスクとして評価する

以上の手順でリスクを評価し、優先度が高いものからリスクヘッジを講じましょう。

対策の立案を行う

いよいよ、どのようなリスクヘッジを行うのか、具体的な対策を立案する段階です。

リスクが発生したケースを想定して実際の業務に当てはめながら検討すると、より実践的で効果的な対策となるでしょう。

【リスク対策の例】

製造業:原材料供給チェーンの停滞リスク対策

  • 供給元の多様化を図り、1つの供給元に依存しないようにする
  • サプライチェーン全体の透明性を向上させるための追跡システムを導入する

建設業:建設プロジェクトの事故リスク対策

  • 安全対策を強化し、現場作業員に対して定期的な安全トレーニングを実施する
  • 天候リスクを考慮した柔軟なスケジュールを設定し、予備日を設ける

その他:情報漏洩に対するリスク対策

  • 全従業員に対して、セキュリティ意識向上のための定期的なトレーニングを実施する
  • それぞれのユーザーが必要最低限のアクセス権限のみを持つようにする

このように自社におけるリスクヘッジの具体的な対策を立案し、いざという時のための迅速な対応と影響範囲の拡大防止に努めましょう。

リスクヘッジが上手い人の特徴と能力の高め方

最後に、リスクヘッジが上手い人の特徴をもとに、リスクヘッジに関する能力の高め方をご紹介します。

「負けない戦略」を目指す

リスクヘッジの目的は、潜在的な損失を最小限に抑えること。つまり、リスクヘッジは競争に勝つことではなく、「競争に負けない戦略」を目指す考え方です。

外部環境の変化が激しい昨今、事業を行ううえで、リスクを完全に排除することは不可能です。いかにリスクを抑え、自社の損失を少なくするかという視点を重視しましょう。

リスクヘッジが上手い人は、こうした視点を日常業務にも活かしています。他の人であれば見逃してしまうリスクに気づき、それを回避するためのちょっとした工夫をすることで、「負けない」仕事をしています。

競争に勝つだけではなく、この「負けない」ことの重要性の認識を従業員一人ひとりが持てるようにしましょう。

多角的な視点を持つ

リスクヘッジには、多角的な視点が欠かせません。これは、企業の成長戦略においても同じです。

例えば、事業の多角化はリスクヘッジの基本的戦略です。多角的に事業を開発・展開することで、特定のリスクによって事業に致命的なダメージを受ける状況を回避し、たとえダメージを受けたとしても、その影響が少ない事業で生き残ることができます。これにより、企業活動全体の安定性をより高めることができるでしょう。

多角化が難しい場合でも、複数の業界や地域に進出するなどの戦略をとれば、特定の業界や地域で発生した危機的状況の影響を抑えられます。

リスクヘッジが上手い人は、自身の業務遂行においても、多角的な視点を持っています。例えば、

  • 自身が担当する前にどこから情報や資料が来るのか
  • 業務遂行中に関わるメンバーは誰か
  • それらのメンバーは今どのような状況にあるのか
  • 業務に使用する機器・設備などがメンテナンスで使えなくなる時間帯はあるか
  • 自分の業務で作成した成果物は、今後、誰のどのような業務に関わるのか

といった視点です。

言い換えれば、普段から広い視野を持っておくことで、リスクヘッジにつながるヒントを得やすい状態にあるともいえるでしょう。

多角的な視点を持つには、業務全体の流れや目的を理解し、関係者と適切にコミュニケーションを図ることが重要です。従業員それぞれが自身の業務への理解を深化させつつ、様々な機会を利用して社内外で積極的な意見交換を行うとよいでしょう。

失敗を振り返り、改善する

適切なリスクヘッジを行うには、過去の失敗を振り返り、活かすことも大切です。定期的な振り返りは、組織全体のリスクヘッジ能力強化に重要なプロセスです。

事業や日常業務でPDCAを実践することが、過去の失敗を繰り返さず、組織を発展させるために欠かせません。これは、自社の失敗だけではなく、他社における失敗についても同様です。同じ業界の他社にどのようなトラブルがあり、それをどういった対策で解決したのかを定期的に調査するとよいでしょう。

日常業務レベルでも、リスクヘッジが上手い人は、「失敗して終わり」ではなく、失敗から学ぶ行動を取ることができます。その失敗には、自身の失敗もあれば、プロジェクトメンバーによる失敗、あるいは他部署における失敗もあります。

何らかの失敗やトラブルが発生したら、その原因を招いた従業員を感情的に責めるのではなく、適切な配慮のうえで事例として共有しつつ再発防止策を講じましょう。