モチベーションとは?意味・理論からマネジメントまで
モチベーションは、企業の生産性向上と人材育成に欠かせない要素です。
本コラムでは、モチベーションの意味や職場での重要性、代表的な理論、低下の要因、向上させるための実践的なマネジメント手法について詳しく解説します。
組織の人事施策や従業員のモチベーション維持にお悩みの方は、ぜひお役立てください。
モチベーションとは
はじめに、モチベーションの意味とビジネスにおける重要性、モチベーションと生産性の関係について見ていきましょう。
モチベーションの意味
モチベーションとは、人が行動を起こしたり、継続したりする際の原動力や動機づけのことです。ビジネスの文脈では、「やる気」「意欲」といった意味合いで使用され、組織内での業務に対する意欲を表すことが一般的です。
職場におけるモチベーションの重要性
モチベーションは個人の生産性と組織の業績に多大な影響を及ぼすため、現代の企業経営において重要視されています。
かつての日本企業では、従業員の会社への忠誠心や帰属意識が強かったこともあり、組織の一致団結が業績向上につながっていました。しかし、現代では個人の意見や能力を尊重する働き方が主流となっているため、個々のモチベーションを高めることが組織全体の成長に直結すると考えられています。
競争が激化する現代のビジネス環境において、モチベーションの維持・向上は企業の業績を左右する重要な要素だといえるでしょう。
モチベーションと生産性の関係
厚生労働省の平成30年版 労働経済白書には、従業員のモチベーションと企業の生産性における密接な関係が示されています。能力開発に積極的な企業ほど、労働者の仕事に対するモチベーション向上につながりやすいという傾向が見られます。特に、OJT(On-the-Job Training)に力を入れている企業では、従業員のモチベーション向上と生産性向上の両面で効果が出ているようです。
具体的には、OJTに関する取り組みが多い企業(6個以上の取り組みを実施)で、職場の生産性が向上していると認識している割合が74.6%に達しました。一方、取り組みが少ない企業(6個未満)では、この割合が59.2%にとどまりました。
効果が高いとされているOJT施策には、以下のようなものがあります。
- 段階的に高度な仕事を割り振る
- 仕事について相談に乗ったり、助言をする
- 従業員の仕事の幅を広げる
こうした段階的な成長促進や適切なサポート、新しい挑戦の機会を与えることで、従業員の仕事への意欲と満足度を高める効果が期待できます。
このように、適切なOJTは従業員のモチベーションと能力を高め、結果として企業全体の生産性向上につながる好循環を生み出すのです。
モチベーションの種類と特徴
モチベーションは、その源泉によって大きく2つに分類できます。1つは外部からの刺激によって生じる「外発的動機づけ」、もう1つは個人の内面から自然に湧き起こる「内発的動機づけ」です。
それでは、それぞれの特徴を具体例と合わせて見ていきましょう。
「外発的動機づけ」とは
外発的動機づけは、外部からの人為的な刺激や報酬によって生じるモチベーションです。具体的には以下のような刺激があります。
- 金銭的報酬(給与、ボーナスなど)
- 昇進や地位の向上
- 表彰や認知
- 罰則の回避
外発的動機づけの特徴は、短期的な行動変容には効果的である一方、長期的な維持が難しい点です。さらに、報酬に慣れてしまうと、同じ効果を得るためにより大きな報酬が必要になる場合があります。
「内発的動機づけ」とは
内発的動機づけは、個人の興味・好奇心・達成感などから生まれる、自己の内にある目的を達成するためのモチベーションです。主な目的は以下の通りです。
- 仕事自体への興味や楽しさ
- 自己成長や新しいスキルの習得
- 自己実現の欲求
- 創造性や自主性の発揮
内発的動機づけの特徴は、自己成長につながりやすく持続性が高いため、長期的な目標達成に適している点です。また、非常に高い集中力やフローともよばれる没頭状態(活動に完全に没頭し、時間の感覚さえ忘れる状態)を生み出しやすいというメリットもあります。人材育成においては、内発的動機づけの促進が行なわれることが一般的です。
ただし、外発的動機づけによって行動をしているうちに次第に興味・関心が生じ、内発的動機づけへと変化していくこともあります。
「アンダーマイニング効果」とは
内発的動機づけと外発的動機づけの関係性を考えるうえで、注意すべきポイントがあります。それは「アンダーマイニング効果」です。
アンダーマイニング効果とは、もともと内発的に動機づけられていた行動に外部から報酬を与えることで、その行動への意欲が低下する現象です。例えば、趣味で絵を描くことを楽しんでいた人が絵の販売を始めると、創作の楽しさよりも売上を意識するようになり、結果として絵を描く意欲が低下してしまうような場合がこれに当たります。
特に創造性が求められる業務では、興味や好奇心から生まれる内発的動機づけを重視しつつ、外発的動機づけは慎重に活用すべきだといわれています。
代表的なモチベーション理論
モチベーション研究の分野では、これまで様々な理論が提唱されてきました。これらの理論は、それぞれ異なる視点からモチベーションのメカニズムを説明しており、現代の組織行動論や人材マネジメントに大きな影響を与えています。
ここでは、代表的な7つのモチベーション理論について、簡単にご紹介します。
(1)X理論・Y理論(マグレガー|1960年)
マグレガーは、人間の持つ特性をどのような前提において管理するべきかについて、2つの対照的な見方を提示しました。それが「X理論」と「Y理論」です。
「X理論」は、人間は本質的に働くことを嫌い、指示を好み、安全性を求めるため、強制や報酬・罰則による管理が必要だとする考え方です。例えば、「従業員は常に監視しないと怠けてしまう」と考え、厳しい勤怠管理や成果主義的な評価制度を導入する企業の姿勢がこれに当たります。
一方、「Y理論」ではX理論とは反対の見方をとります。すなわち、人間は本来働くことを望み、適切な環境下では自己統制と創造性を発揮するため、自主性を尊重し、能力を発揮できる環境づくりが重要だとする考え方です。例えば、Google社の「20%ルール(従業員が勤務時間の20%を自由なプロジェクトに充てられる制度)」は、Y理論に基づいた施策といえるでしょう。
マグレガーはY理論に基づく管理を推奨しています。
(2)欲求階層説(マズロー|1954年・1968年)
マズローは人間の欲求を5段階のピラミッド構造で説明しました。5階層の欲求を低次なものから順に並べると、以下のようになります。
- 生理的欲求:生きていくための基本的・本能的な欲求(最も低次)
- 安全欲求:危機を回避したい、安全・安心な暮らしがしたいという欲求
- 社会的欲求:集団に属したい、仲間が欲しいといった欲求
- 自尊欲求(承認欲求):他者から認められたい、尊敬されたいという欲求
- 自己実現欲求:自己成長や自分自身の存在意義、価値を追求する欲求(最も高次)
この理論では、人は低階層の欲求が満たされると、より高次の階層の欲求を求めるようになるとされています。例えば、給与や職場環境が十分に整備されていない状況では、従業員は自己実現よりも基本的な生活の安定を優先するということです。
(3)ERGモデル(アルダファー|1969年・1972年)
アルダファーは、マズローの理論を発展させ、人間の欲求を「ERGモデル」とよばれる3つのカテゴリーに分類しました。
ERGモデルは、「存在欲求(Existence)」「関係欲求(Relatedness)」「成長欲求(Growth)」から構成されます。マズローの欲求階層説では、低次の欲求が満たされてはじめて高次の欲求があらわれるとされますが、ERGモデルではそれぞれの欲求が同時に存在したり並存することもあり得るとしています。この点で、ERGモデルはより現実的なモデルといえます。
(4)二要因理論(ハーズバーグ|1966年)
ハーズバーグは、職務に対する満足・不満足に関する要因を、以下の2つに分類しました。
動機づけ要因(満たされることで満足につながるもの)
例:仕事の達成感、承認、仕事への関心、自己成長など
衛生要因(満足感にはつながらず、不満足の解消にしかならないもの)
例:会社の方針、賃金、福利厚生、職場の人間関係など
動機づけ要因は満足感につながり長期的な効果がありますが、衛生要因は不満を解消するだけで短期的な効果しかないとされています。例えば、衛生要因に該当する「ボーナス」を一時的にもらったとしても、その満足感が半年後にも続いている可能性は低いということです。
(5)欲求理論(マクレランド|1976年)
マクレランドは、職場における人々の行動を促す主要な欲求として、以下の3つを提唱しました。
- 達成欲求:目標や基準を上回る成果を出そうとする意欲
- 権力欲求:他者に影響を与え、指導的立場に立ちたいという願望
- 親和欲求:良好な人間関係を築き、所属意識を得たいという欲求
これらの欲求は個人によって強さが異なり、その人の行動傾向や仕事への取り組み方に影響を与えます。例えば、達成欲求が高い人は挑戦的な目標を好み、権力欲求が強い人はリーダーシップを発揮する機会を求め、親和欲求が強い人は協調的な環境で働くことを好む傾向があります。
(6)職務特性理論(ハックマン、オールダム|1976年・1980年)
この理論では、モチベーションの要因が職務特性にあるとし、以下の5つの特性を挙げています。
- 技能多様性:自分の持つ多様な能力を活かせる仕事かどうか
- タスク完結性:仕事の始まりから終わりまで一貫して関わることができるかどうか
- タスク重要性:仕事そのものが重要視されているものかどうか
- 自律性:自分の裁量が発揮できるかどうか
- フィードバック:実施した仕事からフィードバック(手応え)が得られるかどうか
ハックマンとオールダムは、この5つの特性を満たすことにより、モチベーションが引き出されると考えました。
(7)目標設定理論(ロック、レイサム|1984年)
ロックとレイサムは、適切に設定された目標が人々のモチベーションと行動に大きな影響を与えるとし、以下の4つの要素を提示しました。
- 目標の難しさ:より高く、より困難な目標のほうが、やる気を引き出す
- 目標の具体性:漠然とした目標よりも具体的な目標のほうが効果的である
- 目標の受容:押し付けられた目標よりも、自分で設定した目標や理解して受け入れた目標のほうが強い動機づけになる
- フィードバック:目標到達の過程で定期的に進捗状況を確認し、フィードバックを受けることでやる気が高まる
この理論は、「自分で納得して設定し、やりがいのある(でも無理ではない)目標に向かって頑張り、その過程で適切なフィードバックを受けること」が、人々のやる気と成果を最大限に引き出すと主張しています。
モチベーションが低下する要因
これまで見てきたモチベーション理論は、人々の行動の動機や意欲の源泉を理解する手がかりとなります。しかし実際の職場環境では、これらの理論を適用しても必ずしも期待通りの結果が得られるとは限りません。むしろ、想定外の要因によってモチベーションが低下してしまうことがあります。
人事施策として従業員のモチベーション向上を図るには、まずモチベーションが低下する原因を理解することが重要です。そこで、職場でよく見られるモチベーション低下の主な理由を4つご紹介しましょう。
(1)過度な業務量によるプレッシャー
従業員のモチベーション低下の主な原因の1つに、過剰な業務量があります。常に多くの仕事を抱えているとタスクに追われる日々が続き、心理的なプレッシャーにつながります。
この状況を改善するには、業務の効率化か労働時間の延長が考えられますが、どちらも容易ではありません。効率化には時間と労力がかかり、長時間労働は従業員の疲弊を招きます。結果としてプライベートの時間が削られ、ストレスが蓄積されてしまうのです。
モチベーションの低下が見られる場合、各従業員の業務量が適切かどうかを再検討する必要があります。
(2)不適切な評価制度や組織風土
会社の評価制度や組織風土に魅力を感じられないことも、モチベーション低下の要因となります。努力が正当に評価されない、あるいは公平性に欠ける評価が行われていると感じると、従業員の働く意欲は著しく下がってしまうでしょう。
また、コミュニケーションが不足している、ハラスメントが放置されているなど、働きにくい職場環境も問題です。このような状況下では、多くの従業員が改善を諦め、組織全体のモチベーションが低下してしまいます。
(3)組織と従業員のビジョンの不一致
会社と従業員の目指す方向性が異なる場合、モチベーションの低下が起こりやすくなります。例えば、会社が目指す方向性と従業員個人のキャリアプランが合致しない、あるいは会社の目標が従業員に十分に伝わっていないといった状況です。
この問題に対処するには、会社の方向性や期待することを丁寧に説明し、従業員の理解を得ることが重要です。ただし、「会社の方針に従うべき」という一方的な姿勢では、従業員との溝がより深まるため注意しなければなりません。
(4)働き方の変化に伴う課題
近年、リモートワークやハイブリッド勤務などが普及し、人々の働き方が大きく変化しています。これらの新しい勤務形態は、働き方の柔軟性や効率性を高める一方で、モチベーションに関する新たな課題をもたらしています。
- 孤独感と疎外感:オフィスから離れることで、チームや組織への帰属意識が薄れる
- ワークライフバランスの乱れ:仕事と私生活の境界があいまいになり、ストレスが増加しやすくなる
- コミュニケーションの質の低下:対面での交流が減少し、同僚や上司との信頼関係構築が困難になる
- 業績評価の難しさ:業務の可視化が困難になり、評価に不公平感が生まれやすくなる
これらの課題を放置すると、従業員のモチベーション低下につながる恐れがあります。企業には、新しい働き方に適したコミュニケーション方法や評価制度の構築など、早急な対応が求められています。
モチベーション向上がもたらすメリット
モチベーション研究がこれほど熱心に行われている理由は、モチベーションの向上が個人と組織の双方に様々なメリットをもたらすからです。その中でも、近年特に注目されているのが「ワークエンゲージメント(仕事への熱意や没頭)」との関係です。
令和元年版の労働経済白書によると、ワークエンゲージメントと組織コミットメントには正の相関関係が見られます。これは従業員の定着率向上や離職率低下につながる重要な要素といえるでしょう。
さらに、同白書はワークエンゲージメントと労働生産性の間にも正の相関関係があることを示しています。モチベーションの高い従業員は自発的に業務改善や効率化に取り組む傾向があり、結果として組織全体の生産性向上に貢献します。
企業が持続的に業績を伸ばし、競争力を維持するには、従業員のモチベーション向上への継続的な取り組みが重要なのです。
モチベーションを向上させるマネジメント手法
企業の生産性向上と持続的成長には、従業員のモチベーション管理が不可欠です。ここでは、モチベーションマネジメントの実践的手法を5つのステップでご紹介します。
(1)組織ビジョンと個人目標の連動
まずは、組織のビジョンと個人の目標を連動させることが重要です。会社と個人の目指す方向を合わせることで、従業員は自分の仕事がどのように役立つのかをより理解できるようになり、モチベーションが高まります。
ビジョンと個人目標の擦り合わせを行う際は、なぜその目標が必要なのか、どんな成果を期待しているのか、達成したらどう評価されるのかを明確に伝えましょう。会社からの一方通行ではなく、本人にも意見を聞くことが大切です。
(2)一人ひとりに合わせたパフォーマンス管理
目標設定においては、一人ひとりの特性や能力を十分に考慮しましょう。定期的な1on1ミーティングを通じて、進捗確認と適切なサポートを行うと効果的です。
目標値はギリギリ達成できるレベルに設定することで、従業員の挑戦意欲を引き出しやすくなります。
(3)公正な評価システムとフィードバック文化の構築
従業員のモチベーションを高めるには、評価プロセスと基準を明確にし、透明性の高い評価システムを構築することも重要です。多角的な視点で、公平な評価を心がけましょう。
評価に際しては、これまでの取り組みや成果へのフィードバックも忘れずに行ってください。これには、建設的なフィードバック方法の構築と組織全体での共有が欠かせません。
適切なフィードバックがあるからこそ、従業員は次の目標を立て、達成に向けた取り組みが可能になります。目標達成という成功体験を積むことで、よりモチベーションも高まるでしょう。
(4)信頼関係に基づく組織文化の醸成
上司と部下の信頼関係は、モチベーション向上の基盤となります。そのためには、双方向の対話を可能にする、オープンコミュニケーションを促進する取り組みが必要です。
意見や提案を自由に出せる環境を作り、従業員の心理的安全性を確保しましょう。リーダーシップ開発プログラムを実施し、信頼関係構築のスキルを向上させる施策も効果的です。
日常的なコミュニケーションを通じて、徐々に信頼関係を築いていくことが、長期的なモチベーション向上につながります。
(5)モチベーションの定期的な測定・管理
ここで注意しておきたいのは、こうした具体的な施策を1回行っただけではモチベーションが向上・維持されるわけではないということです。従業員のモチベーション管理には、定期的な測定と分析が必要です。以下に、主な測定・管理方法をご紹介します。
【モチベーションの主な測定・管理方法】
測定方法 | 概要と特徴 |
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モチベーションサーベイ(従業員満足度調査) |
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モチベーショングラフ |
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1on1ミーティング |
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これらの方法で得られた客観的データを基に、効果的な対策を立案・実行することが重要です。測定項目の選定には、先述したモチベーション理論が役立ちます。定期的な測定と迅速なフィードバックにより、従業員のモチベーションを継続的に向上させることができるでしょう。