マネジメントとは?ドラッカーによる定義とマネジメント能力の高め方



マネジメントは、人材の多様性が高まる今、企業や管理職にとって重要課題の1つです。しかし、「うまくいかない」「何をすればいいのか」といった声も聞かれます。
本コラムでは、マネジメントの意味や役割をドラッカーの定義に即してご紹介。マネジメントの種類・業務内容・必要スキル・直面しやすい課題と対処法なども詳しく解説します。
マネジメントとは?ビジネスにおける意味とドラッカーによる定義
マネジメント(management)とは、簡単にいえば「経営資源を活用して組織を管理すること」という意味です。
より具体的なイメージをつかむため、ビジネスにおける基本的な意味とドラッカーによる定義のほか、「マネジメント経験」とは何を指すのか、マネジメントとリーダーシップの違いは何かを見ていきましょう。
マネジメントの意味とドラッカーによる定義
マネジメントは、「ヒト・モノ・カネなどの経営資源を効率的に活用し、資源やリスクの管理を行うことで、経営上の効果を最適化すること」という意味の言葉です。
アメリカの経営学者であり“マネジメントの父”と呼ばれるピーター・ドラッカーが、自身の著書『マネジメント 課題・責任・実践』において、企業でのマネジメントに関する重要な知見を示しました。
ドラッカーによるマネジメントの定義は、いくつか見られます。まず、機能としてのマネジメントについては、「成果に対する責任に由来する客観的な機能」というものです。*1
一方、マネジメント職などヒトに関する定義では、「ある意味で職人である。その第一の責任は、組織をして自らに特有のミッションを遂行させることである」としています。*2
いずれの定義においても、「責任」が中心にあります。すなわち、マネジメントを行う人材に求められる最も重要なポイントは、組織の成果や活動に対する責任ということです。
*1 出典:P. F. ドラッカー著、上田惇生 訳『マネジメント[上]課題、責任、実践』ダイヤモンド社、2008年、p.6
*2 出典:前掲書、p.16
マネジメント経験とは
求人情報や人員配置の条件において、「マネジメント経験」というキーワードを聞いたことがある人は多いでしょう。マネジメント経験とは、最もわかりやすい例では「経営層や管理職として業務を行った経験があること」を指します。
また、管理職に就いたことがなくても、後述する業務別マネジメントを担当する職位にいた場合は、「マネジメント経験がある」と見なされるケースもあります。
マネジメント経験の有無とは、その業務経験に人材育成(部下育成)や業務管理、予算管理などが含まれるか否かであるといえるでしょう。
リーダーシップとマネジメントの違い
マネジメントと比較されやすい言葉に「リーダーシップ」があります。一見同じ意味のように感じられますが、厳密には異なる概念です。
まず、リーダーシップとは「具体的な方向性を示す」ための能力です。組織・チームのビジョンや進むべき方向を示し、メンバーを鼓舞します。
これに対し、マネジメントには「「目標達成に向けて組織を運営する」「具体的な手段を示す」という特徴があります。現場のマネジメント業務では、
- 人員配置
- 人間関係の調整と信頼関係の構築
- パフォーマンス向上に向け業務・職場環境改善
- 予算管理
といったように、様々なリソースを管理しながら計画的に組織を運営していかなければなりません。
つまり、リーダーシップが組織をけん引するための対人スキルであるのに対し、マネジメントは目標達成のために様々なリソースを管理して具体的な手段を講じるスキルであるということです。
したがって、リーダーとマネージャーの役割にも違いがあります。リーダーの仕事は、リーダーシップを発揮して、組織が目指すべき方向性や目標を示すこと。マネージャーの仕事は、リーダーが示した方向性を理解し、より具体的で段階的な目標を設定して達成に向けた管理・指導を行うことです。
とはいえ、マネージャーにもリーダーシップが求められる場面は多くあります。ビジネスの現場に必要なリーダーシップについては、以下の関連コラムで詳しく解説しています。
マネジメントの具体的な役割
ドラッカーは、マネジメントを第一に定義するのはその役割であると述べています。その具体的な役割として、彼は3つの項目をあげました。*
【ドラッカーが提示するマネジメントの役割】
- (1)自らの組織に特有の目的とミッションを果たす
- (2)仕事を生産的なものとし、働く人たちに成果をあげさせる
- (3)自らが社会に与えるインパクトを処理するとともに、社会的な貢献を行う
マネジメント職にある人は、自身が担当する組織の目的を理解し、目標を達成することが責務。そのためには、部下が安心して効率的に業務を遂行できるよう、様々な支援を行わなければなりません。
加えて、自身の組織が対外的な信用を得るとともに、社会的な貢献ができるよう調整する必要もあります。社会的貢献が何を意味するのかについては、時代の変遷とともに変化するでしょう。だからこそ、今の社会課題を見極め、自身の組織が課題解決に向けてどのように貢献できるのかを考える視点を忘れてはなりません。
以上をまとめると、企業のミッション・ビジョンとともに、経営戦略や上位計画と整合的なアクションプランを策定して現場に遂行させること、それによって求められている成果を出し、その成果が社会的貢献にもつながるものであることが、マネジメントに期待される役割となります。
*出典:P. F. ドラッカー著、上田惇生 訳『マネジメント[上]課題、責任、実践』ダイヤモンド社、2008年、pp.42-43
マネジメントの種類(1)階層別マネジメント
一口に「マネジメント」と言っても、そこには多様な分類方法があります。はじめに、形式的に分類できる「階層マネジメント」をご紹介します。
階層別マネジメントとは、企業や組織の階層(役職や役割)をもとにしたマネジメントの分類です。
【階層別マネジメント】
種類 | 役職の具体例 | 内容 |
---|---|---|
トップマネジメント | 代表取締役など (経営層) |
目標設定・意思決定・将来のビジョン設定など |
ミドルマネジメント | 部長・課長など (中間管理職) |
経営層と現場の橋渡し・全社方針に基づく現場の指揮 |
ローワーマネジメント | 係長・リーダーなど (現場の指示役) |
ミドルマネジメントによる指示の業務への落とし込み・現場の監督と業務遂行 |
自身がどの階層に位置するかを認識することで、果たすべき役割の大枠がわかります。マネジメント職に任じられた際は、まず階層別の分類をチェックしましょう。
マネジメントの種類(2)業務別マネジメント
次にチェックしたいのは、具体的に行う業務に基づく分類です。これは、「業務別マネジメント」という分類で捉えることができます。
近年注目されている業務別マネジメントには、下表のものがあります。
【業務別マネジメントの例:組織運営】
マネジメントの例 | 内容 |
---|---|
ファシリティマネジメント | 自社がもつ全ての施設に関するマネジメント。組織活動のために施設や環境を総合的に管理・活用する |
チームマネジメント | チームで団結して成果をあげるためのマネジメント。メンバーをまとめ、コミュニケーションをとり、計画的に業務を遂行させる |
ダイバーシティマネジメント | 多様な人材が協働して働けるようにするマネジメント。それぞれの人材の文化的背景・価値観・ライフスタイル・能力的な違いなどの理解を促し、チームとして団結できるような目的・目標に関する認識の統一を図る |
コンフリクトマネジメント | 組織内で発生する対立や軋轢に関するマネジメント。メンバーや部門間での対立が発生した際に、両者の意見を傾聴して納得できる解決を図る |
【業務別マネジメントの例:人材育成・管理】
マネジメントの例 | 内容 |
---|---|
メンタルヘルスマネジメント | メンバーのメンタルヘルスを守るためのマネジメント。メンバーの精神的不調を防いだり不調が発生した際に原因を解決したりするために、定期的なメンタルヘルスチェックやサポートを行う |
タレントマネジメント | 適材適所の人員配置を行うためのマネジメント。メンバーの知識・スキルを把握し、業務内容や性質に合う人材を配置する |
モチベーションマネジメント | メンバーのモチベーションの維持・向上のためのマネジメント。本人に合う適切な目標設定やポジティブフィードバック、失敗した場合のリカバリーのサポートなどを行う |
【業務別マネジメントの例:業務管理】
マネジメントの例 | 内容 |
---|---|
プロジェクトマネジメント | プロジェクトを成功させるためのマネジメント。必要な人員を配置し、目標達成のための計画を立てて遂行させる |
ナレッジマネジメント | 社内のノウハウを有効活用するためのマネジメント。メンバーがもつノウハウを組織レベルで管理・共有し、他のメンバーの知識・スキルの向上を図る |
プロダクトマネジメント | 製品の開発から市場撤退までの一連のプロセスに関するマネジメント。市場における製品のシェアを高めるため、開発・品質向上・売上げ目標の達成・市場からの撤退といった各プロセスで戦略を立て、実行する |
【業務別マネジメントの例:リスク管理】
マネジメントの例 | 内容 |
---|---|
リスクマネジメント | ビジネスで発生するリスク全般に関するマネジメント。回避すべきリスクから許容できるリスクまで、組織が直面すると想定されるリスクの分析・対策を行い、実行する |
情報セキュリティマネジメント | リスクマネジメントのうち、特にIT活用や機密情報の取り扱いに関するマネジメント。デバイスのウイルス感染や不適切な取り扱いによるデータの漏えい・消失・改変が発生しないよう、対策ソフトの導入や運用ルールの策定を行い、現場で実行させる |
クライシスマネジメント | 危機的状況に対応するためのマネジメント。日本語で「危機管理」とも呼ぶ。自然災害や感染症流行、社会情勢の大きな変化など、組織の活動にとって重大な危機が発生した場合に備え、行動計画を策定して予行演習を行う |
業務別マネジメントは、時代の変化とともに新たに提案されることが多い分類方法です。トレンドになっている業務別マネジメントがあれば、それは多数の企業が直面している課題を反映しています。現場のマネジメントを進めるだけでなく、自身の組織において同様の問題がないかを確認するヒントにもなるでしょう。
マネジメントの種類(3)セルフマネジメント
マネジメントは、基本的にはマネージャーが実施する業務です。しかし、「管理する」という一般的な意味で見れば、管理職や一般社員かを問わず実践できる「セルフマネジメント」もあります。
セルフマネジメントで特に注目される4つのマネジメントが、以下のものです。
【セルフマネジメントの例】
マネジメントの例 | 内容 |
---|---|
アンガーマネジメント | 怒りの感情をコントロールして、建設的なコミュニケーションを図るためのマネジメント。各メンバーが自身の怒りの原因に対する効果的な対処法を見いだし、実践する |
ストレスマネジメント | 受けるストレスの軽減や解消のためのマネジメント。職場内で受けるストレスの原因に対して、その原因の解消・軽減をさせたり、ストレス解消のための行動をとったりする |
タイムマネジメント | 時間配分に関するマネジメント。定められた時間内に効率的に進めるため、各業務の適切な遂行スケジュールを作成・実行する |
タスクマネジメント | 業務遂行の抜け漏れを防ぐためのマネジメント。業務をタスクに細分化し、実施すべき順序やタイミング、所要時間などを考慮して業務スケジュールを組み、実行する |
適切なセルフマネジメントを部下に行わせることができれば、組織全体の生産性が大きく向上します。それには、マネージャー自らがセルフマネジメントの知識をもち、効果的に実践することが重要です。
マネジメントの具体的な業務内容
このように、ビジネスでは「○○マネジメント」という用語が多数見られます。あまりの多さに戸惑うビジネスパーソンもいるでしょう。
そこで、本項では一般に管理職が行うべきとされる業務内容を改めてまとめました。具体的な内容は業界・業種によって異なりますので、1つの目安としてご活用ください。
組織の目標設定
1つ目は、組織の目標設定です。
マネジメント職は、リーダー(経営層)が示した大きな目標を、より具体的で段階的な目標に落とし込まなければなりません。大きな目標のままでは、「現場で何をすればいいのか」がわかりにくいからです。
これには、業務プロセスなどを考慮して、最終目標に至るまでに達成すべき小さな目標を設定することが大切です。目標設定では、数値化と達成期限の設定も忘れずに。具体的な数値や期限は、より確実な運用に向けて人員配置後に再調整してもよいでしょう。
組織としての力を十分に発揮するためにも、マネジメントの最初の段階で最終目標の達成に向けた小さな目標を設定し、それをメンバーに理解・浸透させてください。
人員配置による組織化
2つ目は、人員配置による組織化です。
組織の目標達成には、当然ながら業務を担当する人材が不可欠です。必要な業務とその進め方を洗い出し、業務を担当できる人材を組織に配置しましょう。
配置する人材には、それぞれの明確な役割と責任を与えることが、チームマネジメントのコツです。各メンバーが自身の能力を発揮できるよう、適材適所の配置を考え、指示系統も明確化していきましょう。
お互いにあまり面識のないメンバーが集まる場合は、本格的な業務を開始する前にチームビルディングを行うのもおすすめです。
コラム「チームビルディングとは?意味・目的・手法と効果を高めるポイント」はこちら
部下の動機付け(モチベーション管理)
3つ目は、部下の動機付けです。
チームが一丸となって進むには、各メンバーが同じ方向を見て業務を進めなければなりません。ここで必要になるのが、目標達成に向けたメンバーの動機付け、すなわちモチベーション管理です。
具体的には、管理職と各メンバーの間に信頼関係を築き、それぞれの経験・関心・強みに関連づける形で
「なぜこの組織に配属されたのか」
「この組織/プロジェクトの目的は何か」
「そのメンバーに何を期待しているのか」
を伝えましょう。各メンバーが担当業務を自分事として捉えられるよう、本人にとってより実感を得やすい表現を用いると効果的です。
マネージャーが部下にしっかりと動機付けを行うことで、各メンバーが自身の業務で優れたパフォーマンスを発揮し、組織に貢献できるようになります。
人材育成(部下育成)
そして、忘れてはいけないのが4つ目の人材育成です。組織として成果を出すには、組織を構成するメンバーのスキルアップが欠かせません。
メンバーの成長を促すには、各メンバーの現在の知識・スキルや特性をしっかり把握しましょう。ポイントは、先ほどの動機と同様です。
「なぜこの業務をやるのか」
「この業務をやることが、どのような結果につながるのか」
こうした点に納得感とやりがいをもって取り組めるようにすることで、本人の能力がより発揮され、具体的な業務改善が進みます。
育成に当たっては、本人が少し頑張れば達成できそうな「ストレッチ目標」の設定がおすすめ。その目標に関連した業務を割り振り、業務遂行の体験を通じて成功ポイントや失敗ポイントの分析、次に失敗しないための工夫の検討を促すとよいでしょう。
業務管理・予算管理
一方で、マネージャーは人材に関わる部分だけでなく、日々の業務管理・予算管理も行わなければなりません。これが、5つ目の業務です。
業務管理では、各メンバーが定められた手順やルールにしたがって業務を進められているかどうかをチェックします。規定の手順やルールから逸脱している場合は、なぜ逸脱が起こるのか、どのように改善すべきかを分析・検討しましょう。
予算管理では、期限までに割り当てられた予算を達成するための進捗管理や指導を行います。
組織としてのアクションプランは、目標設定の段階で概ね作成しているかもしれません。これを個人の業務レベルまで落とし込み、人材育成の観点も加えて作成するのが、予算達成に向けた各メンバーの個人目標と計画です。
メンバーそれぞれに割り当てられた目標の達成状況を定期的に確認し、期限までに達成が難しいと予測される場合は、目標達成に向けた具体的な指導を行ってください。
マネージャーは組織の成果に責任を負う立場。メンバー個人の成長や目標達成に目を向けると同時に、組織全体の目標達成も常に考え、現場のマネジメントを行わなければなりません。
評価とフィードバック
最後の6つ目の業務内容は、評価とフィードバックです。これは、メンバーに対する育成施策の一環も捉えることもできます。
具体的にマネージャーが行うべきことは、メンバーのエンゲージメント向上や成長を促すべく、適切な評価と定期的なフィードバックを行うこと。そのためには、メンバーを公平に評価するための基準設定も必要です。決して個人の印象だけで評価を進めないよう、それぞれの能力や強み、業務に求められる能力全体に目を向けて評価基準を定めましょう。
具体的な評価基準の大枠は、4項目で考えるとわかりやすくなります。
【評価基準の4項目】
項目 | 概要 |
---|---|
情意評価 | 社員の働く姿勢や意欲などを評価する |
能力評価 | 社員のコミュニケーション能力や業務に関する様々な能力を評価する |
行動評価 コンピテンシー評価 |
仕事の成果を出すための行動(チームワークなど)を評価する |
業績評価 成果評価 |
目標の達成状況や与えられた役割の達成度を評価する |
人材の評価については、以下のコラムでも詳しく解説しています。
コラム「人事評価の目的と意味とは?人事評価制度のメリットや人事評価シートの書き方などを解説」はこちら
適切な評価基準は、メンバーのエンゲージメント向上だけでなく、組織全体の活性化にもつながります。課題が生じても改善ポイントを把握しやすくなり、メンバーのさらなる成長をサポートできるでしょう。
マネジメント能力を構成するスキル
マネジメント業務を適切に進めるには、多くのスキルが必要です。その主要スキルとして、次の4つがあげられます。
- コミュニケーション能力
- 意思決定能力
- ロジカルシンキング
- 分析能力
順番に見ていきましょう。
コミュニケーション能力
組織全体の生産性向上には、円滑なコミュニケーションやメンバー同士の信頼関係が重要です。
これを実現するには、マネージャー自身の高いコミュニケーション能力が欠かせません。各メンバーとの信頼関係構築だけでなく、メンバーの意見を引き出してまとめあげるスキルも必要だからです。
価値観の変化や人材の多様化が進むにつれ、同じ組織でも様々な考えを持つメンバーが一緒に働く機会が増えました。働き方の多様化により、リモートワークを行うメンバーもいるでしょう。
マネージャーには、そうした多様なメンバーが安心して情報共有・意見交換・議論ができる環境を整える責任があります。心理的安全性の高い環境づくりには、多様性を尊重しながらコミュニケーションを進める“お手本”をマネージャー自らが示さなければなりません。
メンバーの多様性の中で組織の目的・目標を浸透させ、認識を1つにできてこそ、組織としての本来の力が発揮されます。マネジメントにおいて、コミュニケーションは決しておろそかにはできないスキルなのです。
意思決定能力
次に求められる能力が、意思決定能力です。
目標達成へと導く様々な局面で、マネージャーは何らかの判断を求められます。全員一致による決定はほぼないといってよいでしょう。そのため、マネージャーは対立する意見の中で「なぜそう判断・決定するのか」という根拠をもって意思決定を行い、メンバーに説明しなければなりません。
さらに、状況によっては決定までの猶予があまりなく、即座の判断を迫られることもあります。現場で発生する多様な課題を迅速に乗り越えるためにも、マネージャーの意思決定能力が組織の要となります。
ロジカルシンキング
目標達成に向けて一貫した業務遂行や課題解決を行うには、ロジカルシンキングも必要です。
ロジカルシンキングとは、「何が前提となっているのか」を見極め、ほかの要素との組み合わせや相互作用を考慮しながら、筋道の通った思考で結論を導くこと。主観的な印象や“勘”のみによる判断ではなく、信頼性の高いデータや事実に基づき、根拠をもって適切に理屈を通す点がポイントです。
マネージャーにロジカルシンキングのスキルがあれば、メンバーがミスをしても感情的に叱らずに済みます。何が原因かをデータや事実から探り、より建設的な解決法を模索できるからです。
仮にスキル不足が原因であれば、スキル向上のための講座受講やOJT実施を検討できますし、業務内容やマニュアルに対する誤解があるなら、その誤解を正しい認識に改めるための指導ができるでしょう。スキルや業務理解に問題がない場合は、メンバーの健康状態に注意しなければなりません。
それぞれのメンバーが納得して仕事を進めるためにも、マネージャーには説得力のある論理的な説明・指導が求められるということです。
ロジカルシンキングについては、以下の関連コラムでも解説しています。ロジカルシンキングの習得・向上をお考えの方は、ぜひご覧ください。
コラム「論理的思考と合理的思考の違いとは?ビジネスでの重要性、鍛える方法」はこちら
分析能力
適切な意思決定とロジカルシンキングには、高い分析能力も欠かせません。
具体的には、
- 数字を見て全体の傾向を掴むスキル
- メンバーや顧客の声から問題の原因を探るスキル
- 物事の因果関係を探るスキル
などです。組織が抱える課題についてデータや事実を分析し、問題解決につながる原因を見極められるスキルと言い換えることもできます。
マネージャーに高い分析能力があれば、現状の分析と課題の洗い出し、外部環境の変化を捉えたリスクの明確化、戦略の改善に際して注目すべき要素の取捨選択をより適切に進められます。
分析能力とロジカルシンキングと組み合わせながら意思決定を行い、組織全体の成果の最大化を図りましょう。
マネジメントで直面しやすい課題と対策
ただし、マネジメントに必要なスキルを身につけていても、マネージャーは日々多くの課題にぶつかるでしょう。
企業でよく見られる課題は、生産性やチームワークに関するもの。部下の姿勢やスキルが対象となる場合もあれば、マネージャー自身が課題を抱えていることもあります。
今回は、代表的な4つの課題と対策をご紹介します。
(1)部下のパフォーマンス低下
プロジェクトを進めていくと、はじめは高い能力や生産性を発揮していたメンバーのパフォーマンスが、あるとき突然低下することがあります。このとき、マネージャーとしてはメンバーのことが心配になったり、進捗の遅れで焦ったりするでしょう。
パフォーマンス低下の原因は、いろいろ考えられます。その代表例が以下の5つです。
【パフォーマンス低下の原因(例)】
- 設定された目標や方向性に疑問が生まれた
- 同年代のビジネスパーソンと自身を比較して、落ち込んでいる
- 労働条件や職場環境の変化で、大きなストレスを抱えている
- 疲労が蓄積している
- 私生活に変化があった
いずれの原因であっても、生産性が低下した状態が長引けば組織全体に影響を及ぼしかねません。本人の早い回復と組織の成果の両面から考え、早急の対策が必要です。
改善に当たっては、まず個人の“やる気のなさ”を感情的に叱責するのではなく、実行すべき手順やルールを守れているかを確認しましょう。手順やルールからの逸脱がある場合は、その原因を探り、必要に応じてルールなどの見直しを行います。
逸脱がない場合は、疲労やストレスの蓄積がないかを確認しましょう。主なチェックポイントは、労働時間・業務の内容と量・人間関係の3点です。
これらに変化がある場合は、変化前の状況に戻して様子を見ましょう。人間関係に変化が生じている場合は、対立関係の解消や席替え、配置換えなどが選択肢に入ります。本人の希望をヒアリングしつつ、調整を進めてください。
変化がない場合は、労働時間や業務量を減らして休める時間を増やしたり、社内の相談窓口に関する情報提供を行ったり、産業医などの産業保健スタッフへの相談を勧めたりしましょう。
大切なことは、一方的にメンバーを責めるのではなく、問題の原因となっている事柄に注目することです。「誰でもパフォーマンスが低下することはある」という前提をもちつつ、サポートに努めましょう。
(2)チームワークの悪化
多様な人材が集まる組織では、しばしばメンバー同士の対立が生じます。異なる価値観ややり方で意見が合わず、お互いに自分の考えを押し通そうとするからです。
チームワークの悪化を軽減・解消するには、多様な人材が集まっていることのメリットを強調して説明しましょう。例えば、以下のようなことです。
【多様な人材が集まるメリット(例)】
- それぞれに異なる強みを持っている
- お互いの強みを掛け合わせることで、大きな成果が生まれる
- 苦手な部分と得意な部分を組み合わせて補い合うことで、組織の生産性が上がる
メリットを引き出しながらチームワークを取り戻すには、各メンバーにプロジェクトの目的を再認識させる必要もあります。大きな目的において、各メンバーの業務がどのような位置付けなのか、誰と連携することでより良い成果が生まれるのかなどをしっかり説明しましょう。
それでもメンバー同士の相互理解や連携が進まない場合は、チーム制を導入する方法もあります。チーム制とは、1つの業務を2人以上のメンバーで進める体制のこと。部分的にでも採り入れることで、チーム内のコミュニケーションが活性化し、お互いに連携する動きが出てきます。
(3)マイクロマネジメント
「マネージャーとして力を発揮したい」と強く考えていたり、マネージャー自身に完璧主義の傾向があったりすると、マイクロマネジメントに陥りやすくなります。
マイクロマネジメントとは、部下の行動や業務の進め方について、細かく指導するマネジメントスタイルのこと。業務の遂行に当たって本質的ではない部分についても、細かく確認を行うなどの行動を指します。
確かに、危険を伴う業務ではマイクロマネジメントが必要な場面もあります。その目的は、メンバーの安全を確保することです。
しかし、そうした危険性がなく、一度間違えても正しくやり直せばリカバリーできる細かな部分まで指導を繰り返せば、いずれハラスメントとして受け取られる可能性が出てきます。部下は主体的な業務遂行を妨げられ、やる気を失ってしまうかもしれません。「叱られる」「注意される」という経験があまりにも蓄積され、自信を喪失する恐れもあります。
マネジメントでは、メンバーに対する信頼が重要です。「きちんと業務を進められるだろうか」という心配が多少あっても、それが本人の健康や生命を脅かしたり、情報漏えいなどのビジネスにおける重大なリスクになったりしないのであれば、思い切って任せてみるという懐の深さが必要なのです。
ある程度業務を1人で進められる段階に入ったメンバーについては、定期的なフィードバック面談などの機会を中心に指導・アドバイスを行い、細かな部分をその都度指導するやり方は控えましょう。
(4)マネージャー自身の業績に対するプレッシャー
マネジメント担当者は、目標達成に向けて具体的な成果を出さなければなりません。その責任は非常に重く、大きなプレッシャーを抱えるマネージャーも多いでしょう。
こうしたプレッシャーに対処するには、3つのポイントがあります。
【プレッシャーに対処する3つのポイント】
- その目標が設定されている目的に立ち返る
- マネジメントを任されたという自信を持つ
- 目標達成後のビジョンを明確に持つ
「今の状況は、組織や自身の将来に向けたプロセスの一部である」という視点をもつことで、目の前の課題に振り回されない広い視野を獲得できます。
また、1人で悩まずに、上長や先輩社員、同じ階層のマネージャーなどに相談をすることも、ときには必要です。状況を他者の視点から見てもらうことで、見落としていた観点やノウハウを教えてもらえるかもしれません。
マネジメントの大変さに心から共感してくれる人の存在があることは、マネージャーにとって精神的な支えになります。メンタルヘルスへの影響が感じられる場合は、ためらわず産業保険スタッフにも相談しましょう。
マネジメント職向けの研修で知識・スキル強化へ
以上のように、マネジメント職には多様なスキルや広い視野が求められます。マネジメント能力を高めるには、日々の自己研さんが欠かせません。
ALL DIFFERENTでは、管理職やリーダー職の方を対象とする多数のマネジメント研修をご提供しています。マネジメントの基本知識や手法を学べる研修のほか、外部環境の激しい変化に対応できる柔軟性、部下との関係性を向上させるテーマ別研修もご用意。無料セミナーは、トレンドのキャッチアップにもお役立ていただけます。効果的なマネジメントの実践に、ぜひご活用ください。