PDCAとは?意味・基本の回し方・失敗しないポイントと企業事例

update更新日:2025.02.21 published公開日:2021.12.09
PDCAとは?意味・基本の回し方・失敗しないポイントと企業事例
目次

PDCAとは、Plan・Do・Check・Actionの4ステップから成る品質管理・業務改善のフレームワークです。基本の意味は有名ですが、現場でPDCAサイクルを回そうとすると失敗して改善に至らないケースも多く見られます。どのようにすれば失敗せずPDCAサイクルを回し続けられるのでしょうか?

本コラムでは、PDCAの基本の回し型から、よくある失敗要因と対策ポイント、企業事例を解説します。

PDCAとは?意味と4つのステップ

PDCAとは、計画から改善までのステップを4つに大別し、それぞれの頭文字をとった名称です。まずは「P」「D」「C」「A」という4つのアルファベットが何を意味するのか、なぜPDCAが必要なのかを確認しましょう。

PDCAの意味

PDCAとは、Plan・Do・Check・Actionのそれぞれの頭文字をとって名づけられたフレームワークです。PlanからActionまでを1つのサイクルとして何度も繰り返し、目標達成や品質管理、業務改善などにつなげる手法です。

それぞれのステップの意味や概要は、下表のようになります。

【PDCA 4つのステップ】

ステップ 意味 概要
P(Plan) 計画 課題や目標を設定し、実行に向けた計画を立てる
D(Do) 実行 計画に基づいて実行する
C(Check) 確認 実行した内容・方法・成果を振り返り、成功要因と失敗要因を分析する
A(Action) 改善 より良い成果を出すために必要な改善策を検討する

「PDCAを何度も回す」という点を意識して「PDCAサイクル」と呼ぶ場合も多くあります。

PDCAは、個人レベルで実践すれば業務効率改善やスキルアップなどのセルフマネジメントにつながります。組織レベルでは、生産性向上や売上向上、会社全体の経営改革にも役立つでしょう。

PDCAが必要な理由

ビジネスにおいてPDCAが必要な理由は、企業存続のために業績向上や目標達成が常に求められるところにあります。

企業や組織には中長期経営計画があり、事業戦略があり、目指すべき目標があります。企業全体の目標を達成するには、各部門・部署が自らの担当領域の目標を達成していかなければなりません。場当たり的な対処では「イチかバチか」になってしまい、安定して成果を出すことは難しいでしょう。

期限までに組織として目標を達成するには、計画的な実行と改善が必要です。仮説を立てて試し、その分析・評価によってより効率的なやり方を見つけて改善するというPDCAサイクルを回してこそ、確実な目標達成につながるということです。

同様のことは、各社員にもいえます。多くの場合、ビジネスパーソンは仕事の経験を通じて成長します。社員教育や様々な人材育成施策には、座学による知識のインプットを中心とするプログラムが多いでしょう。しかし、知識を理解しただけでは「十分に身についた」とはいえません。

成長には、「理解して実践できる」ことが求められます。これには、実際の業務における実践を通じて学ぶ「経験学習」が欠かせません。そして、実践を学びにつなげるには、振り返りが不可欠です。

PDCAには、組織・チームの目標や求められる自身の役割から逆算して個人目標と実行計画を作成し、具体的な取り組みと定期的な振り返りを行う仕組みがあります。組織レベルでPDCAサイクルを回すだけでなく、個人レベルでも繰り返しサイクルを回すことで、個人の成長から組織の成長、ひいては会社全体の成長につなげられるのです。

PDCAサイクルを回す5つのメリット

PDCAサイクルを回すメリットをもう少し具体的に見ていきましょう。主なメリットは5つあります。

  1. (1)目標が明確になる
  2. (2)業務改善を仕組み化できる
  3. (3)情報共有・コミュニケーションが活発になる
  4. (4)個人の目標達成力向上につながる
  5. (5)モチベーションの維持・向上につながる

順に解説します。

(1)目標が明確になる

1つ目のメリットは、目標の明確化です。

PDCAでは、サイクルの最初となるPlanで取り組むべき課題と目標を明確に設定します。「どこに向かって進めばいいのか」という方向性と、「どうやって・どのくらい進めばいいのか」という具体的に実行すべき内容も各メンバーが把握できますので、Doに入った段階でも迷わず判断できるでしょう。

課題と目標の明確化は、試行錯誤が必要なプロジェクトでも効果を発揮します。

外部環境の変化が激しい領域や新規事業開拓といったプロジェクトでは、考慮すべき要素が多く、なかなか明確な実行プランの策定も難しいかもしれません。それでも「何が問題なのか」「何を解決したいのか」「どうなりたいのか」を明確化し、CheckとActionを繰り返して前に進むことは可能です。

PDCAサイクルを何度も回すことで、曖昧だった問題ややるべきことがさらに明確になるということです。

(2)業務改善を仕組み化できる

2つ目のメリットは、業務改善の仕組み化です。

そもそも、PDCAサイクルは品質改善・業務改善を目的とするフレームワークです。PDCAサイクルを回すことが「当たり前」になることは、その組織や個人の業務改善に向けた行動が仕組みとして定着したことを意味します。

ビジネス環境が激しく変化している今、そうした変化に柔軟に対応できる仕組みを備えている企業が生き残りやすいといわれます。変化に直面しても慌てず、問題の本質や解決に向けた行動と具体的手段を考える視点が、自然に出てくるからです。

常に改善の視点を備えたPDCAサイクルこそ、「パニックに陥らず、冷静に対処できる企業」として生き残るために欠かせない仕組みなのです。

(3)情報共有・コミュニケーションが活発になる

3つ目のメリットは、情報共有とコミュニケーションの活発化です。

PDCAサイクルは、KGI・KPIを用いたプロジェクトマネジメントと相性が良い仕組みです。Planでは明確なKGI・KPIを定め、その達成に向けた具体的なアクションプランを策定します。各メンバーが確実にその目標を把握し、実行するためには、経営層や管理職、リーダーがしっかり説明しなければなりません。

Checkでは、Doで実行した内容・方法・結果を振り返ります。それには、Doの段階で必要な記録を残し、チームに共有する必要があります。KPIやKGIはメンバー全員に知らされているため、「誰がどのくらい進んでいるのか/遅れているのか」も自ずと気づけるようになります。

タスクをため込んでいるメンバーや進捗が遅れているメンバーがいるとわかれば、チームリーダーは業務の再配分をしやすくなり、手が空いたメンバーもサポートを申し出やすくなるでしょう。

このようにして、PDCAサイクルは組織内の情報共有やコミュニケーションを促進するのです。

(4)個人の目標達成力向上につながる

先述した通り、ビジネスパーソンの成長の大部分は、日々の仕事の経験に支えられています。経験による学習には、「何をどのように遂行したら、どうなったのか」という記録・振り返り・改善行動が重要です。これは、PDCAの手法にほかなりません。

よって、社員教育の一環としてPDCA活用を定着さることで目標達成力も向上させられるという点が、4つ目のメリットとなります。

PDCAは、組織全体の事業活動でも社員個人のスキル学習でも活用できる、汎用性が高い手法です。これをOJTに活用すれば、実際にPDCAサイクルを回して業務スキルの習得・向上を図れると同時に、「PDCAサイクルを回す」という行動習慣も習得できます。

PDCAを意識した実践が定着すれば、OJTの終了後も個人目標の達成に向けて自分でサイクルを回せるようになるでしょう。個人レベルでの目標達成力が向上し、チーム目標の達成にも貢献できるようになります。

(5)モチベーションの維持・向上につながる

PDCAサイクルを回すことは、モチベーションの維持・向上にもつながります。これが、5つ目のメリットです。

PDCAサイクルは、目標達成を目指して改善を続けるサイクルです。1回目のPDCAで達成できなかったことでも、2回目ではより良い成果を得られるでしょう。それにより、結果や要因を分析して「良いことを継続し、悪い部分を改善する」という行動の習慣化が促され、より良い結果を得る土台が築かれます。

また、PDCAを意識することで課題分析の視点が「人から問題」になり、個人の性格や能力に全ての原因を求めるような追及もしなくなります。上司は部下を感情的に叱る必要はなくなりますし、部下も「自分はダメな人間だ」という人格否定をせずに済むでしょう。これにより、職場の心理的安全性を高めることができます。

より良い結果を得るという成功体験の仕組み、そして「問題」に焦点を当てる観点が前提されていることで、各メンバーは主体的に業務を進めやすくなるでしょう。成功体験の蓄積により、仕事へのモチベーションも高まります。

PDCAサイクルの基本の回し方

PDCAサイクルを上手に回すには、各ステップの役割と次のステップとの関係性を理解しなければなりません。Plan・Do・Check・Actionのそれぞれの段階で意識すべきポイントを見ていきましょう。

Plan(計画)のポイント

Planで計画を立てる際に最も重要なポイントは、会社全体の目標と部門・部署の目標、チームの目標を連動させることです。特に管理職やチームリーダー、各メンバーが計画を立てる場合は、既にある上位計画のKGI・KPIと期限をしっかり確認し、それらの目標達成につながる下位計画を立てましょう。

目標設定では、具体的にどのような指標を用いてどのくらいを目指すのか、数値で定めます。加えて、目標達成期限も必ず決めてください。こうすることで、Doの期限を切り、Checkで確認すべき項目と時期を明確化できます。

計画立案で便利なフレームワークは、5W1Hや5W2H、SMARTの法則などです。これらにしたがって要素を書き出していけば、最低限必要な事項を簡潔に示せます。

5W1Hや5W2Hについては、以下の関連コラムで詳しく解説しています。

関連コラム:5W1Hとは?簡単にわかる意味とフレームワークの使い方

関連コラム:5W2Hとは|ビジネスを円滑にするためのフレームワーク

また、Doにおける記録用にテンプレートなどを作成しておくと、抜け漏れなく必要な情報を記録し、Checkを効率的に進められるでしょう。

Do(実行)のポイント

Doでは、Planで作成した計画を実行します。ポイントは、必ず記録を取ることです。具体的には、次のような項目について記録するとCheckで活用しやすくなります。

【Doで記録を取るべき項目】

  • いつ・誰が・何をしたのか
  • どのように進めたのか
  • どの結果、どうなったのか
  • KPIやKGIの達成度
  • 困りごとや新たに気づいた課題はあったか

また、記録を取る際は「嘘を書かない」「誤魔化さない」ことを徹底しましょう。不正確なデータは適切な改善の妨げになってしまうからです。

記録にはPlanで用意したテンプレートを活用すると便利ですが、実際に使ってみて書きにくいと感じる場合は、記録しやすい方法やテンプレートに更新することも忘れないでください。例えば、自由記述式が不便なら○をつけるだけの形式にする、気づきや意見を書く欄がない場合は、自由に記入できる欄を設けるなどです。

ただ、あまり記録すべき項目を増やしすぎると、メンバーに大きな負担がかかってしまいます。項目の追加では、目標達成にどのくらい関係があるのかを確認し、優先順位をつけましょう。

Check(評価・分析)のポイント

Checkは、Doの期間中に何度か実施する場合と、Doが完了したときに実施する場合があります。いずれにおいても、やるべきことは実行した内容と方法、成果の振り返りです。

ただ、Doの期間中に実施する場合は、実行中に気づいた課題を改善するケースが多いでしょう。一方、Do完了後に行う場合は、全体的な成果を踏まえて、成功要因や失敗要因を振り返ります。

Checkで使えるフレームワークとしては、「KPT」があります。Checkの段階で特に分析するのは、「K」と「P」です。「T」については、主に次のステップであるActionで扱います。

【KPTの内容とポイント】

項目 意味 ポイント
K(Keep) 維持すべきこと

目標達成した場合、その成功要因は何かを分析する

(例)

  • どのように進めたか?
  • 業務遂行に役立った知識・やり方は何か?
  • 各工程にどのくらいの時間をかけたか?
P(Problem) 改善すべきこと

目標達成しなかった場合、その失敗要因は何かを分析する

(例)

  • 数値目標の設定は適切だったか?
  • 目標設定に使った指標は適切だったか?
  • 業務の割り振りは適切だったか?
T(Try) 次に試すこと Problemの分析を踏まえ、どのような改善策を取り得るかを検討する

なお、人材育成でPDCAサイクルを回す場合、まずは育成対象者に自身の記録を振り返ってもらい、KPTを使って分析・検討をしてもらうとよいでしょう。その後、指導者もKPTの各項目を提示し、育成対象者との違いを比較します。ここで認識のズレが確認できるなら、そのズレの原因を育成対象者と一緒に探り、より深い学びにつなげましょう。

Action(改善)のポイント

Checkのあとは、Actionに入りましょう。分析・評価の結果をもとに、「KPT」の「T」を検討する段階です。Actionで決定した改善策は、次のPDCAに直接つながる施策となります。

例えば、成功要因としてあげられた項目は社内に共有するとともに、業務の標準化につなげると組織全体の業務改善に役立ちます。加えて、さらに良い成果を生み出せないか、方法の改善も図るとよいでしょう。

失敗要因については、軽減・解消する方法を考えます。もし目標数値や指標が不適切だと評価されたのであれば、PDCAを回す目的を踏まえ、改めてKGIやKPIの見直しを行わなければなりません。

こうした改善策を具体的な行動計画に落とし込めば、2回目のPDCAサイクルにおけるPlanにそのままつなげられます。

PDCAサイクルは古い?3つの問題点とよくある失敗要因

PDCAサイクルは個人から組織まで汎用性の高いフレームワークですが、「うまく回せない」「社内外の変化に改善が追いつかない」などの課題が発生することも珍しくありません。そのため、現在は「PDCAはもう古い」「通用しない」という見解も見られます。

これらの問題点は3つに大別されます。それぞれのケースでよくある失敗要因を把握しておくことで、よりスムーズにPDCAサイクルを回せるようになるでしょう。

【問題点1】PDCAサイクルを回すこと自体が目的化する

1つ目の問題点は、「PDCAサイクルを回す」というフレームワークの活用を意識するあまり、問題の本質を踏まえた改善ではなく、「とにかくPDCAを順番に繰り返す」ことにこだわってしまうことです。つまり、手段であるはずのPDCAが目的化するということです。

PDCA自体が目的化するという失敗の要因には、例えば次のようなものが考えられます。

【失敗要因の例】

  • 「今はDoだからCheckはやらなくてよい」と考え、非効率な方法やトラブルを生むやり方を継続してしまう
  • Planの段階で解決すべき課題に気づいても、問題の本質から見た優先順位ではなく「取り組みやすさ」で実行計画を立ててしまう
  • 「P→D→C→Aの手順さえ踏めば、問題は解決する」という考え方に陥ってしまう

このような状況では、PDCAサイクルの手順が形骸化し、対応すべき問題に対応できなくなり、対症療法的な短期的効果しかない施策ばかりになってしまいます。

PDCAサイクルを回す目的は、あくまで仮説と検証を通じて具体的な改善策を講じ、より良い成果を得ることです。それには、「P→D→C→A」という順番にこだわりすぎず、「Doで判明した小さな課題に対して即座にCheck・Actionを実施する場合もある」ことを覚えておきましょう。

【問題点2】1回のPDCAサイクルを回すために多くの時間を要する

2つ目は、PlanからActionまで時間をかけすぎてしまうことです。

もともと、PDCAサイクルには4ステップがあるため、1サイクルを回すために多くの時間がかかります。1カ月以上かけるケースも多く、組織やプロジェクトが大規模になるほど、より長い期間を見据えて進めなければなりません。

また、各ステップで不適切な進め方があれば、さらに時間がかかってしまうでしょう。ここに、時間がかかりすぎることの要因が見られます。

【失敗要因の例】

  • Planで問題の絞り込みができず、「やるか、やらないか」ばかり議論し続ける
  • Doでの実行が進まず、立ち止まってしまったり計画とは異なるやり方で進めてしまったりするなどで、Checkができなくなる
  • 問題の本質とは関連性が低い情報についても詳細な記録を求め、担当者に過大な負担をかける
  • 1回のサイクルで「完璧な計画」「完璧な改善策」を出そうとする

こうした失敗を避けるには、「本当に対策すべき問題の本質は何か」を絞り込み、必ず期限までに実行することが重要です。記録を取るにせよ情報を集めるにせよ、常に「問題の本質とどのくらい関係があるか」を見極めつつ、やると決まったことは「とにかくやる」で進めましょう。

【問題点3】前例主義になり、視点の転換や新しい発想ができない

PDCAはサイクルを回すことで改善を重ねる手法である一方、最初のPlanで設定した方向性を維持しながら進めるものでもあります。1つ前のサイクルで成功要因となったやり方を維持し、改善すべき部分を更新していく仕組みを前提としているからです。

しかし、はじめの方向性を維持し続けて外部環境の分析を行っていると、悪しき前例主義になりかねません。これが、PDCAがもつ3つ目の問題点です。失敗要因としては、次のものがあります。

【失敗要因の例】

  • 問題の本質を捉えないままPlanを作成し、Planの大きな方向性を修正せずPDCAサイクルを回し続ける
  • 既に需要自体が減っているにもかかわらず、需要が低い商品の品質改善を続けている
  • テレワークや非対面型のコミュニケーションが増加している状況でも、取引先訪問のみを重視した施策を続けている
  • 既存商品・サービスの品質改善ばかりを進め、新しいアイデアや抜本的改革につながらない

PDCAサイクルのCheckとActionには、Doの見直しだけでなくPlanの見直しも含まれます。外部環境や目標設定は適切だったのかを確認し、ときには潔く「やめる」「別の方向性に変える」という判断も必要なのです。

PDCAに代わるものとして注目されるOODAループやPDR

PDCAの問題点は、状況に応じた柔軟な進め方によって軽減させることが可能です。しかし、Planというステップが前提され、行動開始までに時間を取られやすい構造があることは否めません。

そこで、現在はPDCAに代わるものとして、「OODAループ」や「PDR」といったフレームワークも活用されています。PDCAも含め、目的・状況に応じて使い分けることがポイントです。

OODAループとは

OODAループとは、Observe・Orient・Decide・Actの4ステップで構成される業務改善のフレームワークです。各ステップの意味と概要は、下表のようになります。

【OODAループ 4ステップの意味】

ステップ 意味 概要
O(Observe) 観察 現状を観察し、情報を集める
O(Orient) 情報の整理 集めた情報や問題を整理・評価する
D(Decide) 意思決定 評価をもとに、どう行動するかの意思決定を行う
A(Act) 行動 決定した内容を実行する

OODAループの特徴は、PDCAよりも現場の状況を踏まえた判断に重きを置いている点です。PDCAサイクルに計画の承認が不要なため、現場レベルで課題に対応する必要がある場合によく用いられます。

OODAループはPDCAよりも外部環境の変化に対応しやすく、VUCAの時代により適した手法とされています。効果的に進めるには、現場のメンバーが行動しやすいよう、OODAループの実施とともに権限委譲もセットで行うことがポイントです。

PDRとは

PDRもOODAループと同様にPDCAのPlanを省いたフレームワークです。それぞれのアルファベットは、Prep・Do・Reviewを意味します。

【PDR 3ステップの意味】

ステップ 意味 概要
P(Prep) 準備 「これから何をするか」「それはなぜか」を明確にする
D(Do) 実行 決定した内容を実行する
R(Review) 評価 準備内容・実行内容・成果を分析し、学びや改善点を見いだす

PDRは、計画よりも「実行のために何を準備したか」を重視する点が大きな特徴。計画の策定がないため、Review段階で計画と照らし合わせる作業が不要となり、1サイクルを回す時間を減らせます。

言い換えれば、予測が難しい現場でトライ・アンド・エラーを繰り返しながら改善していく現実的な手法を3ステップにまとめたフレームワークです。上手に活用できれば、失敗を活かして素早い改善行動につなげられるでしょう。

ほかに、STPDやDCAPも

OODAループとPDR以外にも、STPDやDCAPといったフレームワークがあります。STPDはSee・Think・Plan・Doの略であり、DCAPはDo・Check・Action・Planの略。いずれもPDCAと似たステップで構成されますが、「どのステップから始めるか」という点で重視するポイントが異なります。

【STPD 4ステップの意味】

ステップ 意味 概要
S(See) 現状把握 現場の確認や従業員アンケートなどで現状を把握する
T(Think) 分析 集めた情報を分析し、取り組むべき問題を把握する
P(Plan) 計画 解決に向けた具体的な行動プランを策定する
D(Do) 実行 行動プランに基づき、実行する

【DCAP 4ステップの意味】

ステップ 意味 概要
D(Do) 実行 やるべきことを速やかに実行する
C(Check) 分析・評価 実行した内容・方法・成果を振り返り、成功要因と失敗要因を分析する
A(Action) 改善 より良い成果を出すために必要な改善策を検討する
P(Plan) 計画 課題や目標を設定し、実行に向けた計画を立てる

STPDは、OODAループと類似性がありつつもPlanを省かない点に特徴があります。PDCAとの違いは、現状確認を行ったうえで計画を立てること。これにより、机上の空論や思い込みで現場が空転することを防ぎ、より現実的な改善サイクルへつなげられます。

他方、DCAPはPDCAをDoから始めます。既に課題がはっきりしており、やるべきこともある程度見えているのであれば、わざわざPlanから始めるよりも「まずやってみる」ところからスタートするほうが効率的だからです。

もしPDCAサイクルをうまく回せないと感じられ、かつ計画を省略できないのであれば、STPDやDCAPを試してみるとよいでしょう。

PDCAサイクル活用の具体例

最後に、PDCAを活用する企業事例を2つご紹介します。1つは、トヨタ生産方式で有名なトヨタ自動車株式会社、もう1つは大きな業績悪化から経営改革を成功させた株式会社良品計画です。

両社とも、問題の性質や緊急性に応じて、柔軟にPDCAサイクルをアレンジしつつ改善につなげています。

トヨタ自動車の事例

トヨタ自動車が誇るトヨタ生産方式(以下、TPS)は、「良い品質で、安く、タイムリーに」商品を届けることを目的として、徹底的にムダを省き、現場の生産効率や安全性を向上させる手法です。TPSはトヨタ自動車の内部で実践されるだけでなく、仕入れ先企業への展開も進んでいます。

例えば、二次仕入れ先が抱える困りごとを一次仕入れ先とトヨタで共有し、連携しつつ改善につなげる「グループ連携活動」では、二次仕入れ先の生産性向上や職場環境改善にPDCAサイクルを使った取り組みが活用されました。

その取り組みでは、自動車内に敷くフロアマットの巨大な原反を扱う二次仕入れ先の企業において、原反を寝かせたり立てたりしながら作業を進める方法の改善が行われました。原反は大きなものでは90kgもの重量となり、従業員の身体に大きな負荷がかかります。寝かせた原反の上に登るという危険な作業もありました。

そこで、原反を寝かせたり立てたりする工程自体を削除し、代わりに立てたまま作業を進められる運搬用台車「からくり」を製作。はじめは二次仕入れ先企業で試作し、実際に使う中で課題を抽出して、トヨタと一次仕入れ先とも連携しつつ完成させました。ここに、PDCAの小さなサイクルが見られます。

さらに、作業時間の計測や映像記録を使った解析などを行ったり、TPSでおなじみの「かんばん」を導入したりするなど、現場の作業改善でもPDCAサイクルを素早く回しながら進めました。

その結果、従業員にかかる負担は大きく軽減されるとともに、安全に作業できる環境が整備されました。作業時間の短縮も実現され、無理だと思われていた残業時間さえゼロになったとのことです。

参考:トヨタイムズ|「トヨタさんが来る...」 仕入先現場の改善 不安が自信に変わるまで

良品計画の事例

「無印良品」を展開する良品計画では、業績が大きく落ち込んだ2001年からPDCAを徹底した経営改革を開始しました。当時社長に就任した松井忠三氏は、その様子を著書『無印良品のPDCA~一冊の手帳で常勝経営を仕組み化する!』(毎日新聞出版)で語っています。

松井氏が行ったのは、Doから始めるPDCAサイクル、すなわちDCAPサイクルです。計画から始める余裕さえない状況であることが、理由でした。

松井氏がDoで最初に行ったのは「全国行脚」。全国の店長と面談を行い、現場視察とリアルな声をもとに課題を抽出しました。ほかにも、

  • 店長会議に社長自らが出席して、会社の状況と対応などを直接伝える
  • 現場の意見はブロックを管理するマネジャーではなく、監査室の担当者に報告してもらう
  • 38億円分の不良在庫を焼却処分する

といった大胆な施策を実行しています。

こうした一連の施策は大きなDCAPのDoにあたりますが、「実行する→課題を分析・評価する→改善する」という流れで見れば、小さなDCAPのActionでもあります。大小様々なサイクルを同時に回しながら、全体を改善していきました。

経営改革のPDCAサイクルは、開始から3年ほど回し続けられています。続けるポイントは「毎週、同じ曜日・同じ時間に定例会議を設ける」こと。必ずCheck・Actionを実施できる仕組みを設けることが重要なのです。

そして、1回目のCheck・Actionで見いだせなかった問題の本質も、2回、3回とサイクルを回すうちに気づけるようになり、改善につながると松井氏は語っています。

なお、松井氏はPDCAサイクルを回すツールとして手帳を活用しています。使っている手帳のタイプは、左ページが週間スケジュール、右ページがメモ欄になっているタイプ。左側をPlanに、右側をCheck・Actionに活用しながら、1年前の手帳を参照しつつPlanを考えるとのことです。

参考:松井忠三『無印良品のPDCA~一冊の手帳で常勝経営を仕組み化する!』毎日新聞出版、2017年

PDCAサイクルを諦めない!タスク分解・進捗管理・振り返りのコツを学ぶ

PDCAサイクルは各ステップの目的や役割を認識したうえで、適切に回し続けることで改善へつなげるフレームワークです。サイクルを回し始めた当初はうまくいかないことでも、回し続けるうちに課題が明確化され、より効果的な改善策を実行できるでしょう。

それには、会社全体でPDCAサイクルを回す経営層、組織で回す管理職、そして個人で回す中堅・若手社員のそれぞれが、計画立案の方法や効果的な振り返りの方法を習得しなければなりません。

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