エッセンシャルワーカーとは?職種一覧やコロナ禍の支援策などを解説
エッセンシャルワーカーとは、人々が生活するうえで欠かせない仕事をする人たちのことです。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックを機に世界的に注目を浴びたエッセンシャルワーカーですが、実は低賃金や人手不足など多くの課題を抱えています。
本コラムでは、エッセンシャルワーカーの定義や職種、課題や支援策などについて解説します。
エッセンシャルワーカーとは
エッセンシャルワーカーとは、社会の基盤を支えるために不可欠な仕事に就いている人たちのことです。主な職種一覧は後で説明しますが、医療や介護の従事者・物流や運輸などの職員・公務員などが該当します。
エッセンシャルワーカーの意味や日本語訳、注目されるようになった背景などについて解説します。
エッセンシャルワーカーの意味
エッセンシャルワーカーは、英語の「essential(必要不可欠な)」と「worker(働き手)」を組み合わせた言葉です。英語では「essential worker」のほかに、「critical worker」や「key worker」といった言葉が使われます。
国連の労務関連専門機関であるILO(国際労働機関)は、2023年の報告書でエッセンシャルワークの重要性について触れ、「生活に不可欠なサービス」=「essential work」に従事する人をkey workerと定義しています。*
*参考:労働政策研究・研修機構(JILPT)|エッセンシャルワークの重要性(ILO:2023年8月)
エッセンシャルワーカーの日本語訳と対義語
エッセンシャルワーカーは、日本語では「生活必須職従事者」「社会機能維持者」などと訳されます。
エッセンシャルワーカーの対義語としては、日本では「オフィスワーカー」といった言葉が使われることが多いようです。対義語として、「ブルシット・ジョブ」(どうでもいい仕事)や「ホワイトワーカー」(事務労働者)「ナレッジワーカー」(知識労働者)といった言葉をあてる人もいますが、差別的な意味合いを含んでいると解釈されるリスクが高いので、対義語として使うことは避けた方がよいでしょう。
エッセンシャルワーカーが注目されるようになった理由
エッセンシャルワーカーが注目を浴びるようになったのは2020年の新型コロナウイルス感染症の流行がきっかけといわれています。世界中でロックダウンや隔離政策が行われる中、人々の生活基盤に必要不可欠な仕事に従事するエッセンシャルワーカーの重要性が認められるようになりました。感染のリスクにさらされながらも社会の生活基盤維持のため現場で仕事をし続けるエッセンシャルワーカーに、政府や公共機関は感謝の表明やワクチンの優先接種などの対応を行い、メディアでも大きく取り上げられるようになったのです。
日本でも、内閣府や国土交通省などがエッセンシャルワーカーに向け感謝のメッセージを発表しています。*
新型コロナウイルス感染症の流行とともに重要性が認められたエッセンシャルワーカーですが、感染症のリスクが高いことから差別的な扱いを受けるといった問題も新たに生じるようになりました。後から述べるように、人手不足や就労条件などにも課題を抱えており、条件や待遇の改善が求められています。
エッセンシャルワーカーの職種一覧
エッセンシャルワーカーとは具体的にどんな仕事を指すのでしょうか。
エッセンシャルワーカーではない仕事や厚生労働省のエッセンシャルワーカー職種一覧を紹介し、業種ごとにエッセンシャルワーカーにあてはまる具体的な職種を解説します。
エッセンシャルワーカーではない仕事とは
エッセンシャルワーカーの職種一覧を見る前に、エッセンシャルワーカーではない仕事とはどんな職種か考えてみましょう。
エッセンシャルワーカーではない仕事には以下のようなものが挙げられます。
- テレワークやリモートワークが可能な仕事
- 奢侈品や娯楽・エンターテイメントを扱う仕事
- 学術や芸術・研究に関わる仕事
エッセンシャルワーカーではない仕事の定義としてよく挙げられるのが、テレワークやリモートワークが可能な仕事です。事務職などのオフィスワークやホワイトカラーの仕事がそれにあたります。また、生活必需品ではない品物やサービス、エンターテイメントを扱う仕事や、学術や芸術・研究に関わる仕事も、エッセンシャルワークではないとみなされることが多いでしょう。
しかし、エッセンシャルワークではない仕事の判断は、職場や環境によって異なるため一概に決めることはできません。仕事やサービスの内容によっては、現場に支障が出たり、生活上必要としている人がいたりするケースがあるからです。
また、「エッセンシャルワークではない仕事」という表現は、言い方や状況によっては差別的に受け取られる可能性もありますので、使い方や表現方法によく注意してください。
厚生労働省のエッセンシャルワーカー職種一覧
厚生労働省は「新型インフルエンザ等対策特別措置法」において、国民生活・国民経済の安定に寄与する業務を行う事業者を「登録事業者」と定め、予防接種の「特定接種」(優先的な予防接種)を推奨しています。この登録事業者が、新型コロナウイルスのパンデミック下においても、エッセンシャルワーカーの具体的な職種一覧として援用されました。
厚生労働省が定める「新型インフルエンザ等対策特別措置法」特定接種の登録対象となる業種は以下の通りです。
介護・福祉型 | サービスの停止等が利用者の生命維持に重大・緊急の影響がある介護・福祉事業所 |
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指定公共機関型 | 医薬品・化粧品等卸売業、医薬品製造業、医療機器修理業・医療機器販売業・医療機器貸与業、医療機器製造業、再生医療等製品販売業、再生医療等製品製造業、ガス業、銀行業、空港管理者、航空運輸業、水運業、通信業、鉄道業、電気業、道路貨物運送業、道路旅客運送業、放送業、郵便業 |
指定公共機関同類型 | 医薬品・化粧品等卸売業、医薬品製造業、医療機器修理業・医療機器販売業・医療機器貸与業、医療機器製造業、再生医療等製品販売業、再生医療等製品製造業、映像・音声・文字情報制作業、ガス業、銀行業、空港管理者、航空運輸業、水運業、通信業、鉄道業、電気業、道路貨物運送業、道路旅客運送業、放送業、郵便業 |
社会インフラ型 | 金融証券決済事業者、石油・鉱物卸売業、石油製品・石炭製品製造業、熱供給業 |
その他 | 飲食料品卸売業、飲食料品小売業、各種商品小売業、食料品製造業、燃料小売業、その他の生活関連サービス業、その他小売業、廃棄物処理業 |
厚生労働省では、このような「医療提供業務又は国民生活・国民経済の安定に寄与する業務を行う事業者」を登録事業者と定めています。*
次に、業種ごとにエッセンシャルワーカーとしてはどんな職種があるか、具体的に見ていきましょう。
*参考:厚生労働省|『新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく特定接種の登録について』
医療従事者や福祉関係者
医師や看護師などの医療従事者は、人の生命や健康に直接関わるエッセンシャルワーカーです。医療従事者には、重要な社会インフラである病院の経営や、検査・投薬などを含めた医療全体に関わる仕事が含まれます。また、高齢者や障害者などの福祉に関わる仕事も、大切なエッセンシャルワークです。
医療従事者や福祉関係者におけるエッセンシャルワーカーの職種には以下のようなものが挙げられます。
医療従事者 | 医師、歯科医師、歯科医師、看護師、歯科衛生士、薬剤師、保健師、助産師、臨床検査技師、救急救命士、病院の食事や清掃のスタッフなど |
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福祉関係者 | 介護施設職員、障害児施設職員、介護福祉士、ホームヘルパー、管理栄養士など |
物流・運輸・小売業などの職種
物流業界は、経済活動の中で欠かせない重要な役割を果たしています。物流が乱れると、生活用品や食料品などが消費者の元に届かず、生活が不安定になります。ですから、運転手や配達員など物流と運輸に関わる仕事は、エッセンシャルワーカーの代表的な職種といえるでしょう。また、スーパーやドラッグストアなど、生活必需品に関わる小売業も人々の社会生活の安定維持には欠かせない仕事です。
物流、運輸、小売業などでエッセンシャルワーカーに該当する職種には以下のようなものが挙げられます。
物流・運輸 | 配達員、トラック運転手、物流センターや倉庫のスタッフ、物流管理者、公共交通機関の職員 |
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小売 | コンビニ・スーパー・ドラッグストア・ホームセンターなどの店舗スタッフ、倉庫や管理業務スタッフ |
公務員、生活インフラ、金融機関の従事者
公務員は、公共サービスの提供、治安や防災の維持など幅広い業務を行っており、特に災害などの有事には必要とされる仕事が多くあります。電気・ガス・水道・通信などの生活インフラの維持や管理に関わる仕事も、安定した社会を継続するのに必要不可欠です。また、資金の引き出しや決済で不都合があると正常な経済活動が機能しなくなりますから、金融機関の現場やシステムに関わる人も、エッセンシャルワーカーといえるでしょう。
公務員、生活インフラ・金融機関の従事者でエッセンシャルワーカーに該当する職種としては以下のようなものがあります。
公務員 | 自治体の窓口、警察官、消防士、ゴミ収集や処理のスタッフ、保健所職員、火葬場職員 |
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生活インフラ | 電力・ガス・水道・通信などに関わる仕事 |
金融機関 | 銀行・信用金庫の窓口や店舗職員、保険会社代理店や職員、クレジットカードや決済のシステムに関わる仕事 |
教育・保育関連業界
教育や保育に関わる職種も、社会基盤の安定維持に必要不可欠なエッセンシャルワーカーです。新型コロナウイルス流行時には、一部の学校でオンライン授業が導入されましたが、全学年・全科目をオンライン授業で対応することは現実的に難しいでしょう。また、保育関連ではオンラインやリモート対応は不可能ですから、保育関連に携わる人も、重要なエッセンシャルワーカーといえます。
教育・保育関連業界におけるエッセンシャルワーカーの職種には以下のようなものがあります。
教育 | 学校や幼稚園の教職員、給食や清掃のスタッフ |
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保育 | 保育士、保育園のスタッフ |
エッセンシャルワーカーの給料と待遇・課題
人々の生活に欠かせないエッセンシャルワーカーですが、実は賃金や待遇などの面で様々な課題を抱えています。
以下では、エッセンシャルワーカーの現状について、具体的な問題点を解説します。
低賃金の仕事が多い
エッセンシャルワーカーの多くは低賃金であることが問題視されています。介護士や保育士・清掃業者・配達員などは、社会インフラを支える職種であるにもかかわらず、報酬が低い傾向があります。これらの職種は、肉体的にハードな仕事が多いですが、低賃金のために複数の仕事を掛け持ちする人も少なくありません。加えて、非正規雇用者の割合が多い職種では、どうしても賃金が上がりにくいのが現状です。
社会に必要不可欠な仕事をしているにもかかわらずエッセンシャルワーカーが低賃金のままだと、モチベーションの低下や離職率の増加につながる可能性があります。エッセンシャルワーカーの低賃金に対する改善策が早急に必要とされています。
慢性的な人手不足
先述のように、賃金や待遇面の課題を抱えていることも1つの要因となり、働き手が不足していることもエッセンシャルワーカーの課題です。特に介護や医療、保育の現場では、長時間労働や過剰な業務負担が原因で離職率が高くなっています。このため、既存のスタッフにかかる負担が増え、さらに人手不足が深刻化するという悪循環が生まれているのです。
労働環境の改善や待遇の向上を行わなければ、人手不足は解消されず、結果としてサービスの質が低下したり、サービス自体が提供できなくなったりするリスクがあります。加えて、日本は少子高齢化による若年労働者人口の減少も相まって、様々な現場で人手が足りていないといわれています。待遇面が改善されない限り、エッセンシャルワーカーの慢性的な人材不足の解消は難しいでしょう。
メンタルヘルスに問題を起こしやすい
エッセンシャルワーカーは、肉体的な負担だけでなく、精神的な負担も大きい職種です。医療従事者や介護職員は、日々の業務で患者や利用者との密な関わりを持つため、ストレスが蓄積しやすい傾向にあります。また、人手不足で代わりのスタッフや職員がいないことや、休日や祝日でも仕事があることなどから、休暇を取ることが難しいケースも多いようです。
このような理由から、エッセンシャルワーカーはメンタルヘルスの問題を抱えやすく、適切なメンタルヘルスケアの導入や、職場環境の見直しが求められています。
感染リスクが高い
エッセンシャルワーカーは、感染リスクの高い環境で働くことが多い職種です。特に医療従事者や介護職員、公共交通機関の従業員など、人と接する機会が多く、かつ密な空間で業務を行う場合が多いといえます。感染症が流行する時期でも、リモートワークができない業種がほとんどであるため、感染リスクの高い職場で働き続けなければなりません。
このような環境で働くエッセンシャルワーカーを守るためには、感染防止対策の徹底と、できるだけ一人あたりの労働時間を短縮する取り組みが重要です。
エッセンシャルワーカーへの支援策事例
社会基盤の安定に不可欠な仕事をしながら、様々な課題を抱えているエッセンシャルワーカー。新型コロナウイルス流行時には、エッセンシャルワーカーの待遇を少しでも改善し支援するために、官民合わせて様々な支援策が実施されました。
ここでは、エッセンシャルワーカーへの支援策の事例を紹介します。
コロナ禍の企業支援例
コロナ禍には、感染リスクにかかわらず現場で仕事を継続するエッセンシャルワーカーに対し、企業側から様々な支援策が実施されました。
具体的な企業の支援策事例には以下のようなものがあります。
スーパーやドラッグストなどの職員に特別手当や感謝金を支給
大手スーパーやドラッグストアでは、現場で働く自社の職員に対し、特別手当や感謝金を支給する企業が多くありました。*1
大手ドラッグストアチェーンのスギ薬局は、2020年に全ての従業員およそ2万6000名に対し特別手当を支給。大手スーパーのイオンは、2021年に国内外のおよそ45万名の従業員に一時金を支給しています。*2
*1 参考:NHKニュース|イオン 従業員に一時金支給へ 1万~2万円 コロナ禍で負担増す
*2 参考:NHKニュース|従業員に特別手当支給の動き ドラッグストアでも 新型コロナ
物流スタッフやタクシードライバーに特別手当を支給
物流の現場スタッフや運転手、タクシードライバーなどにも企業が特別手当やボーナスを支給する事例がみられます。
2020年には運送事業の三友通商グループがグループ会社12社の全従業員へ特別勤務手当を支給*1、日本梱包運輸倉庫株式会社も全ドライバーに対して特別安全運行手当を支給しました。*2
九州を地盤に営業するタクシー会社、国際興業グループでも自社の運転手に特別手当を支給しています。*3
*1 参考:三友通商グループ|新型コロナで従業員に特別勤務手当 ─ 物流ニュースのLNEWS
*3 参考:日本経済新聞|タクシー運転手全員に2万円 国際興業、コロナで支援
感謝メッセージ発信やキャンペーンの実施
エッセンシャルワーカーとして働く自社従業員や地域のエッセンシャルワーカーに向けて、応援・感謝のメッセージの発信やキャンペーンの実施を行う企業も多くありました。
日本生活協同組合連合会では、事業の最前線で奮闘する生協職員や関連職員を紹介するメッセージ動画を公開。*1
また、シューズメーカーの「ダイアナ(DIANA)」は、医療従事者などのエッセンシャルワーカーにスニーカー1,000足を無償で提供するキャンペーンを実施しています。*2
*1 参考:日本生活協同組合連合会|お知らせ |コロナ禍でがんばる生協職員応援メッセージ動画」を公開しました
*2 参考:WWDJAPAN |シューズの「ダイアナ」、医療従事者や運送業者、スーパーなどの小売業者へスニーカー1000足を提供
行政による支援策
2020年に厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症に対応する医療従事者や関連職に対して「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金」の支給を決定しました。
「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金」は、医療関連のエッセンシャルワーカーの支援を目的としたものです。新型コロナウイルス感染者の診療を行う医療機関の従事者に最大20万円、それ以外の医療機関や訪問看護ステーション・助産所などで患者に接する職員に最大5万円の慰労金を支給しています。*
*参考:厚生労働省 |「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金交付事業」について
その他の支援策
コロナ禍では、企業や行政による支援のほかにも、現場で働くエッセンシャルワーカーに対する様々な支援策が実施されました。
日本看護協会 |
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地方公共団体 |
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新型コロナウイルスのパンデミック収束ととも、これらの支援策は順次打ち切りとなっているようですが、エッセンシャルワーカーの課題は未解決のまま残されています。今後は、特別手当やキャンペーンなどの一時的な支援ではなく、労働条件の改善や人材不足の解消など、根本的な問題に向けた支援・改善策が必要とされるでしょう。
厚生労働省の令和4年版厚生労働白書では、「社会保障を支える人材の確保」がテーマとなり、エッセンシャルワーカーに焦点があてられました。医療従事者の勤務環境改善を喫緊の課題として、処遇や労働条件の改善、シェアの取り組みやロボット・AI・ICTの活用による効率化などの対応策が挙げられています。エッセンシャルワーカーの抱える課題を解決するには、行政・非営利団体・企業による継続的な取り組みが必要です。*