時短勤務とは?企業担当者向け制度のメリット・デメリット、法改正や注意点
時短勤務は、仕事と私生活の両立を支援する制度です。本コラムでは育児・介護休業法に基づく短時間勤務制度と短時間正社員制度について解説。期間や対象者などの概要、法改正による変更点、メリット・デメリット、課題と注意点、導入方法などを踏まえて紹介します。
時短勤務とは
時短勤務とは、通常の勤務時間よりも短い時間で働くことを指し、主に2つの制度による勤務形態です。1つは育児・介護休業法に基づく短時間勤務制度。もう1つは所定労働時間が短く設定された短時間正社員制度です。
ここでは、2つの制度について解説します。
短時間勤務制度の概要
短時間勤務制度は、仕事と家庭生活の両立を支援するために育児・介護休業法で定められた仕組みです。子育てや介護を行う従業員の支援を目的としています。
育児と介護では要件や利用可能期間が異なります。それぞれ見ていきましょう。
育児による短時間勤務制度
育児に関する短時間勤務制度では、子供を養育する従業員が時短勤務を希望すれば、企業はそれに応じる必要があります。具体的には、1日の勤務時間を原則として6時間(5時間45分から6時間)とすることが求められます。
短時間勤務制度は運用だけではなく、就業規則などで明確に規定されていなければなりません。
対象となるのは、以下の条件を全て満たす従業員です。
- 3歳未満の子供を養育している
- 短時間勤務期間中に育児休業を取得していない
- 日々雇用される従業員ではない
- 1日の所定労働時間が6時間を超えている
- 労使協定により適用除外とされていない
労使協定により適用除外となり、短時間勤務制度を利用できないケースは以下のような場合です。
- 勤続1年未満
- 週の所定労働日数が2日以下
- 業務の性質上、短時間勤務が困難と認められる
このうち、「業務の性質上、短時間勤務が困難と認められる」場合は、育児休業に準ずる措置やフレックスタイム制度、時差出勤などを代替措置として講じる必要があります。
*参考:厚生労働省「所定労働時間の短縮措置(短時間勤務制度)」
介護による短時間勤務制度
介護に関する短時間勤務制度では、要介護状態の家族を介護する従業員に対して、希望があれば企業は短時間勤務またはそれに準ずる措置を提供しなければなりません。
講じるべき措置は以下の通りです。
- 短時間勤務制度
- フレックスタイム制度
- 始業・終業時刻の調整(時差出勤)
- 介護サービス利用時の費用助成
これらの制度は、要介護状態の家族1名につき、介護休業と合わせて少なくとも93日間は利用できるよう規定する必要があります。
対象は全ての従業員です。ただし、日々雇用される従業員は対象外となります。また、労使協定がある場合、勤続1年未満や所定労働日数が週2日以下の従業員は対象外です。
介護の対象となる家族は、配偶者(事実婚含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫などです。対象家族1名につき、開始日から連続3年以上の期間で2回以上に分けて取得できます。
*参考:厚生労働省「対象家族の介護のための所定労働時間の短縮等の措置」
短時間正社員制度の概要
近年、高いスキルや仕事への意欲を持ちながらも、様々な事情によりフルタイムで働くことが難しい人が増えています。短時間正社員は、このような状況に対応するための新たな雇用形態です。具体的には以下のようなニーズに応えます。
- 育児や介護と仕事を両立したい人
- 定年後に働きたい人
- キャリアアップを目指す人
- 複数の仕事をしたい人
- ボランティア活動をしたい人
- 健康上の理由で長時間勤務が難しい人
- 決まった日時だけ働きたい人
短時間正社員制度では、正社員として雇用するものの、所定勤務時間は通常の正社員より短く設定します。育児・介護休業法の短時間勤務制度利用者も、上記の条件を満たせば短時間正社員に含まれます。
少子高齢化に伴い、労働力人口が減少する中、多くの企業では労働力の確保が課題となっています。こうした背景から、従来のフルタイム勤務にとらわれず、多様な働き方を取り入れる柔軟な姿勢が重要です。
短時間正社員の主な条件は以下の通りです。
- 雇用形態:正社員
- 労働契約:期間の定めなし
- 労働時間:フルタイム正社員より短い
- 待遇:フルタイム正社員と同等の時給率、賞与・退職金などあり
- 社会保険:適用あり
短時間正社員制度により、企業は多様な働き方を希望する人材を柔軟に活用でき、従業員はライフステージに合わせた働き方を選択できるようになります。
法改正による時短勤務の変更点
2024(令和6)年6月に「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案」が成立しました。これにより、2025(令和7)年以降、育児により時短勤務をする従業員を支援する制度が拡充します。
ここでは、新たな法改正に伴う、育児時短就業給付の創設や子供の年齢に応じた両立支援の多様化について解説します。
育児時短就業給付の創設
2025年から「育児時短就業給付」が導入されます。育児時短就業給付は、時短勤務による収入の減少を補うための制度です。
育児のための短時間勤務制度では時間を短縮して働けますが、それに伴い収入が減少するという課題がありました。育児時短就業給付の導入により、この課題が緩和され、より多くの人が時短勤務を選択しやすくなると考えられます。
育児時短就業給付は、2歳未満の子供を養育するために時短勤務をした場合に適用され、時短勤務前の給与の約10%が支給されます。
*参考:厚生労働省「育児時短就業給付(仮称)の創設について」
子供の年齢に応じた両立支援の多様化
新たな法改正では、子供の年齢に応じた両立支援策が導入されます。ここでは、変更となる部分を年齢別に紹介します。
*参考:厚生労働省「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律の概要」
子供が3歳になるまで
3歳未満の子供を育てる従業員に対して、企業はテレワークの導入に努めることが求められます(努力義務)。また、短時間勤務が難しい従業員に対して、代替措置としてフレックスタイム制度や時差出勤などが定められていましたが、新たにテレワークが追加されます。
子供が3歳から小学校就学前まで
3歳から小学校入学前の子供を育てる従業員に対し、企業は柔軟な働き方の選択肢を用意することが義務付けられます。短時間勤務、始業時刻の変更、テレワーク、新しい休暇の付与、保育施設の設置などの中から2つ以上の制度を設け、従業員が選択できるようにします。
子供が小学校3年生まで
小学校3年生までの子供を持つ従業員に対しては、子供の看護休暇制度が拡充されます。名称も「子の看護休暇」から「子の看護等休暇」となり、これまでの看病や予防接種に加え、感染症による学級閉鎖や入園式・卒園式などの行事にも利用できるようになります。
時短勤務のメリット・デメリット
時短勤務制度は、企業と従業員の双方に様々な影響があります。ここでは、企業と従業員それぞれの視点から、時短勤務のメリットとデメリットについて解説します。
企業のメリット
企業にとって時短勤務の大きなメリットは、育児や介護を理由とした離職を減らせることです。時短勤務をすることで、従業員はキャリアを中断せずに、仕事と家庭を両立しやすくなります。意欲ある優秀な人材の流出を防ぎ、長期的な人材育成にもつながるでしょう。
また、働きやすさから従業員の満足度が高まり、企業イメージの向上も期待できます。新たな人材の獲得にも良い影響があるでしょう。
従業員のメリット
従業員が時短勤務をすることによる主なメリットは、ワークライフバランスの実現です。1日の勤務時間が短くなることで、保育園の送迎や家族の介護など、家庭での役割を果たしやすくなります。
妊娠、出産、介護といったライフイベントが発生しても、仕事を続けながら対応できます。
企業のデメリット
企業にとってメリットの多い時短勤務ですが、デメリットも存在します。一部の従業員が時短勤務になると、業務の再配分や見直しが難しく、チーム全体の効率低下を招く恐れがあります。
また、他の従業員の負担増加や不満の蓄積により、職場の人間関係に悪影響を及ぼす可能性もあるでしょう。
従業員のデメリット
時短勤務による従業員のデメリットとして、収入の減少があります。勤務時間の短縮により、給与や賞与が減額される可能性があるでしょう。
また、キャリアアップへの影響も懸念されます。勤務時間の制限により、重要な案件や時間外の業務に携わりにくいため、昇進や昇格の機会を逃す恐れがあります。これは「マミートラック」問題とも呼ばれ、特に育児中の従業員のキャリア形成に悪影響を与えることが指摘されています。
時短勤務を導入する際の課題と注意点
ここでは、時短勤務制度を円滑に運用するための主な注意点について、以下の3つの観点から解説します。
- 公平な職場環境の維持
- 不利益な取り扱いの禁止
- 制度の明確化と周知
それでは、1つずつ見ていきましょう。
公平な職場環境の維持
時短勤務制度導入の際には公平性を保ち、良好な職場環境を維持することが課題となります。時短勤務者と通常勤務者の間に対立が生じないよう、双方が気持ちよく働ける環境づくりが重要です。また、業務のしわ寄せなど、他の従業員の負担増加を防ぐ対策も求められます。
不利益な取り扱いの禁止
育児・介護休業法に基づき、時短勤務制度利用者への不利益な取り扱いは禁止されています。不利益な取り扱いとは、解雇や降格、減給などを指します。給与や賞与の計算は、労働時間の減少に応じて適切に行い、不当な減額などがないよう注意しましょう。
制度の明確化と周知
企業は時短勤務制度の内容や手続きを就業規則に明記し、従業員に周知する義務があります。運用面においても、誤解を防ぎスムーズに制度を活用するため、新人研修や定期的な説明会を通じて、制度の解説と理解促進を図ることが重要です。
短時間正社員の導入方法
厚生労働省の「令和5年度雇用均等基本調査」によると、企業での短時間勤務制度の導入率は6割を超えており、多くの人が利用しています。
しかし、2023(令和5)年「労働者調査 結果の概要」によると、離職前に正社員だった女性の45.2%が、「利用することができれば仕事を続けられたと思う支援・サービス」に「1日の勤務時間を短くする制度」を挙げています。
所定労働時間が短い「短時間正社員制度」では、育児や介護に限らず、健康上の理由やボランティア活動など、従業員の多様なライフスタイルに対応した働き方が可能です。
ここでは、この「短時間正社員制度」の導入に向けた5つのステップを解説します。
ステップ1:導入目的を明確にする
短時間正社員制度の導入目的は、各企業の状況によって異なります。組織の構成や従業員のニーズを踏まえて、どのような課題を解決するか慎重に検討しましょう。社内の要望と実態を把握するために、アンケートや聞き取り調査の実施も効果的です。明確な目的を設定することが、円滑な制度導入と運用の基盤となります。
ステップ2:適用する役割や労働時間を決める
次に、導入目的に基づき、短時間正社員に期待する役割を具体化します。労働時間が短いことを考慮し、実現可能な職務内容を設定し、適用期間や労働時間を決めていきます。
育児や介護が理由の場合は、フルタイム復帰やキャリア形成を見据える必要があります。健康上の理由の場合は、個人の健康状態に合わせた条件を設定するなど、各ケースに応じた柔軟な設計が重要です。
ステップ3:労働条件を設定する
続いて、人事評価、賃金、教育訓練などの労働条件を設定します。短時間正社員の評価においては、労働時間に応じて「量」は減るものの、「質」はフルタイムの正社員と同等であることが原則です。
賃金は、基本給を労働時間に比例して減額し、賞与などの基準はフルタイムの正社員と同じ基準で支給します。また、教育訓練の機会も同様に与えることが重要です。これらの条件設定により、公平性を保ちつつ、制度の効果的な運用を図ります。
ステップ4:就業規則の改定
時短勤務制度の内容が決まったら、就業規則を改定します。定義、労働時間、適用条件など制度の詳細を就業規則に反映させましょう。改定した就業規則は労働基準監督署に届け出る必要があります。
ステップ5:社内に周知する
短時間正社員制度導入後は、速やかに社内周知を行うことが重要です。制度の目的や詳細内容を社内報などでわかりやすく説明しましょう。パンフレットやマニュアル、Q&A集の作成などに加え、質疑応答の機会を設けることも効果的です。社員の理解を深めることで、円滑な運用と有効活用につながります。