可視化とは?ビジネスでの意味や使い方、メリットや見える化との違いを解説
「可視化」とは、目に見えないものを見えるようにするという意味です。ビジネス上でよく使われている言葉ですが、正確な意味や使い方、似たような言葉の「見える化」との違いがよくわからない、と感じている人も多いでしょう。
本コラムでは、可視化とはどんな意味か、可視化と見える化の違い、可視化のメリットや使い方・具体例まで、可視化の基本を解説します。
可視化とは?意味・目的と注目される理由を解説
可視化とは、簡単にいうと、目に見えないものを見えるようにすることです。読み方は「かしか」で、英語では「visualization(ビジュアライゼーション)」といいます。可視化は、ビジネスや教育、医療など様々な分野で用いられ、意思決定の支援や問題解決に役立てられています。可視化のビジネスにおける意味と例文、目的や注目される背景などについて解説します。
ビジネスにおける可視化の意味と例文
可視化のビジネスにおける意味は、漠然としたイメージや印象など目に見えないものを具体的なデータを用いて見えやすくすることです。例えば、売上データを棒グラフで表して変化をわかりやすく表示したり、フローチャートを用いて業務プロセスを視覚的に把握できるようにしたりすることが挙げられます。
ビジネスでの例文は例えば以下のようなものです。
「顧客の購買行動データを可視化することで、どの商品がどの時期に売れているかが明確になり、マーケティング戦略の改善につながった」
「新しいプロジェクトの進捗状況を把握するために、各チームのタスクの進行度をフローチャートで可視化し、問題点の早期発見に役立てた」
ビジネスにおける可視化とは、目に見えないわかりにくいものをグラフや図などを使って視覚化することで、情報の共有化や問題解決につなげていくことを意味します。
可視化の目的
可視化の目的は、複雑な情報を誰でも簡単に理解できる形にすることです。これにより、情報共有がスムーズになり、意思決定や問題解決が迅速に行えます。
ビジネス上の可視化の目的はいくつかありますが、例えば以下のようなものが挙げられます。
- 業務プロセスの現状把握と課題抽出
- 顧客データの分析とマーケティング
- 内部統制
こうした目的の可視化を実施すると、業務効率化に役立てたり、膨大な顧客データからニーズや特性を把握したりすることができます。また、内部統制が目的の可視化では、会社全体の業務フローを可視化することで、潜在的なリスクやプロセスの問題点を洗い出すことも可能です。
ビジネスで可視化が注目される背景とその理由
可視化が注目される背景には、情報化の時代において膨大な情報やデータの有効活用が求められていることがあります。特に、ビッグデータを扱う大企業や研究機関では、データの可視化が重要です。
また、可視化によって複雑な情報を視覚的にシンプルに表現することで、共通理解を深め、迅速な意思決定が可能になります。大人数の組織や、多様な人材が働く職場では、直感的にわかりやすく可視化して情報を伝達することで、コミュニケーションがスムーズになるでしょう。
情報の可視化は、効率的なデータ分析と戦略的な意思決定を可能にするため、今後ますますその必要性が高まると考えられます。
可視化と見える化の違いとは?
可視化と似た意味の言葉で、ビジネスでよく使われる言葉に見える化があります。
従来は一般的には可視化という言葉が使われ、ビジネス上では見える化という言葉が使われてきましたが、最近ではどちらの言葉もビジネスでよく使われています。そのため、使い分けがよくわからない、と感じている人も多いでしょう。
可視化と見える化の定義の違い、使い分けなどについて解説します。
可視化と見える化の定義の違い
可視化は、主に目に見えない情報を視覚的に把握しやすいグラフ・チャートなどで示すことです。
これに対し、見える化には情報の視覚化だけでなく業務プロセスの改善や組織の方針なども含まれます。可視化と同様にデータや情報も扱いますが、例えば作業手順を絵にして張り出すことで、進め方や注意点を知らせることも、見える化のひとつです。単に情報を表すだけでなく、その情報が持つ意味や影響も説明するのが見える化なのです。
以下の表に可視化と見える化の違いをまとめました。
可視化 | 見える化 | |
---|---|---|
定義 | データを視覚的な形式に変換して表現する | 情報を視覚的に表すだけでなく、意味や背景も含めて説明する |
目的 | 情報を視覚的に理解しやすくする | 情報の意味や背景を理解させる |
対象 | 数字やデータ、統計情報、プロセスなど | データやプロセスに加えシステム、コンセプト、背景、重要性など |
可視化は見えるようにすること自体を目的とし、見える化は見えるようにすることによって業務改善や課題解決につなげることを目的とする、という違いがあります。
トヨタの見える化とは
日本のビジネスシーンで見える化という言葉が使われるようになったのは、大手自動車メーカーであるトヨタ自動車が始まりだといわれています。
トヨタ自動車のトヨタ生産方式(TPS)は、「自働化」と「ジャスト・イン・タイム」を柱としており、特に生産工程を自働化する中で、管理の見える化が重視されるようになりました。その具体的施策の一例が、生産現場で設備の稼働状況や作業指示が一目でわかるよう電光表示盤の「アンドン」をつけるようにしたことです。
トヨタ自動車では、生産現場で培われたTPSを、人事や経理・広報・部品調達・ソフトウェア開発など生産現場以外の職場にも応用。これにより、見える化という言葉も、工場や生産現場を超えて広く使われるようになりました。
*参考:トヨタ企業サイト|トヨタ自動車75年史|トヨタ生産方式|
*参考:トヨタ企業サイト|トヨタの強み「トヨタ生産方式(TPS)」が工場の外へ
ビジネスにおける可視化と見える化の使い分け
可視化と見える化は厳密な意味で違いがあります。しかし、最近では「可視化=見える化」という意味で使用している人も多く、ビジネスにおける使い分けにそこまで神経質になる必要はありません。
ビジネスで可視化と見える化を使うときに気をつけるポイントは以下の通りです。
- 見える化はトヨタ生産方式を土台とする手法の意味で使われていることがある
- 見える化は、業務改善や問題解決まで含んだ意味で使われることが多い
よって、情報の視覚化のみが目的で改善策・解決策までは含まない場合は、見える化よりも可視化のほうが適切といえるでしょう。
可視化するメリット
では、可視化を行うことで、ビジネス上どんなメリットがあるのでしょうか。
可視化を行うメリットは以下の3つです。
(1)組織や業務の全体像が把握しやすくなる
関係者が増えれば増えるほど、組織は大きく、業務は複雑になっていき全体像が掴みにくくなる傾向があります。ここで組織や業務フローを可視化すれば、全体像を把握しやすくなるでしょう。
例えば、業務Aと業務Bの依存関係と進め方をフローチャートで示したり、プロジェクトの進行状況を数値化してグラフで表したりすることができます。
管理職からすれば問題点の発見やマネジメントの効率化が図れますし、個々のメンバーにとっては自身が全体の中でどんな役割や責任を担っているかが明確になります。それにより、モチベーションの向上にもつながるでしょう。
(2)業務上の課題が見つかりやすくなる
もう1つのメリットは、可視化により業務上の課題が見つかりやすくなることです。
例えば、プロセスマップを用いて業務の流れを可視化すると、ボトルネックや重複した作業が一目でわかります。また、属人的な知識やスキルを洗い出して、業務の標準化や効率化につなげることも可能です。
複雑で抽象的なものでも、グラフや図などを使って視覚的に表現し、誰もがわかりやすくすることで、スピーディかつ具体的に業務上の問題点を発見できるようになるでしょう。
(3)情報共有がしやすくなる
組織内で情報共有がしやすくなるのも、可視化のメリットの1つです。
例えば、グラフやダッシュボードを活用することで、複雑なデータも簡単に理解できるようになります。これにより、関係者全員が同じ情報を共有しやすくなり、共通の認識を持つことができるのです。
情報や解釈の共有がスムーズに行われるようになれば、組織全体の協働体制が強化されるとともに生産性向上にもつながるでしょう。
ビジネスにおける可視化の使い方と具体例
以上のように、可視化はビジネスにおいてデータを理解しやすくし、効率的な意思決定をサポートするための重要な手法です。
ここでは、可視化の対象をデータ・プロセス・スキルの3つに分けて具体的にどのような手法で可視化を行うかを説明します。
データの可視化
データの可視化とは、データをグラフやチャートに変換し、視覚的に表現することです。これにより、膨大なデータからトレンドや異常値を発見でき、正確かつスピーディに意思決定や経営判断が行えるようになります。
例えば、売上データを棒グラフで表示すると、季節ごとの変動や商品別のパフォーマンスが一目でわかります。また、ダッシュボードで複数の業務やデータを可視化すれば、リアルタイムで業務フローや業績の管理が可能です。
データを可視化することで、マネジメントが効率的になるだけでなく、メンバー間・組織間の情報共有もより円滑になります。
プロセスの可視化
プロセスの可視化は、業務の流れや手順をフローチャートやプロセスマップで示す方法です。各業務の担当者やフローが明確になることで、ボトルネックや非効率な箇所を特定しやすくなります。
例えば、製造業では生産ラインのプロセスを可視化することで、無駄な作業や待ち時間を削減し、生産性を向上させることが可能です。プロジェクト管理においても、プロセスマップを作成したうえで進捗をグラフにより可視化することで、関係者全員が現状を把握し、適切なタイミングでの意思決定や調整が行いやすくなるでしょう。
スキルの可視化
スキルの可視化とは、社員の持つスキルや経験を一目で把握できるようにする方法です。スキル可視化のツールとしては、スキルマップやタレントマネジメントシステムなどがあります。
スキルマップは、社員一人ひとりのスキルレベルや専門分野を一覧で表示し、その社員の強みや課題を把握することができるツールです。これにより、人材育成やプロジェクトへの適材適所の配置が容易になり、組織全体のパフォーマンス向上につなげられます。
タレントマネジメントシステムとは、社員のスキルや経歴、能力などの情報を一元化することで、採用から人材育成、キャリアアップ、配置まで人事業務を効果的・効率的に行えるツールです。人事管理が効率的になるだけでなく、社員の目標管理やキャリアパスの設計にも役立てることができます。
可視化の成功事例3選
可視化はビジネスだけでなく、行政やインフラなど様々なシーンで取り入れられています。
最後に、可視化の成功事例3選を紹介します。
(1)顧客のデータを可視化し業務を効率化
オーストラリアの人事コンサルティング会社であるLohn & HRでは、BIツールを導入して顧客企業の雇用や給与に関わる膨大なデータを可視化しました。BIツールとは、企業が保有するデータを集約して経営や業務に活用できるよう分析・アウトプットするソフトウェアのことです。
これにより、いつでも必要なデータを抽出することが可能になり、意思決定のスピードが速まりました。また、顧客に対してグラフや図で視覚的にわかりやすいレポートを作成できるようになり、顧客満足度も上昇しています。
データ可視化により、業務の可視化とサービスの品質向上の両方を達成した事例といえるでしょう。
*参考:Yellowfin BI|【事例公開】データの可視化のメリットと3つの実施方法を解説
(2)インフルエンザの都市内伝播を動画シミュレーションで可視化
統計数理研究所データ同化研究開発センターは、都市内でインフルエンザの感染の伝播が起こる様子を可視化しました。
具体的には、複数のエージェント(行動主体)を用いて仮想実験を行うエージェントシミュレーションと呼ばれる手法で、アニメーションによる可視化を実行。伝染が成立する瞬間を赤いバルーンの発生として表し、会社や電車での移動中に活発に伝染が起こっていることを確認できました。
会社員など車内での感染リスクが高い集団にワクチンを傾斜配分することで、どの程度感染者数が低減できるかなどの調査に役立てています。
(3)人口の推移や分布をグラフやマップで可視化
奈良県の生駒市では、「生駒市オープンデータポータルサイト」で市の人口推移や分布などのオープンデータを可視化して公開しています。
例えば、政府のWebサイト「e-Stat(政府の統計の総合窓口)」において、オープンデータとして公開されている町丁・字別の人口データを使い、町別の人口分布を地図上で可視化しています。町別に人口による色付けがされているため、人口の分布がひと目でわかるようになっているのが特徴です。
また、国勢調査の人口推移データをグラフで可視化し、男女別や総人口別に切り替えて表示できるよう工夫しています。
可視化された図や地図は他のサイトに埋め込むこともでき、資料作成や分析などに役立てることが可能です。