人件費とは?人件費の内訳や人件費率の計算式、効果的な削減方法などを解説
人件費とは、企業が従業員に対して支払う費用のことです。人件費の内訳には、給与以外にも賞与や福利厚生など様々な項目があります。人件費は企業の費用の中で大きな割合を占め、従業員の質やモチベーションにもかかわるため、人件費率などの指標を参考にして適正に管理することが重要です。
本コラムでは、人件費の内訳や使われる勘定科目、人件費率など管理するための指標や効果的な人件費削減方法について解説します。
人件費とは?基本的な意味や労務費との違い
人件費とは、簡単にいえば企業が従業員に対して支払う費用です。給与や賞与といった現物支給のものだけでなく、企業が負担する福利厚生費や採用活動のための費用などまで含んだ、人にかかわる経費全般を指します。
まずは、人件費の基本的な意味や人件費に含まれる項目について解説します。
人件費の意味
人件費とは、企業が従業員のために支払う経費です。企業と直接雇用関係がある従業員を対象としますので、パート・アルバイトは対象となりますが、派遣社員は含まれません。役員も、通常は企業と委任・委託契約を結んでおり雇用契約はないため、人件費の対象となる従業員にはカウントしないことが多いようです。
経費には給与や賞与だけでなく、企業側が負担する法定福利費や福利厚生費なども含まれます。このため、例えば福利厚生が手厚い企業の場合は、人件費が支払う給料の何倍にもなってしまうことがあります。
人件費には給与や賞与の額だけでなく、退職金や採用活動費まで様々な要素が影響します。このため、人件費に含まれる費用項目や対象になる従業員の範囲などについて正確に把握して分析することが大切です。
人件費に使う勘定科目と内訳の種類
人件費に使う勘定科目の内訳は以下の通りです。
- 給与(給与手当)
- 賞与
- 各種手当
- 退職金(退職給付引当金)
- 法定福利費
- 福利厚生費
- その他の費用(採用費用や教育研修費など)
人件費に含まれる勘定科目について、概要や会計上の取り扱い方法などについて解説します。
給与・賞与・手当の取り扱い
給与には、毎月支払う基本給(所定内賃金)と、残業や休日出勤などをした場合に支払う賃金(所定外賃金)があります。賞与は、給与とは別に報償の目的で支給する賃金のことです。年に1~2回支払われるのが一般的ですが、企業によってタイミングや計算方法は様々です。
多くの場合、所定外賃金や賞与は、基本給をベースに所定の割合や倍数をかけて計算されます。そのため、基本給の上下が人件費には大きく影響するのです。
手当は、法律上定められている時間外手当・深夜労働手当・休日手当などの所定外賃金のほか、企業ごとに様々な手当があります。
法律上定められている手当(所定外賃金) | 時間外手当(残業手当)、深夜労働手当、休日手当 |
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その他の手当 | 役職手当、職務手当、住宅手当、通勤手当、家族手当、扶養手当、出張手当、海外赴任手当、単身赴任手当、地方手当など |
従業員が業務のための出張で旅費などを負担した場合には、出張手当とは別に、勘定項目で旅費交通費を計上する場合もあります。
退職金の取り扱い
人件費には、従業員の退職金のための積立金や掛金も含まれます。退職金制度は企業によって異なりますが、例えば以下のようなものがあります。
退職一時金 | 一時金として支払う退職金を社内で積立・運用する |
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確定給付企業年金制度(DB) | 企業が掛金を拠出し、一定の給付額の年金が支給される制度 |
企業型確定拠出年金制度 | 企業が一定の掛金を拠出し、従業員が運用指図を行って年金が支給される制度 |
共済制度 | 中小企業共済や特定団体の共済に企業が掛け金を支払い、退職金や年金を積み立てる制度 |
退職金の積立には、退職給付引当金や共済金掛金などの勘定項目が使用されます。現物支給の給与や賞与だけでなく、退職金のためのコストも人件費に大きく影響するので注意しましょう。
役員報酬の取り扱い
役員報酬は、取締役や執行役員など役員に対して支払う給与・賞与のことをいいます。人件費は、企業と直接雇用関係がある従業員に対して支払う費用とされているため、役員報酬は人件費に含まないとする考え方もあります。
役員の報酬制度や企業との契約関係は企業ごとに異なりますので、自社の制度や規定をよく確認することが必要です。
法定福利費や福利厚生費・その他の費用の取り扱い
法定福利費や法定外の福利厚生費も人件費に含まれます。
法定福利費とは、健康保険や雇用保険など、法律上企業が負担を義務づけられている社会保険料のことです。一方、法定外の福利厚生費には、レクリエーション費用や慶弔費など様々なものがあります。企業によっては社宅や保養所を準備しているところもありますが、これらの維持管理費も福利厚生費に含まれます。社員旅行や忘年会などの費用も、企業側が負担する分は福利厚生費として計上するのが通常です。
法定福利費と福利厚生費の内訳は以下の通りとなっています。
法定福利費 | 健康保険・介護保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険の保険料 |
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法定外の福利厚生費 | 社員旅行・会社のレクリエーションの費用、社宅費用、慶弔見舞金、社員食堂や休憩所などの費用、各種補助金など |
自己啓発やリスキリングのための補助金を福利厚生費として取り扱っている企業もあります。
従業員のための研修費用や人材採用のための費用なども人件費に含めるケースがあり、企業ごとに取り扱いやルールが異なりますので注意しましょう。
人件費と労務費の違い
人件費と似た用語に労務費があります。労務費は、製品の製造に直接かかわった従業員に支払った費用を指します。つまり、人件費は全ての従業員にかかるコスト、労務費は製造部門の従業員に対し支払うコストです。
会計上では、労務費という勘定項目は工業簿記で用いられ、製品の原価計算などに使用されます。商業簿記では人件費は費用として貸方に計上しますが、工業簿記では労務費の勘定項目は製品の原価計算に含めるため、一旦資産として借方に計上するなどの違いがあるので注意しましょう。
人件費率とは?計算方法と適正な割合
人件費を分析する指標としてよく用いられるのが人件費率です。人件費率とは、企業の売上に対する人件費の割合のことで、経営の健全性や収益性を測る重要な指標として使われています。人件費率を把握することで、企業は利益や効率性とのバランスを理解しやすくなるのです。
ここでは、人件費率の計算方法や適正な割合について詳しく説明します。
人件費率の計算式と例
人件費率の計算には、主に「売上高人件費率」と「売上総利益人件費率」の2つの方法があります。売上高人件費率は、企業の総売上に対する人件費の割合を、売上総利益人件費率は売上総利益(粗利)に対する人件費の割合を示しています。
売上高人件費率は売上高から簡便に人件費率を求められる点がメリットです。一方、売上総利益人件費率は、変動費を除いて算出する分、精緻な分析が可能になります。
それぞれの計算式は以下の通りです。
売上高人件費率(%)=(人件費 ÷ 売上高)× 100
売上総利益人件費率(%)=(人件費 ÷ 売上総利益)× 100
例えば、年間売上高が1億円で人件費が3000万円の場合、売上高人件費率は30%となります。さらに、粗利が50%の場合、売上総利益は5000万円ですから、売上総利益人件費率は、3000 ÷ 5000で60%ということになります。
適正な人件費率の目安とは?
適正な人件費率は、売上高人件費率で10~20%が目安とされています。しかし、これはあくまで平均的な目安であり、企業ごとの業種や事業内容などによって大きく変わってきます。
例えば、サービス業や運輸省などの業種では人件費率が高くなる傾向がありますが、製造業などでは比較的低くなることが多いです。また、人件費率は企業の事業規模によっても大きく異なります。したがって、業界ごとの基準はあくまで参考として、自社の業務内容や経営目標に合わせて適切な人件費率を設定することが重要です。
業種別に見る人件費の基準値
業種によっても人件費率の基準値は大きく異なります。例えば、労働集約型の業種である飲食業やサービス業では、売上高に対する人件費率が高くなりやすいといえるでしょう。一方、製造業や卸売業などの業種では人件費率が低い傾向があります。
中小企業庁の調査による業種別の平均売上高人件費率は以下の通りです。
製造業 | 19.4% |
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情報通信業 | 30.6% |
運輸業 | 30.0% |
卸売業 | 6.4% |
小売業 | 12.9% |
宿泊・飲食サービス業 | 31.7% |
その他のサービス業 | 42.3% |
これらの基準値を参考にしながら、自社の業種特性や経営戦略に応じた人件費率の目標を設定するとよいでしょう。また、定期的に人件費率を見直し、変動の要因を分析することで、経営の効率化と最適化を図ることが重要です。
適正な人件費を把握・分析する指標
人件費率により、業種や企業規模ごとに適正な人件費割合を把握することの重要性を解説しました。
適正な人件費がどの程度かは、売上高や粗利に対する割合だけでなく、従業員の生産性や付加価値など他の指標を使って分析することも可能です。
ここでは、適正な人件費を把握・分析する指標について解説します。
労働生産性
労働生産性とは、従業員一人当たり、または1時間当たりの生産物数や価値を評価するものです。さらに、労働生産性には、物的生産性と付加価値労働生産性とがあります。
物的労働生産性は、従業員一人当たりまたは1時間当たりの成果を、生産物の物量や数量を基準にして求めます。一方、付加価値労働生産性は、従業員または時間単位ごとに、どれだけ生産物の価値や利益を生み出せたかを測る指標です。
- 一人当たりの生産性の計算式:生産物の物量 ÷ 労働者数
- 1時間当たりの生産性の計算式:生産物の物量 ÷(労働者数 × 労働時間)
上記は、例えば、工場において生産物をどれだけ作れているかを測るために用いられます。
- 一人当たりの生産性の計算式:付加価値額(粗利)÷ 労働者数
- 1時間当たりの生産性の計算式:付加価値額(粗利)÷(労働者数 × 労働時間)
付加価値労働生産性は、労働によって得られる付加価値額が基準です。付加価値額は、企業が商品やサービスの元手として仕入れた原価と売上の差額のことで、粗利(粗利益)と読み替えることもできます。
労働生産性が高いほど従業員のパフォーマンスが良好で、業務が効率的に運営できている企業といえます。
労働分配率
労働分配率とは、付加価値額(製品やサービスの売上から生産に必要な原材料費を差し引いたもの)に占める人件費の割合です。以下の計算式で算出できます。
人件費が高くなれば、それに伴って労働分配率も上昇します。労働分配率が低いということは、労働生産性が高いということを意味しますが、過重労働状態という可能性もあるため注意が必要です。
労働分配率は低ければ低いほどよいというわけではありません。従業員の負担やモチベーションの維持などに配慮しながら、適正な水準を保つことが重要です。
人時生産性(にんじせいさんせい)
人時生産性は、1時間の就業に対する利益を示す指標です。労働者一人が1時間働いたときの生産性を表しています。数値が高いほど生産性が高いことを示します。
粗利の部分には、売上高や営業利益、経常利益など、自社が重視している数値基準をあてはめて考えてもよいでしょう。人時生産性は、労働集約型である飲食サービス業などで生産性を測るのに便利な手法です。店舗や部門ごとの比較指標としても利用できます。
人件費削減の方法と注意点
人件費は企業コストの中で大きな比重を占め、業績に大きく影響するため、人件費削減は、企業経営において重要な課題の1つです。しかし、無理に人件費を削減すると、現場に負荷がかかったり従業員のモチベーションが落ちたりして、返って業績が悪化する事態になりかねません。人件費の削減を検討する際には、業務の効率化や従業員のモチベーション維持などに配慮した方法を採用することが大切です。
最後に、人件費削減についての具体的な方法や注意点について解説します。
労働時間の見直しと業務効率化
労働時間の見直しと業務効率化は、人件費削減の基本となるアプローチです。
長時間労働が常態化している企業では、時間外労働の削減のため、業務プロセスの見直しや、自動化ツールの導入を検討するとよいでしょう。例えば、勤怠管理システムや経費精算システムの導入により、事務作業を効率化し、時間外労働を減らせます。また、繁忙期に特定の業務をアウトソーシングすることで、コストパフォーマンスを向上させる方法もあります。業務の一部を外部に委託すれば、従業員の負担を軽減し、労働時間の削減することが可能です。
非正規雇用の活用とその注意点
非正規雇用(派遣社員やアルバイトなど)の活用は、人件費削減の効果が期待できる方法です。非正規雇用者は通常、正社員よりも給与や福利厚生費が低いため、人件費の抑制につながります。
しかし、非正規雇用の活用には以下のような点で注意が必要です。
- 非正規雇用従業員のモチベーションが低下する
- 離職率が高まる
- 知識やスキルの蓄積が難しくなる
適切な人材配置やコミュニケーション、教育研修を行い、非正規雇用者のモチベーション維持と離職防止に努めることが大切です。
社会保険料の最適化と福利厚生費の削減
社会保険料の最適化は、人件費削減の有力な方法の1つです。社会保険料は企業にとって大きなコスト負担となるため、その最適化を図ることで人件費を抑えることができます。社会保険料は企業の負担分が法律で定められているので調整が難しい部分です。社会保険料の最適化としては、算定基礎になる手当や賃金を減らして他の福利厚生に回す、年金制度に確定拠出年金を活用する、などの方法が考えられます。
また、福利厚生費の削減においては、従業員のニーズに合った福利厚生プログラムを提供することが重要です。無駄な福利厚生を見直し、従業員の満足度を高めるプランに変更することで、コスト削減と従業員の働きがい向上を両立させることができるでしょう。