ビジネスでの人材育成「ピグマリオン効果」活用方法と4つの注意点
「ピグマリオン効果」は、人材育成において不可欠な観点です。上司と部下の良好な人間関係構築だけでなく、自社が求める人材の育成にも寄与するでしょう。
今回は、ピグマリオン効果とは何か、ゴーレム効果などの他の心理効果との違い、ビジネス現場におけるピグマリオン効果の活用方法や注意点を解説します。
ピグマリオン効果とは
はじめに、「ピグマリオン効果」とは何か、その特徴とビジネスにおける重要性を見ていきましょう。
ピグマリオン効果の特徴
「ピグマリオン効果」とは、“期待されている人物のほうが、期待されていない人物よりも成果を出す傾向がある”という心理効果です。
子どもを対象にした実験で確認されたことから、「教師期待効果」とも呼ばれます。あるいは、提唱者の名前をとった「ローゼンタール効果」という呼び方でご存じの方もいらっしゃるでしょう。
「ピグマリオン効果」という名称は、ギリシア神話のピグマリオン王の話に由来します。王が自分で彫った乙女像を愛し続けたことで、乙女像が本物の人間になったという話です。
ピグマリオン効果を提唱したのは、アメリカの教育心理学者ローゼンタールでした。1963年から1964年に、ある小学校で次のような実験を実施したのです。
- 1. 新年度の前に子どもたちの知能検査を行う
- 2. 無作為抽出した複数の子どもについて、教師に「能力が向上するだろう」と伝える
- 3. 8カ月後に、子どもたちに対して再び知能検査を行い、結果を比較する
実験の結果、教師が期待をかけた子どもの成績が向上する傾向が見られたということでした。
ピグマリオン効果について、さらに別の研究者によって行われた調査もあります。ブロフィとグッドによる調査で、教師の期待が子どもたちの成績にどのような影響を及ぼすかを調べたものです。
調査の結果、大きな期待を持っている子どもに対して、教師は「正解したときに褒める」「学習のつまずきがある場合はサポートする」といった、成績向上につながる行動をとる傾向が見られたとのことでした。
ビジネスにおけるピグマリオン効果の重要性
ピグマリオン効果は、うまく活用すればビジネス現場でも大きな力を発揮します。
社会的状況やITの発展など、外部環境が刻一刻と変化する現在、ビジネスにおいては迅速な知識・スキルの習得や向上が求められています。さまざまな変化に柔軟に対応し、適切な判断を行うには、会社のミッション・ビジョンを軸とした判断力も欠かせません。
しかし、覚えてほしいこと、できるようになってほしいことを研修でただ伝えるだけでは、なかなか身につけてもらえません。新人教育や中堅社員以上の人材育成において、例えば上司が部下に対して適切に指導を行い、成長を支援する必要があるのです。
特に、上司と部下の良好な人間関係を構築する新人教育の間は、人事担当者や現場の上司は「新人だし、どうせできないだろう」と安易に考えるべきではありません。指導者から諦め半分で指導を受けることは、指導される側にとって心理的負担になってしまうからです。
「きちんと説明し、しっかり支援すればできるようになる」という期待をかけること、すなわちピグマリオン効果を意識的に活用することが、効果的な人材育成には重要なのです。
ピグマリオン効果と他の心理効果の違い
人材育成では、ピグマリオン効果以外にも知っておくと便利な心理効果がいくつかあります。
今回は、ピグマリオン効果の逆として知られる「ゴーレム効果」や、アメリカの工場で実施された研究で見出された「ホーソン効果」、人事評価に関わる「ハロー効果」との違いを押さえておきましょう。
ゴーレム効果
「ゴーレム効果」は、ピグマリオン効果とは逆の心理効果として知られています。“相手に期待せず、ぞんざいに扱うことで、相手が成果を上げにくくなってしまう”という心理効果です。成果が上がらないどころか、逆に平均を下回ってしまうケースさえあります。
ゴーレム効果は、ピグマリオン効果を提唱したローゼンタールによって提唱されました。「負のピグマリオン効果」とも呼ばれます。
先ほど「新人だし、どうせできないだろう」という考え方をすべきではないと述べました。これは、まさにゴーレム効果を引き起こさないようにするためなのです。
ホーソン効果
「ホーソン効果」は、職場の物理的環境の調整や昇給が、必ずしもそのまま従業員の生産性向上につながるわけではないこと、特に、「周囲から注目されている」と感じること自体が生産性向上に寄与している可能性があることを指します。
ピグマリオン効果は、主に人間関係の中で育成担当者から育成対象者に向ける期待に着目した心理効果ですが、ホーソン効果は、本人が「注目されている」「重要なプロジェクトに参加している」と感じられることで生産性が高まる点に着目しています。
ホーソン効果は、1920年代から30年代にシカゴ近郊のホーソン工場で行われた研究から見出されました。その研究では、照明の明るさや休み時間の長さ、給与の払い方などさまざまな条件で実験したところ、いずれも生産性向上につながり、悪条件下でも生産性が向上したという結果になりました。
そこで、ハーバード大学のメイヨーが労働者へのインタビューを実施したところ、職場における従業員の満足度が生産性向上につながっていたことがわかったのです。
今のビジネス環境でも、能力を活かせる業務の割り振りや自己啓発の機会、仕事のやりがい工場などの支援として、ホーソン効果が活用されています。
ハロー効果
「ハロー効果」は、人事担当者や上司といった評価する側が、“評価される側の一部分を拡大解釈し、全体を過大評価または過小評価してしまう”という心理効果です。これは不適切な評価方法であり、人事考課における評価エラーの原因の一つです。
ピグマリオン効果で期待が高じ、その結果を必要以上に評価する状況では、ハロー効果が発生してしまうかもしれません。
ハロー効果をイメージしやすくする言葉には、たとえば「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」などがあります。
「あの人は親切だ。仕事もできるに違いない(いや、できる)」
「あの人は挨拶ができない。仕事だってできるはずがない(できない)」
などの印象を抱いたときは、何をもって仕事ができると判断するのかを、一度立ち止まって考えてみるとよいかもしれません。
これらの心理効果以外にも、効果的な人材育成にはさまざまな要素が考えられます。その中で、「特にこれは外せない」というポイントを無料の動画や資料でご用意しました。人材育成のヒントに、ぜひお役立てください。
人材育成に役立つ無料ダウンロード資料はこちらから人材育成における活かし方と具体例
ピグマリオン効果を現場の人材育成で活かせる場面は、多数あります。活用場面によって声のかけかたを工夫すると、より効果的でしょう。具体的なシーンを思い浮かべながら、以下の具体例をチェックしてみてください。
OJTで活用する
OJTでピグマリオン効果を活用する際は、新しいことを教えるとき、教えたことを定着させるとき、知識・スキルを習得したときの3段階で考えるとよいでしょう。
声かけの方法としては、以下のような伝え方が考えられます。
場面 | 具体例 |
---|---|
新しいことを教えるとき | 「○○ができるなら、きっとこれもできますよ」 「○○より少し難しいけど、あなたならできますよ」 「もし大変な部分があったら、いつでも言ってください」 |
教えたことを定着させるとき | 「これで一通りできましたね、予定よりも早かったですね」 「次は一人でやってみましょう、きっとできますよ」 「覚えている途中だから、はじめは全部一人でできなくても大丈夫です。 少しずつ覚えていけますよ」 |
知識・スキルを習得したとき | 「もう大丈夫そうですね、習得が早いですね」 「さすがAさん、しっかりできていますね」 |
1on1で活用する
定期的な1on1ミーティングやフィードバック面談などでも、ピグマリオン効果を活用することができます。OJTよりも少し踏み込んだ内容で期待を伝える機会になるでしょう。
説得力をもって伝えるためには、これまでの振り返りをもとにポジティブフィードバックを行いつつ、今後の活躍への期待を伝えることが大切です。
場面 | 具体例 |
---|---|
業務を振り返るとき | 「この点について、今期は○○くらいかなと期待していたんです。 結果は、それを上回りましたね」 |
目標設定をするとき | 「今期は○○達成ですね。この調子なら、△△も視野に入ってきますね」 「Aさんは○○に優れているから、それを活かせる目標を考えてみましょう」 |
日常業務の中で活用する
OJTの対象者でない部下に対しては、1on1以外に日常業務の中で期待を伝えてみてください。活用シーンとしては、タスクを完了したとき、新しいプロジェクトに参加するとき、何か失敗があったときなどが考えられます。
場面 | 具体例 |
---|---|
タスクを完了したとき | 「お疲れさま!さすが、よくできていますね」 「仕事が速いですね、さすがAさん」 「きちんと指示通りに作っていますね、 Aさんの仕事はていねいで助かります」 |
新プロジェクトを始めるとき | 「大変なプロジェクトかもしれません、 でもAさんの知識やスキルが必要なんです」 「Aさんには、○○の役割を担ってほしいんです。 プロジェクト成功にとって、△△という点でとても重要なんです」 |
失敗があったとき | 「今回の原因は○○でしょうか。すると、△△の知識や スキル強化が必要かもしれません。Aさんならきっとできますよ。 必要なことはサポートします、試してみてください」 |
やり方によっては逆効果?ピグマリオン効果の4つの注意点
ここまで、ピグマリオン効果がビジネス現場でどのように使えるかを解説してきました。一方で、実は注意点もあります。
今回ご紹介する注意点は、「期待しているのだからもっと頑張れ」というプレッシャーにつながったり、最近の新入社員に見られる「注目されたくない」という傾向などと関わっています。こうしたポイントに気をつけながら、ピグマリオン効果を上手に活用していきましょう。
根拠のない期待や過大な期待を伝えない
「期待を伝えれば成果が上がる」とは言っても、根拠なく「期待してるよ」と伝えるだけでは説得力がありません。もし「本当に期待されているわけではない」「言葉だけ」と部下が感じてしまえば、育成担当者や上司との信頼関係を損なうことにもなるでしょう。
また、本人の実力から大きく離れた期待をかけられても、部下は戸惑ってしまいます。「私にはできない」という気持ちにさせてしまうことさえ、あるかもしれません。そうなれば、本来少しずつなら習得していけることでも、挑戦自体を諦めてしまう恐れがあります。
期待を伝えるときは、本人の実力プラスアルファの目標となるよう調整すること、期待している根拠もあわせて伝えることを意識しましょう。
周囲から注目されたくない部下には1対1で伝える
社員の中には人前で褒められることをあまり好まない方もいるでしょう。近年ではそうした「注目されたくない」という気持ちをもつ方が増えているそうです。朝礼や全体ミーティングで「Aさんには期待しているよ」と言われて抵抗を感じるタイプの場合、「なるべく目立たないようにしよう」という姿勢が生まれ、ピグマリオン効果とは逆の現象が生じるかもしれません。
そのような部下に対しては、1対1の状況で伝える、他の社員がいる場所では本人にだけ聞こえる程度の声で伝えるようにしましょう。
ただ、他の社員の前で褒められること、期待されることが成長につながるかどうかは、同じ世代のなかでも個人差があります。表彰制度の活用や会議での発言機会なども含め、それぞれの部下に合った伝え方を模索してみてください。
必要に応じて権限を与える
いくら上司が部下に期待していても、部下にそれを実行する権限がなくては始まりません。
- 業務に必要なツール類が使えるようになっているか
- 業務遂行に必要なデータや資料にアクセスできるか
- 判断や決定の権限を与えているか
もし業務遂行の妨げになっている要素があれば、速やかに解消または軽減してあげましょう。
期待を伝えたあとは見守る(監視しない)
期待を伝えると、育成担当者や上司は「どうなったかな」と気になるものです。しかし、そうした視線を向けられる部下としては、その眼差し自体を苦痛に感じてしまうでしょう。
期待を伝えたあとは、部下を監視するのではなく、「成長を見守る」という姿勢を基本としましょう。大きなトラブルが起きそうなときは介入が必要ですが、そうでない場合は「失敗も成長のうち」。相談・報告をされたときに失敗のサポートをできるよう、準備しておく程度にとどめるほうがよいでしょう。
ピグマリオン効果で部下の成果向上へ
ピグマリオン効果は、ビジネスの現場における人材育成でも活用できる心理効果です。上司が部下に期待を伝えるだけでなく、期待する根拠を伝えたり、つまずきへのサポートを行ったりすることで、部下はより成果を上げやすくなるでしょう。
今回、部下に期待を伝える場面の具体例をいくつかご紹介しました。しかし、「これは難しい」「あの部下にどう伝えればいいか、まだわからない」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
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