雇用形態とは?種類や必要な社会保険、変更手続きや注意点について解説

published公開日:2024.08.02
雇用形態とは?種類や必要な社会保険、変更手続きや注意点について解説
目次

雇用形態とは、企業が労働者を雇う際の契約形態です。正社員、契約社員、パートタイム労働者、派遣社員など、最近では多様な雇用形態が混在する職場が増えてきました。企業が多様な人材を効果的に活用するには、適切な労務管理や公正な待遇の実現を図る必要があります。

本コラムでは、雇用形態についてわかりやすく解説します。雇用形態の種類や必要な社会保険、雇用形態変更の手続き、注意点などについて理解を進めていきましょう。

雇用形態とは

雇用形態とは、企業が労働者を雇う際の契約形態です。具体的な雇用形態の種類や名称は、雇用側(企業)がそれぞれに決めた定義による場合も多く、その労働条件は企業によって異なります。

まずは雇用契約の基本に加えて、正規雇用と非正規雇用、直接雇用と間接雇用といった雇用形態の大きな区分について解説していきます。

雇用契約とは

雇用契約とは、企業と労働者の間で交わされる労働に関する契約です。その際に用いられる文書が雇用契約書や労働条件通知書であり、両者を一体化した「労働条件通知書兼雇用契約書」もよく使われます。

雇用契約時には、契約期間や勤務内容、賃金、勤務時間などの労働条件を労働者に示さなければなりません(労働基準法第15条1項)。この規定に関連して、労働基準法施行規則第5条は、以下の労働条件を必ず書面で明示することを義務付けています。

  • 労働契約の期間
  • 期間の定めのある労働契約の場合、契約を更新する場合の基準
  • 就業の場所と従事すべき業務とその変更の範囲
  • 労働時間、休憩、休日
  • 賃金の決定、計算方法、支払いの方法
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

そのため、新しい人材を雇用する際は、こうした条件をあらかじめ検討・確認しておくことが大切です。

正規雇用と非正規雇用

雇用形態の例としてよく見られる「正社員」や「アルバイト」といった呼び方は、法律で明確に定義されているわけではありません。ただ、契約期間や責任の範囲などから、一般的には正社員を正規雇用、それ以外を非正規雇用に大別することができます。

正規雇用とは、一般に「正社員」と呼ばれる社員として、企業が従業員を長期的に雇用する形態を指します。正規雇用は通常、定年までの無期限契約です。長期間にわたって働き続けることが前提となるため、責任が大きな仕事を任されることが多く、企業の中核としての役割が期待されるでしょう。

一方、非正規雇用とは、正規雇用以外の雇用形態を指します。非正規雇用の具体的な形態は、アルバイト、パートタイム、派遣社員、契約社員、嘱託社員など多岐にわたります。

非正規雇用は正規雇用と異なり、通常、期間の定めがある有期雇用契約となります。契約期間終了後にも引き続き働いてもらうには、契約の更新が必要です。

直接雇用と間接雇用

雇用形態には、前述の正規雇用・非正規雇用という区分のほかに、直接雇用・間接雇用という区分もあります。

直接雇用とは、企業が労働者と直接雇用契約を結んで雇い入れる形態です。正規雇用の正社員や、非正規雇用の契約社員、パートタイム、アルバイトなどの雇用形態が、これに該当します。労働者は雇い主である企業から直接指示を受け、業務を遂行します。

一方、間接雇用とは、直接雇用以外の雇用形態を指します。間接雇用の代表例は派遣社員であり、派遣会社などが雇った労働者に来てもらい、自社の業務に従事してもらうものです。この場合、労働者自身は派遣会社(派遣元企業)と雇用契約を結び、実際の業務は別の企業(派遣先企業)で指示を受けながら行うという三者関係に特徴があります。

雇用形態の種類

ここまでは正規雇用と非正規雇用、直接雇用と間接雇用という、雇用形態の区分について見てきました。

非正規雇用と一口に言っても、その中には契約社員やパート・アルバイト、派遣社員などが含まれ、直接雇用の中にも正社員や契約社員やパート・アルバイトなどが含まれます。このように、雇用形態には実に様々な種類が含まれていることがわかるでしょう。

そこで、本項では改めて正社員、契約社員、パート・アルバイト、派遣社員といった雇用形態の種類とそれぞれの特徴を解説します。このほか、働き方の実態によっては雇用と見なされる可能性がある業務委託についても、ポイントをチェックしていきましょう。

正社員

前述の通り、正社員とは、企業と無期限の雇用契約を直接結ぶ「正規雇用」の従業員です。従業員にとって雇用の安定性が高く、長期間にわたって働き続けることが可能であり、経済的な不安が少なくなります。一方で、業績目標の達成やプロジェクトの成功に対する責任が伴います。

かつては、正社員といえば1日8時間のフルタイム勤務が基本でしたが、働き方の多様化により、近年では短時間正社員制度を導入する企業も増えてきました。

短時間正社員とは、通常の正社員と同様に無期限の雇用契約を結びますが、労働時間が通常の正社員よりも短い雇用形態です。例えば、1日6時間勤務や週3日勤務といった具合に、1日の労働時間や週の労働日数が通常の正社員よりも短く設定されます。

ライフスタイルやライフステージに応じた多様な働き方を実現できるとして、厚生労働省も短時間正社員制度の導入・定着を支援しています。

契約社員

契約社員とは、原則として期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)を締結して働く従業員です。正社員との最大の違いは、雇用期間があらかじめ決められており、その期間が終了すると契約の更新が必要となる点です。

契約社員の契約期間には原則3年という上限があります(高度な専門知識をもつ人や60歳以上の人の上限は5年)。

ただし、有期雇用契約の従業員であっても、同じ使用者のもとで働いた期間が通算5年を超え、かつ1回以上の契約更新を経ている場合は、期限のない雇用契約への転換(無期転換)を申し込むことができます。労働者から無期転換の申し込みがあった場合、原則企業はこれを拒否することはできず、無期雇用契約に転換する義務があります。

参考:厚生労働省「無期転換ルールについて」

パート・アルバイト

パート・アルバイトは、労働時間が短く、柔軟な働き方ができる非正規の雇用形態です。パートとアルバイトに法律上の違いはありません。法律では、両者とも「パートタイム労働者」と呼ばれます。

パート・アルバイトの特徴は、契約社員と同様、期間の定めのある雇用契約を結んで働く従業員であることです。給与は、1時間あたりの報酬額を定める時給制が一般的です。

先ほど述べた「無期転換ルール」は、パート・アルバイトの従業員にも適用されます。すなわち、同じ使用者のもとで働いた期間が5年を超え、かつ1回以上の契約更新を経ているパートタイム労働者には、無期転換を申し込む権利が発生するということです。無期転換の申し込みがあった場合、企業は無期雇用契約に転換する必要があります。

また、パートタイム労働者を雇用する場合、使用者は、パートタイム・有期雇用労働法に基づき、公正な待遇の確保や正社員への転換などに取り組むことが義務付けられています。

参考:厚生労働省「パートタイム労働者、有期雇用労働者の雇用管理の改善のために」

派遣社員

派遣社員とは、労働者が派遣会社と雇用契約を結んだうえで、ほかの企業(派遣先)に一定期間派遣されて働く雇用形態です。当該労働者の雇用主は派遣会社(派遣元)ですが、その労働者への業務に関する指示を行う権利(指揮命令権)は派遣先の企業にあるという、やや複雑な働き方になります。

労働者派遣については、「労働者派遣法」によって、様々なルールが設けられています。例えば、派遣先の同一部署で働けるのは原則3年までといった就業期間に関する制限や、派遣社員にさせることのできない業務(派遣禁止業務)などの規定です。

参考:厚生労働省「労働者派遣法」

業務委託(請負、個人事業主、自営業、フリーランス、自営型テレワーカー)

自社の業務を外注する際に使われることの多い「業務委託」は、労働者と雇用契約を結ぶものではありません。そのため、本コラムで扱う雇用形態とは別の分類となります。

業務委託で働く人は「社員」ではなく、個人事業主、自営業、フリーランス、自営型テレワーカーといった名称で呼ばれています。

業務委託と雇用契約の違いは、委託元の企業が業務の指揮命令権を持っているか否かです。業務委託契約では、受注側に対して、企業は業務の場所や時間、仕事の進め方などを逐一指示することはできません。こうした指示を行っている場合、「その実態は雇用関係である」と見なされる可能性があります。

業務委託契約をしていても、その働き方の実態が雇用契約を結んだ「労働者」であると判断されれば、受注者は労働基準法の適用を受け、雇用関係にある従業員のように社会保険への加入が必要になる可能性があります。

雇用形態による社会保険の加入条件

正規社員でも非正規社員でも、条件を満たしていれば社会保険に加入させなければなりません。社会保険とは、企業が従業員に加入させる労災保険、雇用保険、健康保険、介護保険、厚生年金保険の総称です。社会保険は、雇用形態や勤務時間・収入によって加入条件が異なります。

そこで、正規雇用(正社員)、非正規直接雇用(契約社員、パート・アルバイト)、非正規間接雇用(派遣社員)、業務委託に関して、社会保険の加入条件も見ていきましょう。

正規雇用(正社員)

正規雇用(正社員)の従業員については、原則、企業は全ての社会保険に加入させなければなりません。

社会保険は労働保険(労災保険、雇用保険)と狭義の社会保険(健康保険、介護保険、厚生年金保険)に分類されます。

労働保険(労災保険、雇用保険)では、原則として1名でも労働者を雇っていれば、法律上加入の義務がある「適用事業」となります。ただし、個人経営の農林水産業で常用労働者数が5名未満の事業所など、一部の事業については、当分の間、労災保険の適用が任意の「暫定任意適用事業」とされます。暫定任意適用事業の場合、加入するかどうかは、事業主または労働者(労災保険は過半数、雇用保険は2分の1以上)の意思に任されます。

狭義の社会保険(健康保険、介護保険、厚生年金保険)では、次のいずれかに該当する事業所が、法律上加入の義務がある「強制適用事業所」となります。

  • 法人の事業所
  • 常時5名以上の労働者を雇用している適用業種の個人事業所

強制適用事業所以外の事業所は、被保険者となるべき者のうち2分の1以上の同意を得ることで、社会保険の適用事業所になることも可能です。

参考:厚生労働省 群馬労働局「労働保険関係の成立と対象者」

参考:日本年金機構「適用事業所と被保険者」

非正規直接雇用(契約社員、パート・アルバイト)

非正規直接雇用の従業員の場合、社会保険の制度ごとに加入条件が異なります。

健康保険・厚生年金保険

契約社員・パート・アルバイトの健康保険と厚生年金保険については、原則として、以下の条件(1)または(2)を満たす場合に、加入させる必要があります。

  1. (1)1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が、正社員の4分の3以上
  2. (2)以下全ての条件を満たす従業員(短時間労働者として加入)
    1. ①従業員数101名以上(2024年10月以降は51名以上)の企業に勤務
    2. ②1週間の所定労働時間が20時間以上
    3. ③1カ月の賃金が8万8,000円以上
    4. ④2カ月を超えて雇用される見込みがある
    5. ⑤学生ではない

労災保険(労働者災害補償保険)

労災保険は、従業員の雇用形態にかかわらず、1名でも従業員を雇用している企業は加入する必要があります。

加入者は企業であり、補償の対象者は、パート・アルバイトを含む全ての従業員です。

雇用保険

契約社員・パート・アルバイトの雇用保険は、原則、以下3つの加入条件を満たす場合に加入させなければなりません。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
  • 31日以上の雇用見込みがある
  • 学生ではない

雇用保険は労災保険と一体的に扱われることがほとんどです。しかし、加入者が企業か従業員かという違いから、加入条件にも違いが見られますのでご注意ください。

参考:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」

派遣社員

派遣社員については、雇用契約を締結した人材派遣会社(派遣元企業)で社会保険に加入します。これは派遣元企業の義務となっており、当然、社会保険料も派遣元が負担します。

一方で、派遣社員を受け入れる派遣先企業には、社会保険の加入確認義務があります。派遣社員に被保険者証のコピーなどの書類を提出してもらい、社会保険の被保険者であることを確認しましょう。その後、確認したことを「派遣先管理台帳」に記載します。

当該派遣社員が社会保険の被保険者に該当するにもかかわらず、正当な理由なく社会保険に加入していないケースでは、派遣先が派遣元に対して、当該派遣社員の社会保険加入または派遣社員の入れ替えを要求するなどの対応を検討しなければなりません。

参考:厚生労働省「派遣先の皆様へ」

参考:厚生労働省「派遣相談 社会保険の加入は派遣元まかせでよいですか」

業務委託

業務委託で働く人については、そもそも雇用関係にはありません。そのため、委託元企業が社会保険の手続きを行う必要もありません。フリーランスであれば、個人で国民年金や国民健康保険に加入する形になります。

ただし、委託元企業の指揮監督下で働いているなど、雇用関係のある従業員と同様の勤務実態がある場合は、注意が必要です。先述の通り、たとえ業務委託という形式をとっていても、実態として当該フリーランスなどが「労働者」であると見なされれば、委託元企業で社会保険に加入させなければなりません。

参考:厚生労働省「社会保険(厚生年金保険・健康保険)への加入手続はお済みですか︖」

雇用形態変更の手続き

多様な雇用形態が混在する昨今、ライフステージや健康状態、ライフスタイルの変化などにより、従業員から雇用形態の変更を求められることがあるでしょう。また、経営状態の変化や経営方針の変更といった会社側の都合により、従業員の雇用形態を変更したいと考えることもあるかもしれません。

雇用形態を変更するには、従業員に労働条件の変更内容を説明し、同意を得ることが大切です。従業員から同意を得られたら、新たな雇用契約を締結しましょう。

以下では、それぞれの雇用形態から別の雇用形態に変更する際の手続きについて解説します。

パート・アルバイト・契約社員から正社員(正規雇用)に変更する場合

パート・アルバイトや契約社員から正社員(正規雇用)に雇用形態を変更する場合は、新たな雇用契約を結び直す必要があります。勤務時間・勤務日数・給与などの労働条件も変更となるのであれば、社会保険に関わる様々な手続きが求められる可能性もあります。どのような手続きがあり得るのか、事前にチェックしておきましょう。

社会保険へ加入する

パート・アルバイト・契約社員の頃に社会保険(雇用保険、健康保険、介護保険、厚生年金保険)に未加入だった場合、正社員として雇用する際は、社会保険に加入させる必要があります。

社会保険の被保険者区分を変更する

パート・アルバイト・契約社員の頃に社会保険へ加入済みであっても、新しい労働条件で勤務時間や勤務日数が増える場合、被保険者区分を変更しなければならないかもしれません。

例えば健康保険と厚生年金保険において、1週間の所定労働時間または1カ月の所定労働日数が正社員の4分の3未満である「短時間労働者」から正社員になる場合は、「被保険者区分変更届」の提出が必要です。

「被保険者区分変更届」は、雇用形態の変更があってから5日以内に、管轄の日本年金機構(事務センターまたは年金事務所)へ提出しましょう。

標準報酬月額随時改定の手続きを行う

給与が大きく変わる場合は、厚生年金保険料や健康保険料を決める「標準報酬月額」を改定する「随時改定」の手続きが必要となる可能性があります。

随時改定の手続きが求められるのは、継続した3カ月の報酬月額の平均と、それまでの報酬月額を比べて、標準報酬月額等級に2等級以上の差があるケースです。その場合、雇用形態変更後の4カ月目から新しい社会保険料を支払うことになります。

雇用形態を変更する従業員の変更前・変更後の給与額をもとに、随時改定の対象となるか否かを忘れずに確認しましょう。

参考:日本年金機構「随時改定(月額変更届)」

正社員(正規雇用)からパート・アルバイトや契約社員に変更する場合

反対に、正社員(正規雇用)からパート・アルバイト・契約社員に変更する場合も、新たな雇用契約を結び直します。

正規から非正規の雇用形態へ変更するケースでは、正社員の頃より勤務時間や勤務日数が減り、社会保険の加入条件を満たさなくなる場合があるでしょう。

社会保険の加入条件を満たす場合

正社員だった従業員の雇用形態をパート・アルバイト・契約社員に変更するケースでは、変更後も社会保険の加入条件を満たしている限り、当該従業員はそのまま継続して加入となります。

ただし、継続加入となる場合でも、一定の手続きが求められることがあります。それは、勤務時間や勤務日数の減少により「短時間労働者」となる場合です。

当該労働者が短時間労働者になるケースでは、「被保険者区分変更届」を提出しなければなりません。雇用形態の変更があってから5日以内に、管轄の日本年金機構(事務センターまたは年金事務所)へ届け出ましょう。

参考:日本年金機構「一般被保険者が短時間労働者になったとき/短時間労働者が一般被保険者になったとき」

社会保険の加入条件から外れる場合

パート・アルバイト・契約社員に変更することで社会保険の加入条件から外れる場合は、社会保険の被保険者資格を喪失します。

雇用保険については、1週間の所定労働時間が20時間未満となる場合または31日以上引き続いて雇用されることが見込まれない場合に、被保険者資格を喪失します。雇用形態を変更してから10日以内に管轄のハローワークへ「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出しましょう。

ただし、所定労働時間の変更が6カ月以内の臨時的なものである場合は、雇用保険の資格喪失の手続きは必要ありません。

健康保険と厚生年金保険については、「短時間労働者」にも「一般労働者」にも該当しなくなった場合に、被保険者資格の喪失となります。雇用形態を変更してから5日以内に、管轄の日本年金機構(事務センターまたは年金事務所)へ「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届/厚生年金保険70歳以上被用者不該当届」を提出しましょう。

標準報酬月額の随時改定

給与が大きく下がる場合は、前述した「随時改定」の対象となります。随時改定の手続きが必要な場合は、忘れずに行いましょう。

ここで要注意なのが、パート・アルバイトになり給与が下がっても、最初の3カ月間は正社員の頃と同じ社会保険料を支払わなければならないことです。これは、当該従業員の家計の負担になる恐れがあります。雇用形態変更の際は、従業員にしっかりと説明し、理解を得ておきましょう。

参考:ハローワークインターネットサービス「雇用保険被保険者資格喪失届」

参考:日本年金機構「従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き」

派遣社員を正社員に変更する場合

派遣社員として働いている従業員を正社員に迎え入れる場合は、一般的に派遣期間終了後に雇用契約を結びます。契約締結にあたり、正社員登用後の労働条件を当該派遣社員へ提示し、同意を得ましょう。

派遣期間中に派遣社員を直接雇用に切り替えたい場合は、派遣元との契約内容をよくご確認ください。なぜなら、禁止する旨の条項が派遣契約に含まれる場合があるからです。

こうした正社員登用に関する懸念を回避するには、職業紹介を兼ねた派遣契約である「紹介予定派遣」を活用するとよいでしょう。紹介予定派遣とは、派遣会社に紹介手数料を支払うことで、派遣期間中でも派遣社員を直接雇用に切り替えられるものです。

なお、派遣期間終了後は、派遣元企業(派遣会社)は派遣社員の直接雇用契約を制限してはいけないという法律があります(労働者派遣法第33条)。そのため、派遣期間終了後であれば、いずれの場合も問題なく直接雇用に切り替えられます。

参考:厚生労働省「派遣先の皆様へ」

正社員・パート・アルバイト・契約社員を派遣社員に変更する場合

直接雇用していた従業員を派遣社員として迎える場合は、さらに注意が必要です。60歳以上の定年退職者を除き、正社員やパート・アルバイト、契約社員といった直接雇用の従業員は、離職から1年を経過するまでは派遣社員として自社に迎えることができません(労働者派遣法第40条の9)。

この場合の派遣先は「事業所単位」ではなく「事業者単位」で捉えます。同じ企業の別部門や別支店で勤務することも禁止されていますので、注意しましょう。

1年を経過したあとは、派遣元企業と派遣契約を締結したうえで派遣労働者として迎えることができます。当該派遣社員が社会保険加入条件を満たす場合は、社会保険にきちんと加入しているかどうかも派遣元にご確認ください。

参考:厚生労働省「離職後1年以内の労働者派遣の禁止について」

正社員から業務委託に変更する場合

自社の従業員だった者が離職するなどの事情により、直接雇用の正社員から業務委託契約に変更となる場合もあるでしょう。この場合、企業側は離職時の各種手続き(社会保険の資格喪失や離職票の交付、積立金など金品の返還など)を行ったあと、新たに業務委託契約を締結します。

社会保険については、元従業員が個人事業主となった場合は個人での加入となり、ほかの事業所などに所属している場合は、その所属先が判断し、必要に応じて加入します。

なお、業務委託契約では、労働条件や業務の進め方がそれまでの雇用と大きく変わります。具体的には、以下の3点です。

【業務委託契約の特徴】

  • 業務委託契約では、契約した範囲の業務のみを行う
  • 労働基準法による保護(労働時間の上限、最低賃金や割増賃金など賃金支払いに関する規定、休日に関する規定、同一労働同一賃金に関する規定など)が適用されない
  • 業務の進め方や働く場所・時間などについて、企業側に指揮命令権はない

業務範囲や報酬体系、労働時間以外に、マネジメント面でも違いがありますので、十分にご注意ください。

マネジメント面では、「雇用形態の種類」で述べた通り、企業側に業務の指揮命令権がない点が特に重要です。業務委託契約を結んだ後、正社員の頃と同じように上司が業務指示のようなマネジメントを行うと、その程度によっては「雇用関係にある」と判断され、改めて雇用契約の締結や社会保険の加入が求められる可能性があります。

従業員を正社員から業務委託契約に変更する際は、当該従業員および業務委託締結後に担当者となる自社の従業員に対して、これらの事項を十分に説明し、理解を得ましょう。

参考:厚生労働省「第4章 多様な働き方」

雇用形態を変更する際のよくある疑問

ここまでは様々な雇用形態の種類、ある雇用形態から別の雇用形態に変更する際の手続きなどを見てきました。

最後に、従業員の雇用形態を変更する際によく発生する3つの疑問、すなわち有給・退職金・ボーナスの有無について解説します。

有給はどうなる?

有給(年次有給休暇)は、正社員、パートタイム労働者など雇用形態の区分に関係なく、一定の要件を満たした全ての労働者に対して与えなければなりません(労働基準法第39条)。

有給の付与日数は、継続勤務期間をもとに算出されます。ただし、正社員に対する付与日数と、週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者に対する付与日数(比例付与)には異なる基準が適用され、正社員のほうがより多くの日数を付与されます。

付与日数の算出に用いられる「継続勤務期間」は、同じ職場での在籍期間を意味します。例えば、パート従業員を正社員に切り替えた場合や、定年退職した者を引き続き嘱託などで再雇用するような場合であっても、実際に労働関係が継続している限り、「継続勤務期間」として通算しなければなりません(年次有給休暇の継続勤務に関する行政通達(昭.63.3.14 基発150号))。

一方、派遣社員を派遣期間終了後に派遣先企業で直接雇用する場合、直接雇用契約の前は派遣元(派遣会社)と当該派遣社員が雇用関係にあり、直接雇用契約後は派遣先企業と元派遣社員との雇用関係が開始されることになります。そのため、派遣社員として働いていた期間(派遣会社での在籍期間)については、派遣先における継続勤務として扱わなくても法律上は問題ありません。

もちろん、派遣社員のモチベーションアップのために、自社独自の規定として、入社後すぐに一定の有給休暇を付与したり、派遣社員としての期間を在籍期間に通算したりする取り扱いも可能です。

年次有給休暇の付与日数は、「権利発生日」の身分によって判断します。

例えば、入社時は比例付与の対象者(短時間労働者)であったとしても、6カ月経過日(権利発生日)にフルタイム正社員になっていれば、10日分の有給休暇を付与しなければなりません。一方、6カ月経過日(権利発生日)もそのまま比例付与の対象者(短時間労働者)であった場合、年度の途中(その後1年以内)にフルタイム正社員になったとしても、付与日数を増やす必要はありません。

同様のことが反対の例でもいえます。例えば、年度の途中で正社員からパートへ雇用形態の変更を行ったとしても、一度付与した年次有給休暇は取り消せません。

参考:厚生労働省「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています」

退職金はどうなる?

「正社員からパートへ」など退職金支給対象である従業員の雇用形態を変更するケースでは、雇用契約が一度終了となり、当該従業員も退職扱いとなります。このとき、会社の就業規則に退職金の規定があるなら、それにしたがって退職金を支給しなければなりません。

退職金支給の有無や支給額自体は、会社が独自に定められるものです。しかし、就業規則に退職金を支給すると記載している場合、退職金の支払義務が発生します。

雇用を転換する際は、就業規則における退職金規程も忘れずに確認しましょう。

ボーナスはどうなる?

ボーナス(賞与)についても、退職金と同様、労働契約や就業規則などにおいて支給の確約、支給額や支給条件の明示をしている場合は、必ずその規定にしたがって支払わなければなりません。

賞与の支払い要件は会社が任意で設定できます。多くの企業では、「賞与支給日に在籍している従業員のみに、賞与を支給する」という支給日在籍要件を定めているでしょう。

支給日在籍要件を定めるメリットは、「賞与査定期間中は正社員として在籍していたが、賞与支給日前にパートに雇用形態を変更した従業員にも、正社員としての賞与を支払うべきか?」というトラブルを避けられることです。この場合、合理的な理由によってパートで働く従業員への賞与支給がないのであれば、元正社員だった当該従業員にも賞与を支払う必要はないでしょう。

ただし、決算賞与のように損金算入を目的として支給日在籍要件以外の要件を設定している場合は、正社員からパートになった従業員にも賞与を支払わなければならないケースがあります。