同一労働同一賃金とは?企業におけるメリット・デメリットや注意点

published公開日:2024.07.05
同一労働同一賃金とは?企業におけるメリット・デメリットや注意点
目次

「パートタイム・有期雇用労働法」および「労働契約法」の改正により、2020年4月1日から大企業に対して、2021年4月1日から中小企業に対して、同一労働同一賃金の適用が始まりました。企業はこれらの法律に基づいて、不合理な待遇差を是正するための措置を講じる必要があります。

本コラムでは、同一労働同一賃金に関する法律や、導入のメリットやデメリット、導入する際に注意するポイントについて解説します。また、不合理な待遇差と合理的な待遇差についても、具体例を用いて見ていきましょう。

同一労働同一賃金とは

同一労働同一賃金とは、「同一の仕事をしている労働者には、その雇用形態にかかわらず同一の賃金を支払うべきである」という原則です。この原則に基づき、企業は自社で働く正社員と、契約社員・派遣社員・パート・アルバイトなどの非正規社員との間の不合理な待遇差を解消しなければなりません。

はじめに、同一労働同一賃金を規定する法律を確認しましょう。

同一労働同一賃金に関する法律

同一労働同一賃金の原則は、パートタイム・有期雇用労働法第8条及び第9条、労働者派遣法第30条の3及び第30条の4で定められています。これらの法律では、正社員と短時間・有期雇用労働者の職務内容や責任の範囲、配置の変更の範囲などが同じ場合、待遇に差をつけることを禁止しています。

同一労働同一賃金の目的は、賃金格差を縮小し、公平な労働環境を作ることです。不合理な待遇差の解消の取り組みを通じて、人生のステージにおいてどういった雇用形態を選択しても不公平感のない処遇を受けられる人事制度を整えることで、近年深刻になっている人手不足の解決を目指します。

パートタイム・有期雇用労働法における同一労働同一賃金の規定

「パートタイム・有期雇用労働法」は、「働き方改革実行計画」に基づいて同一労働同一賃金の実現を図るために、従来の「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」を改正し、現在の名称となりました。令和2年(2020年)4月に大企業を対象に適用され、令和3年(2021年)4月には中小企業にも適用されました。

パートタイム・有期雇用労働法第8条では正社員と非正規社員の待遇について不合理と認められる相違を設けることを禁止するとともに、第9条ではパートタイム・有期雇用労働者であることを理由として差別的に取り扱うことを禁止しています。

参考:厚生労働省「パートタイム労働者、有期雇用労働者の雇用管理の改善のために」

労働者派遣法における同一労働同一賃金の規定

派遣先の正規雇用労働者と派遣労働者との不合理な待遇差をなくすため、労働者派遣法においても、令和2年(2020年)4月の改正にて、同一労働同一賃金に関する内容が盛り込まれました。

労働者派遣法第30条の3と第30条の4では、派遣元事業主は「派遣先均衡・均等法式」もしくは「労使協定方式」によって、派遣労働者の公正な待遇を確保しなければならない旨を定めています。

参考:厚生労働省「派遣労働者の同一労働同一賃金について」

同一労働同一賃金ガイドラインとは

同一労働同一賃金の実現に向け、厚生労働省は平成30年(2018年)に「同一労働同一賃金ガイドライン」(厚生労働省告示第430号)を策定し、正社員と非正規社員の待遇差について、どういった待遇差が不合理なのかを具体的に提示しました。

同ガイドラインでは、短時間労働者や有期雇用労働者、派遣労働者などの基本給・賞与・各種手当・福利厚生などについて、不合理とされない待遇差と不合理とされる待遇差の例を確認できます。

参考:厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」

同一労働同一賃金のメリット

同一労働同一賃金の導入には、企業にとって多くのメリットがあります。ここでは、自社に同一労働同一賃金を導入する際のメリットを紹介します。

雇用形態に関係なく活躍できる

同一労働同一賃金の実現により、非正規社員の仕事を正社員と同様の基準で評価できるようになります。公平な待遇は、非正規社員のモチベーションを高め、仕事や企業に対する満足度も高まるでしょう。

また業績や能力が正当に評価されるため、より質の高い仕事や生産性の改善も期待できます。

このように非正規の従業員がより活躍できる企業風土、職場環境を実現することは、企業の成長につながります。

人材不足を解消できる

同一労働同一賃金の導入により、労働に対する公平な評価が実現することで、従業員の定着率向上や離職率低下を期待できます。

これまで、パート・アルバイトなど非正規で働く労働者は、正社員と同様の勤務時間や業務内容であっても、正社員より低い賃金で働かざるを得ない現状がありました。その結果、生活を安定させるために、長時間の労働が必要な労働者も多く存在しました。

しかし、同一労働同一賃金によって非正規の従業員も能力や経験、職務内容などに応じた公平な待遇を受けられる環境が実現すれば、より安定した収入を得やすくなります。

また、スキルがあっても長時間働くことが困難な子育て中や介護中の労働者、病気やケガ、障害などでフルタイム勤務が難しい労働者であっても、雇用形態にかかわらず働きぶりが公正に評価されます。そのため、雇用形態や就労時間を調整しながら、自身に適した働き方で働き続けてくれるでしょう。

多様な働き方ができることで、求職者の応募が増えるだけでなく、有能な従業員が雇用形態に基づく待遇差を理由に離職することを防ぐ効果も期待できます。

多くの企業で重要課題に位置づけられている人材不足ですが、同一労働同一賃金の実現によって、これを解決できるかもしれないのです。

企業イメージが向上する

働き方改革や多様な人材の活躍は、企業全体の社会的評価を向上させます。社会的評価が向上すれば、自社の「ファン」が増え、業績向上につながるでしょう。

こうした企業は求職者にとっても魅力的であり、従業員としても「長く働きたい」「より業績に貢献したい」と感じるものです。

同一労働同一賃金の実現は、長期的に見ても企業価値を向上させる重要な戦略といえます。

同一労働同一賃金のデメリット

同一労働同一賃金には多くのメリットがある一方、実施や運用に伴うデメリットや課題も存在します。適切な対策を講じられるよう、同一労働同一賃金の2つのデメリットもおさえておきましょう。

人件費が増加する

非正規社員の待遇を正社員と同等にすることで、人件費が増加し、企業のコスト負担が大きくなる可能性があります。

同一労働同一賃金ガイドラインでは、給与や賞与はもちろんのこと、各種手当、福利厚生、教育研修の実施などでも公平な待遇を求めています。そのため、非正規社員の待遇改善に応じたコストが新たにかかるでしょう。

人件費増加対策としては、キャリアアップ助成金の活用が考えられます。これは、非正規社員の正社員登用や処遇改善を実施した際に助成金が支給される制度です。当面の資金に余裕がない中小企業にとって、大きな助けとなる助成金として期待できるでしょう。

人事制度や給与体系を見直し、再構築する必要がある

同一労働同一賃金を導入するには、人事制度や給与体系を見直し、再構築する必要があります。これには、どうしても多くの手間やコストがかかってしまいます。

同一労働同一賃金の導入手順については、具体的な手順が、厚生労働省による「パートタイム・有期雇⽤労働法対応のための取組⼿順書」を活用すると便利です。この手順書では以下のような流れで、同一労働同一賃金の導入を進めています。

【同一労働同一賃金の導入手順】

  1. (1)労働者の雇用形態を確認する

    社内で短時間労働者や有期雇労働者を雇用しているか確認します。

  2. (2)待遇の状況を確認する

    短時間労働者や有期雇労働者の区分ごとに賃金や福利厚生などの待遇について、
    正社員との違いがあるかを確認します。

  3. (3)待遇に違いがある場合、違いを設けている理由を確認する

    待遇の違いが、働き方や役割などの違いに見合った「不合理ではない」ものと言えるか確認します。

  4. (4)手順2と3で、待遇に違いがあった場合、その違いが「不合理ではない」ことを説明できるように整理する

    労働者に説明できるように、あらかじめ内容を文書にまとめます

  5. (5)「法違反」が疑われる状況からの脱出を目指す

    待遇の違いが「不合理ではない」とは言い難い場合は、改善に向けての検討を行います。

  6. (6)改善計画を立てて取り組む

    改善の必要がある場合は、労働者の意見も聞きながら、早急に取り組みます。

同一労働同一賃金の導入には、現状の見直しや分析、改善計画など多くの工程があります。自社だけでの制度改革が難しい場合、厚生労働省によって47都道府県に設置されている「働き方改革推進支援センター」の利用を検討するのもよいでしょう。

参考:厚生労働省「パートタイム・有期雇⽤労働法対応のための取組⼿順書」

参考:厚生労働省「働き方改革推進支援センターのご案内」

合理的な待遇差・不合理な待遇差の例

制度改革には、どういった待遇差が不合理で、どういった待遇差が不合理ではないかを理解しなければなりません。そこで、本項では厚生労働省のガイドラインで示された例をもとに、両者の具体例を見ていきましょう。

参考:厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」

給与における待遇差の例

給与(基本給)は、労働者の能力や経験、業績などに応じて支給されるものです。具体的な基準は会社によって異なりますが、例えば短時間・有期雇用労働者が、正社員である労働者と同一の能力や経験をもつ場合は、その能力・経験に関する同じ基準で給与額を決定しなければなりません。

これは、雇用するときだけでなく、その後の昇給基準についても同様です。正社員と同じ勤続年数で、同じように能力が向上した場合は、正社員と同じように昇給させましょう。

給与に関する合理的な待遇差と不合理な待遇差の例は、下表の通りです。

【合理的な待遇差の例】

業務内容
  • 複雑な業務を担当している正社員の基本給を高く、単純な業務を担当している非正規社員の基本給を低くする
  • スキル・経験
  • 専門知識を要する仕事をしている正社員の基本給を高く、専門知識が不要な仕事をしている非正規社員の基本給を低くする
  • 長年の経験を持つベテラン社員の基本給を、新入社員より高くする
  • 業績
  • 高い業績を上げた社員の昇給額を、通常の業績の社員より高くする
  • 労働契約の内容
  • 転勤や部署異動の可能性があるキャリアコースに所属する社員の基本給を高く、転勤や部署異動のないキャリアコースに所属する社員の基本給を低くする
  • 土日祝に出勤の必要がある就業形態の社員の基本給を高く、土日祝は確実に休みが取れる就業形態の社員の基本給を低くする
  • 【不合理な待遇差の例】

    業務内容
  • 同じ業務内容で同じ責任を負っているにもかかわらず、正社員と非正規社員の基本給に差がある
  • スキル・経験
  • 正社員の方が非正規社員よりも業務経験が豊富であることを理由として正社員の基本給をより高く設定しているが、その業務経験は当該正社員の現在の業務とは関係ないものである
  • 勤続年数に応じて上乗せ支給される基本給に関して、有期雇用の契約社員については契約更新時に勤続年数をリセットして計算している
  • 業績
  • 一定の業績を上げた場合に基本給が上乗せされる制度を正社員に対してのみ適用し、非正規社員に対しては適用しない
  • つまり、正規の社員でも非正規の社員でも、基本給や昇給の決定に関わる基準は共通でなければならないということです。

    賞与における待遇差の例

    賞与についても、非正規社員が正社員と同一の貢献を行った場合は、その貢献に対して同じ基準で賞与額を決定しなければなりません。

    賞与に関する合理的な待遇差と不合理な待遇差の例は、下表の通りです。

    【合理的な待遇差の例】

    業績
  • 高い業績を上げた社員が、通常の業績の社員より高い賞与を受ける
  • 【不合理な待遇差の例】

    賞与支給基準
  • 正社員には基本的に全員に賞与を支給するが、非正規社員には賞与を支給していない
  • 業績
  • 同じ業績を上げたにもかかわらず、正社員への賞与は高く、非正規社員の賞与は低い
  • 賞与も給与と同様に、正社員でも非正規社員でも、有無や金額の決定に関わる基準は共通でなければなりません。

    手当における待遇差の例

    役職手当、住宅手当、通勤手当、深夜・休日労働手当など、通常の給与に付加する様々な手当を設定している会社は多いでしょう。こういった手当についても、正社員と非正規社員の支給基準は同じである必要があります。

    手当に関する合理的な待遇差と不合理な待遇差の例は、下表の通りです。

    【合理的な待遇差の例】

    追加手当
  • 夜間勤務や危険業務に従事する労働者が追加手当を受ける
  • 役職手当
  • 8時間フルタイム勤務の社員には満額、時短勤務の社員には労働時間に比例した金額(例えば4時間勤務の時短社員ならフルタイム社員の半額など)の役職手当を支給している
  • 通勤手当
  • 週4日以上勤務する従業員には、月額の定期券の金額に相当する額を支給しているが、勤務日数が週3日以下や、出勤日数が変動する従業員には、日額の交通費に相当する額を支給している
  • 【不合理な待遇差の例】

    手当支給基準 通勤手当や住宅手当など、各種手当が正社員にのみ支給され、同じ条件で働いている非正規社員には支給されなかったり、金額に差があったりする
    手当単価の設定
  • 非正規社員の深夜労働や休日出勤について、正社員の深夜労働や休日出勤よりも少ないことから、非正規社員の深夜手当や休日出勤手当の単価を正社員の単価より低く設定している
  • 業務内容や勤務時間、勤務地、居住地などによって手当に差が出ることは合理的とされますが、雇用形態のみを理由として手当に差が出てしまうことは不合理な待遇差であるとされます。

    福利厚生における待遇差の例

    正社員に利用させている食堂、休憩室、更衣室といった福利厚生施設は、非正規社員にも利用を認める必要があります。

    また、転勤者用社宅(転勤の有無などの要件が同一の場合)、慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給保障などについても、非正規社員についても正社員と同一の利用・付与を行わなければなりません。

    福利厚生に関する合理的な待遇差と不合理な待遇差の例は、下表の通りです。

    【合理的な待遇差の例】

    慶弔休暇
  • 慶弔によって仕事を休む際の対応について、週2日の勤務の短時間労働者に対しては、勤務日の振替での対応を基本としつつ、振替が困難な場合のみ慶弔休暇を付与している
  • 【不合理な待遇差の例】

    施設利用
  • 正社員のみが社員食堂や休憩室、更衣室、福利厚生施設を利用でき、非正規社員は利用できない
  • 社宅利用
  • 正社員が利用できる社宅を、非正規社員には利用を認めない
  • 病気休職制度
  • 正社員にある病気休職制度を、非正規社員には認めない
  • 福利厚生についても、非正規社員に対しても正社員と同様の利用を認める必要があります。

    教育訓練における待遇差の例

    職務に必要な技能・知識を習得するために実施する教育訓練も、雇用形態に関係なく、職務内容に応じて実施しなければなりません。

    教育訓練に関する合理的な待遇差と不合理な待遇差の例は、下表の通りです。

    【合理的な待遇差の例】

    訓練受講の機会
  • 広範な職務内容を担当する正社員には職務内容に応じた多様な教育訓練の機会を設け、担当する職務内容が限られている非正規社員には、担当する内容に応じた教育訓練の機会を設ける
  • 【不合理な待遇差の例】

    訓練受講の機会
  • 正社員のみが職務に関連する教育訓練を受けられ、非正規社員にはその機会が与えられない
  • 教育訓練についても、非正規社員が教育訓練の必要な業務を行う場合、正社員と同様に教育訓練を行わなければなりません。

    同一労働同一賃金導入の3つの注意点

    最後に、自社に同一労働同一賃金制度を導入する際の注意点をまとめて確認しておきましょう。

    1. 正社員と非正規雇用者の待遇差を合理的な内容に見直す

    まず、正社員と非正規社員の賃金や待遇の現状を把握し、不合理な待遇差がないか確認しましょう。確認の結果、正当な理由のない差異があれば、それを是正するための具体的な措置を講じます。

    ここで便利なツールのひとつが、厚生労働省による「パートタイム・有期雇⽤労働法対応のための取組⼿順書」。フローチャートやフォーマットにしたがって検討・記入を進めていくことで、自社の待遇差の中で合理的なものと不合理なものを洗い出すことができます。

    同一労働同一賃金ガイドラインに従った待遇を実現できているかチェックするには、「パートタイム・有期雇用労働法等対応状況チェックツール」もご活用ください。同チェックツールはWeb上で公開されています。

    参考:厚生労働省「パートタイム・有期雇⽤労働法対応のための取組⼿順書」

    参考:厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法等対応状況チェックツール」

    2. 不利益変更が発生しないか確認する

    不合理な待遇差を是正する際は、労働者にとっての不利益変更が発生しないように気をつけてください。

    不利益変更とは、労働条件が悪くなるような労働契約の変更を指します。不利益変更を行うには、原則として従業員の合意が必要であり、会社側が一方的に変更することはできません。合意が不要とされる場合でも、不利益の程度や変更の必要性などから見て、その変更が合理的なものと認められる必要があります。

    なお、同一労働同一賃金ガイドラインには「正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差を解消するにあたり、基本的に、正社員の待遇を引き下げることは望ましい対応とはいえない」という趣旨の記述があります。

    つまり、不合理な待遇差の是正は、正社員に対する待遇の引き下げではなく、非正規社員に対する待遇の引き上げによって実施しなければならないということです。

    3. 違反した場合の罰則はないが企業名公表はある

    現在、同一労働同一賃金を守らない企業への罰則は定められていません。

    しかし、同一労働同一賃金への違反が認められた場合、都道府県労働局長による助言や指導、勧告の対象になります。これを無視して改善を行わなければ、企業名が公表される可能性もあります。

    同一労働同一賃金に罰則規定はないとはいえ、違反を続ければ最終的に企業のイメージが大きくダウンしてしまうでしょう。

    手間やコストはかかりますが、関連する法律や同一労働同一賃金ガイドラインを遵守し、人事制度や社内体制を改革していきましょう。