厚生年金|加入条件や保険料、受給資格をわかりやすく解説
厚生年金とは、会社で働く人が加入する公的年金の制度です。加入期間や標準報酬額に応じて、受給でき、老後の生活を支えます。
本コラムでは、厚生年金制度の概要、国民年金との違い、加入条件、メリットとデメリット、受給資格や金額などについて解説します。
厚生年金とは
厚生年金とは、一般的な会社に勤めている人が加入する公的年金制度です。まずは、厚生年金の目的、国民年金との違い、厚生年金の種類について見ていきましょう。
厚生年金の目的
厚生年金は加入者が働けなくなったときに、家族の暮らしを支える目的があります。退職後、または、病気やケガにより働けなくなったとき、不慮の事故で亡くなった場合などに受給できます。
厚生年金と公的年金の違い
日本の公的年金には、会社員や公務員が加入する「厚生年金」と、20歳以上60歳未満のすべての人が加入する「国民年金」があります。厚生年金に加入している人は国民年金にも加入しているため、厚生年金は「2階建て」部分と呼ばれています。
2階部分 | 厚生年金 | ||
---|---|---|---|
1階部分 | 国民年金 | ||
第1号被保険者 自営業者など |
第2号被保険者 会社員・公務員など |
第3号被保険者 第2号被保険者に扶養されている配偶者 |
厚生年金の3つの種類
厚生年金には、老後の生活を支える老齢年金をはじめ、3つの種類があります。
老齢厚生年金
老齢厚生年金とは、65歳から受け取れる老齢年金のことです。一般的に厚生年金という場合は、この老齢厚生年金を指します。老齢厚生年金は老齢基礎年金(国民年金)に上乗せして支給されます。
障害厚生年金・障害手当金
障害厚生年金はケガや病気により障害を負い、仕事に制限ができた場合、現役世代でも受給できる年金です。
障害等級が1~3級の状態であると診断されると、支給の対象となります。身体的な障害だけでなく、ガンや糖尿病など長期療養が必要な病気や、精神疾患なども対象です。診察時点で該当しなくても、その後、症状が重くなり、該当するようになった場合は支給されます。
また、初診日から5年以内に症状が治り、障害厚生年金の基準より障害の程度が軽い場合は、障害手当金が一時金として支給されます。
*参照 厚生労働省|「国民年金法施行令別表 厚生年金保険法施行令別表第1及び第2」
*参照 政府広報オンライン|「障害年金の制度をご存じですか?がんや糖尿病など内部疾患のかたも対象です」
遺族厚生年金
遺族厚生年金は加入者が亡くなった際に、遺族が受給できる年金です。
受給者は年金加入者と生計を維持していた遺族で、優先順位は子のある配偶者または子、子のない配偶者、父母、孫、祖父母です。初回受け取りまでの手続きに3~4カ月要しますが、遺族厚生年金の支給開始日は年金加入者が亡くなった日の翌月からです。受給できる期間や年齢は、条件により異なります。
厚生年金の加入条件
ここでは、厚生年金の加入対象となる事業所や被保険者の条件について解説します。
加入対象となる事業所の条件
厚生年金保険は、事業所単位で加入します。事業所には、厚生年金に加入する義務がある「強制適用事業所」と、任意で厚生年金保険に加入する「任意適用事業所」の2つがあります。それぞれの要件を見ていきましょう。
厚生年金に加入義務がある「強制適用事業所」
厚生年金保険への加入が義務づけられている「強制適用事業所」とは、以下の条件に当てはまる事業所です。
- 株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)
- 常時5人以上の従業員を抱える個人事業所(農林水産業、サービス業など一部業種を除く)
また、2022年10月の制度改正により、法律・会計に関わる士業の個人事業所も常時5人以上の従業員を抱える場合、強制適用事業所となりました。
任意で厚生年金に加入できる「任意適用事業所」
強制適用事業所以外で、厚生年金保険の加入について従業員の半数以上が同意した事業所は、「任意適用事業所」として厚生年金に加入できます。
日本年金機構の事務センター、または管轄の年金事務所へ申請し、厚生労働大臣の認可を受け、適用事業所となります。厚生年金への加入は事業所単位であるため、同意しなかった人も加入義務が生じます。
強制適用事業所が加入しなかった場合の罰則等
加入義務がある事業所が届出を怠った場合や、加入資格の取得や標準報酬月額の決定通知を怠った場合などに、事業主には6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
また、厚生年金の未加入が発覚し、強制的に加入する場合、未加入期間の保険料を過去2年分さかのぼって徴収される可能性があります。
厚生年金の被保険者の条件
前述した適用事業所に常時雇用されている従業員が条件を満たす場合、厚生年金に加入します。
<厚生年金の被保険者の条件>
- 適用事業所で常時雇用されている人
- 70歳未満の人
ただし、70歳以上であっても加入期間の兼ね合いで年金が支給されない人は、老齢の年金を受給できる加入期間を満たすまで任意で厚生年金に加入できます。これは高齢任意加入被保険者といい、「高齢任意加入被保険者資格取得申出書」を提出する必要があります。
*参照 日本年金機構|70歳以上の方が厚生年金保険に加入するとき(高齢任意加入)の手続き
短時間労働者の厚生年金の適用条件
正社員より勤務時間の短いパートやアルバイトも、以下(1)か(2)の条件を満たすことで厚生年金の加入対象となります。
(1)所定労働時間および所定労働日数が正社員の4分の3以上
(2)以下のすべての条件に当てはまる人
- 従業員数101名以上(2024年10月以降は51名以上)の企業に勤務
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 1か月の賃金が88,000円以上
- 2カ月を超えて雇用される見込みがある
- 学生ではないこと
*参照 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」※見出し「留意事項」内の記述より
厚生年金の加入条件に該当しないケース
強制適用事業所で働いていても、以下に当てはまる場合は加入義務を負いません。
- 日雇いで働く場合
- 雇用契約が2カ月以内の場合
- 季節的事業(4カ月以内)や臨時事業所(6カ月以内)で働く場合
- 事業所の所在地が一定でない場合
ただし、日雇いや雇用契約が2カ月以内の労働者が、1カ月を超えて引き続き雇用される場合は、その日から加入の対象となります。
厚生年金に加入する4つのメリット
では、厚生年金に加入するメリットは何でしょう。従業員が得られるメリットを4つご紹介します。
(1)将来受給できる年金額が増える
厚生年金の最大のメリットは、国民年金と比べて、将来受給できる年金額が多いことです。厚生年金保険料には、国民年金も含まれているため、厚生年金と国民年金の両方の老齢年金を受給できます。受け取れる年金額が増えるので、より豊かな老後生活を計画できるでしょう。
(2)障害年金支給の適用範囲が広い
ケガや病気による傷害の際に支給される障害年金の範囲が広いことも、厚生年金のメリットです。障害厚生年金が障害等級1級~3級までを対象としている一方で、障害基礎年金(国民年金)の対象は障害等級1級と2級に限られます。
また、障害厚生年金の要件に該当しない場合でも、障害手当金(一時金)が支給されることがあります。障害手当金は国民年金にはない制度です。
(3)扶養制度がある
厚生年金には扶養制度があり、加入者に扶養される配偶者は第3号被保険者として扱われます。第3号被保険者は保険料の負担はありませんが、将来、老齢基礎年金を受け取れます。一方、国民年金では扶養制度がないため、家族一人一人が国民年金に加入する必要があります。
<第3号被保険者の条件>
- 20歳以上60歳未満
- 年収が130万円未満、かつ配偶者の年収の2分の1未満
(4)保険料を会社と折半できる
厚生年金の保険料は、加入者と事業所が折半で支払います。会社が保険料を半分負担することで、将来の備えに対する加入者の負担が軽減されます。
厚生年金に加入するデメリット
メリットが多い厚生年金ですが、以下のようなデメリットも存在します。
給与の手取り額が減る
給与から厚生年金の保険料が天引きされるため、毎月の手取り額が少なくなります。特に、扶養内で働いていた人が新たに厚生年金に加入する際には、これまで発生しなかった保険料を支払うため、給与の手取り額が減る可能性があります。
企業型確定拠出年金により厚生年金の受給額が減る
企業型確定拠出年金(企業型DC)を利用する場合、厚生年金の保険料に影響があるため、受給額が減ることがあります。
厚生年金保険料の算出には、4月~6月の給与支給額をもとにした標準報酬月額が用いられます。確定拠出年金に加入する場合、掛金を天引きした額が給与支給額となるため、利用前と比べて標準報酬月額が減少します。それに伴い、厚生年金保険料が減ると、必然的に厚生年金の受給額も減少することとなります。
老齢厚生年金の受給資格と金額
最後に、老齢厚生年金(厚生年金)を受給するための資格と、いつからいくら受給できるかを解説します。
*参照 日本年金機構|老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額
厚生年金の受給資格
まず、厚生年金を受け取るために必要な加入期間と、受給できる時期を見ていきましょう。
厚生年金の受給に必要な加入期間
厚生年金は、老齢基礎年金(国民年金)の受給資格があり、厚生年金に1カ月以上加入している人が受け取れます。老齢基礎年金は保険料を10年以上納付した人(免除期間の合算も可能)に受給資格があります。
厚生年金の受給開始時期
厚生年金は原則として65歳から受け取れます。年金受給開始年齢を60歳に繰り上げる「繰上げ受給」や、66~75歳になってから受け取る「繰下げ受給」なども可能です。
「繰上げ受給」の減額率は「0.4%×繰り上げた月数(繰り上げ請求した月から65歳になる日の前月までの月数)」です。繰り上げ時期に応じて最大24%、年金額が減額され、生涯同じ金額で支給されます(*1)。
「繰り下げ受給」の増額率は「0.7%×65歳になる月から繰り下げの申し出をした月の前月までの月数」です。繰り下げ時期に応じて最大84%、年金額が増額します(*2)。
*1:1962(昭和37)年4月1日以前生まれの人は、繰上げ受給による減額率は0.5%、最大30%です。
*2:1952(昭和27)年4月1日以前生まれの人は、繰下げの年齢は70歳までとなり、増額率は最大42%です。
厚生年金の受給金額
厚生年金の受給額は、加入期間と納付した保険料によって決まります。
受給額の計算方法
厚生年金の受給額は、以下の計算式によって算出されます。
厚生年金受給額=1.報酬比例部分+2.経過的加算+3.加給年金
1.報酬比例部分 | 報酬比例部分の金額は、厚生年金に加入していた期間や過去の報酬によって計算されます。
【2003年3月以前の加入期間】 【2003年4月以降の加入期間】 2003年3月以前は、月々の給与を元にした標準報酬月額を基準とし、2003年4月以降は賞与も含めた標準報酬額が基準となります。 |
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2.経過的加算 |
1985(昭和60)年の改正において、基礎年金を公的年金制度の1階部分に導入する際、旧法との差額を埋めるために経過的加算が設置されました。現在では、旧法との差はほとんど解消されています。 【計算方法】 |
3.加給年金額 | 加入期間が20年以上の人が65歳になったとき、以下の要件を満たした配偶者や子どもがいる場合に加算されます。 ・65歳未満の配偶者 ・18歳到達年度の末日までの間の子、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子 |
*参考:厚生労働省|[年金制度の仕組みと考え方] 第3公的年金制度の体系(年金給付)
年金受給額の平均
厚生労働省が発表している「厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、2022(令和4)年度に老齢厚生年金(基礎部分である国民年金分も含む)の平均受給額は月144,982円でした。
一方、国民年金のみ加入していた場合、老齢基礎年金の平均受給額は月56,316円です。なお、国民年金の加入期間である20歳から60歳まで、すべて加入していた場合、老齢基礎年金の満額は、2023(令和5)年度時点で月額66,050円となります。