人事とは何か?仕事内容と年収、必要な適性ややりがい
本コラムでは、人事業務の内容と知っておきたい法律、平均年収、適性ややりがいなどをご紹介します。
人事とは
人事は、企業のヒト・モノ・カネ・情報という4つの経営資源の中で、特にヒトに関する業務を担います。はじめに、そうした業務の概要や目的、会社の中で果たす役割を見ていきましょう。
人事の仕事内容とその目的
人事の仕事内容は、従業員の採用や教育、評価、配置、制度設計や環境整備などです。
これらは、自社の事業計画における目標達成に向けた人材の確保や育成、そうした人材が生産的に働くための環境づくりを目的としています。そのため、従業員のモチベーションを引き出すための多様な施策や評価制度、報酬体系なども設計しなければなりません。
変化する人事の役割
人事で担う採用活動や制度設計、評価などには、国内外で導入・活用されてきた多様な仕組みや観点があります。しかし、それらは時代とともに変化し、「これをやっていれば大丈夫」という絶対的な正解はありません。
特に近年では、テレワークやフレックスタイム制の導入、ワークライフバランスの充実など、多様な働き方を実現する体制づくりが進んできました。さらに、国内では終身雇用制度が崩壊し、人材採用や育成、評価制度にも変化が起きています。従業員のメンタルヘルスケアにも取り組まなければなりません。
多様な価値観やライフスタイルへの対応が求められ、人事が担う役割はますます複雑化しています。
人事の仕事内容5つ
ヒトに関する施策を担う人事の仕事をもう少し詳しく見ると、大きく5つに分類されます。人材採用・人材育成・人事評価・制度や環境の整備・労務管理です。
大企業では業務ごとに専任の担当者がいる場合もありますが、中小企業では一人の担当者がすべてをこなすことも珍しくありません。
(1)人材採用
人材採用とは、会社の経営方針やビジョン、事業計画をもとに採用計画を立て、人材を獲得することです。日本では新卒採用と中途採用に大別されます。
採用活動においては、求人情報の作成とメディア等への掲載、企業説明会の開催、インターンシップの企画実行、応募者の採用面接などを行います。近年は、SNSを活用した採用活動や、従業員を通じて転職者を紹介してもらうリファラル採用、退職者の再雇用などを行う企業もあるでしょう。
人事担当者の話し方や考え方から、就活生や求職者は応募・入社を判断することも珍しくありません。採用に向けたさまざまな活動の中で、「会社の顔」として振る舞う必要があります。
(2)人材育成・配置・異動
人材育成では、会社の目標達成に貢献する人材を育成します。育成の方向性は、自社のミッション・ビジョン、事業計画などをもとに考えなければなりません。
近年は、新人の早期戦力化を目的として、内定者を対象とした研修も行われるようになりました。入社前に基礎的なビジネススキルや企業文化、基本的なツールの使い方を知ってもらうとともに、先輩社員や管理職と交流し、具体的な働き方のイメージをつかんでもらえるというメリットがあります。
入社後は、集合研修として新人教育を行ったり、現場配属後にOJTを実施したりします。中堅社員には階層別研修、職能別研修を行い、他に自己啓発支援やリスキリング支援を行う企業も多いでしょう。
こうした育成に関わる企画、制度設計も人事の仕事です。研修では人事担当者が講師を務める場合もあれば、外部委託して研修内容をコーディネートする場合もあります。
人材の配置・異動については、適性や能力などに合った「適材適所の人材配置」を意識する必要があります。現在の配属先でトラブルが発生し、再発防止のために当事者を別の部署に異動させるというケースもあるでしょう。どのような配置が最も効果的か、常に確認しておく必要があります。
(3)人事評価
人事評価は、従業員の能力や成果を評価する制度を設計し、その基準に従って実際に評価を行うことです。適切な給与や待遇を設定し、公平な評価を行わなければ、従業員が離職してしまうかもしれません。
そのため、人事評価では基準の透明性と公平性の確保が求められます。基準を社内に周知するとともに、管理職にもその基準に従って評価するよう説明します。
評価基準については、スキルや職務内容、役職に応じて等級を定め、昇給や昇格と結びつけるものが多いでしょう。他に、仕事への熱意、勤務態度、業績への貢献などを評価に加えることもあります。
(4)制度や環境の整備
働きやすい環境づくりに向けた施策を行うことも、人事の仕事です。事業目標達成のために採用・育成・配置を行っても、従業員が働きにくい勤務制度であったり、モチベーションを損なうような企業風土であったりすれば、従業員は本来の実力を発揮できません。やがて従業員エンゲージメントも下がってしまうでしょう。
社会の価値観の変化、法制度の改正に対応した制度の改善、従業員エンゲージメントを高めるためのイベントの実施、定期的なストレスチェックや各種アンケートの実施など、従業員の働きやすさが損なわれていないか、常にアンテナを張っておかなければなりません。
(5)労務管理
労務部門がない企業では、人事が労務の仕事も担当することが多いでしょう。労務管理とは、簡単に言えば、労働法にのっとって従業員の労働に関する業務を行うことを指します。
労務管理の具体的な内容は、
- 労働条件の明示
- 就業規則の整備や労使協定の締結
- 社会保険の手続き
- 勤怠管理や給与計算
- 法定三帳簿の整備と保管
- 安全衛生管理
などです。その他、必要な福利厚生の整備なども行います。
人事が押さえておくべき法律
人事が担う業務には、法律にのっとって適切に処理しなくてはならないものが多くあります。そのため、労働法に関する知識は欠かせません。必ず押さえるべき法律は「労働三法」。他に、労働契約法、男女雇用機会均等法、職業安定法、個人情報保護法、労働安全衛生法なども知っておく必要があります。
基本の「労働三法」
人事担当者にとって、最も基本となる3つの法律が、労働基準法、労働組合法、労働関係調整法です。この3つの法律をまとめて「労働三法」と呼びます。
労働基準法
労働基準法は、すべての労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営めるように、労働条件の最低基準を定めた法律です。労働時間や賃金の支払い、休日などについての条件が規定されており、これを下回る条件での雇用契約は認められません。
また、労働条件の明示、就業規則、労働者名簿や賃金台帳などについても定められています。
労働組合法
労働組合法は、労働者が労働組合を結成し、企業と対等な立場で交渉できる権利を保障する法律です。日本国憲法の第28条で認められている労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)をより具体的に定めた法律であり、労働者個人では使用者に言いにくい困りごとや改善要求を、労働組合から働きかけられるように制定されました。
使用者が労働者に対して以下のことを行うことは、労働組合法により禁止されています。
- 1. 労働組合への加入や正当な労働組合活動などを理由として、労働者の解雇・降格・給料の引き下げ・嫌がらせ等の不利益な取扱いをすること(ユニオン・ショップ協定やクローズド・ショップ協定の締結は可能)
- 2. 正当な理由なく団体交渉を拒否すること
- 3. 労働組合の結成や運営に介入したり、支配したり、組合運営の経費について経理上の援助をすること(労働者の労働時間中に使用者と協議・交渉すること、使用者が福利その他の基金に対して寄付をすること、使用者が労働組合に最小限の広さの事務所を与えることは除く)
- 4. 労働者が労働委員会に救済の申立てを行ったり、それらの手続きの中で行った発言や提出した証拠を理由として、不利益な取扱いをしたりすること
よって、会社は労働組合の結成や加入、労働組合からの交渉要請、ストライキ権の行使などを正当な理由なく拒否することはできません。
労働関係調整法
労働関係調整法は、労働者と使用者の間で発生する労働争議の予防・解決を目的とする法律です。原則として当事者同士での解決を目指しますが、それが困難な場合は、第三者機関である労働委員会が関与する解決法をとることもできます。
労働委員会では、「斡旋」「調停」「仲裁」などの調整活動を行います。斡旋は、労働者と使用者のどちらか一方からの申請(あるいは両方の申請)で開始されるものです。申請方法が比較的容易なため、しばしば利用されています。「労働委員会が提示する解決案を必ず実施しなければならない」というものではありません。
採用や面接に関する法律
労働三法の他にも、人事担当者が押さえておくべき法律がいくつかあります。以下では、採用活動の場面で守るべき雇用関連の法律をご紹介します。
雇用対策法
雇用対策法は、労働者の保護に関する法律です。募集および採用における年齢制限の禁止などを規定しています。
実際の求人広告では、「○歳まで」「○~△歳まで」「若い方歓迎」「○歳以下募集」などの記載が見られることがありますが、これは法律違反です。求人情報で「年齢不問」と記載しながら、実際は年齢を理由に採否を決定するというやり方も違法となります。
ただし、一部の例外では年齢制限を設けることが認められています。以下のような場合です。
- 定年年齢を上限として、その上限未満の労働者を無期雇用として募集・採用する
- 労働基準法などで年齢制限が設けられている
- 長く働いてもらってキャリア形成をしてもらうために、若年者等を無期雇用として募集・採用する
- 技能やノウハウの継承のため、特定の職種で労働者数が相当数少ない特定の年齢層に限定し、無期雇用として募集・採用する
- 芸術・芸能分野において、表現の真実性などの要請がある
- 60歳以上の高齢者、就職氷河期世代、特定の年齢層の雇用を促進する国の施策の対象者を募集・採用する
自社が求める人材像や採用計画などと照らし合わせながら、年齢制限が本当に必要かどうかを検討しましょう。
職業安定法
職業安定法では、求人募集や職業紹介について定めています。人事に関わる事項としては、求人募集において明示しなくてはならない項目が特に重要でしょう。
企業や派遣会社などが求職者の人種・民族・社会的身分・門地・本籍・出生地・家族の職業や収入・本人の資産等の個人情報を収集することについても、原則として禁止されています。本人の人生観や支持政党、購読新聞、愛読書などの情報も、思想及び信条に関わるものとされ、収集が禁じられています。
また、掲載する求人等の情報は、正確かつ最新の内容に保ち、嘘を書いたり誤解を招くような表示をしたりすることも禁止されています。
個人情報保護法
個人情報保護法は、採用活動においては履歴書やエントリーシートといった個人情報の取り扱いに関わってきます。個人情報を取り扱うすべての事業所や団体に遵守が義務づけられており、違反した場合は罰則の適用もあります。
個人情報を扱う際は、以下の5つのポイントを押さえましょう。
- 個人情報を取得する目的を本人に伝える
- 取得した個人情報を定めた目的以外のことに使わない
- 取得した個人情報を安全に保管する
- 取得した個人情報を他の者に渡す時は、ルールに従って行う
- 本人から個人情報の開示を求められたら、開示に応じる
人事は応募者だけでなく、社員の個人情報に触れる機会が多い部署。「うっかり他人に話してしまった」ということがないよう、情報の取扱いを仕組み化することが重要です。
労働安全衛生法
労働安全衛生法は、職場における従業員の安全と健康の確保を目的とする法律です。具体的な内容としては、以下のようなものがあります。
- 従業員の健康診断の実施
- 安全衛生を管理する者や産業医等の選任
- 安全委員会や衛生委員会等の設置
- 機械、作業、環境等による危険に対する措置
- 安全衛生教育
- 有害業務を行う屋内作業場における作業環境測定の実施
労働安全衛生法に定められた義務を怠ると罰則が適用される場合がありますので、確実に取り組みましょう。
労働契約法
労働契約法は、労働者と使用者の間の労働契約について定めたものです。特に重要なポイントは、労働契約の5原則と、無期転換ルールです。
以下の労働契約の5原則は、採用からその後の雇用管理等に至るまで、徹底されなければならない基本原則となります。使用者が自らの優越的な立場をもとに対等ではない取り決めをすることは違反となりますので、十分に注意してください。
- 労使対等の原則
- 均衡考慮の原則
- 仕事と生活の調和への配慮の原則
- 労働契約遵守・信義誠実の原則
- 権利濫用禁止の原則
無期転換ルールは、「有期労働契約の労働者が、同一の使用者との間で5年を超えて有期契約の更新をされたときに、その労働者が無期労働契約への転換を申し込めば無期へ転換される」というものです。条件を満たす労働者からの申し込みがあった場合、使用者はそれを断ることはできません。
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法は、職場における性差別を禁止し、女性も能力を十分に発揮できる職場環境の整備について定めた法律です。
総務省発表の「令和4年就業構造基本調査」によれば、女性の有業率は53.2%*。15歳以上の女性の半分以上が仕事を持っている結果となりました。性別を問わず誰もが働きやすい職場環境の整備は、差し迫った課題となっています。
セクシャルハラスメント防止や妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント防止に関する方針の明確化・周知を行うとともに、相談への適切な対応を可能とする体制整備、ハラスメントが発生した場合の迅速で適切な対応と原因の解消を図らなければなりません。
*総務省統計局|令和4年就業構造基本調査
障害者雇用促進法
障害者雇用促進法は、障害者雇用について定めたものです。一定数以上の従業員を雇用する企業の場合、法定雇用率以上の障害者の雇用が義務づけられています。
2023年度では、従業員数43.5人以上の企業が対象で、法定雇用率は2.3%。これが、2024年4月には2.5%に引き上げられ(対象企業も40.0人以上の企業に拡大)、2026年には2.7%に引き上げられます(対象企業も37.5人以上に拡大)。
障害者の雇用率が法定雇用率を下回る場合は、定められた金額を納付しなければなりません。さらに、著しく雇用率が低い場合は指導が入ることもあり、改善が進まなければ企業名が公表されます。
障害者雇用を成功させるには、成功事例を参考にしつつ、障害特性に合った職域の設定・創出と合理的配慮の提供を行いましょう。
人事の平均年収
人事の平均年収は、複数の求人メディアによる調査結果を見ると、400万円前後から550万円前後が多いようです。
20代では400万円前後、30代で500〜530万円程度、40代以上で600万円以上となっているケースが多く見られます。とはいえ、企業規模や役職によっても差があり、20代で600万円、30代で800万円という例も見られました。
収入アップには、人事の業務に役立つ資格の取得等によって手当を受け取る方法も可能でしょう。人事担当者の場合は、民間資格である産業カウンセラーや人事総務検定、国家資格であるキャリアコンサルタントなどがあります。
人事に向いている人材が持つ3つの特性
人事担当者になるために特別な資格は要りません。しかし、多くの従業員とコミュニケーションをとるスキル、情報漏洩やトラブルを予防する危機管理能力、現状の分析と施策立案に必要な論理的思考力を備えていると、より活躍できるでしょう。
(1)人と関わることが好き・コミュニケーション力が高い
人事は、採用活動や労務管理など、人と関わる機会が多い仕事です。インターン、就活をしている学生、求職者、社内の従業員はもちろんのこと、健保組合、公共職業安定所(ハローワーク)、労働基準監督署、年金機構など社内外の多くの人とのコミュニケーションを求められます。
インターン、就活生、求職者や従業員に対しては、会社が求めることを的確に分かりやすく伝えるとともに、相手側の本音を引き出す力が求められるでしょう。困りごとの相談を受けた際は、共感を示しつつも問題の本質を見抜く必要があります。これには、傾聴力、観察力、言語化力、分析力が欠かせません。
また、外部の組織・機関とのコミュニケーションでは、正確な情報の伝達と、相手が示す条件や要求を的確に理解をする力も重要です。
(2)危機管理能力が高い
人事の業務では、従業員のプライベートな情報や自社の機密情報に触れる機会が多くあります。社内のハラスメントの予防や解決も行う必要があるでしょう。そのため、情報漏洩やトラブルが発生する恐れがないか予測し、必要な施策を講じる危機管理能力が求められます。
求職者や従業員の個人情報を適切に扱うには、先述した個人情報保護法に基づく対応が必須。他の機密情報についても、うっかり友人・知人に話したり、SNS等に書き込んだりしてはいけません。「個人情報や機密情報を保存した外部記憶装置を置き忘れて、情報漏洩につながる」ということがないよう、データの持ち出しにも厳格なルールづくりが必要です。
(3)共感しつつも論理的に思考できる
人事の仕事内容に従業員からの相談や苦情、トラブルへの対応があることは既に述べました。こうした対応の際、相手の感情を受け止める中で、つい自分も感情的になってしまうかもしれません。時には、相手からの怒りに怒りで対抗したくなることもあるでしょう。しかし、それでは、もの別れに終わってしまいます。だからこそ、相手の感情を受け止めつつ、自身の行動を適切にコントロールする力(例えば、アンガーマネジメント)が必要です。
さらに、受けた相談や苦情の建設的な解決に向けて、要因を探り、対策を講じる論理的に分析する力も求められます。社内にはさまざまな規定がありますので、事案の内容がそれらに合致するか確認し、合致する場合は定められた通りの対応を行います。規定にない場合は、どのような対処がふさわしいか、新たに検討・決定する必要があるでしょう。
こうした共感を示しつつも冷静に論理的に考える力が、人事担当者には求められます。
人事の仕事のやりがい
法律の知識や社内の環境整備、採用活動に人材育成、評価など、人事担当者の業務内容は多岐にわたります。
多忙を極める人事において、一番の仕事のやりがいは、組織の目標達成に向けた従業員の成長支援でしょう。自身が採用した人材が、育成施策によって知識やスキルを身につけ、現場で活躍する姿を見ることは、何よりも嬉しいもの。人事担当者にとって、大切な成功体験の一つです。そうした従業員が活躍することで、自社の業績向上にも大きく貢献できます。
人材育成や従業員の活躍に課題が見られる場合も、働きやすい仕組みづくり、新しい研修などを通して解決・軽減できれば、大きな達成感を得られるでしょう。
そして、求職者やこれから入社してくる人にとっては、人事は「会社の顔」。自身の働き方、姿勢が、自社の魅力をそのまま伝えるものになります。求職者に「人事の方がていねいに話を聞いてくれた」「楽しそうに会社の魅力を教えてくれた」などの好印象を与えられれば、会社全体の評価を上げることができるのです。責任重大ではありますが、これも人事の仕事のやりがいと言ってよいでしょう。