人事評価の目的と意味とは?人事評価制度のメリットや人事評価シートの書き方などを解説

update更新日:2025.01.23 published公開日:2023.11.28
人事評価の目的と意味とは?人事評価制度のメリットや人事評価シートの書き方などを解説
目次

人事評価は、各社員の成果やスキルなどを総合的に評価し、給与・階級などに反映させる制度です。評価基準や項目、評価手法は会社ごとに異なり、適切な人事評価制度を導入・運用できれば、社員だけでなく経営層にもメリットがあります。

本コラムでは、人事評価の目的や種類、導入・運用方法から、人事評価シートの活用法まで、詳しく説明します。

人事評価制度とは?意味と目的

自社に合う適切な人事評価制度を導入するため、まずは人事評価とは具体的に何なのか、人事評価制度の導入目的などの基本を確認しておきましょう。

人事評価と人事考課の違いについても解説します。

人事評価とは

人事評価とは、社員の一定期間における状況や成果、スキルを会社側が総合的に評価することです。英語では、「appraisal」「evaluation」「assessment」などといわれます。

人事評価を昇給・賞与や昇進・昇格に反映する制度が人事評価制度です。

人事評価は、社員の成長や課題を明確にするだけでなく、組織全体の生産性を向上させるための重要なツールとなります。人事評価を行うことで、社員は自分の強みや改善点を理解し、スキルアップを目指すことが可能です。

一方、会社側は適切なフィードバックを提供し、社員のモチベーション向上やキャリア開発を支援することができます。

人事評価制度の3つの導入目的

人事評価制度には、主に3つの導入目的があります。

社員の能力や成果を公平・公正に評価した処遇を実現する

評価制度に基づいて報酬や昇進を決定することで、社員が納得感を持ち、モチベーションの向上につながります。

例えば、「適切な評価が行われている」「評価が処遇に反映されている」という実感は、社員のモチベーション向上に寄与するでしょう。能力や成果をきちんと評価し、処遇を実現してくれる会社に対し、愛着や帰属意識、ロイヤリティが高まり、社員のエンゲージメント向上も期待できます。

業務に必要な能力を明確にし、社員の能力開発につなげる

人事評価制度は、どのような項目を評価するかを明確にする制度です。誰にどのような能力を求めるかが明示されれば、社員もその項目で高い評価を得るために具体的に努力する指針ができます。

会社側が求める社員の能力と、社員が伸ばそうとする能力が一致しやすくなり、より効果的な社員の能力開発につながるでしょう。社員の成長を促すためのフィードバックを提供することで、スキルアップやキャリア開発を後押しするのが人事評価制度の目的です。

社員の能力や成果を把握し、適材適所で組織運営の効率化を図る

人事評価を通じて、会社側はそれぞれの社員の能力や成果を把握できます。

誰にどのようなスキルがあるか、どのような実績があるかを把握することは、効率的な組織運営と人員配置に欠かせません。人事評価をもとに配置を行うことで、適材適所を実現しやすくなるでしょう。例えば、より注力したい部署やプロジェクトに適性のある人材を配置したり、課題を抱えている組織に問題解決能力が高い社員を配置したりできます。

人事評価により各社員の能力や特性を把握することで、適材適所の配置を行い、組織全体のパフォーマンスを向上させることが可能です。

人事評価制度の3つの分類

人事評価制度は、社員の評価を行うための仕組みで、大きく3つに分類されます。それが「報酬制度」「等級制度」「評価制度」です。これら3つは相互に関連し合い、社員のモチベーションや能力開発、会社全体の成長に寄与します。それぞれの制度について詳しく見ていきましょう。

報酬制度

報酬制度は、社員の業績や成果に基づき、給与やボーナス、インセンティブを決定する仕組みです。

通常、社内では役職ごとに基本給や報酬の基準が設けられており、例えば「一般社員の基本給は◯〜◯万円」「課長職は◯〜◯万円」といった形で定められます。さらに、個々の業績や達成度に応じて、ボーナスやインセンティブが支給されます。

報酬制度は、社員のパフォーマンスを正当に評価し、モチベーションを高めるために重要な役割を果たします。

等級制度

等級制度は、社員のスキルや経験に応じた階級を設定し、それに基づいて役職や報酬を決定する仕組みです。

通常は、能力や成果・勤続年数などに基づいた等級に合わせて昇進や昇格が行われ、等級に応じて権限や責任範囲なども決まります。

等級制度は、社員の成長を促し、キャリアアップの道筋を明確にするための重要な枠組みといえるでしょう。等級に応じて報酬にも影響が出るため、社員のモチベーションや会社全体の組織運営にも直結します。

評価制度

評価制度は、社員の成果や業務遂行能力、勤務態度などを多角的に評価する仕組みです。

この評価結果が、報酬や等級に反映され、昇給や昇進の判断材料となります。評価制度は、定量的な目標達成度だけでなく、定性的な要素(コミュニケーション能力や協調性など)も評価に含まれる場合があります。公正な評価が社員のモチベーション向上につながるため、会社にとっては評価制度の透明性や一貫性を保つことが重要です。

人事評価と人事考課の違い

人事評価と似た言葉に「人事考課」があります。人事評価と人事考課は似たような言葉ですが、どのような違いがあるのでしょうか。

人事評価は、社員の能力や実績を評価し、フィードバックを行うことでスキルアップやモチベーション向上を目指します。評価結果は、昇進や異動、報酬決定の参考にされますが、フィードバックに主な役割や意義をおいているのが特徴です。

一方、人事考課は、主に給与や昇進などの処遇決定に直結する評価を行うプロセスを指します。フィードバックよりも、評価結果をもとに昇給や昇格の判断を行うことに主たる目的を置いているのが人事考課です。

人事評価が社員の成長を重視するのに対し、人事考課は処遇決定のために行われるという点で違いがあります。

人事評価制度のメリット・デメリット

人事評価制度は社員のモチベーションを左右し、適切に運営することで組織運営の効率化を図れる重要な制度です。

しかし、人事評価制度の導入にはメリットもあればデメリットもあります。以下に人事評価制度の主なメリットとデメリットについて解説します。

メリット1:社員のスキル向上とモチベーション維持

人事評価制度の大きなメリットは、社員のスキル向上とモチベーションの維持に寄与する点です。

適切な人事評価制度があれば、社員が自身の強みや改善点を把握できるため、自己成長の意識を高めやすくなります。また、評価をもとに昇進や昇給が行われるため、努力が報われるという意識がモチベーションを維持・向上させる要因となるでしょう。

人事評価で適切なフィードバックを行うことができれば、社員一人ひとりのスキルアップにつながり、業務や組織運営の効率化が実現します。

メリット2:適切な評価で会社への信頼を高める

人事評価制度は、評価基準を明確にすることで社員に透明性を提供し、会社への信頼を高める効果があります。評価基準が明確であれば、社員は公平な評価を受けていると感じ、会社に対する信頼感が増すでしょう。

さらに、適切な評価が行われることで、業績向上につながりやすくなり、結果として会社全体の成長に寄与する可能性も高くなります。

デメリット1:評価基準の策定と運用に工数がかかる

人事評価制度を導入する際のデメリットの1つは、評価基準の策定とその運用に多くの工数がかかる点です。

公平で客観的な評価基準を策定するには、時間や労力が必要であり、その基準を維持・改善するための運用も容易ではありません。また、評価する側にも高いスキルが求められるため、評価者に対するトレーニングも必要です。評価制度が適切に機能しない場合、社員の不満が生じる可能性もあります。

人事評価基準の策定時には、評価システムやツールを導入するなど、人事担当者や評価者の工数を削減し、運用の効率化を図るようにしましょう。

デメリット2:リモートワーク環境における評価の難しさ

近年、リモートワークが一般化する中で、社員の働きぶりを適切に評価することが難しくなっています。対面での業務が減少すると、業績や成果を測ることは容易でなくなり、評価が感覚的になりがちです。

また、オンラインではコミュニケーションが減少し、社員の仕事への取り組み方やチームへの貢献度を把握するのが難しいため、評価の精度が下がるリスクがあります。これにより、不公平感が生まれやすくなることも人事評価制度上のデメリットといえるでしょう。

リモートワークが進んでいる会社では、プロセスよりもアウトプットを重視する評価基準とする、リモートで働く社員の進捗や成果をリアルタイムで共有できるクラウド型評価ツールを導入する、などの工夫が必要です。

人事評価基準の種類や評価手法

人事評価には複数の基準や手法があり、自社で重視する点をもとに適切な仕組みを考える必要があります。

ここでは、人事評価の基本的な基準と具体的な評価項目、よく用いられる評価手法について解説します。

人事評価の4種類の基準

人事評価の一般的な基準は、「情意評価」「能力評価」「行動評価」「業績評価(成果評価)」の4種類に分けられます。

情意評価

情意評価は、社員の働く姿勢や意欲などを基準に評価を行うものです。責任感や積極性、協調性といった仕事に対する姿勢、出勤・欠勤、遅刻・早退といった勤怠状況、勤務態度、コンプライアンスなどが評価項目となります。

客観的に判断が難しい評価項目が多くなるため、評価者の主観的判断に偏らないよう、定量的な判断項目や360度評価の評価手法を取り入れるなどの工夫が必要です。

能力評価

能力評価は、社員の業務に関する様々な能力を基準に評価を行うものです。職位ごとにもつべき知識・技能のほか、計画力、判断力、指導力、調整力、実行力なども評価項目となり得ます。どの職位にどのくらいの知識・技能を求めるのか、役割を果たすためにどのような能力が必要なのかを分析し、評価項目とする必要があります。

知識やスキルを持っているだけでなく、それをどれだけ仕事に活かせているか、という観点も評価基準に含めるとよいでしょう。

行動評価・コンピテンシー評価

行動評価は、仕事の成果を出すためにどのように行動すべきかを定めたものです。例えば、目標の達成に向けて行うべきアクションや、周囲との協力ができているかどうかなどが評価項目として挙げられます。

コンピテンシー評価は、社内で成果を上げている優秀な人材の行動特性(コンピテンシー)を分析し、評価の指標とする点が特徴です。コンピテンシーディクショナリと呼ばれる基準を参考に、自社で活躍する人材の行動、自社が理想とする人材像の行動などをもとに作成します。

コンピテンシー評価について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。

コラム「コンピテンシー評価とは」はこちら

業績評価(成果評価)

業績評価(成果評価)は、目標の達成状況や、与えられた役割の達成度をもとに評価するものです。後述する目標管理制度と関連が深く、職種に応じた適切な目標設定が鍵となります。

人事評価基準の具体的な項目

4つの人事評価基準について解説しましたが、基準に沿ってどんな評価項目が考えられるか見てみましょう。

評価基準 評価項目の具体例
情意評価 積極性・協調性・チームワーク・コンプライアンス・成長意欲など
能力評価 コミュニケーション力・企画力・プレゼンテーション力・危機管理能力・指導力・資格など
行動評価 セルフコントロール・対人理解・柔軟性・自発性・リーダーシップなど
業績評価 売上高・営業利益・顧客単価・契約件数・人件費率・経費率など

さらに、組織や職種・職位ごとに重視する評価項目を分けて設定すると効果的です。例えば、営業ではプレゼンテーション力やコミュニケーション力などの評価項目を増やす、職位が上がるごとにリーダーシップや指導力の評価項目を重視する、などの調整を行います。また、業績評価は定量的な項目がメインとなりますので、組織や職種に合わせて適切に選ぶことが重要です。職種ごとの業績評価項目例を挙げると以下のようになります。

職種 業績評価項目の具体例
営業 売上げ、利益率、新規顧客開拓数、契約決定率、クレーム数など
製造 不良品の低減率、コスト削減率、生産計画の進捗度など
企画 企画・商品の提案件数、経費率、販促費用対効果など

人事評価制度の項目は、「会社が目指す方向」や「求める人材像」を反映しています。人事評価項目は、自社の事業に必要な姿勢や能力を定義する役割がありますので、会社のビジョンや事業戦略に合わせて取捨選択し、設定するようにしましょう。

代表的な4つの評価手法

人事評価の代表的な評価手法としては、等級制度・目標管理制度(MBR)・目標と成果制度(OKR)・360度評価の4つが挙げられます。

評価手法は単独で運用する場合もありますが、会社によっては複数の手法を組み合わせて運用する場合もあります。各々の評価手法の特性を理解し、会社のビジョンや事業戦略に合わせて評価手法を選択・運用しましょう。

等級制度

「等級制度」は、社員の能力・職務・役割などをもとに等級を設定し、その等級に定められた項目の達成度を評価する制度です。最も低い等級は1で、数字が大きくなるほど等級も高くなります。

例えば、新入社員が仕事を覚えていく段階や、指示がなくても通常の業務を自分でこなせる段階などを最も低い1等級や2等級に設定します。3等級や4等級は、後輩をリードしたり部下に指示を出したりするレベルです。

社員の能力やスキルが上がることで等級も上がり、それに応じて処遇も上がるという仕組みが等級制度です。

目標管理制度(MBO:Management by Objectives)

「目標管理制度(MBO)」は、社員自身や上司が定めた目標に基づいて、達成までの進捗を管理・評価する方法です。基本的に社員が目標設定や進捗管理を行うため、社員の主体性や自主性が重視されます。

会社の目標をもとに部署目標と個人目標を設定すれば、組織全体の方向性と個々の目標を連携させながら一体となって目標達成に向かえるでしょう。社員のモチベーションを維持しながら、目標が適切なレベルに設定されているか、進捗状況を確認できているか、などを上司がフォローする仕組みがあると効果的です。

目標と成果指標(OKR:Objectives and Key Results)

「目標と成果指標(OKR)」は、組織全体にとっての最重要課題をもとに、各部署や社員の達成すべき目標や主要な成果を設定する評価手法です。

会社の目標と個人の目標が連動するため、MBOよりも意識的に各人が組織の課題達成に向けて進むことが求められる点に特徴があります。GoogleやFacebookなどのグローバル企業で取り入れられており、近年、日本でも注目されている人事評価手法です。

設定する目標は組織の目標と密接に結びついているため、仕事の優先順位や目的が明確になるというメリットがあります。OKRは通常100%の達成が難しいようなチャレンジングな目標設定をするのが特徴ですので、組織内で目標設定や管理についてしっかり共有することが重要です。

360度評価

情意評価や能力評価、行動評価など、数値では評価しにくい項目の場合は、360度評価も活用するとよいでしょう。360度評価は、評価される社員の上司や部下、同僚などがそれぞれの視点から対象者を評価する方法です。

複数の異なる立場の人の意見を集めることで評価を行うため、人事評価で陥りやすいハロー効果や対比誤差などの評価エラーを回避しやすくなります。

人事評価制度の導入手順と運用上の課題

適切な人事評価制度を導入・運用するには、自社が求めている人材像や重視しているポイント、事業内容などに合った制度にする必要があります。

ここでは、人事評価制度の導入手順とポイント、運用上の課題について解説します。

人事評価制度の導入手順

人事評価制度を導入・運用する基本的なステップは、6つあります。導入準備から導入後の運用まで順番に見ていきましょう。

①自社の現状を分析し、評価目的を設定する

まずは、自社の現状を分析しましょう。自社の全体的な方向性や事業内容、課題等を確認・分析し、人事評価制度の導入・運用によって何を達成したいのかを明確にします。

分析には、経営層や各部署の責任者との話し合いで探る方法だけでなく、社員アンケートなども活用するとよいでしょう。例えば、何を達成したいかについてであれば、市場におけるシェアの拡大・新規事業の創出・組織全体の生産性向上などが考えられます。組織や社員ごとに達成したいものやレベルを明確にし、そのための評価目的を共有することが大切です。

②評価基準を策定する

自社の現状把握と評価目的の設定ができたら、評価制度の大枠を作成しましょう。「報酬・等級・評価」の3つをどのように組み合わせるか、自社が求める人材像に基づき、要求される業務への姿勢やマインド、能力などで評価基準の大枠を決めていきます。

等級制度の場合、同じ等級であっても職種や部門によって基準を変える必要があることに注意してください。現場で活躍できる人材像を常に忘れないことが大切です。

③評価項目を作成する

評価手法と基準の大枠が決まったあとは、評価項目をより具体的に作成します。

「情意評価」「能力評価」「行動評価」「業績評価」といった一般的な基準のほか、自社独自の評価基準・項目を設けてもよいでしょう。

各評価基準について、「○○ができる」「○○の能力を有する」などのように、実際の業務で求められる姿勢・行動・知識などを明記すると、運用しやすくなります。現場の管理職や一般社員の意見も参考にしてみてください。

④評価方法を構築する

続いて、作成した評価項目について、何段階で、どのように評価するのかという評価方法を構築します。何段階で評価するかについては、3~5段階にするのが一般的です。

3段階評価では、例えば「できた」「ある程度できた」「できなかった」のように設定できます。段階ごとの点数を決めておけば、総合評価(評価点の合計)の算出も簡単です。この総合評価は処遇に活用できるものですので、給与・賞与、昇進・昇格のイメージとあわせて決めていってください。

⑤導入スケジュールを決める

以上で基本となる人事評価制度ができあがりました。いよいよ制度導入に向けて、現実的なスケジュールを決定しましょう。

人事評価制度を適切に運用するには、経営層や人事担当者だけでなく、管理職、一般社員も制度を正しく理解していなければなりません。そのためには、評価者向けの評価研修の実施、被評価者への制度内容の共有に十分な時間をかけることも大切です。突然「今日から始めます」とするのではなく、あらかじめ社内に周知し、社員が制度を理解する時間を確保してください。

⑥運用とフィードバック

人事評価制度の運用開始後は、現在の制度できちんと社員を評価できているのか、その評価軸によって自社に必要な人材の方向性が適切に捉えられているかを、定期的に確認しましょう。

人事評価を行う中で、会社の課題解決に向かっているか、評価基準が現状に即しているかなども常にチェックしてください。管理職などの評価者から、経営陣や人事担当者に向けたフィードバックを行うことも効果的です。

事業環境の変化に応じて求められる人材像も変化しますので、評価を行う現場からのフィードバックを忘れずに受けましょう。

人事評価制度導入のポイント

人事評価制度をスムーズに導入するためには、いくつかおさえておきたいポイントがあります。

以下のような内容に留意して、制度の導入・設計を行うようにしましょう。

①評価項目は盛り込みすぎず、誰でもわかる内容にする

人事評価制度は、自社の社員全体に適用される制度ですので、誰にでも理解できる内容にしなければなりません。多すぎる評価項目は、評価者や評価される側の社員の過重な負担になります。

人事評価制度が複雑すぎたり運営に時間や労力がかかりすぎたりすると、制度運用の目的や課題解決に向ける視点が疎かになってしまう可能性があります。評価プロセスをスムーズに進めるためにも、評価項目を厳選し、どの立場の社員にも理解できる、わかりやすい内容となるよう調整しましょう。

②評価の公平性を保つためガイドラインを作成する

会社の規模が大きい場合や職種や階層が多岐にわたる場合は、評価の公平性を保つため人事評価に関するガイドラインを作成するとよいでしょう。

大企業になるほど、評価をする側の社員の数も多くなります。すると、同じ評価基準で評価をしているはずなのに、同程度の能力や姿勢、成果をもつ社員が、異なる評価を受けるリスクが生じます。同程度の能力や姿勢、成果の社員であれば、本来は同程度の評価を受けなければなりません。評価者によるこうしたズレを防ぐには、それぞれの目線をそろえるためのガイドラインが必要です。

例えば、目標達成率が100%の場合、これを5段階評価の「5」としたい評価者もいれば、さらなる上乗せを期待して「4」としたい評価者もいるかもしれません。これをそろえるには、ガイドラインにおいて、特別な上乗せ評価(例えば、組織全体への貢献やイノベーションなど)ができる場合に「5」とし、上乗せがない場合は「4」とする、といった具体例を明示しておきます。こうすることで、より公平性のある制度運用が可能となるのです。

③評価と給与・賞与、昇進・昇格の関係を明確にする

人事評価制度を構築・導入する際は、処遇との関係もあらかじめ明確にしておくことが大切です。

評価される側の社員は、評価内容が処遇に反映されることを期待しています。人事評価が高いにもかかわらず処遇の向上がなければ、不満や不信感を抱き、社員のエンゲージメントも低下してしまうでしょう。

等級制度による評価を行う場合は、等級ごとに基本給の幅を決めておくと、処遇に柔軟性をもたせることができます。例えば、「26万円〜30万円」などのように、等級あるいは職位ごとに幅をもたせて設定しておきましょう。こうすることで、同じ等級の中でも、持っている知識や技能、成果などに応じて処遇を調整しやすくなるとともに、評価される側の社員も納得しやすくなります。

人事評価制度運用上の課題

人事評価制度は、「一度作ったら終わり」ではありません。事業規模や組織編成、事業環境自体の変化などがあれば、組織に必要な人材像も変化するからです。人事評価制度は組織が求める人材の姿勢や能力、成果などを規定するものですから、こうした変化に合わせて制度も見直していかなければなりません。

人事評価制度を導入した後も、運営上で以下のような課題・問題が無いかをチェックして、定期的な見直しを行うことが必要です。

  • 人事評価制度の基準や考え方について社員が理解しているか
  • 人事評価制度自体が社内で定着しているか
  • 評価者の主観的な判断や部署による運営方法などに偏りがないか
  • 評価と待遇・処遇が見合っているか

ただし、あまりにも短期間で制度を変更すると、現場が混乱し、不信感を招く要因となります。年に1回程度の社員アンケート、中長期経営計画における目標達成度などをチェックしつつ、評価制度の妥当性を検討しましょう。

人事評価シートとは?書き方の基本とポイント

人事評価の際には、「人事評価シート」と呼ばれる評価基準や評価項目を整理したシートを活用するのが一般的です。

最後に、人事評価シートの書き方について解説します。評価される側も評価する側も、適切な書き方やポイントをおさえましょう。

人事評価シートとは?書き方の基本

人事評価シートとは、人事評価を行う際に評価項目や評価結果を記載するシートのことです。これにより、人事評価基準や評価項目が整理されてわかりやすくなり、評価過程や結果が記録できます。

記載する項目としては以下のようなものが挙げられます。

あらかじめ記載すべき項目 評価基準、評価項目、評価レベル、評価ウェイトや評価点算出法
評価する側が記載する項目 自己評価、自己評価に関するコメント
評価される側が記載する項目 一次評価、二次評価、評価に関するコメント

人事評価シートの具体的な記載項目やフォーマットは、会社や採用する人事評価法によって様々です。

評価項目の考え方や評価レベルの判定方法などについては別シートにまとめる、評価される側の自己評価を重視してコメントなどを具体的に記載できる自己評価シートを用意するなど、会社の方針によってフォーマットをアレンジするとよいでしょう。

<評価される側>人事評価シートの書き方のポイントと例文

評価される側の社員が人事評価シートを書くときには、どんなことに気をつければよいでしょうか。

以下に、人事評価シートの書き方で心がけるべきポイントを3つ挙げて解説します。

①成果は具体的に、数値化して書く

人事評価シートを記入するとき、まず心がけたいのは具体的な表現で書くことです。フォーマットによっては、そもそも数値の記入しか許されていない場合があります。数値以外の文字を記入できる場合であっても、なるべく成果は具体的な数値で書きましょう。これにより、評価者も客観的な評価を行いやすくなります。

営業や販売の例文としては「売上目標○千万に対して○○千万を達成」のような書き方がよいでしょう。

事務職の場合は数値実績の提示が難しいケースもあるかもしれません。例えば、生産性向上や経費削減などについて数値化ができないか検討してみてください。

<例文>

「△△の施策により消耗品費を年間○円削減」

「◇◇の導入により残業時間を○%削減」

②未達成のことも報告し、対策や改善点を示す

目標が未達成だった場合、評価が下がることを恐れて記入を避けたいと感じるかもしれません。しかし、何も記入しなければ、達成度90%も60%も区別できなくなってしまいます。自分の実績をきちんと伝えるためにも、事実を記入しましょう。

重要なのは、達成できなかった報告と同時に、原因や問題点の分析と改善策を示すことです。ただ未達成への反省だけを書いて消極的な姿勢を見せるのではなく、課題に向き合う姿勢と今後への意欲を示しましょう。

<例文>

「△△の目標には〇%未達であったが、□□で目標を〇%超過した」

「未達部分の〇%につき、来期以降の取り組み施策として△△を予定している」

改善点を示し、次へつなげる姿勢を見せることで、情意評価などの他の評価項目がアップする可能性もあります。

③身につけたスキルや自己啓発をアピールする

人事評価シートに、追加でのコメント欄やフリーで記載できる欄がある場合には、自身が身につけたスキルや経験、自己啓発の内容などについて記載するのを忘れないようにしましょう。期間中にどのような研鑽を積んだのか、それをどのように業務に活かせたのかを、積極的にアピールしてください。

忙しい上司は、部下の小さな成長を見落としているかもしれません。

<例文>

「○○で△△を学んだ」

「○○検定で2級を取得した」

「○○を学んだことにより、△△の業務にかかる時間が3割減となった」

具体的な名称や数値を入れると、評価者にとってもイメージしやすくなり、適性や配置の見直しにつながる可能性もあるでしょう。

<評価する側>人事評価シートをチェックする際の注意点

評価者が何よりも心に留めておくべきことは、評価者のコメント1つで評価される側の社員のモチベーションが大きく変化するということです。部下のやる気を引き出し、個人と組織全体の成長につながるような公正かつ適切な評価を行えるよう、前向きな表現やコメントを工夫し、自身の評価の偏りには注意するようにしましょう。

①成長につながる表現を心がける

人事評価シートへコメントを記入する際は、被評価者である社員の今後の成長につながる表現を心がけてください。

未達成項目を見ると、つい問題点や改善点の指摘ばかりしたくなるかもしれません。しかし、ネガティブなフィードバックしか得られない状況では、被評価者は自己肯定感を下げてやる気を失ったり、指摘を拒絶してしまったりする恐れがあります。具体的な伝え方としては、ネガティブなコメントをする場合には、なるべくポジティブな内容でネガティブな内容を挟んで伝える「サンドイッチ型フィードバック」を意識するとよいでしょう。

例えば、売り上げ目標が未達だった場合、いきなり「未達であった」ことをコメントするのではなく、「顧客とのコミュニケーションがとれておりCS度も高い。しかし、顧客のニーズをくみ取って売上につなげることができておらず、今期の売上目標は未達であった。今後は、さらに強みのコミュニケーション力を活かして、部署の売上をけん引する役割を期待している」など、内容をポジティブ→ネガティブ→ポジティブの順番で構成します。

人事評価シートに記載された項目について、評価できる点がないか、前回の評価内容から向上している部分はないかなど、ポジティブな要素を探してみてください。

②評価エラーを知り、客観的な評価に努める

人が人を評価する以上、評価者も自分の主観から完全に逃れることはできません。しかし、なるべく公平・公正な評価ができるよう努める必要があります。

評価エラーを回避して客観的な評価に努めるには、典型的な評価エラーについて知っておくとよいでしょう。

例えば、社員の目立った特徴や成果に引きずられて、他の評価が歪められる現象は「ハロー効果」と呼ばれています。営業成績が優秀な社員に対して他の項目でも高い評価をつけてしまう例が典型的で、直感や先入観による認知バイアスの一種として知られています。

社員からの反発を恐れたり部下をひいき目に見たりして全体的に評価が甘くなる「寛大化傾向」、評価者自身の能力を評価基準にしてしまう「対比誤差」、評価業務への自信の無さなどから評価が中間値に集中する「中心化傾向」なども、人事評価の際に注意したいエラーです。

もし評価エラーの発生が懸念される場合は、評価対象者名を一度隠して人事評価シートを見てみるとよいでしょう。目標達成度などの数値や具体的な記述がある項目を先にチェックし、その後、改めて社員の名前を見て、普段の姿勢や発揮している能力を確認してみてください。