内定取り消しとは|企業の採用判断の重要性
内定取り消しは、採用において発生する問題のひとつです。企業にとっても内定者にとっても、その対処にはさまざまな側面が絡みます。
本コラムでは、内定取り消しに関する基本から法的な観点、そして企業側の適切な対応方法まで、幅広く解説します。経営者や管理職の方々、人事担当者、教育担当者の方々に向けて、内定取り消しに関する理解を深め、適切な対策を講じる手助けとなるでしょう。
内定取り消しとは
ここでは、内定取り消しの意味や内定辞退との違いを紹介します。
内定取り消しの意味
内定取り消しとは、企業が内定を出した後に、その内定を取り消すことです。内定は、採用候補者に対して雇用の約束を含む書面や口頭での通知を意味し、候補者がその内定を受け入れることで、将来的にその企業で働く意思が確定します。しかし、さまざまな理由により企業が内定を取り消すことがあります。
企業は内定取り消しを行う際、法的な規則や契約条件に従わなくてはいけません。一方的な取り消しは違法とされることがあるため、必要な手順に沿って対応しましょう。
内定取り消しと内定辞退の違い
内定取り消しと内定辞退は、似たような言葉ですが意味は違ってきます。
内定取り消しは企業側からの行為であり、一定の条件や法的要件が適用されます。一方、内定辞退は候補者側からの行為です。例えば、候補者がほかの企業の内定を受け入れるために、あるいは個人的な理由などで内定を断ることです。内定辞退は、個人の意思に基づいて行われるため、法的な問題はありません。
内定取り消しの法律的な問題は?
内定取り消しには法的な側面が関わります。内定取り消しは違法な場合もあれば、合法な場合もあります。ここでは、内定取り消しの違法性と法的規制について詳しく説明します。
内定取り消しは違法か
内定取り消しは法的な問題を引き起こす可能性がありますが、その違法性はケースバイケースです。
一般的に、内定を撤回する際には妥当な理由が必要です。例えば、業績悪化に伴う経済的理由や内定者の提出した情報に虚偽があった場合などは、内定取り消しは合法とされます。ただし、違法な内定取り消しも存在します。それに関する法的規制については、後述します。
内定取り消しと解雇の関係
内定取り消しと解雇は、雇用関係に影響を与える点で共通点がありますが、その背後にある要因やプロセスには違いがあります。
内定取り消しは、まだ雇用契約が締結されていない段階での取り消し行為にあたるため、解雇とは異なります。雇用契約が締結された後に雇用を終了する場合は解雇となります。どちらにしても、正当な理由なく内定取り消しや解雇を行った場合は違法となる可能性があります。
内定取り消しが認められるケース
内定取り消しは、特定の条件下で認められることがあります。以下は、内定取り消しが認められる一般的なケースとその具体例です。
大学等の卒業要件を満たしていない
内定条件に学位の取得が含まれていた場合、内定者が卒業要件を満たさないことが内定取り消しの理由になります。学業成績が不十分で留年する場合が該当します。
健康上の問題が発覚した
内定者が入社前に健康上の問題が判明した場合、内定取り消しは適法となることがあります。例えば、内定者が入社前の健康診断で重大な健康問題が発覚し、そのために業務遂行が困難であると判断された場合、企業は内定を取り消すことができます。このような場合、企業は内定者の健康と業務の安全を確保するために行動しており、内定取り消しは合法的な措置とされます。
履歴書等の内容に虚偽の記載があった
内定者が履歴書や面接時に虚偽の情報を提供した場合、内定取り消しは合法的な措置とされることがあります。例えば、内定者が学歴や職歴について虚偽の記載を行い、その事実が判明した場合、企業は内定を取り消せます。虚偽の情報提供は信頼性の欠如を意味し、企業にとって重要な要素です。このため、内定取り消しは合法的な手段とされます。
そのほかにも、刑事事件への関与や事前に取り決めた取り消し事由に該当した場合などがあります。
内定取り消しを行う際のリスクとは
内定取り消しを行う際、企業側は慎重な判断が必要です。以下に、内定取り消しに関する注意すべきポイントと具体例を示します。
内定者から訴訟を起こされるリスク
内定取り消しに対し、内定者が不服を申し立てて訴訟を起こすリスクが存在します。企業は、内定取り消しの際に法的な規定とプロセスを遵守し、妥当な理由を持つことが重要です。法的なリスクを最小限に抑えるためにも、内定取り消しに関する書類やコミュニケーションの記録を適切に保管し、法的アドバイスを受けながら進めるのがよいでしょう。
以下は、内定取り消しに関わる判例です。内定取り消しが認められたケースと認められなかったケースの両方があります。
事件名 | 概要 |
---|---|
大日本印刷 採用内定取り消し事件 |
(1) 内定通知後は他社に応募しないでいたところ、入社2か月前に採用内定を 取り消され、就職先の決まらないまま卒業した者が、その取り消しは解約権 の濫用にあたるとして、従業員としての地位確認等を求めたもの。 (2) 最高裁は、解約権を留保した就労始期付労働契約の成立を認め、 取り消しは解約権の濫用に当たるとした。 |
日本電信電話公社事件 | (1) 公安条例違反の現行犯で逮捕され、起訴猶予処分を受けたXが、そのこと を理由とする採用内定取り消しの効力を争ったもの。 (2) 大阪高裁は、公共性の高い公社の見習社員として適格性を欠く事由が ある場合にも、採用内定を取り消しうるとして、申し立てを却下した。 |
インフォミックス事件 | (1) 大手コンピューター会社に勤務していたXが、別会社Yからスカウトされ 採用内定を得た後に、経営悪化を理由としてYから内定を取り消されたのは 違法として地位保全等の仮処分を申請したもの。 (2) 東京地裁は、入社の辞退を勧告したのが2週間前であり、既に退社届も 出し後戻りできない状態に置かれていたXに著しく過酷な結果を強いるもの であり、客観的に合理的なものとはいえず、社会通念上相当と是認すること はできないとして、採用内定の取り消しを無効とした。 |
コーセーアールイー事件 | (1) 不動産売買会社Yから採用の内々定を受けていたが、予定されていた採用 内定通知書授与の日の直前に取り消された就活者Xが、取り消しは始期付 解約権留保付労働契約に反するとして損害賠償と慰謝料等の支払いを求め たもの。 (2) 福岡地裁は、当該労働契約が確実に締結されるであろうとのXの期待は 法的保護に値する程度に高まっており、内々定の取り消しは、信義則に反し、 不法行為にあたるとして損害賠償を認めた。 (3) Yが控訴・Xも付帯控訴した福岡高裁は、期待権侵害などは認めたものの、 当該労働契約が成立していたわけではなく、内定と同様の精神的損害が生じた とはいえないとして不法行為は認めず、慰謝料のみ認容した。 |
企業名が公表されるリスク
内定取り消しは、企業名が公表されるリスクが伴います。内定者やその周囲の人々が、インターネットや報道を通じて内定取り消しの事実を広める可能性があるためです。これにより、企業の評判やブランドに悪影響が及ぶことが考えられます。
具体的な事例として、SNS上で内定取り消しの経緯が拡散され、多くの人々に知られるケースがあげられます。企業は、内定取り消しの際には適切なコミュニケーション戦略を検討し、情報の管理に注意を払うことが求められます。
法律に抵触するリスク
最も重要なのは、法令の遵守です。法的な要件を満たさない内定取り消しは法的トラブルを招くリスクを高めるため、法律に厳密に従うことが必要です。
労働契約法では、雇用主が内定を取り消す場合には正当な理由が必要です。例えば、内定者の提出した情報に虚偽があった場合や業績悪化に伴う経済的理由がある場合が考えられます。
また、民法に基づき、内定取り消しによって内定者に損害が生じた場合、雇用主は損害賠償の責任を負う可能性があります。
これらの具体例と注意点を踏まえて、企業は内定取り消しに慎重かつ法令遵守の意識を持ち、適切な対応を行うことが重要です。
内定取り消しにおける企業側の対応方法
内定取り消しにおける企業側の対応方法には、以下があります。
採用前の予防策
内定取り消しを行わなくて済むように、企業は予防策を立てておきましょう。
選考プロセスを慎重に実施する
内定を出す前に、適切な選考プロセスを確立し、内定を出すべき候補者を慎重に選びましょう。選考プロセスで十分な情報を収集することで、誤った判断を避けることができるでしょう。面接や評価の方法を明確にし、候補者の適性を正確に評価できるようにしておくことが大切です。また、内定の条件や業務内容について候補者と綿密なコミュニケーションを図り、誤解を与えないことも重要です。
経営状態に注意を払う
企業は経営状態に注意を払い、内定を出す前にその影響を検討すべきです。経営に不確実性や困難な状況がある場合、将来的なリスクを最小限に抑えるために内定を出すタイミングや条件を検討します。状況によっては、内定の条件を柔軟に調整する場合もありますので、内定者と誠実なやり取りができるように準備をしておきましょう。
内定者への説明と謝罪
内定取り消しを行う場合の対応には、以下のような誠実な対応が必要です。
直接コミュニケーションをとる
内定者に対しては、直接の対話が不可欠です。電話や面談を通じて、内定取り消しの理由や状況を説明し、謝罪の意を伝えましょう。メールや書面での通知は、どうしても事務的に受け取られ、採用を取り消された側の気持ちをフォローすることが難しいものです。できるだけ直にコミュニケーションを取るようにしましょう。
真摯に説明する
内定取り消しの理由を明確かつ誠実に説明しましょう。誤解や混乱を避け、内定者に納得してもらえるように努力することは、企業の評判やブランドを守ることにもつながります。
謝罪を表明する
内定者に対して謝罪の言葉を伝えましょう。内定取り消しは彼らにとって失望や不安をもたらすことがありますので、感情的な苦痛を軽視せず、共感の意を表すことが大切です。また、将来の機会についても配慮を示すことで、信頼関係を保つ方法もあります。
補償や損害賠償
内定を取り消して終わりではなく、内定に関わることで生じた損害について、補償を検討することもリスクを下げるために有効です。
内定者へのサポートを提案する
内定者が過度な損害を被らないよう、可能な限りサポートを提供しましょう。例えば、内定を取り消すことによって引越し費用が発生する場合、内定者に適切な支援を提供し、その費用を軽減するといった方法があります。
合意したことは確認できるようにしておく
補償の必要性がある場合は、合意形成をしましょう。また、損害賠償を求められた際も、交渉に応じる姿勢を見せることで、示談交渉で済む可能性があります。どちらの場合も、両当事者が納得したことを文書に落とすなどして明文化し、誤解の無いようにしておくことが大切です。文書があることで、法的リスクも下げられます。
法的リスクの最小化を図る
企業側が正当な理由を持って内定を取り消したとしても、内定者が納得しない場合は訴訟のリスクがあります。そのため、内定取り消しの際には、専門家からアドバイスを受けながら手続きを進めるのが得策です。また、担当者自身も法律に関する知識を付けておき、適切な応対ができるようにしておくのが望ましいでしょう。