コンピテンシーとは?意味と評価・面接に使える項目一覧

update更新日:2024.10.25 published公開日:2022.11.21
コンピテンシーとは?意味と評価・面接に使える項目一覧
目次

コンピテンシーとは、簡単にいえば「ハイパフォーマーに共通する行動特性」のこと。社員が高い業績をあげるには、自社の業務に応じたコンピテンシー強化を図る必要があります。

本コラムでは、なぜコンピテンシーが重要なのか、多くの企業で用いられるコンピテンシー評価の項目一覧、コンピテンシーモデルのメリット・デメリットとともに、導入・運用の手順とポイントをわかりやすく解説します。

コンピテンシーとは?意味・歴史・重視される背景

はじめに、「コンピテンシーとは何か」を基本的な意味と提唱された歴史から見ていきましょう。コンピテンシーと混同されやすい「スキル」「ケイパビリティ」「コアコンピタンス」との違いにも注意が必要です。

コンピテンシーの意味は「ハイパフォーマーに共通する行動特性」

コンピテンシーは、「ハイパフォーマーに共通して見られる行動特性」を意味する言葉です。社員がもつ具体的な知識・スキル・態度だけでなく、その行動につながる価値観や動機も対象となります。

具体的にどのような行動特性がコンピテンシーであるかは、企業や組織、職種ごとに異なります。その組織において各社員に期待される成果や役割が変わるためです。

組織や職種に応じた複数のコンピテンシーを体系的に整理したものは「コンピテンシーモデル」と呼ばれ、人事評価や人材育成、採用面接などに活用されています。

コンピテンシーの歴史と重視される背景

コンピテンシーという概念は、1980年代に米国ハーバード大学の心理学者、デイヴィッド・C・マクレランド教授によって提唱されました。

きっかけは、米国文化情報局(USIA)の職員採用に向けた選考のために、高い成果につながる職員の特性について行った調査です。その結果、学歴と仕事上の成果に大きな相関関係はなく、むしろハイパフォーマーには考え方や動機、価値観などに共通点が見られることがわかりました。

その具体的な共通点とは、例えば

  • 異文化に対する適応能力
  • 他人の人間性を尊重する信念
  • 政治的な人脈の形成

です。

調査結果から、マクレランド教授は“良い結果を生む行動特性”をモデル化。従業員のパフォーマンスを向上させる手法として確立されたのが、コンピテンシーという考え方でした。

コンピテンシーは、1990年代から米国で採用・面接に活用されるようになります。日本では、バブル崩壊後の2000年代、人事評価の基準が年功序列から成果主義へと変化したタイミングで導入され始めました。

スキル・ケイパビリティ・コアコンピタンスとの違い

コンピテンシーと混同されやすい言葉に、「スキル」「ケイパビリティ」「コアコンピタンス」があります。

まず、それぞれの言葉の基本的な意味を下の表で確認しましょう。

【スキル・ケイパビリティ・コアコンピタンスの意味】

用語 意味 特徴
スキル ビジネスでは、業務の遂行に欠かせない能力全般のこと 社員一人ひとりが持つ能力に注目
ケイパビリティ ビジネスでは「企業が組織として持つ強み」であり、競合に対して優位性のある自社の役割や戦略のこと 企業・組織が持つ競争優位性に注目(例:品質の高さ、開発スピード)
コアコンピタンス 競争で優位となるために自社が持つ「核となる能力」であり、他社が模倣できない技術・スキルのこと 企業・組織が持つ競争優位性の核となる部分に注目(例:エンジン技術、小型化技術)

表にあるように、スキルは個人が持つ能力という点で、コンピテンシーと類似しています。しかし、ケイパビリティとコアコンピタンスは企業・組織全体が持つ能力に注目している点で、コンピテンシーとは本質的に異なります。

とはいえ、スキルとコンピテンシーは全く同じ意味でもありません。ビジネスパーソンには、コミュニケーションスキルやタイムマネジメントスキル、言語化スキルなど多様なスキルが求められますが、その全てがコンピテンシーとなるわけではないからです。

また、行動の動機や考え方の傾向などはコンピテンシーに含まれますが、いわゆるビジネススキルに含まれるとは限りません。

コアコンピタンスについては、関連コラムで詳しくご紹介していますので、あわせてご覧ください。

コンピテンシーの人事評価・採用面接・人材育成における活用例

先述の通り、コンピテンシーは人事評価や人材育成、採用面接で多く活用されてきました。どのように用いられているのか、もう少し詳しくご紹介します。

コンピテンシー評価による人事評価

コンピテンシーを用いた人事評価(コンピテンシー評価)は、最も一般的な活用方法です。ハイパフォーマーの行動特性から職種や役割ごとに評価項目を設定し、それに基づいて各社員の人事評価を行います。

ポイントは、コンピテンシーのていねいな抽出し、期待される役割をしっかりおさえること。導入に当たって適切な準備を行うことで、会社の業績向上につながる項目設定と評価が可能となります。

コンピテンシー評価を単独で用いる方法だけでなく、MBO(目標管理制度)や360度評価(上司・部下・同僚など複数の立場からの評価)と併用する企業も見られます。

氷山モデルを意識した人材育成

コンピテンシーは、人材育成にも活用されています。ここで主に意識されるのは「コンピテンシーの氷山モデル」でしょう。

氷山モデルとは、マクレランド教授の研究を受けて提唱されたコンピテンシー理論の一つ。コンピテンシーには、スキル・知識・態度といった目に見える開発しやすい特性と、目に見えず開発が難しい特性があるというモデルです。

「氷山」といわれる理由は、「目に見える特性(スキル・知識・態度)が“氷山の一角”に過ぎず、海面の下に隠れた見えない特性こそが、目に見える要素に大きな影響を与えている」と考える点にあります。目に見えない特性とは、自分と自分を取り巻く世界に対する捉え方(自己概念)や行動の動機、使命感などです。

氷山モデルを意識した人材育成では、新入社員の能力開発・キャリア開発を目的とするコンピテンシー研修などを実施します。メインテーマは「どのような考え方や行動が良い成果につながるのか」。ハイパフォーマーの行動特性を説明し、その後の行動や目標設定に活用します。

目標設定や行動計画の策定後は、実際にそれに基づいた実践を社員に求め、定期的なフィードバックを行います。その後、フィードバックを行う管理職や育成担当者が、コンピテンシーに基づく目標の達成度、現在の課題、課題克服や次の目標達成のために行うべきことなどを育成対象者と話し合い、助言を与えるという流れで育成を図ります。

コンピテンシー面接による採用活動

高い業績をあげる社員の行動特性は、採用活動における面接でも活用可能です。募集する部門や職種に特有のコンピテンシーがわかれば、入社後に自社で活躍しやすい人材の選考に役立つでしょう。

コンピテンシーモデルは採用面接前に作成しますが、人事評価で用いている項目を流用することも可能です。

例えば、「チームワーク」の特性について知りたい場合、過去にグループで取り組んで最も成果をあげたエピソードについて質問します。成果を出すために工夫したこと、グループの中で果たした役割、大切にした考え方などを尋ねることで、応募者の思考・行動の傾向を見ることができるでしょう。

それらの特性が、自社で設定するコンピテンシーにつながるようであれば、その応募者は入社後に活躍しやすい人材といえます。反対に、魅力的なスキルや特性を持っていたとしても、コンピテンシーとの親和性が低ければ、能力開発などでより大きな支援と本人の努力が必要かもしれません。

コンピテンシーの種類と項目一覧

ここで、コンピテンシーの種類や項目の一覧を見ていきましょう。

繰り返しになりますが、具体的な項目は会社や職種によって異なります。今回ご紹介するのは、ALL DIFFERENTが『人材育成ハンドブック』に掲載している10項目。これらは、多くの企業で採用されている“メジャーな評価項目”です。

【コンピテンシー 主な10項目】

コンピテンシーの項目 概要
リーダーシップ 主体的に物事や課題に取り組み、周囲を適切に巻き込む
コミュニケーション 同僚や上司、顧客と良好な関係を築く
専門性 プロとしての専門性を顧客に提供する
人材育成 後進育成に取り組み、育成対象者の能力を開発・向上させる
チームワーク チームメンバーと協力し、積極的にチームの目標達成に貢献する
創造性 固定観念にとらわれず、理想を描き、その実現に取り組む
影響力 他者に良質な影響を与える言動をする
決断力 適切なタイミングで、物事を適切に判断する
誠実さ 利害のみを優先させるのではなく、自律的で誠実な行動をとる
顧客志向 常に顧客視点で考える

これら10個のコンピテンシーは、業界を問わず使える汎用性が高い評価項目です。

一方、業界ごとに重視されているコンピテンシーの具体例としては、例えば次のような項目があります。

【業界別 特に重視されるコンピテンシー(例)】

業界 重視されるコンピテンシー例
製造業

リーダーシップ

専門性

創造性

IT業

コミュニケーション

倫理観

卸売・小売業

コミュニケーション

誠実さ

情熱

コンピテンシーの評価項目を洗い出す際は、自社のミッション・ビジョンも含めて、社員に期待する役割と実際に業績をあげている社員の行動特性を比較しながら、分析・選定するとよいでしょう。

コンピテンシーモデルのメリット

コンピテンシーモデルを活用する利点について既に言及してきましたが、ここで改めて主なメリット3つを見ていきましょう。これらを意識することで、コンピテンシーの具体的な運用イメージを持ちやすくなります。

(1)組織ごとの目標設定で生産性向上を期待できる

1つめのメリットは、生産性の向上を期待できることです。

コンピテンシーは、その部署や職種で実際に高いパフォーマンスを発揮している社員の行動特性です。そのため、各部署や職種でコンピテンシーモデルを作成すれば、それに合わせた適材適所の配置につながり、一人ひとりの特性や傾向にあった業務で活躍してもらいやすくなります。

また、コンピテンシーが明確化されることで、「どのような考え方で仕事をすればよいのか」「どのようなスキルを伸ばせばいいのか」という指針をメンバーそれぞれが得やすくなるでしょう。その結果、仕事の進め方がよりスムーズになり、生産性向上につなげることができます。

(2)客観的評価で従業員の納得感が向上する

2つめのメリットは、コンピテンシー評価を行うことで評価者の主観性を抑制し、評価される社員も納得しやすい人事評価を実現できることです。

コンピテンシー評価では、「実際に成果を出している」という揺るぎない事実をもとに望ましい行動特性を抽出し、評価項目とします。評価者の「何となく頑張っているから」「何となく、気に入らないから」という印象や人間関係の摩擦が大きく影響する主観的評価ではなく、明確に言語化・固定化された基準で公平に評価できるということです。

評価基準が明確であれば、評価される側の社員も「なぜその評価なのか」を理解しやすくなり、納得したうえで次の成長を目指せるでしょう。

(3)採用基準を明確にして自社に合う人材を採用できる

そして3つめのメリットは、採用基準の明確化に役立つことです。ミスマッチは採用活動における最大の課題ですが、求める要素をコンピテンシーによって明らかにすることで、これを軽減できます。

採用活動において、自社が求める人材像を設定する企業は多く見られます。しかし、それが漠然とした抽象的なものである場合、実際の選考において評価者による基準のブレが発生しやすいでしょう。

ここで、求める人材像にコンピテンシーを活用すれば、入社後の活躍を見据えた質問が可能となります。自社で重視される行動特性のリストが手元にあり、質問の目的や評価方法がより明確にできるからです。

応募者が持つ知識量や学歴・経歴だけを見るのではなく、目に見えない特性を深掘りすることが、ミスマッチ対策として有効なのです。

コンピテンシーモデルのデメリット

ただし、コンピテンシーを導入・運用するには、一定の負担が生じます。これが、コンピテンシーモデルのデメリットです。具体的な3つのデメリットと取り得る対策を確認しておきましょう。

(1)評価基準の選定が難しい

組織や職種に適したコンピテンシーを設定するには、多くの労力や時間が必要です。

第一に、コンピテンシーを分析するためにハイパフォーマーの行動特性を調査しなければなりません。業績が数値で見える部署であればハイパフォーマーの選定は比較的容易でしょう。しかし、バックオフィス業務のように会社の業績に直接関わらない部署では、ハイパフォーマーの選定に時間がかかる可能性があります。

また、選定するハイパフォーマーの人数は、複数であるほうが望ましいでしょう。1名だけを選び、その行動特性を抽出しても、本当にそれが高い業績に関連しているのかどうかを判断しにくいからです。

ハイパフォーマー自身が「なぜ自分は仕事ができるのか」をうまく言語化できないケースがあることにも留意しなければなりません。その社員にとっては「やって当たり前」のことであるため、意識にのぼりにくいのです。

こうした課題を軽減するには、アンケートを使って対象人物の選定や行動特性の抽出を行う方法があります。管理職やリーダー格の社員に行動特性の項目となりそうなものを列挙してもらい、それを選択肢に加えるとともに、自由に記入できる欄も設けるとよいでしょう。

(2)細かな評価基準によって評価者の負担が増える

コンピテンシーでは、目に見えない考え方の傾向や行動の動機、価値観などを重視します。定量化しにくい項目のため、具体的にイメージするには評価項目を細分化しなければなりません。

評価される側の社員数が増えれば増えるほど、評価に時間がかかり、評価する側の負担も大きくなってしまいます。あまりに評価にかかる労力が大きければ、評価者の業務を圧迫して生産性低下につながる恐れさえあるでしょう。

これを解決するには、コンピテンシー運用の効率化が大切です。例えば、当社でご提供している「Biz SCORE シリーズ」は、社員一人ひとりのスキルや目に見えない特性を定量化して診断できます。ハイパフォーマーの特性分析や各社員の現在地の客観的評価など、コンピテンシー導入準備から運用まで幅広い効率化の実現が可能です。

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(3)基準が自社に合わないと失敗する

コンピテンシーモデルには、実際に活躍している社員の行動特性をもとにする「実在型モデル」と、自社が求める理想的な人材像として設定する「理想型モデル」があります。これらを組み合わせた「ハイブリッド型モデル」も見られます。

実在型モデルの場合、実在する社員の行動特性が抽出されるため、自社の現状とのズレはあまり大きくはならないでしょう。ところが、理想型モデルやハイブリッド型モデルでは、実在する社員ではなく「理想の社員」の行動特性がコンピテンシーとされ、自社に合わない評価項目、評価基準が設定される恐れがあります。

コンピテンシー評価の導入は、社員の評価に関わる重要な施策です。理想だけを掲げて実態を無視した基準では、社員の理解を得られません。企業の取り組みに対する不信感や仕事へのモチベーション低下につながる場合もあります。

これを回避するには、経営層や管理職が抱く理想的な人材像だけをもとにするのではなく、実際に現場で働いている社員へのヒアリングを行い、設定した評価項目に対するフィードバックを受けることが重要です。

コンピテンシーの導入方法

実際に社内の人事評価や人材育成、採用面接などにコンピテンシーを導入する際は、職位・職種ごとにハイパフォーマーを選定し、共通する行動特性を分析する必要があります。同時に、社内での運用をよりスムーズにするため、社員に向けたコンピテンシー研修も実施しましょう。

具体的な導入の流れと導入・運用上の注意点を解説します。

(1)分析対象者を選定する

はじめに行うのは、部署・職位・職種ごとのハイパフォーマーの選定です。ここで適切な人材を選定できるか否かが、今後のコンピテンシーモデル構築の成否を分けるといっても過言ではありません。

繰り返しになりますが、分析対象となるハイパフォーマーは部署・職位・職種など、社内での役割ごとに選出しなければなりません。有効なコンピテンシーが異なる可能性が高いというのが第一の理由であり、第二の理由は、たとえ同じ項目が抽出されたとしても、職位や職種によって求められるレベルは異なるという点にあります。

ハイパフォーマーの選定には、人事考課結果を参考にするのが一般的です。そのほか、現場の上司や一緒に働く人物(自社の社員、関係者など)から推薦してもらう方法もあります。

(2)ハイパフォーマーへのヒアリングなどを行う

ハイパフォーマーを選定したら、次は当事者へのヒアリングを行います。先述の通り、比較的実施しやすいヒアリングの方式は、アンケートでしょう。

自社のミッション・ビジョン、事業の特性、これまでの実績を考慮しながら、コンピテンシーの特定に効果的な設問と選択肢を用意します。本コラムでご紹介した評価項目一覧もお役立てください。あわせて選択肢にない内容を自由に記入できる欄を設けると、より実態に合った回答を得られます。

分析対象者の数があまり多くない場合は、インタビュー形式での実施も可能です。人事担当者や管理職などが面談の場を設け、個別に具体的な質問をしていくとよいでしょう。

インタビュー形式におけるヒアリングのコツは、「自分の職務における高業績とは何か」「高業績を達成するために心がけている行動は何か」といった具体的な質問をすることです。

例えば、各業務における行動や成果についての取り組みを細分化して、

  • 意識したこと
  • コミュニケーションなどで用いた言葉
  • 使用した資料・作成した資料
  • 業務の詳しい手順

など、具体的な行動や意識を尋ねると効果的です。

ヒアリングを受けるハイパフォーマーが、自身の過去の取り組みや事実を話せばよい形式の質問をすることで、負担をかけず詳細な行動特性を得られるでしょう。

「対象者数が多いが、できる限り詳しくヒアリングしたい」というケースでは、アンケートとインタビューのハイブリッド形式がおすすめです。実施手順は、以下のようになります。

【ハイブリッド形式のヒアリングの流れ】

1 対象者に事前にアンケートを配布し、記入してもらう
2 アンケート結果をもとに、インタビュー対象者を選定する
3 人事部門担当者や人材育成担当者、専門コンサルタントなどがインタビューを実施する

ハイブリッド形式は、アンケートによって行動特性の定量調査を行い、インタビューによって定性調査を行うものです。両方の特徴を活用しながら、自社のハイパフォーマーにおける行動特性を聞き取りましょう。

(3)コンピテンシーリストを作成する

アンケートやインタビューで具体的な結果を得られたら、次はそれらの集計・分析です。部署・職位・職種ごとに、どのような行動特性があり、それぞれどのくらいのレベルで実践されているのかを確認してください。

集計・分析の中で、複数回出現する行動特性があれば、それが当該役割におけるコンピテンシーであると判断されます。

コンピテンシーの抽出が終わったら、次は職能要件など自社で採用している既存の評価方法とコンピテンシーを対応させつつ、コンピテンシーリストを作ります。

例えば「課題解決」の場合、下の表のような職位ごとのレベル分けが可能です。

【コンピテンシー:課題解決の例】

職位イメージ 求めるレベル
管理職 自律的に行った課題の設定とその解決が、会社の成果に大きく寄与する
中堅社員 自分の過去の経験・知識をもとに、自律的に課題解決ができる
新人・若手社員 上司・先輩・同僚の手を借りて課題解決ができる

上の表では求めるレベルを文章で表現していますが、コンピテンシー評価の運用では各評価項目を10段階などで点数化し、求める到達レベルを設定する方法なども見られます。

(4)コンピテンシー研修を実施する

はじめて自社にコンピテンシーモデルを導入する場合、全社員を対象にコンピテンシー研修を実施するとよいでしょう。

経営層がコンピテンシーの運用に対する理解を深めてから管理職を対象とした研修を、その次に一般社員対象のコンピテンシー研修を実施するという流れにすると、認識の統一を図りやすく、現場の戸惑いを軽減できます。

研修の具体的内容としては、以下が考えられます。

【コンピテンシー研修の内容例】

  • コンピテンシーとは何か
  • なぜコンピテンシーが重要なのか
  • 自社・自組織におけるコンピテンシーの具体例
  • 自社・自組織におけるコンピテンシーモデル活用の目的・メリット
  • 各コンピテンシーが目標達成につながる理由の考察(ディスカッション・ワークショップなど)
  • コンピテンシー強化に活用できる自社のリソース(研修・eラーニング教材など)
  • 社員それぞれのコンピテンシー強化に向けた行動計画・目標の作成

ポイントは、コンピテンシー評価を行う管理職や育成担当者も、評価される側の社員も、それぞれが利点と活用方法を理解し、実践イメージを具体的にもてる研修内容とすることです。

(5)コンピテンシーモデルを運用する

以上の導入準備が終わったら、いよいよ実際に現場で活用する段階です。それぞれの役割に応じたコンピテンシーをもとに目標設定と定期的な振り返りを行いましょう。

日々の業務で管理職や育成担当者が気をつけるべきことは、業務の指示や考え方をアドバイスする際に、自身の知識・経験に基づく助言だけで終わらせず、必ずコンピテンシー強化につながる内容を伝えることです。

評価面談などで部下・育成対象者の現在の状況をフィードバックする際も、コンピテンシーリストを確認しながら、到達しているレベルと目指すべきレベルを確認してください。そのうえで、求められるレベルに達するための具体的な取り組みを話し合い、リソースの活用も含めた行動計画の策定・改善を行うとよいでしょう。

コンピテンシーモデル運用における3つの注意点

最後に、コンピテンシーモデル運用における注意点を3つご紹介します。

1つめの注意点は、「完璧を求めすぎない」ことです。既に言及した「理想型モデル」で発生しやすい事態ですが、「実在型モデル」においても好ましい行動特性を詰め込みすぎて「全部達成するのは無理だ」とならないよう気をつけなければなりません。

高すぎる理想は、具体的な行動イメージを難しくします。抽象的・理念的な内容では、現場の具体的な評価も難しいでしょう。コンピテンシーは、社員に具体的な行動を促すためのものであることを常に意識することが大切です。

2つめの注意点は、社員それぞれの生まれつきの特性などを考慮することです。コンピテンシーリストにある行動特性には、先天的な要因や疾患などが理由で実践できないものが含まれるケースがあります。

例えば、コミュニケーションについて「テキストでの理解が得意でも音声言語(会話)での理解は難しい」という人もいれば、反対にテキストによる理解のほうが難しいという人もいるでしょう。聴覚障害や視覚障害がある人の場合、障害のない人と同じ方法で同じ質・量の情報を得られるとは限りません。

ほかにも、価値観の形成には生育環境や文化的背景が大きく影響しますし、他人の感情に対する理解・共感のしやすさも個人差が大きいものです。

本人の生来の特性、価値観に合わないコンピテンシーは、強化しようとしても伸び悩む可能性があります。他の部署や職種におけるコンピテンシーとの相性を探り、各人に合ったコンピテンシー強化ができるよう意識しましょう。

3つめの注意点は、コンピテンシーリストは「作りっぱなし」にせず、定期的に更新することです。ビジネスの外部環境は常に変化しています。特にVUCAの時代といわれる近年、急激な外部環境の変化に経営戦略の変更を余儀なくされることもあります。

経営戦略が変われば、社員に求めるコンピテンシーも変化するもの。社内で運用しているコンピテンシー評価の項目・基準が自社の現在の目標に合っているかを常に点検し、必要に応じて修正・更新しましょう。

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