人事評価制度とは ?目的や運用方法から注意点まで解説

published公開日:2018.01.17
目次
事業環境の変化に合わせた人事評価制度の策定や改定は、企業にとって必要な施策の一つです。しかし、中には良い結果を得られない企業があります。良い結果を得る企業とそうでない企業にはどんな違いがあるのでしょうか。今回は人事評価制度とは何かに始まり、改定のポイント、運用方法、注意点など、幅広く解説します。

人事評価とは

人事評価とは、従業員の働きや貢献度、成果といった項目に対して会社が行う評価のこと。人事評価制度は、そうした評価を基準として給与や賞与の増減、昇進・降格などを行うルールを定めたものです。人事評価制度は従業員のキャリアにも影響を与えるため、人材育成にも関わる重要な制度です。

人事評価制度の運用目的 と3つのポイント

人事評価制度を運用する大きな目的は、円滑な企業活動の実施と業績向上にあります。これを達成するために重要なポイントは、以下の3つです。

公平・公正な評価をする

人事評価制度では、昇給や昇格に必要な能力、業務での実績、対応などを明文化します。よって、1つめのポイントは、基準と待遇を明確にすることで、公平かつ公正な評価を行うこととなります。
人事評価制度が不透明である場合、従業員の満足度は大きく下がってしまいます。一方、基準の明確化を行えば、評価される理由や昇級・昇格するための条件が明確になり、仕事へのモチベーション維持・向上につながります。

評価する側にとっても、基準の明確化は重要です。評価者一人に対して、被評価者は数人から十数人ほどいます。これだけの人数について評価を行うことは決して簡単ではありません。明確な基準がなければ評価担当者の主観的印象や勘に頼ることになり、評価に偏りが生じてしまうでしょう。人事評価制度は、こうした評価の偏りや評価に悩む時間を軽減できます。

従業員の能力開発・人材育成

どれだけ優秀な人材でも、その能力と会社が求める能力が合致していなければ、全体の業績向上に向けた貢献度は高まらない可能性があります。人事評価制度の役割のひとつが、評価制度が設ける評価基準によって会社が求める人材の方向性を伝え、会社が求める能力の開発や人材の育成を進めることです。

育成担当者も育成対象者も、今後どんなスキルや知識が必要かを明確に把握できるようになります。上位の職位に求める要件や評価基準を示すことで、後継者育成にも役立ちます。

適材適所な人材配置

人事評価制度で従業員がもつ知識や能力が明らかになれば、適切な人員の配置が可能になります。それぞれの保有資格、業務への適正、部署内での評判など、評価をするにあたって多くの情報も活用できるでしょう。職域を広げるため、長期的視線で敢えて苦手としてきたことに挑戦させることも可能です。

こうした取り組み全体をとおして、組織全体の生産性向上につなげられるでしょう。

人事評価で取り入れられている3つの評価軸

人事評価制度で、取り入れられている評価軸は、主に3つあります。
「情意・態度の評価」「コンピテンシー評価」「成果評価」です。

評価軸(1)情意・態度の評価

情意・態度への評価は、仕事に対する考え方や行動、簡単に言えば勤務態度の評価です。具体的には、仕事における自主性や協調性といったような仕事に積極的に取り組む姿勢、コンプライアンスの遵守や企業理念の理解やそれに基づいた行動などを評価します。

特に新卒や異業種からの転職者など、自社の業務に必要なスキルをまだ習得していない社員に対して行うことで、モチベーションの維持・向上につなげられます。

評価軸(2)コンピテンシー評価

コンピテンシー評価では、社内のハイパフォーマーに共通している行動特性に沿った行動がてきているか否かを評価します。具体的な項目例は、知識やスキル、計画力、判断力、折衝力、実行力などです。自社の事業や業務内容において効果的な行動特性を調査・分析して評価軸にすることで、より効果的な評価を行えるでしょう。

たとえば、昇進を目指す社員がいた場合、目指す役職に求められる行動特性を基準に評価することで、昇進させるかどうかを判断できます。

評価軸(3)成果評価

成果評価では、評価期間中の成果をもとに評価します。一般的には、期初に目標を設定し、期末時の成果を見て評価を決定するものです。期間中は、目標の進捗に合わせて達成すべきレベルの調整を行うこともあります。

成果の指標は、業種によって異なります。営業職なら売上や新規顧客開拓数など、技術職なら開発件数やプロジェクトの進捗、製造職ならコスト減や不良品率の低下などが考えられます。

企業が人事評価制度改定に取り組むべき理由

企業における人材マネジメントの一環として、人事評価制度の改定に取り組む企業は少なくありません。労務行政研究所の調査*1では、過去5年間に半数近くの企業が何らかの人事評価制度の改定に取り組んだという結果が出ています。
なぜ、人事評価制度の改定が多くの企業で行われているのでしょうか。それには、以下のような悩みが関係しています。

  • 事業環境の変化に人事評価の内容が追いついていない
  • 報酬にメリハリをつけたい
  • 評価者によって人事評価結果にバラつきがある
  • 人事評価結果に対する従業員の納得感が低い
  • 労力をかけて評価しても、その後の活動に活かされない
  • 人事評価結果と企業側が評価したい人とのミスマッチが起きている

改定を検討する悩みには、評価制度自体の問題もあれば、運用に関する問題もあるようです。

しかし、いざ人事評価制度の改定を進めても、思ったような結果が得られない企業が見られます。その理由は、「なぜ、そういった悩みが生じるのか」の原因をきちんと考えるために必要な人事評価制度の要素を理解していないからかもしません。

そこで、ここからは人事評価制度の策定・改定における2大フェーズ、「人事評価制度の構築・改定」と「人事評価制度の運用」を見ていきましょう。

*1 一般財団法人労務行政研究所 2017年4月14日発行「『労政時報』第3928号」

フェーズ1. 人事評価制度の構築・改定

フェーズ1は、人事評価制度を新たに構築したり見直しを行ったりする段階です。ここで重要なのは、どのような評価項目を設定するか、どのように評価するか、誰が評価するかです。

(1)人事評価項目の構築・改定を行う

人事評価制度の構築・改定では、まず評価項目の選定や評価基準の見直しを行う必要があります。具体的な流れは、下記が参考になるでしょう。

  1. ①職種別・階層別の評価項目を設定する
  2. ②設定した評価項目に対して、何段階で評価するのか、各段階はどのような基準で評価するのかを決める
  3. ③各評価項目の配点を決め、評価項目に応じた重み付けを決める

人事評価制度の改定を行う場合、改定前の評価項目・基準を踏襲するのか、新たに基準を設けるのかは、事業内容や方針によって異なるでしょう。しかし、

  • 企業のビジョンやミッションに合っているか
  • 公平・公正な基準になっているか
  • 現代の価値観に沿っているか

といった点は、外せないポイントです。

(2)評価実施者を決定する

次に、評価における各段階の評価者を決定しましょう。たとえば、次のような流れが考えられます。

  1. ①自己評価を行う(評価者は本人)
  2. ②一次評価を行う(直属の上司(課長級)
  3. ③二次評価を行う(さらに一つ上の上司(部長級)
  4. ④最終評価を決定する(経営幹部が実施する会議)

評価を一次評価、二次評価にわける理由は、公平・公正な評価を行うためです。一次評価者は、被評価者との距離が近い役職者が担当するため、意図していなくてもハロー効果や寛大化傾向などといった偏りが起こりやすくなります。

そのため、二次評価者を設けて偏りを均すのです。

フェーズ2. 人事評価制度の運用

フェーズ1にて評価制度の構築と評価者の選定を行ったあとは、実際の運用に入ります。以下にご紹介する運用手順では、各段階で振り返りと見直しを行い、常に適正化を図りましょう。人事評価制度でもPDCAを回し続けることが大切です。

(1)従業員の評価を実施する

運用においては、まずフェーズ1で決定した評価の手順に従い、評価担当者が評価を実施します。評価時期や回数は、上半期評価と通年評価といったように年二回ほど実施している企業が多い傾向にあります。実際の評価時期や回数は、自社の事業内容や風土などに合わせて検討しましょう。

(2)評価結果を待遇に反映させる

人事評価を行ったら、その結果に基づいて給与や配置などを検討しましょう。一般的には、評価結果は給与や賞与に反映されるケースが多いでしょう。昇格・降格への反映、人事異動や人材育成にも評価結果は活用されています。

(3)人事評価結果を本人へフィードバックする

人事評価の結果を評価対象者本人へフィードバックすることも忘れてはいけません。フィードバックは、一次評価者である直属の上司が実施するケースが一般的です。ただ、企業によっては、さらにその上の役職者(部長など)や人事部門担当者が同席して行うこともあります。

フィードバックは、被評価者へ評価の公平・公正さを理解してもらう機会になります。同時に、評価がプラスであればモチベーションアップにつながりますので、きちんと評価内容を伝えることを意識してください。たとえマイナスの評価を伝えることになっても、適切なフォローを行えばエンゲージメント獲得につながります。

人事評価制度改定の落とし穴とは?

人事評価制度をしっかり構築したつもりでいても、実際に運用してみると思うような結果を得られないことがあります。その主な要因を以下の2つです。順番に見ていきましょう。

  1. 1. 人事評価制度の要素の選択が適切でない
  2. 2. 人事評価制度の策定・改定による影響を見誤る

1. 人事評価制度の要素の選択が適切でない

人事評価制度で何らかの課題が生じる場合、評価の実施や評価結果のフィードバックなどが効果的に行われていないケースが非常に多く見られます。

例として、次のような課題を考えてみましょう。

  • 【課題】

    人事評価結果に対する従業員の納得感が低い

  • 【不十分な施策】

    評価項目や基準の見直しのみを行う
    人事評価制度に従業員が納得してない場合、評価項目や評価基準に対して直接不満を抱いているとは限りません。「制度内容自体が不透明である」「評価内容が適切にフィードバックされていない」などの可能性があります。
    そうした点を分析し、施策を講じることが大切です。

  • 【分析すべき点】

    ・納得感が低い理由の多くは、評価項目や評価基準の不透明さ、不公平さにあるかもしれない
    ・公正・公平な評価をしていても、フィードバックの方法や内容に課題があるかもしれない
    ・以上の理由で、従業員が十分に理解・納得していない可能性がある

  • 【行うべき施策】

    ・基準を明示したうえで、適切に評価していると伝える
    ・フィードバックを通して理解を深めてもらう
    ・評価者による内容のばらつきを是正する
    ・フィードバックでは単に評価を伝えるのではなく、従業員一人ひとりの今後につなげる場にする

    フィードバックを適切に行うには、役職者側に伝え方のスキルが求められます。フィードバックの機会を確保するだけでなく、そうしたコミュニケーションスキルの向上にも取り組むと良いでしょう。

2. 人事評価制度の策定・改定による影響を見誤る

人事評価制度の策定・改定は、より良い制度を目指して行われます。しかし、策定・改定の影響はポジティブなものだけではありません。特に、改定の際はネガティブな影響に注意が必要です。

今回は、人事制度の改定に伴うネガティブな影響を確認しておきましょう。

(1)人事評価制度改定に費やされる業務負荷、費用の発生

「想定以上に経営層やキーパーソンとの調整に時間がかかる」
「改定内容の従業員への説明に想定以上の労力がかかる」

このように、改定作業には、それに関わる従業員の負担が大きく増えることが懸念されます。改定担当者は通常のコア業務にはあたれませんので、他の従業員がカバーしなくてはなりません。
さまざまな立場の人に負担がかかる事態を軽減するには、人員の再配置や業務量の調整などの準備が必要です。

(2)人事評価制度改定の恩恵を受けない従業員の士気低下

評価基準を改定すると、改定前よりも評価が下がる従業員が出るかもしれません。期待していたほど評価が上がらず不満に感じる従業員もいるでしょう。そうした従業員には、真摯な説明やフォローが不可欠です。きちんとしたフィードバックとともに、評価の向上に向けた目標設定、具体的な取り組みなどを話し合うとよいでしょう。

(3)人事評価制度の改定によって発生する制度の運用コスト増

人事評価制度の改定では、目標管理制度も導入することがあります。そこで見落とせないポイントは、半期ごとの目標設定にかかる業務負荷の増大、達成状況把握に必要な実績データを作成する工数の増大などです。

改定内容を決めた後には、直ちに全社導入するのではなく、テスト運用をしてください。テスト運用では、コスト感を掴むことが大切です。もし、運用コストが許容範囲を超えて大きいようであれば、評価項目や運用方法を見直して最適化していきましょう。ときには、改定の必要性自体を再検討することも視野に入れてください。

人事評価制度の策定・改定は運用の見直しから

人事評価制度の策定・改定で理想的な制度ができたと感じても、運用が上手くいかなければ元も子もありません。人事評価制度は、多くの従業員に影響を与えます。特に改定では、安易に行えばマイナスの影響が大きく出てしまうかもしれません。

人事評価制度を改定する際は、まず現在の評価制度について、人事評価制度の運用目的にかなっているかを確認しましょう。それには、組織人事管理についての知識も必要です。ALL DIFFERENTでは、人事管理の基礎から学んでいただける研修をご提供しておりますので、制度の見直しにぜひお役立てください。
組織人事管理概論はこちら>

また、人事評価制度の改定を考えるきっかけとなる課題の多くは、制度そのものよりも運用に問題がある場合がほとんどです。ALL DIFFERENTがご用意する人事評価制度運用に役立つ基本の心構えと考え方が身に付く研修は、「うまく評価が行えていない」「評価結果の活かし方がわからない」という課題にお応えします。
人事評価の基本<心構えと評価編>はこちら>

評価者側の改善を図ることで解決できる問題も多くあります。大きな労力がかかる制度の改定を行う前に、評価者側のレベルアップを図ることも一つの方策でしょう。そこで、当社では評価者のレベルアップに向けて、評価結果のフィードバック面談のやり方を学んでいただける研修もご用意しました。こうしたさまざまな研修を通じて、従業員の方々をより公平・公正に評価し、納得感のある制度運用をサポートいたします。
人事評価の基本<フィードバック面談編>はこちら>