賞与(ボーナス)とは?支給金額の基準や計算方法を解説

published公開日:2024.07.04
賞与(ボーナス)とは?支給金額の基準や計算方法を解説
目次

賞与(ボーナス)とは、一般的な給与とは別に、特定の期間や業績に応じて支給される特別な報酬です。賞与は、従業員が算定期間に達成した成果に対する報酬として支払われることが多く、従業員のモチベーションに与える影響は大きいといえるでしょう。

本コラムでは、賞与の支給金額の基準や計算方法、支給時期などについてのパターンを紹介します。また、賞与支給に伴う手続き、所得税や社会保険料の計算についても詳しく解説します。

賞与(ボーナス)とは

はじめに、賞与(ボーナス)という言葉の意味と、似た意味の言葉である給与や寸志との違いについて解説していきます。

賞与とは

賞与とは、通常の給与とは別に支給される特別な報酬や手当のことです。企業の業績、従業員個人の業績などに基づいて支払われます。賞与の支給対象者や支給額の基準は、企業ごとに就業規則や労働契約などで定められます。

これらの規定で「会社の業績に応じて支給」「原則として支給」などと表記する場合、業績不振などの理由で賞与不支給にできる可能性があります。一方、労働契約や就業規則などで賞与の支給を確約していたり、支給額や支給条件を明示していたりする場合、企業は賞与を必ず支払わなければなりません。

なお、賞与の支給を確約していない場合、賞与は支給しなくても違法ではありません。

賞与と給与の違い

給与は労働者に定期的に支払われる賃金であり、賞与は特別な成果や労働に対する追加的な報酬です。

給与の支払い方については、労働基準法第24条において、支払いの5原則が定められています。給与は「1. 通貨で」「2. 直接労働者に」「3. その全額を」「4. 毎月一回以上」「5. 一定の期日を定めて」支払われる必要があります。

これに対して賞与のような「臨時に支払われる賃金」については、5原則のうち「4. 毎月一回以上」と「5. 一定の期日を定めて」が適用されません。

参考:厚生労働省「労働基準法第24条(賃金の支払)について」

賞与とボーナスの違い

ボーナスは賞与を英語で言い換えた言葉。意味は賞与と同じです。

国税庁の公式サイトにおいても、「賞与とは、定期の給与とは別に支払われる給与等で、賞与、ボーナス、夏期手当、年末手当、期末手当等の名目で支給されるものその他これらに類するもの」と定義されています。

引用:国税庁「No.2523 賞与に対する源泉徴収」

賞与と寸志の違い

賞与が従業員の成果や労働に対する報酬であるのに対し、寸志は主に従業員へ感謝の気持ちを表すための少額の金銭的贈与です。

一般的に賞与では月給の数カ月分相当が支払われますが、寸志は数千円から数万円程度であるケースが多く見られます。

賞与(ボーナス)の決め方の種類

賞与の決め方には、基本給連動型賞与、業績連動型賞与、決算賞与の3種類があります。

基本給連動型賞与

基本給連動型賞与は、月々の基本給に連動して賞与の支給額を決定する賞与体系です。日本では一般的な賞与制度で、「基本給の○カ月分」などの形で基本給に一定の月数を乗じて算出されます。

なお、基本給には手当などの金額は含まれません。月給そのものの金額ではなく、あくまで手当などを除いた基本給をもとにしている点に注意が必要です。

業績連動型賞与

業績連動型賞与は、会社の業績や個人の成果に応じて支給する賞与体系です。基本給連動型賞与とは異なり、そのときどきの条件によって支給額が変わります。

日本経済団体連合会の2021年「夏季・冬季 賞与・一時金調査結果」によると、業績連動型賞与を導入している企業の割合は328社中181社で55.2%でした。2020年度より4.9ポイント減となったものの、2016年から6年連続で5割を超えており、近年増加傾向にある賞与体系です。

参考:日本経済団体連合会「2021 年「夏季・冬季 賞与・一時金調査結果」の概要」

決算賞与

決算賞与は、決算期に会社の利益を分配する目的で支給する賞与です。企業の会計年度終了後、決算の結果に応じて支給します。

企業にとって、決算賞与を損金算入することで当期の経常利益を抑えて法人税を節税できるというメリットがあります。

賞与(ボーナス)の支払い時期と回数

賞与は給与とは違い、賃金支払いの5原則のうち「4. 毎月一回以上」と「5. 一定の期日を定めて」が適用されません。そのため、支払い時期や回数については、それぞれの企業が独自のルールを定めることができます。

ここでは、一般的な賞与(ボーナス)の支払い時期や回数について解説します。

支払い時期・支払い日

賞与の支払時期について就業規則や雇用契約書で定めている場合は、その時期に支給しなければなりません。一方、定めていない場合は、企業が支払時期を任意に決定することができます。

一般的には、基本給連動型賞与は夏季(6〜7月)と冬季(12月)に支給します。

業績連動型賞与の支払時期は企業によって異なり、基本給連動型賞与の支払時期以外の時期にする企業もあれば、基本給連動型賞与なしで夏や冬に支給する企業もあります。

決算賞与については、決算日の翌日から1カ月以内に支給するケースが多く見られます。

賞与の支払日についても、支払時期の中で企業が自由に設定することができます。支払日は毎年同じである必要もありません。賞与の支払日と給与の支払日を別の日に設定することも可能です。

支払い回数

賞与の支払い回数は、基本給連動型賞与では年2回が基本です。これに業績連動型賞与または決算賞与の支給を追加して、年3回支給する企業もあります。

ただし、賞与を年4回以上支給する場合は注意が必要です。

健康保険法や厚生年金保険法において、「『賞与』とは(中略)いかなる名称であるかを問わず、(中略)3月を超える期間ごとに受けるものをいう」と定義されています。そのため、賞与の支給が年4回以上になる場合、社会保険においては給与と同様に「報酬」として扱います。すなわち、企業は賞与を標準報酬月額に加算して、社会保険料を算出しなければならないということです。

賞与を標準報酬月額に加算すると、支払うべき社会保険料が増えてしまいます。これを避けるため、多くの企業では賞与の回数を年3回以下としています。

引用:e-Gov法令検索「健康保険法 第一章 総則 第3条第6項」

引用:e-Gov法令検索「厚生年金保険法 第一章 総則 第3条第1項第4号」

賞与(ボーナス)の支給要件

企業は賞与の支給要件を独自に定められます。ただし、同じ業務を同じ責任の範囲で担っている従業員について、雇用形態のみを理由として支給・不支給を定めると、違法とみなされる恐れがあります。適切な支給要件を設定するためにも、支給対象者や支払い要件は慎重に検討しましょう。

支払い対象となる従業員

支給対象者は、必ずしも全従業員とする必要はありません。そのため、正社員にのみ賞与を支給し、非正規雇用の従業員には賞与の支給がない会社もあるでしょう。

ただし、2021年4月より全面適用された同一労働同一賃金により、同じ仕事をして同程度の貢献をした従業員について雇用形態のみを理由に賞与で差をつけると、違法とみなされる可能性があります。

企業は同一労働同一賃金の原則を守り、公平な賞与制度を設計するとともに、基準や支給額の算出方法などで透明性を確保しなければなりません。

支払い要件

賞与の支払い要件についても、会社が任意で設定することができます。この場合、就業規則や労働契約に「賞与支給日に在籍している従業員のみに、賞与を支給する」という旨の、支給日在籍要件を定めることが一般的です。

支給日在籍要件を定めておくことで、「賞与査定期間中は在籍していたが、賞与支給日前に自主退職した従業員にも、賞与を支払うべきか?」というトラブルを避けることができます。

なお、決算賞与に限っては、支給日在籍要件ではなく「決算日に在籍している従業員」などとするとよいでしょう。支給日在籍要件にすると決算日に支給対象者や支給額を確定できず、決算賞与の最大のメリットである当期の損金算入ができなくなってしまうためです。

賞与(ボーナス)の支給手順

では、従業員に賞与を支給する手順を順番に見ていきましょう。

(1)賞与支給額を計算する

従業員に支払う賞与支給額(手取り金額)を以下の式で求めましょう。

賞与総支給額 -(社会保険料 + 所得税)= 賞与支給額(手取り金額)

毎月の給与と同様に、賞与も社会保険料や所得税の対象です。従業員の口座に振り込む前に、社会保険料などを天引きする必要があります。差し引く金額は、賞与額や扶養親族の有無などにより異なりますが、おおむね支給額の2割です。

賞与から控除する社会保険料や所得税の具体的な計算方法は、記事の後半で解説します。

(2)賞与明細書を発行する

賞与を支給する従業員に対して、賞与の詳細を記載した賞与明細書を発行します。

賞与明細書には、控除前の総支給額、社会保険料などの控除項目および控除額、差引支給額、賞与支給日などを記載します。

賞与明細書は賞与支給時までに従業員へ発行することが一般的です。

(3)従業員に賞与を支給する

就業規則などで定めた賞与支給日に、従業員へ賞与を支給します。支給方法は現金の手渡しでも問題ありませんが、自動で支給日の記録が残るため銀行振込がおすすめです。

給与や賞与を銀行口座へ振り込んで支払うには、口座振込同意書などによって、従業員から同意を得る必要があります。口座振込同意書に「賞与の支払いに関しても、銀行口座振込を利用する」といった旨の文言を加えておくとよいでしょう。

賞与(ボーナス)の支払い後に必要な手続き

賞与の支給後も、まだ各種手続きが残っています。被保険者賞与支払届の提出と社会保険料などの支払いです。賞与も毎月の給与と同様に、社会保険料の対象です。

支給回数が年3回以下の賞与を支給する場合は、管轄の年金事務所または事務センターに対して、以下の手順で「被保険者賞与支払届」の提出手続きを行い、社会保険料を納付しましょう。

賞与を年4回以上支給する場合、「被保険者賞与支払届」提出の必要はありません。年4回以上の賞与は、標準賞与額ではなく標準報酬月額の対象となるからです。

被保険者賞与支払届の入手・作成

あらかじめ日本年金機構に賞与支給予定月を登録している場合は、賞与支払予定月の前月に被保険者の氏名や生年月日などが印字された届出用紙が企業に届きます。

賞与支給予定月の登録は、新規適用届または事業所関係変更(訂正)届の提出などにより行われます。

賞与支給予定月の登録を行っておらず、届出用紙が送られてこない場合は、日本年金機構の公式ページから被保険者賞与支払届をダウンロードしましょう。

被保険者賞与支払届を入手したら、賞与を支給した従業員ごとに、賞与支払い年月日や支給した賞与額などの必要事項を記入します。

参考:日本年金機構「被保険者賞与支払届のダウンロード(日本年金機構)」

参考:日本年金機構「被保険者賞与支払届の記入例」

被保険者賞与支払届の提出

「被保険者賞与支払届」の提出は、賞与支払日から5日以内に行います。提出先は、管轄の年金事務所または事務センターです。

賞与支払い予定月に賞与を支給しなかった場合は、「賞与支払届」にかえて「賞与不支給報告書」を提出しなければなりません。賞与不支給報告書は、日本年金機構から賞与支払予定月の前月に送られてくる書類で、日本年金機構の公式ページからもダウンロードできます。

賞与支払予定月の翌月までに届出を行わないと、予定月の翌々月に催告状が送付されてきます。

参考:日本年金機構「賞与を支給したとき、賞与支払予定月に賞与が不支給のとき」

社会保険料を納付する

被保険者賞与支払届を提出すると、後日「保険料納入告知書」が送付されてきます。

決定した保険料は、賞与を支給した月の翌月末日までに納付します。

社会保険料の計算方法

従業員の賞与から差し引かれる社会保険料は、給与と同じく「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「雇用保険」の4つで、負担率も毎月の給与と同じです。このうち健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料の3つは、事業主と被保険者が半分ずつ保険料を負担する労使折半です。

前述の通り、賞与支給回数が年3回以下の場合は、日本年金機構に提出した被保険者賞与支払届の内容に基づいて、社会保険料の金額が決定されます。

賞与(ボーナス)における社会保険料の計算方法を確認していきましょう。

健康保険料

健康保険料の計算式は以下の通りです。

税引前の賞与総額から1,000円未満を切り捨てた金額(標準賞与額)× 健康保険料率

全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入している企業の場合、健康保険料率は都道府県ごとに異なります。健康保険組合に加入している企業では、健康保険組合が健康保険料率を設定しています。

健康保険料は労使折半のため、上記の計算式で求めた金額の半分を企業が、もう半分を従業員が負担します。

参考:全国健康保険協会「都道府県ごとの健康保険料率」

厚生年金保険料

厚生年金保険料の計算式は以下の通りです。

税引前の賞与総額から1,000円未満を切り捨てた金額(標準賞与額)× 厚生年金保険料率(18.3%)

厚生年金保険料も労使折半のため、上記の計算式で求めた金額の半分を企業が負担し、もう半分を従業員への支給額から控除します。

参考:日本年金機構「厚生年金保険の保険料」

介護保険料

40歳以上65歳未満の従業員については、介護保険料が発生します。介護保険料の計算式は以下の通りです。

税引前の賞与総額から1,000円未満を切り捨てた金額(標準賞与額)× 介護保険料率

全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入している企業の場合、令和6年度の介護保険料率は1.6%です。健康保険組合に加入している企業の場合は、健康保険組合が介護保険料率を設定しています。

介護保険料も健康保険料や厚生年金保険料と同様に労使折半ですので、上記の計算式で求めた金額を企業と従業員が半分ずつ負担します。

参考:全国健康保険協会「令和6年度保険料率」

雇用保険料

雇用保険は社会保険の中でも労働保険に分類される保険で、前述の3つの社会保険「健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料」とは異なる点があります。

雇用保険料の計算式は以下の通りです。

税引前の賞与総額 × 雇用保険料率
(1円未満の端数が発生する場合、50銭以下は切り捨て、50銭1厘以上は切り上げ)

雇用保険料率は毎年見直しが行われ、また業種によっても保険料率が異なります。さらに、企業と従業員の負担割合も業種によって異なるため注意が必要です。

令和6年度における雇用保険料率や業種ごとの負担割合は厚生労働省の公式ページで確認できます。

雇用保険料の納付については、賞与支給時期には行いません。例年6月1日~7月10日に行う「年度更新」で、賞与の総額も含む賃金総額から概算保険料を計算して納付します。

ただし、納付時期は賞与支給時期でないとはいえ、従業員負担分の雇用保険料自体は賞与支給時に控除しなければなりません。

【雇用保険料の計算・納付のポイント】

  • 標準賞与額(税引前の賞与総額から1,000円未満を切り捨てた金額)ではなく、切り捨てを行わない実際の賞与額をもとに計算する
  • 業種によって雇用保険料率が異なる
  • 労使折半ではなく、業種によって企業と従業員の負担割合が異なる
  • 賞与支給時期ではなく、「年度更新」において概算保険料を納める

参考:令和6年度の雇用保険料率について

労災保険料

労災保険も、社会保険のうち労働保険に分類される保険です。雇用保険と同様、「年度更新」において概算保険料を納めます。

雇用保険と大きく異なる点は、従業員の保険料負担がないことです。そのため、賞与支給時の控除は不要です。

賞与(ボーナス)の社会保険料を控除しないケース

以下のケースに該当する場合は、社会保険料のうち「健康保険料」「厚生年金保険料」「介護保険料」が発生しないため、従業員へ支払う賞与額から控除する必要がありません。

雇用保険料については、以下のケースに該当する場合であっても控除する必要があります。

賞与支給月に社会保険の被保険者資格を喪失した場合

健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料は、「被保険者資格を喪失する月の前月まで」発生します。資格を喪失する日は「退職日の翌日」とされているため、賞与支給月の末日より前に退職する場合は、社会保険料が発生しません。

例えば、賞与支給日が7月10日で退職日が7月25日の場合、「資格を喪失する日」は7月26日。社会保険料が発生するのは、その「前月」である6月までです。よって、7月に支給された賞与には社会保険料が発生しません。

一方、月末に退職する場合は社会保険料が発生するため、注意が必要です。

例えば、賞与支給日が7月10日で退職日が7月31日の場合、「資格を喪失する日」は8月1日、その「前月」は7月となります。すなわち、7月に支給された賞与に社会保険料が発生しますので、忘れずに控除してください。

産前産後休業(産休)期間中に賞与が支払われた場合

産前産後休業(産休)期間中に支払われた賞与に関しては、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料)が免除されるため、控除の必要がありません。

なお、この免除期間は、将来被保険者の年金額を計算する際に、保険料を納めた期間として扱われます。

育児休業(育休)期間中に賞与が支払われた場合

1カ月間を超える育児休業(育休)を取得した場合、育休中に月末が含まれる月に支給された賞与には社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料)がかかりません。よって、このケースでも控除は不要です。

育休中における免除期間についても、産前産後休業の場合と同様、将来被保険者の年金額を計算する際に保険料を納めた期間として扱います。

所得税(源泉徴収税)の計算方法

最後に所得税(源泉徴収税)の計算方法です。

賞与にかかる所得税額は、以下の計算式で求められます。

(賞与総支給額 ー 社会保険料 )× 所得税率

賞与支給額にかかる所得税率は、前月の給与額と扶養親族の人数によって決まります。国税庁の公式ページで公開されている「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を参照し、従業員ごとの賞与の所得税率を調べ、算出しましょう。

参考:国税庁「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」