決算賞与とは?企業事例・メリット・デメリットと損金算入要件

published公開日:2024.06.20
決算賞与とは?企業事例・メリット・デメリットと損金算入要件
目次

決算賞与とは、事業年度の業績に応じて決算時期に賞与を支払う制度です。一定の要件を満たせば当期の損金算入が可能なため、従業員への利益還元と節税になるというメリットがあります。

本コラムでは、決算賞与とは何か、基本給連動型賞与や業績連動賞与との違い、メリット・デメリットのほか、企業導入事例や損金算入の要件・注意点をお伝えします。

決算賞与とは?賞与(ボーナス)の定義と種類

決算賞与は、3種類ある賞与(ボーナス)制度の1つです。はじめに、賞与とはそもそも何か、賞与にはどのような種類があるのかを確認していきましょう。

賞与(ボーナス)とは

賞与(ボーナス)とは、定期的に一定の金額を支給する月給などとは別に、従業員の働きや企業の業績に応じて支給する賃金のことです。

賞与の定義は、労働基準法関係通達(1947年9月13日発基第17号)における「法第二四条関係」に記載されています。この通達では、「その支給額が予め確定されていない」ことも条件としており、支給額があらかじめ確定しており定期的に支給されるものは、どのような名称であっても賞与とはみなさないとしています。

法第二四条関係

賞与とは、定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであつて、その支給額が予め確定されてゐないものを云ふこと。定期的に支給され、且その支給額が確定してゐるものは、名称の如何にかゝはらず、これを賞与とはみなさないこと。

—出典:労働基準法の施行に関する件(1947年9月13日発基第17号)

賞与の支給は義務ではありませんので、賞与を出すか否かは企業に任されています。ただし、支給する場合は支給額に応じた社会保険料や所得税も納めなければなりません。

決算賞与は3種類の賞与制度の1つ

賞与制度は、どのような基準で支給額と支給時期を決定するかという点で、次の3種類に分けられます。

【3種類の賞与制度】

賞与の種類 特徴
基本給連動型賞与
  • 基本給を基準として「月給の○カ月分」などの形で支給額を決定
  • 支給時期・回数は夏・冬の年2回が一般的
業績連動賞与
  • 算定期間における業績をもとに支給額を決定
  • 支給時期・回数は企業によって異なる
  • 業績が悪い場合は賞与が支給されない場合もある
決算賞与
  • 事業年度末における業績をもとに支給額をもとに支給額を決定
  • 支給時期は決算日の翌日から1カ月以内が一般的
  • 業績が悪い場合は賞与が支給されない場合もある

上の表にある通り、決算賞与は、会社の事業年度末における業績に応じて、決算日から1カ月以内に支払う賞与です。原則として、業績が好調であればその利益を従業員に還元し、低迷していれば賞与不支給とします。決算賞与の呼び方は、「年度末手当」「特別賞与」など、企業によって異なります。

基本給連動型賞与・業績連動賞与・決算賞与は、単独で導入することもできますし、複数を組み合わせて支給することもできます。大手企業でよく見られるパターンは、基本給連動型賞与で年2回の賞与を安定的に支給し、業績が良い場合に業績連動賞与や決算賞与を追加で支給する形です。

基本給連動型賞与・業績連動賞与との違い

決算賞与と他の賞与制度の違いは、前項の表で比較するとわかりやすいでしょう。

決算賞与と基本給連動型賞与との違いは、計算式に用いる基準と支給時期・支給回数にあります。基本給連動賞与は年功序列型の給与体系でよく用いられる賞与制度で、基本給が高いほど賞与の支給額も大きくなる点が特徴。そして、「夏のボーナス」「冬のボーナス」と言われるように、夏・冬の年2回の支給が一般的です。業績に応じた支給・不支給の判断は前提されていません。

これに対して、決算賞与の基準は事業年度末に確定する組織の業績です。その性質上、支給回数は年1回であり、支給時期は決算日前後となります。業績が一定基準を上回った場合に利益還元の形で支給する賞与ですので、業績が悪い場合は不支給とすることが可能です。

決算賞与と業績連動賞与の違いは、算定期間と支給回数にあります。業績連動賞与は、組織の業績に応じて支給額を決定し、業績が悪ければ不支給の決定ができるという点で決算賞与と似ています。しかし、業績連動賞与の算定期間は企業によって異なり、必ずしも1年度分とは限りません。年2回支給する場合は半期ごとに算出・支給することも可能です。

決算賞与の導入企業例

様々な企業の賞与制度を見ると、基本給連動型賞与をベースとしながら業績連動賞与や決算賞与も併せて導入している例が多く見られます。それらの企業から、今回は決算賞与を支給している大手企業2社をご紹介しましょう。

しまむらグループ

国内に2,000店舗以上を展開し、衣料品専門店として国内第2位、世界第10位の売上高*を誇るしまむらグループには、7月と12月の年2回支給する基本給連動型賞与と業績に応じて年1回支給する決算賞与があります。

事業年度は2月21日から翌年の2月20日で、決算賞与の支給時期は3月中旬です。

*参考:しまむらRECRUITING SITE「企業研究編」

ヤオコー

食料品を主軸とするスーパーマーケットを展開するヤオコーは、惣菜「手作りおはぎ」やプライベートブランド「Yes! YAOKO」など、品質・おいしさ・購入しやすい価格を重視した商品開発とプライベートブランドが特徴。地域のお客さまのニーズに合わせた品揃えや提案で、売上を伸ばしてきました。

同社の賞与は、6月と12月に支給する年2回の基本給連動型賞与と、業績に応じて支給される決算賞与です。

事業年度は4月1日から翌年の3月31日で、決算賞与の支給時期は3月です。

決算賞与の3つのメリット

決算賞与の大きなメリットは、従業員への利益還元ができることと、節税対策になることです。しかし、利益が出たからといって無計画に支給するとデメリットのほうが大きくなってしまうかもしれません。

まずは決算賞与の3つのメリットをご紹介します。

メリット(1)要件を満たせば当期の損金に計上できる

決算賞与の最大のメリットは、一定の要件を満たすことで支給額を当期の損金として計上し、課税所得を減らせることです。

課税所得は法人税の対象ですので、課税所得が減れば納める法人税も減り、節税できるのです。

損金算入の具体的な要件は後ほど改めてご紹介します。

メリット(2)従業員に利益還元しモチベーション向上につながる

決算賞与の支給は、従業員の収入増加とモチベーション向上にも寄与します。

1年間の頑張りが業績につながり、その利益が従業員自身の賃金に反映されますので、従業員は報われた気持ちになるでしょう。

翌期の決算賞与支給や増額を目指して個人目標や組織目標を達成しようと意欲にもつながります。

メリット(3)労使交渉の手間を省ける

さらに、決算賞与は業績を基準とする計算式を固定し、支給額に柔軟性を持たせる賞与制度ですので、支給額の変更に関する労使交渉が原則不要となります。

一度計算式を決定してしまえば、業績が良い年度も悪い年度も同じ計算式を使えるからです。

ただし、計算式を変更する場合、特にそれが従業員にとって不利益な変更になる場合は、あらためて労使での話し合いが必要となります。

決算賞与の2つのデメリット

決算賞与のデメリットは、無計画な賞与支給、業績悪化による賞与不支給が原因となって生じます。こうしたデメリットが大きくならないよう、将来も見据えた対策が必要です。

デメリット(1)無計画な賞与支給は資金繰りの悪化につながる

決算賞与の1つ目のデメリットは、利益が出たからといって無計画に支給すれば、会社の資金繰りが悪化しかねないことです。

決算賞与も賞与の1つですから、支給のあとは社会保険料の納付が待っています。法人税や消費税などの納付も忘れてはいけません。基本給連動型賞与を支給している企業の場合、その原資も確保する必要があるでしょう。

こうした将来的に支払うべき税や賃金の原資まで決算賞与で支払ってしまえば、事業に必要な資金が不足してしまいます。

今後の経営計画で必要な資金、投資のための資金などを考慮し、翌年度以降の事業に支障が出ない範囲で決算賞与の原資総額を決めることが大切です。

デメリット(2)賞与不支給は従業員の意欲低下を招く

2つ目のデメリットは、賞与不支給の可能性があることです。

決算賞与のように業績に応じて支給・不支給を決める賞与では、1年間の業績が悪ければ支給しない場合が出てきます。決算賞与に限らず、賞与の減額や不支給は従業員の意欲低下を招きかねません。

必要以上に従業員を落胆させないようにするには、期待値のコントロールが不可欠です。

  • どのような条件を満たすことで決算賞与が支給されるのか
  • 支給額はどのような計算式によって決定されるのか
  • 支給額の基準となる指標は現在どのように推移しているのか

といった情報を従業員にあらかじめ共有し、過剰な期待を防ぎましょう。

決算賞与の支給要件と支給日

決算賞与の支給要件自体は、会社が独自に設定できます。支給対象者の在籍状態や雇用形態、具体的な計算式など、自社の状況を見ながら決めましょう。

支給対象者については、一般的に決算日時点で在籍している正社員が対象者です。ただ、近年の働き方の多様化や同一労働同一賃金の原則を考慮し、正社員以外の従業員も含めて支給対象とする企業も見られます。

決算賞与以外の賞与では、在籍要件を「支給日」とすることがあるでしょう。しかし、決算賞与で支給日を在籍要件に設定すると、当期の損金算入ができなくなります*1。決算賞与の支給日は決算日の翌日以降であり、誰が支給対象となるかを決算日前に確定できないからです。在籍要件を設定するのであれば、「決算期間中に在籍していた」「決算日に在籍していた」など、事業年度の中で確定する条件にしましょう。

支給日は、多くの場合、決算日の翌日から1カ月以内となります。これは賞与支給額を損金として計上するための措置ですので、当期の損金に含めない場合は、1カ月を超えても構いません。その場合、決算賞与の支給額は翌期の損金として計上します。

具体的な決算賞与の支給時期は、事業年度の設定によって異なります。ただ、国税庁の資料における決算月ごとの法人数を見ると、比較的多い決算月は3月、9月、12月です*2。決算賞与を損金算入する場合、そこから1カ月以内の4月、10月、12月が支給時期となるでしょう。

*1 参考:国税庁「決算賞与金の税務上の取扱いについて」

*2 参考:国税庁「(1)決算期別の普通法人数」

決算賞与を損金算入するための要件と注意点

最後に、決算賞与を損金に計上するために満たすべき3つの要件と注意点を確認していきましょう。

決算賞与を損金に計上するための3つの要件

決算賞与を当期の損金に計上するには、法人税法施行令第72条の3に基づき、次の3つの要件を満たさなければなりません。

【決算賞与の損金算入 3要件】

  1. (1)決算日までに、決算賞与支給対象者全員に、決算賞与支給通知書を交付する
  2. (2)決算日の翌日から1カ月以内に、通知した全員に対して、通知書に記載した通りの支給額を支払う
  3. (3)決算賞与の支給額を、当期の損金として経理処理する

上記3つの要件を1つでも満たさない場合、決算賞与を当期の損金に計上することはできません。これは、「企業が利益還元と称して多めに損金を計上しながら、実際はそれよりも少ない額を支給する」という事態を防止するためです。

損金算入する際の注意点

決算賞与の支給に当たって注意するべき点は、決算賞与を適切に支給したことを証拠として残せるよう、通知書は書面で、支払いは銀行振込で行うことです。

通知書の書面は2通用意し、会社側で保管する控えには従業員から通知を受けたことを確認する署名や押印をもらってください。メールで通知する場合は、受信したことを確認するメールを送ってもらいましょう。

そして、支払いは銀行振込で行います。振込記録が自動で残り、「決算日の翌日から1カ月以内に」支給したことを証明しやすくなるからです。現金を手渡す形の支給方法でも構いませんが、その場合は必ず支給対象者全員から領収書をもらってください。