キャリア開発|企業と個人の成長を両立させる戦略とは

update更新日:2024.10.17 published公開日:2024.10.22
キャリア開発|企業と個人の成長を両立させる戦略とは
目次

「キャリア」とは、個人の職業人生における、社会的な成長の道筋を表す概念です。急速な技術革新やグローバル化によってビジネス環境が大きく変化する中、企業と個人が協働で行う「キャリア開発」の重要性が高まっています。

本コラムでは、キャリア開発の基本概念から企業が取り組むべき具体的な施策まで、幅広く解説します。

キャリアとは

はじめに、キャリアの基本概念と、現代におけるキャリアの捉え方について見ていきましょう。

キャリアの基本概念

キャリアとは、個人の職業人生における、経験・技能・役割の積み重ねを指す概念です。

「キャリア」という言葉は、もともとラテン語に由来し、車輪のついた乗りものが通る道を指していました。時代とともに意味が拡大し、現在では人生の道筋や職業上の経歴を表すようになりました。

現代社会におけるキャリアの捉え方

厚生労働省委託 公益財団法人 日本生産性本部の「キャリア健診マニュアル」によると、現代におけるキャリアは、広義と狭義の2つの側面から捉えられています。

【キャリアの2つの側面】

キャリアの種類 定義 別称
広義のキャリア 人生経験全般を指す広い意味 ライフ・キャリア
狭義のキャリア 職業に特化した意味で、職務の連続性や職業人生を指す ワーク・キャリア

広義のキャリアと狭義のキャリアは密接に関連しています。人生設計を考える際には職業選択が重要な要素となり、職業を選ぶ際には自身の生き方全体を考慮する必要があります。

このように、現代におけるキャリアは、決して個人の職業生活のみを指すものではありません。人生全体を通じた成長と社会との関わりを含む、より包括的な概念として捉えられています。

参考:厚生労働省委託 公益財団法人 日本生産性本部「キャリア健診マニュアル」

キャリア開発とは

キャリアの概念を理解したところで、次は「キャリア開発」について見ていきましょう。

キャリア開発の概要

キャリア開発とは、社員の成長と能力開発を支援するために、企業が個人と協働で行う人材育成のプロセスです。具体的には、研修制度や資格取得サポートの充実、評価・配置制度の整備などを通じて、社員の中長期的なスキルアップを促進します。

昨今のビジネス環境の変化や仕事に対する価値観の多様化に伴い、キャリア自律の重要性が増しています。企業は、社員の主体的なキャリア形成を支援しつつ、経営戦略との調和を実現する役割が求められているのです。

キャリア開発を行う目的や具体的な施策については、後ほど詳しく解説します。

キャリア開発の関連用語

続いて、キャリア開発の理解を深めるために、関連用語の意味と一般的な使い方を確認しておきましょう。

【キャリアに関連する用語】

キャリアアップ
  • 社員が知識やスキルを習得して、自身の経歴や市場価値を高めるための取り組み
  • キャリア開発が個人と組織の協働の人材育成であるのに対し、キャリアアップは個人による取り組みを意味することが多い
  • キャリアパス
  • 社員がキャリアを実現するための方法や道筋
  • 組織内での昇進や異動の道筋を示す場合もある
  • キャリア開発が包括的な概念であるのに対し、キャリアパスはより具体的な方法やツールを示すことが多い
  • キャリア形成
  • 個人が様々な人生経験を積み、自己実現を目指すプロセス
  • キャリア開発よりも広範囲の意味を持ち、仕事以外の分野も対象とする
  • キャリアデザイン
  • 仕事や働き方など、将来の目標を実現するための具体的な行動計画
  • キャリア開発が個人と組織の協働の人材育成であるのに対し、キャリアデザインは自身の「価値観の把握」や「能力の理解」などを含む、個人主体の行動を意味することが多い
  • タレントマネジメント
  • 組織の戦略目標達成のために、優秀な人材(タレント)を発掘、育成、配置、維持する一連の人材マネジメント施策
  • キャリア開発を包含しつつ、より広範囲な視点で組織全体の人材価値向上を目指す
  • 社員のキャリア設計については、以下の記事もご参照ください。

    キャリア開発を取り巻く現代の環境

    キャリア開発を取り巻く環境は、テクノロジーの進化やビジネスモデルの変革により大きく変化しています。従来の固定的なキャリアパスや組織依存型のキャリア形成から、より自律的で柔軟なキャリア開発が求められる時代へと移行しています。

    テクノロジーの進化

    デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に伴い、デジタル技術を活用できる人材の需要が高まっています。その結果、デジタル人材の育成と獲得競争が激化しており、企業はその対応に追われている状況です。

    さらに、社員が常に最新の技術やビジネスモデルを学び続けられるよう、リスキリング(既存スキルの再開発)やリカレント教育(社会人の学び直し)などの施策を、経営トップ自らが積極的に推進することが求められています。

    参考:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」

    多様な働き方の出現

    働き方の多様化は、キャリア開発にも大きな影響を与えています。

    従来は終身雇用や年功序列が主流でしたが、現在では個人のライフスタイルやキャリア志向に合わせた、以下のような柔軟な働き方が浸透してきました。

    • パートタイムやアルバイト、契約社員など非正規雇用の増加
    • 副業・兼業の容認
    • テレワークの普及
    • フリーランスの増加

    同時に、個人のキャリアパスの選択肢も広がってきました。例えば、非正規雇用から正規雇用への転換や、転職によるキャリアアップなどは年々増加傾向にあります。

    こうした状況から、企業側も従来の画一的な人事制度ではなく、個々の社員のニーズに合わせた、柔軟な制度設計が求められるようになりました。ワーク・ライフ・バランスの重視や、能力・成果に基づく評価制度の導入などが推奨されています。

    参考:厚生労働省「令和5年版 労働経済の分析」

    長期的な人材戦略

    人生100年時代の到来や少子高齢化、人材の流動化によって、企業は長期的な視点での人材戦略が求められています。具体的には、以下のような施策が挙げられます。

    • 高齢者の活躍促進
    • 若年層への教育投資
    • 変化に適応できる、柔軟性と専門性を持つ人材の育成
    • リカレント教育の拡充
    • 中途採用の積極的な実施

    社員の能力を最大限に引き出し、組織の持続的成長につなげるキャリア開発支援は、もはや単なる福利厚生ではありません。企業の競争力を左右する、重要な経営戦略の1つとなりつつあります。

    参考:首相官邸HP「人づくり革命 基本構想」

    キャリア開発を行う企業のメリット

    企業が社員のキャリア開発を支援することで生じるメリットは、多岐にわたります。ここでは、主な5つのメリットについて解説します。

    生産性の向上

    社員が自身のキャリアの将来像と現在の仕事の目的を明確化することで、仕事に対するモチベーションやエンゲージメントが高まります。その結果、個人の生産性が向上し、組織全体の業績向上にもつながります。

    イノベーションの促進

    キャリア開発を通じて、社員は自身のビジョンを実現するために自ら考え、行動する力を身につけます。新しい知識やスキルの習得、新たな仕事への挑戦など、社員の主体的な行動が、企業にとって新しい価値を生み出す源泉となりイノベーションを促進します。

    優秀な人材の確保と定着

    自己主導型のキャリア形成ができる環境は、高い専門性を持つ人材にとって魅力的です。企業のキャリア開発への積極的な姿勢は、優秀な人材を引きつけ、長期的な定着にもつながります。

    多様化する働き方への対応

    社員の価値観や働き方が多様化する中で、従来の一律的な人材育成では個々のニーズに対応することが難しくなっています。個々の希望に合わせた柔軟な人材育成は、多様な働き方を支援し、社員満足度の向上につながります。

    グローバル化への対応

    グローバル化に伴い、国際的な企業間連携や多国籍チームの形成が加速しています。多様性を尊重したキャリア開発を推進することで、文化的背景の異なる社員間の相互理解が深まり、より包括的で生産的な職場環境の構築が可能となります。

    キャリア開発施策の具体例

    キャリア開発を効果的に進めるには、企業による体系的かつ戦略的なアプローチが重要です。従業員の成長と組織の目標を両立させ、様々な施策を組み合わせて実施することが求められます。

    ここでは、企業が取り組むべきキャリア開発の主な施策について、詳しく解説していきます。

    (1)キャリアビジョン形成のサポート

    キャリア開発において、従業員が自身のキャリアビジョンを明確化し、将来のキャリアプランを主体的に考えられるようになることが重要です。そのため、以下のような施策が効果的です。

    • 上司やキャリアコンサルタントとの定期的な1on1ミーティング
    • 自身の強み・弱み、適性を把握するためのアドバイスやフィードバック
    • 社内のロールモデルの紹介
    • キャリアデザイン研修の実施

    このようなアプローチにより、社員は多様なキャリアパスやキャリアステージを知り、自身のキャリアプランを考えるうえでのヒントを得ることができます。

    (2)自己啓発・能力開発機会の提供

    社員が必要な知識やスキルを身につけられるよう、企業は柔軟な学びの機会を提供する必要があります。

    • 社内外の研修プログラムの用意
    • 外部の教育機関やMOOC(大規模公開オンライン講座)の活用
    • 書籍購入の補助や資格取得支援など、自己啓発を促進する制度の整備

    こうした取り組みは、社員の自発的な学習意欲を高め、専門性の向上や新しいスキルの習得を支援します。

    (3)キャリアパス実現のための配置・異動

    実践的な経験を積むことは、キャリア開発を成功させるうえで重要な要素となります。企業は社員の成長を促すため、次のような取り組みを考慮するとよいでしょう。

    • 社員一人ひとりのキャリアビジョンやキャリアプランを考慮した適切な異動や配置
    • 社内公募制度の導入
    • 計画的なジョブローテーションの実施

    適切な配置・異動は、社員のモチベーション向上やスキルアップ、視野の拡大に寄与します。

    近年は、副業・兼業を推奨する企業も増えています。社外での活動を通じて新たな知識やスキルを身につける、貴重な機会となるからです。ただし、副業・兼業の導入には労務管理や情報管理などの課題もあるため、慎重に検討する必要があります。

    (4)公正な評価と多様な昇進制度

    昇格・昇進は、社員にとってキャリア上の大きな目標の1つです。

    • 能力や成果に基づいた評価制度の導入
    • 昇進・昇格基準の明確化
    • 多様なキャリアパスの用意(管理職、専門職、プロジェクトマネジメントなど)

    こうしたアプローチは、社員のモチベーション向上や人材育成につながり、個々の適性や志向に合わせたキャリア開発を可能にします。

    参考:令和4年度厚生労働省委託事業「内部労働市場を活用した人材育成の変化と今後の在り方に関する調査研究」報告書