グローバル人材に必要な資質と採用・育成のポイント
グローバル人材の確保と育成は、国際競争力を高めるうえで不可欠です。しかし、日本ではグローバル人材が不足しており、早急に取り組むべき課題となっています。
本コラムでは、グローバル人材の定義や重要性を探り、必要な資質や効果的な採用方法、育成戦略などについて解説します。
グローバル人材とは?
グローバル人材とは、国内外の多様なビジネス環境で高い成果を上げられる人材を指します。優れた語学力に加え、異文化への適応力や、様々な状況下で効果的に問題解決できる実践的なスキルが求められます。
グローバル人材の定義
日本における「グローバル人材」は、文部科学省や総務省がそれぞれの視点から定義しています。
文部科学省
文部科学省は「グローバル人材」を3つの要素で定義しています。具体的には以下の通りです。
- 要素Ⅰ:語学力・コミュニケーション能力
- 要素Ⅱ:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
- 要素Ⅲ:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティ
総務省
総務省は「グローバル人材」を以下のように定義しています。
日本人としてのアイデンティティや日本の文化に対する深い理解を前提として、豊かな語学力・コミュニケーション能力、主体性・積極性、異文化理解の精神などを身に付けて様々な分野で活躍できる人材。
*参考:総務省「グローバル人材育成の推進に関する政策評価書」
ビジネス現場が求めるグローバル人材
ビジネス現場での「グローバル人材」は、語学力があるだけでなく、未知の環境で成果を上げる能力がある人材を指します。
海外では、文化や制度が大きく異なる環境でビジネスを遂行するため、予測困難な状況でも柔軟に対応して課題を解決する能力が求められます。言語や文化の壁を越えて組織に貢献できる人材が、企業の国際競争力を高めるグローバル人材といえるでしょう。
企業におけるグローバル人材の重要性
経済産業省の調査によると、日本企業の海外進出は着実に進み、2021年度末時点で海外現地法人数が約2万5千社に達しています。同年の日本国内の企業数が約368万社であることから、およそ140~150社に1社が海外展開していることがわかります。
従来から海外進出が盛んだった製造業、卸売業、運輸業に加え、近年ではサービス業やIT業界でも海外展開が活発化しています。
こうした状況下で、海外事業を担う人材の確保は企業にとって重要な課題です。語学力だけでなく、異文化環境下で目標を達成できるグローバル人材の需要が高まっています。
グローバル人材に必要な4つの資質
グローバル人材は語学力が重視されることが多いですが、実際のビジネス現場で求められるスキルはそれだけではありません。
経団連の2015年の調査では、「グローバル事業で活躍する人材に求められる素質・知識・能力」は語学力より、「海外との社会・文化、価値観の差に興味・関心を持ち、柔軟に対応する姿勢」や「既成概念にとらわれず、チャレンジ精神を持ち続ける」といった回答が多く集まりました。
この結果から、未知の世界に挑戦するためのマインドや異文化への適応力が重視されていることがわかります。ここからは、グローバル人材に不可欠な主な4つの資質について解説します。
(1)グローバル・マインドセット
グローバル・マインドセットはグローバル社会で活躍するために必要な資質のことで、知的資本・心理的資本・社会的資本の3つの要素で構成されています。
知的資本
知的資本とは、グローバルな視点でビジネスを理解し、分析する能力です。具体的には、各国の歴史、文化、政治、経済システムなどへの深い理解と、それらがビジネスにどう影響するかを洞察する力を指します。この能力には、国境を超えた視点で多様な環境を認識し、それぞれの特性に応じて柔軟に対応する力も含まれます。
心理的資本
心理的資本とは、異文化への強い興味と順応力を基本とし、グローバルな環境で成功するための精神的強さや柔軟性を指します。
具体的には、予測不能な状況を楽しみながら対応する力、新たな挑戦に自信を持って立ち向かう勇気、そして多様性を積極的に受け入れる姿勢などです。変化を恐れずに受け入れ、むしろそれを成長の機会として楽しむ能力を示しています。
社会的資本
社会的資本は、多様なバックグラウンドを持つ人と信頼関係を築き、協働できる能力です。異なる文化や価値観を持つ人々と相互理解を深め、多様な意見を調整し、効果的な解決策を導き出します。グローバルなビジネス環境において、この能力はチームを機能させるうえでも重要な役割を持ちます。
(2)主体性とチャレンジ精神
グローバル人材に求められる重要な資質として、主体性が挙げられます。主体性とは、自らの意思で判断し行動する姿勢です。
しかし、内閣府の国際比較調査によると、日本の子どもたちや若者の主体性は他の先進国と比べて低いことが報告されています。「自分の考えをはっきり相手に伝えること」や「うまくいくかわからないことにも意欲的に取り組む」などの項目では、調査対象7か国中、日本は最下位という結果でした。
一方、多くの欧米諸国では子どもの教育過程において、個人の主体性を重視する傾向があります。失敗は恥じるべきものではなく、成長のための貴重な経験と考えます。
日本企業がグローバル競争力を高めるためには、主体性とチャレンジ精神を備えた人材の育成が急務といえるでしょう。
(3)責任感とリーダーシップ
グローバル人材には、責任感とリーダーシップも必要です。責任感とは、自らの判断と行動に対して責任を持つことを指し、チームや会社の信頼を守るために重視されます。
リーダーシップは周囲の人々を積極的に巻き込み、導く力です。多様なメンバーの力を最大限に引き出し、組織の目標達成に貢献します。
(4)語学力とコミュニケーション能力
グローバル人材にとって、語学力とコミュニケーション能力は不可欠です。単に外国語が話せるだけではなく、ビジネスレベルでの交渉や問題解決ができる能力が求められます。相手の要求や条件を理解し、異文化間のコミュニケーションを円滑に行うことが重要です。
しかし、日本人の語学力は大きな課題となっています。経済産業省が実施した「令和4年度我が国のグローバル化促進のための日本企業及び外国企業の実態調査報告書」によると、先進国と比較した日本のビジネス環境の「弱み」の1位が「英語での円滑なコミュニケーション」でした。
この結果は、日本企業のグローバル展開において、語学力とコミュニケーション能力の向上がいかに重要であるかを示しています。
グローバル人材を採用する4つの方法
グローバル人材を確保する主な手段には、採用と育成があります。本章では、効果的に採用するための主な4つの方法を紹介し、育成については後述します。
外部からの採用には、多様な選択肢から優秀な人材を確保できるというメリットがあります。まずは求める人材像を明確にし、自社の状況や目的に最適な方法を選択することが重要です。
それでは、詳しく見ていきましょう。
(1)求人メディア
グローバル人材の採用において、求人メディアの活用は効果的な方法の1つです。様々な媒体に求人情報を掲載し、幅広く応募者を募ることができます。
求人メディア活用のメリットは、一定のコストで多くの候補者にアプローチできることです。特に、グローバル人材を求める企業にとっては、国内外の幅広い人材にアプローチできる可能性があります。
一方で、求める人材像とのミスマッチや、応募者多数による選考プロセスの煩雑化などの課題もあります。企業の特性やニーズに合わせて適切な採用メディアを選ぶことが重要です。
(2)人材紹介
人材紹介は求人企業と求職者を結びつける専門サービスで、グローバル人材の採用において効果的な手段となっています。
人材紹介の主なメリットは、専門家のサポートによりマッチングの精度が上がり、企業のニーズに合った人材を効率的に見つけられることです。人材紹介会社が候補者の選定から面接の設定まで一括して行うため、企業の負担も軽減されます。
一方で、採用者の年収に応じて手数料が設定されるため、コスト負担が大きくなる可能性も。人材紹介は採用ニーズや予算に応じて、慎重に検討しましょう。
(3)リファラル採用
リファラル採用は、社員から紹介された候補者を採用する方法です。候補者のスキルや人柄が事前にわかるため、採用後のミスマッチを軽減し、大きなコストもかかりません。
候補者を紹介した社員にはインセンティブを設定することがあり、社員にとってもメリットがあります。また、リファラル採用で入社した社員は離職率が低い傾向があり、企業にとっては大きな利点です。
一方で、時間がかかりやすく、大規模採用や特殊スキルを持つ人材の獲得には不向きな場合もあります。採用の緊急性や求める人材の要素などを考慮しながら、他の採用手法と組み合わせて活用することが効果的です。
(4)自社サイトに掲載
グローバル人材の採用を行う際に、自社のウェブサイトを活用する方法もあります。
自社サイトに採用ページを作り、訪れてもらうことで、企業のブランドイメージを候補者に伝えることが可能です。また、応募者と直接コミュニケーションがとれるため、迅速かつ効果的な対応ができます。
ただし、一見低コストに見えても、自社サイトの作り込みや更新、集客のための広告費用など、予想以上のコストがかかることも。特にグローバル人材を対象とする場合、多言語対応や海外向けの対策も必要となり、さらにコストが増加する可能性があります。
自社サイトでの求人掲載に加え、求人サイトなど他の手法も組み合わせることで、より効果的にグローバル人材にアプローチできるでしょう。
グローバル人材の育成
グローバル人材の確保は多くの企業にとって喫緊の課題です。しかし、即戦力となる人材の外部採用には高いコストや時間がかかり、自社に適した人材を見つけることは容易ではありません。そのため、社内での育成は効果的な選択肢となります。
グローバル人材育成の必要性
日本企業では、海外経験を持ち、グローバルな環境で活躍できる人材はまだ少なく、貴重な存在です。企業のグローバル化が進む中で、グローバル人材の需要はますます高まっています。グローバル人材に求められるスキルは短期間で身につくものではないため、計画的な育成が必要です。
グローバル人材育成の3ステップ
グローバル人材の育成は、主に以下の3つのステップを軸に進めます。
①育成候補者のリストアップ
まず、自社にとって重要な資質やスキルを明確にし、それに近い人材を社内からリストアップします。選候補者の要素として、語学力、コミュニケーション能力、チャレンジ精神、リーダーシップなどを考慮しましょう。社内公募や各部署からの推薦なども効果的です。
選定方法には、書類審査、面接、適性検査、グループディスカッションなどがあります。
②グローバル人材育成プログラムの設計
候補者のスキルを分析し、不足している能力を補うための計画を立てます。効果的な育成方法には、海外勤務、MBA留学、海外ビジネス研修、語学研修、グローバル・マインドセット育成プログラムなどがあります。これらを組み合わせ、各候補者に適した育成プログラムを設計しましょう。
③計画の実行
育成プログラムの実施においては、単にスケジュール通りに進めるだけでなく、定期的な進捗確認と状況に応じた柔軟な調整が重要です。PDCAサイクルを回し、育成の効果を定期的に確認し、必要に応じて計画を見直します。
ビジネス環境や社内ニーズに応じて、求めるグローバル人材像も変化する可能性があるため、適宜プログラムを更新することが大切です。
グローバル人材育成のポイント
グローバル人材の育成においては、候補者の役割と将来的なキャリアパスを考慮したプログラム設計が重要です。以下の3つのポイントをおさえて設計しましょう。
- ①内発的な動機
- ②リーダーシップとマネジメントスキルの強化
- ③幅広い知識の習得
①内発的な動機
内発的な動機とは、自己成長や自己実現を目指す強い意欲を指します。スキルアップには内発的な動機が欠かせませんが、プログラムを通じて育成するのは非常に困難です。そのため、グローバルな舞台で活躍したいという意欲がある人材を選ぶことが大切です。
②リーダーシップとマネジメントスキルの強化
海外で活躍する人材は、現地でより重要なポジションを任され、グローバルな視点で意思決定することが求められます。チームを率いるリーダーシップやマネジメントスキルの強化が必要です。
③幅広い知識の習得
海外では業務範囲が広がることが多いため、幅広い知識の習得が重要になります。コンプライアンス、マーケティング、財務など、企業の運営や成長戦略に関する多角的な知識を身につけるとよいでしょう。これにより、異なる文化や市場環境の中でも、柔軟に対応し、適切な判断を下すことができます。