ビジネスにおけるマルチタスク能力の利点と上手な進め方

update更新日:2023.11.21 published公開日:2021.12.21
ビジネスにおけるマルチタスク能力の利点と上手な進め方
目次
労働人口が減少傾向にあり、事業環境の変化が速い現代のビジネスシーンでは、一人がたった一つの仕事をこなせばよいわけではなく、複数の業務を同時並行して処理することが求められます。
しかし、マルチタスクをうまくこなすことができず、苦労されている方は多いのではないでしょうか。

本コラムでは、マルチタスクを行う際の優先順位の決め方やToDoリストの活用方法について、事例を基にご紹介します。

マルチタスクとは

マルチタスクは多くのビジネスパーソンにとって日常のこと。「今更、説明されるまでもない」という方も多いかもしれません。しかし、これからマルチタスクを深掘りしていくにあたり、あらためて「マルチタスクとは何か」を確認しておきましょう。

マルチタスクとは「複数のタスクを同時並行で処理する」こと

マルチタスクとは、「複数の仕事を同時並行で処理する」仕事の進め方です。マルチタスクのマルチとは、複数のという意味。文字通り、同じ時間に複数の作業を行う場合もあれば、ごく短時間で複数の作業を切り替えながら進める場合もあります。

マルチタスクは、もともとはコンピュータ用語。1つのコンピュータが異なる処理を同時に行うという意味です。コンピュータを人間に置き換え、「1人の人間が異なる処理を同時に行う」という使い方でビジネスシーンに広まりました。

マルチタスクの具体例として、次のようなものが考えられます。

  • 指示を受けながらメモをとる
  • 音楽を聴きながら書類を作る
  • 印刷をしながら同僚の話を聞く

近年は、Windows PCでもMacでも、パソコン画面を左右など複数に分割表示できるようになりました。アプリケーションを開いたまま、高速で画面やタスクを切り替えて進めるやり方に適したシステムが普及しています。

日本で最も有名なマルチタスク能力者は聖徳太子かも?

2つの作業を同時に進めることは、あまり難しいことではないかもしれません。ただ、これが3つ、4つと増えていくと、次第に頭が混乱してくるもの。無理は禁物です。

そのような中で、聖徳太子は10人の相談者から話を同時に聞き、そのすべてに的確にアドバイスをしたと言われています。すると、日本で最も有名なマルチタスク能力者は、聖徳太子かもしれません。

飛鳥時代の皇族であり政治家であった聖徳太子は、推古天皇の摂政としてさまざまな偉業を成し遂げました。もし彼が変化の激しい現代に生きていたら、ビジネスの場でも多様な問題に同時並行的に対処し、大いに活躍していたことでしょう。

マルチタスクとシングルタスクの違い

シングルタスクとは、一つの仕事を完了させたら次の仕事に取り掛かる直列型の仕事の進め方。マルチタスクの対義語です。「1つのことに集中して」と言われる場合、それはシングルタスクで取り組むことを求められています。

シングルタスクとマルチタスクとの違いは明らかです。マルチタスクが同時並行的に複数のタスクをこなすやり方である一方、シングルタスクは1つ終わらせてから次のタスクに取り組みます。

マルチタスクのうち、高速で複数のタスクを短時間で切り替えながら進めるパターンであっても、1つのタスクにかける時間の長さが、シングルタスクよりも圧倒的に短いという点で異なります。

マルチタスクの利点は業務効率アップ

マルチタスクの利点は、何と言っても業務効率がアップすることです。どのように業務効率を上げられるのか、具体例でご説明しましょう。今回は、経理担当者の仕事として「毎月上旬に取引先100社へ請求書を郵送する業務」を考えます。

まず、マルチタスクを行わない場合の業務の進め方を確認しましょう。以下のように、「取引先に請求書を郵送する」という業務を分解してみます。

  1. 1. 業務担当者に昨月の納品実績を確認する
  2. 2. その納品物と請求額が見積書の内容と相違ないか確認する
  3. 3. 顧客マスターから取引先一覧を開き、当該企業向けの請求データを入力する
  4. 4. 請求書をプリントアウトする
  5. 5. 宛先企業のタックシールと切手を封筒に貼り、請求書を封入・封緘する
  6. 6. ポストに投函する

たった1社分の請求書を郵送するだけでも、これだけのタスクがあるのです。

毎月100社分の請求書を郵送する業務を効率的に行うには、同じようなタスクをまとめて行うとともに、確認の待ち時間やプリントアウトなどで少し余裕がある時に、できる部分から先に進めてしまうというマルチタスクが有効です。

上記の業務フローの場合は、

  1. 1. 当月末締めで請求予定案件の業務担当者に、25日時点で納品確認メールを送っておく
  2. 2. 納品確認が取れた分の請求書から順に作成し始める
  3. 3. 100社分のプリントアウトを行っている間に封筒に切手を貼っておく
  4. 4. 宛先企業のタックシールを封筒に貼ると同時に請求書を封入する
  5. 5. 封筒を机の上に並べて一気に糊を付け封緘する

というような進め方が可能です。
他の業務では、

  • 会議に出席して話を聞きながら議事録を作成する
  • 電話を受けながら必要な業務をリスト化し、その場で業務担当者にメールを送る
  • ビジネスチャットでの返信待ちの間に、他のタスクを進める

などもできるでしょう。

マルチタスクができないとどうなる?

迅速な対応が求められる今、ビジネスパーソンにはマルチタスク能力が必要とされています。言い換えれば、マルチタスクができないと、ビジネスでは好ましくない影響が出る可能性があるということです。

仕事の抜け漏れが発生して周囲に迷惑をかける可能性がある

マルチタスクでは、同時に複数のタスクを処理します。これは、大小さまざまな業務や課題に次々に対応していくやり方です。

もしシングルタスクのみで業務を進める場合、1つのタスクが終わるまで次のタスクは待ち状態となるでしょう。未着手の業務や課題が蓄積し、やがて自分の頭だけでは把握しきれない状況になってしまうかもしれません。

例えば、お客様から「昨日中にお送りいただけるはずの見積書がまだ届いてません!」と言われてタスクの抜け漏れに気がつき、ヒヤリとした経験はないでしょうか。既に信頼関係のある既存顧客ならば大きな問題にならないかもしれません。しかし、初めての取引先だった場合、一気に不信感が募ってしまいます。

タスクの抜け漏れ防止は「リスト」「優先順位」「所要時間」がポイント

シングルタスクでは、業務が発生した時から取り組み始め、それが終わるまでは次のタスクに手を付けません。シングルタスクでは、「頼まれた順番に」処理していくことが多くなるでしょう。ところが、このやり方では抜け漏れが発生しやすくなる恐れがあります。

抜け漏れを防ぐには、「リスト化」「優先順位の決定」「所要時間の把握」がポイントです。

タスクをリスト化しよう

未着手のタスクを忘れないようにするには、「リスト化」が不可欠です。

紙やToDo管理ツールに書き出しておくと、まずは安心。自分が忘れてしまっても、リストを見れば何が残っているか一目瞭然だからです。「これは覚えておける」と思わず、まずはどんどんToDoリストに書き加えてしまいましょう。

タスクに優先順位をつけよう

次に重要なことは、各タスクに「優先順位」をつけることです。

日頃の業務を振り返ってみてください。それぞれのタスクには、何かしらの期限を設定できるのではないでしょうか。上司に確認してもらう時期、先方に送付しなければならない時期、請求等の締め切りなどです。

そして、締切日とは別に、「これは絶対に間に合わせなければ」「これは高いクオリティで出さなければ」という重要度の高い業務もあるはず。

納期遅れを防いで効率化するには、期限までの時間と重要度をもとにタスクの優先順位を決め、優先順位が高い順にタスクを処理しましょう。

タスクの所要時間を把握しよう

タスクによっては、相手の確認待ちや印刷待ちなど、何らかの待ち時間が発生することがあります。待ち時間の間は、そのタスクを先に進めることができません。

ここで、マルチタスクの出番です。タスクAで手が空いている間に、その待ち時間で完了できるタスクBを進めてしまいましょう。先の請求書作成・郵送の例で言えば、確認待ちの間に領収書の整理をする、簡単なデータ入力をするなどです。

待ち時間と別のタスク処理を上手に組み合わせるには、各タスクの所要時間を把握しておかなければなりません。30分以内でできるタスク、1時間〜2時間かかるタスク、半日かかるタスク、数日かかるタスクなど、ToDoリストへの書き込みと共に記入しておくと、上手に組み合わせながら進められます。

仕事でマルチタスクを行う方法

ここで、マルチタスクの実践方法をさらに掘り下げていきましょう。「リスト化」「優先順位の決定」「所要時間の把握」がポイントになることは先に述べた通り。この中で、具体的にどのように優先順位を決めるのかを詳しく解説します。

マルチタスク実践の基本の考え方

マルチタスクは複数のタスクを同時並行的に進めることではありますが、実のところ、人間の脳は複数のことを完全に同時に進めることは困難だと言われています。では、なぜマルチタスクができるのでしょうか。

答えは、「高速で頭を切り替えている」からです。換言すれば、シングルタスクを非常に短時間で切り替えながら進めている状態ということです。そのため、1つのタスクを細分化し、短時間で完了できる程度まで落とし込むことが、マルチタスク成功のポイントとなります。

タスクの優先順位は、「100社分の請求書を郵送する」という大きなタスクで考えられます。その優先順位を継承する形で、「確認」「入力」「印刷」「封入・封緘」などの細かなタスクにも優先順位をつけてください。

こうすることで、より優先度の高いタスクAの各タスクと、優先度がAほどには高くないタスクBの各タスクを行ったり来たりしながら、上手に進めることができます。

【マルチタスクの実践イメージ】

時間の流れ タスクA(優先度・高) タスクB(優先度・中) その他
業務担当者に昨月の納品実績を確認する 領収書を分類する
その納品物と請求額が見積書の内容と相違ないか確認する
顧客マスターから取引先一覧を開き、当該企業向けの請求データを入力する
請求書をプリントアウトする
切手を封筒に貼る
領収書を貼る
宛先企業のタックシールを封筒に貼り、請求書を封入・封緘する
ポストに投函する 他の郵送物も一緒に投函する

マルチタスクでの優先順位の決め方

タスクの優先順位を決める際は、そのタスクの緊急度(締め切りまでの期限)と重要度で考えてみてください。それぞれ5点満点の中で何点かを考え、2つの軸で出たそれぞれの数値で掛け算を行い、優先順位ポイントを算出するのです。

例えば、「新規取引のお客様に本日中に見積書を提出する」というタスクを、緊急性5点・重要性5点としましょう。この時、このタスクの優先順位ポイントは5×5で25ポイントです。

一方、上司から指摘された「自分の机周りをキレイに片付ける」というタスクもあるとしましょう。このタスクは、緊急性1点、重要性2点です。優先順位ポイントは2点となります。両者を数値で比較し、ポイントが多いほうが優先度の高いタスクとなります。

ToDoリストにタスクを記入する際に優先順位も記入することは先に述べました。この時に記入する「優先順位」こそ、今算出した優先順位ポイントです。タスクをエクセルなどの表計算ソフトに書き出し、優先順位ポイントの欄を設けておけば、優先ポイントの欄をもとに簡単にタスクを並べ替えられるでしょう。

もし同じポイントのタスクが複数ある場合は、緊急性の高いものからこなしていきましょう。

効果的なマルチタスクで周囲と連携

仕事では、常に周りの仲間やお客様との連携が求められます。納期遅れや抜け漏れが生じると、一人のところで業務の流れが止まってしまったり、会社に損害を発生させたりすることにもなりかねません。

次々に発生するビジネス環境やニーズの変化、大小さまざまな課題に柔軟に対応するには、時にマルチタスクも採り入れなければならないでしょう。その際、ただ同時並行的に進めようとすれば、頭が混乱してしまいます。

上手にマルチタスクを進めるコツは、ToDoリスト作成を行い、それぞれのタスクに優先順位を付けること。緊急度と重要度でポイントを算出して、ポイントが大きいものから処理すると効果的です。同時並行的に進めやすいタスクの組み合わせは、各タスクの所要時間を見て決めるとよいでしょう。

研修担当の方や部下をお持ちの方は、ぜひ社員や部下の方に対してマルチタスク能力を高める支援や環境づくりをしてあげてください。ALL DIFFERENTでは、マルチタスクの考え方や具体的な能力アップ手法を学べる「マルチタスクの進め方」という研修をご用意しています。

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