社会保険とは?種類や加入条件をわかりやすく解説

published公開日:2024.08.29
社会保険とは?種類や加入条件をわかりやすく解説
目次

社会保険とは、リスクに備える公的保障制度です。条件を満たす労働者には加入義務があり、社会保障の基盤となっています。

本コラムでは、社会保険の種類、加入条件、パート・アルバイトへの適用拡大、メリット・デメリットなどについてわかりやすく解説します。

社会保険とは

社会保険は、公的な保障制度です。人事労務の領域では「社保」と略して呼ばれ、従業員の入退社や給与計算、保険金請求などで日常的に扱います。

社会保険は相互扶助の原理で成立している

社会保険は、国や自治体、健康保険組合などが保険者として運営し、被保険者のケガや病気、出産、障害、死亡、失業に対する保険金給付を行ったり、老後の年金を保証したりする仕組みです。

社会保険は、社会を構成する国民や企業による相互扶助の理念で運営されており、多くの加入者がいることにより成り立っています。

社会保険制度が必要な理由

私たちは働くことで収入を得て生活していますが、何らかの理由で働けなくなると収入が途絶え、暮らしが成り立たなくなってしまいます。そのようなリスクに備え、国民の生活を保障するために設けられたものが、社会保険制度です。社会保険は働く人にとって、セーフティネットの役割があります。

社会保険の種類

社会保険は、以下の5つの保険で成り立っています。労働保険と分ける場合は、健康保険・厚生年金保険・介護保険の3つを社会保険(狭義)、雇用保険・労災保険の2つを労働保険と呼ぶことがあります。

社会保険 社会保険(狭義) 健康保険
厚生年金保険
介護保険
労働保険 雇用保険
労災保険

それぞれの概要を見ていきましょう。

健康保険

健康保険は、病気やケガをしたときなどに適応される医療保険です。病院に行くと受付で健康保険証の提示を求められるので、多くの人にとってなじみがある保険ではないでしょうか。健康保険証を提示すると、医療費の支払いは原則3割負担となります。残りの7割は、健康保険組合などの保険者が負担する仕組みです。

健康保険料は、標準報酬月額に保険料率を掛けて算出され、従業員と会社で折半して支払います。標準報酬月額とは、労働者の給与を計算する際に基準となる金額のことです。保険料率は、組合の財政状況に応じて標準報酬月額の3.0~13.0%の範囲で決められます。

厚生年金保険

厚生年金保険は公的年金の1つです。公的年金には、国民年金保険(基礎年金)と厚生年金保険の2階建てになっています。国民年金は20歳以上60歳未満の国民全員が加入、厚生年金は企業で働く従業員や公務員などが加入します。

国民年金保険料は毎月一定額(2023年度は1カ月16,520円)であるのに対し、厚生年金保険料は、収入によって異なります。標準報酬月額と標準賞与額に保険料率を掛けて算出され、企業と従業員で半額ずつ負担します。

厚生年金の保険料率は年金制度改正により段階的に引き上げられましたが、2017(平成29)年9月に引き上げが終了し、18.3%で固定されました。

*参考:厚生労働省|プレスリリース「厚生年金保険料率の引上げが終了します」

介護保険

介護保険は、社会全体で高齢者の介護を支えるための保険で、いざというときに住み慣れた地域で介護を受けられるようにする目的があります。運営主体(保険者)は各市区町村で、40歳以上の人が加入します。

65歳以上で要介護状態と認定された場合や、40歳から64歳で特定疾病によって要介護状態と認定された場合に、介護サービスを受けられます。

厚生年金の加入者(第2号被保険者)の介護保険料は、健康保険料と一体的に徴収され、従業員と会社で半額ずつ負担します。

*厚生労働省|介護保険について

雇用保険

雇用保険は、失業時や休業時の補償を行う制度です。以下の条件に該当する従業員は、パートやアルバイトなど雇用形態にかかわらず、原則として加入します。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上ある
  • 連続して31日以上雇用される見込みがある
  • 学生または生徒ではない

保険料率は保険者である国が決定します。一般の事業の場合、従業員の負担は給与額(または賞与額)の0.6%、会社側の負担は0.95%(2023年度時点)に設定されています。

労災保険

労災保険は、従業員が業務中や通勤途中に発生したケガや病気、障害、または死亡に対して保険給付を行う制度です。業種や事業規模に関係なく、従業員を雇用している全ての会社に適用されます。全ての従業員が労災保険の対象となり、パートやアルバイトなど雇用形態は問われません。

保険料は前年度の総賃金支払い額に、事業ごとに定められた料率を掛けて算出されます。従業員の負担はなく、全額会社が支払います。

*参考:厚生労働省|労災補償

社会保険の加入条件

社会保険には加入条件が定められています。企業と従業員、それぞれの加入条件について、解説します。

企業の加入条件

企業の場合、社会保険は事業所単位で適用されます。事業所には、加入義務のある強制適用事業所と、任意加入の任意適用事業所の2種類があります。

強制適用事業所とは、農林漁業やサービス業などを除く法人の事業所、国や地方公共団体の事業所、常時5名以上の従業員がいる個人の事業所などを指します。一方、任意適用事業所とは強制適用事業所以外で、従業員の半数以上が加入に同意し、厚生労働大臣の認可を受けることで、任意適用事業所となります。

従業員の加入条件

上記の適用事業所で常時働いている人は、社会保険の加入対象となります。正社員だけでなく、常勤の役員や代表者、一定の条件を満たすパート・アルバイトも含まれます。

なお、加入対象者の対象年齢は以下の通りです。

  • 厚生年金保険:70歳未満
  • 健康保険:75歳未満
  • 介護保険:40歳以上65歳未満

社会保険加入の適用拡大

2020年5月29日に成立した年金制度改正法により、短時間労働者の社会保険加入の適用範囲が拡大します。ここでは、その詳細と働く人への影響についてご紹介します。

社会保険加入の適用拡大の詳細

2016年から従業員数501名以上の企業で一部実施されていましたが、2022年、2024年と段階を踏んで、企業規模や勤務期間などの要件が拡大します。

2016年10月~ 2022年10月~ 2024年10月~
企業規模の要件 従業員数 501名以上 101名以上 51名以上
短時間労働者の要件 労働時間 週20時間以上
賃金 月88,000円以上
勤務期間 1年以上 2カ月以上
学生除外 学生は対象外

*「従業員数」とは、フルタイムの従業員数+週の所定労働時間がフルタイムの4分の3以上の従業員の数を指す。

*参考:厚生労働省|社会保険適用拡大 特設サイト

社会保険加入の適用拡大が与える影響

独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った「働き方に関するアンケート調査」によると、2022年10月から社会保険の適用となった企業において、21.0%の人が「新たに厚生年金・健康保険が適用された」と答えました。その内、6.4%の人は、「適用のため、所定労働時間を延長した」と回答しています。

一方で、「適用されないよう、所定労働時間を短縮した」と答えた人も12.0%おり、社会保険の適応拡大が人々の働き方に影響を与えていることがわかります。

*参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構|「社会保険の適用拡大への対応状況等に関する調査」(企業郵送調査)及び「働き方に関するアンケート調査」(労働者Web調査)結果

社会保険に加入するメリット

では、社会保険に加入するメリットは何でしょう。企業と従業員、それぞれの視点で見ていきましょう。

企業にとってのメリット

社会保険に加入することは、法令を遵守していることを示し、企業は社会的な信頼を得られます。求人時においても、「社会保険完備」と謳うことで「信頼できる企業」と認識されるでしょう。

社会保険は従業員の健康や安全を守り、安心して働くための制度です。加入することで、新しい人材の確保だけでなく、離職防止にもつながるといえます。

社会保険の1つである労災保険では、労働災害(仕事中や通勤途中のケガや病気)に対して保険金が給付されます。万が一、労災保険に加入していない場合は、企業が全額負担することとなります。このことは労働基準法第8章「災害補償」において、労災が生じた場合、雇用主が医療費などを負担し、休業補償をする必要があると定められています。

従業員にとってのメリット

社会保険の大きなメリットの1つは、少ない負担で手厚い保障を受けられることです。保険料は企業と折半するため、従業員の負担は実際の保険料より少なく済みます。通院や入院による医療費負担はもとより、傷病や出産などで仕事に就けない場合には、手当金が受け取れます。

また、国民年金と厚生年金の両方を受け取れるため、将来受け取れる年金の総額が、国民年金に比べて多くなります。国民年金は一律支給なのに対し、厚生年金は給与額に基づいて計算されるため、収入が多い人ほど多くなることが特徴です。

加えて、雇用保険により、失業保険が給付されるため、再就職する場合にも経済的な安定を保てます。

社会保険に加入するデメリットと対策

最後に、社会保険に加入するデメリットを見ていきます。企業と従業員、それぞれ対策についても触れているのでお役立てください。

企業にとってのデメリット

社会保険加入による企業のデメリットは、保険料の負担が増えることです。健康保険・厚生年金・介護保険は半額、雇用保険は9割以上、労災保険は全額企業が負担することとなります。

前述した、短時間労働者の社会保険加入の適用範囲の拡大により、負担が増える企業もあるでしょう。しかし、キャリアアップ助成金を活用することで、負担を軽減できます。パート・アルバイトなど、短時間労働者の賃金を引上げる場合や、労働時間を延長する場合などは、キャリアアップ助成金を活用しましょう。

*参考:厚生労働省|「パート・アルバイトの皆さんへ 社会保険の加入対象により手厚い保障が受けられます」

従業員にとってのデメリット

社会保険に加入すると、毎月の給与から社会保険料が天引きされるため、手取り額が少なくなります。

社会保険加入の基準となる月収8.8万円は年収換算するとおよそ106万円です。ここから健康保険と厚生年金の保険料約16万円を引くと、手取りは約90万円になります。社会保険に加入せず月8万円の給与を受け取ると手取りは96万円となり、年収106万円より多くなります。これが世にいわれる「106万円の壁」です。

社会保険に加入したくない場合は、月収8.8万円を超えないよう調整する必要があります。