大人の人見知りとは?特徴・原因から考える改善方法
大人の人見知りとは、馴染みのない人に対して、不安・緊張から積極的にコミュニケーションをとれないことです。本人には「挙動不審になる」「孤立する」などの悩みが尽きず、人見知りの部下を持つ管理職も「意思疎通ができない」と困ることが多いでしょう。
本コラムでは、大人の人見知りの特徴や原因とともに、改善方法、人見知りな部下とのコミュニケーション方法を解説します。
人見知りとは
人見知りとは、もともと子どもの発達段階における用語です。馴染みのない人に対して、不安がったり恥ずかしがったりすることを意味し、人見知りの段階を経て他者との交流ができる段階へと進みます。
今回は、こうした子どもの人見知りではなく、大人の人見知りを取り上げます。基本的な特徴とともに、似た言葉として言及されることがある「対人恐怖症(社会不安障害)」や「引っ込み思案」との違いも見ていきましょう。
大人の人見知りの特徴
大人の人見知りは、慣れない相手や場所、大人数での会話で、他の人と話すことに大きな不安や緊張を感じ、積極的に交流できないことを意味します。
例えば、友人から誰かを紹介された際に最低限のあいさつをするだけで、あとは視線をそらしながら話を聞いているだけといった状況があげられます。グループでの遊びやパーティーに誘われた場合も、馴染みのない人が多い場合は参加自体を見送ってしまうでしょう。
人見知りは、プライベートだけでなく、仕事でも課題となります。入社直後にはじめて会う動機や人事担当者、配属後に同じ職場で働く先輩社員や上司などと、うまくコミュニケーションができないからです。
対人恐怖症(社会不安障害)と人見知りの違い
対人恐怖症(社会不安障害)は、人前で話したり行動したりすることで周囲に注目されることを非常に恐れるものです。そのため、街なかの人混み、通勤ラッシュ時の交通機関の利用などが困難となります。恐怖心が強すぎる場合は、パニック状態になることさえあるでしょう。
対人恐怖症(社会不安障害)のある人は、そのような恐怖を避けるために、外出自体をやめてしまうことがあります。この点が、人見知りとの大きな違いです。
人見知りでは、そこまで強い恐怖心はありません。慣れない人との交流に不安は感じますが、馴染んだ場所や状況ではコミュニケーションができますし、新しい人に会うこと自体も可能です。
対人恐怖症(社会不安障害)がある場合は、医師や専門家への相談、適切な治療・ケアが必要です。
引っ込み思案と人見知りの違い
引っ込み思案とは、人前で話したり積極的に行動したりすることが苦手な性格のことです。「自分はうまくできないから」などの理由で消極的な姿勢が強くなります。慣れた相手とであれば、多少自分の考えや希望を伝えることもできるでしょう。
引っ込み思案には、人見知りと多くの共通点があります。
両者の違いをあげるとすれば、慣れない場所や人に対してのみ消極的な姿勢を見せるかどうかです。これに当てはまる場合は人見知り、慣れた人に対しても消極的な姿勢を見せる場合は引っ込み思案といえるでしょう。
人見知りの具体例7選
「人見知りな人の特徴は?」と尋ねると、様々な行動があげられます。当事者や周囲の人から聞かれる具体例は、例えば以下のようなものです。
【人見知りの具体例】
1 | 自信がなく人とうまく話せない |
---|---|
2 | あいさつや会話が苦手で挙動不審になる |
3 | 会話中に目を合わせられない |
4 | 雑談が苦手で輪に入れない |
5 | 飲み会やグループ活動の誘いを断る |
6 | 警戒心が強く自己主張・自己開示が少ない |
7 | 打ち解けた人と二人きりなら話せる |
1つずつ見ていきましょう。
(1)自信がなく人とうまく話せない
人見知りな人には、過去にコミュニケーションで失敗した経験を持つ人が少なくありません。そのネガティブな記憶から、「また失敗したらどうしよう」という意識が強く働きます。これにより、余計に他の人とうまく話せなくなるという悪循環に陥る場合もあるでしょう。
「会話に自信を持てれば、人見知りを治せるはず」と思ってはいますが、いざ人前に出ると大きなプレッシャーを感じ、うまく話せなくなってしまうのです。
(2)あいさつや会話が苦手で挙動不審になる
人見知りな人の中には、あいさつをすること自体が苦手な人もいます。その理由は、
「知っている人のような気がするけれど、間違っていたらどうしよう」
「あいさつを無視されたらどうしよう」
といった不安です。「何となく恥ずかしい」という人もいるかもしれません。
それでも、ビジネスパーソンには、あいさつや簡単な会話への対応が求められるものです。人見知りな人は、「何とか話そう」とする気持ちと、積極的には話せない行動習慣の板挟みになり、つい挙動不審になってしまいます。
(3)会話中に目を合わせられない
人とのコミュニケーションに自信がないと、相手と目を合わせることにも戸惑いを感じやすいものです。
相手と目を合わせることは、「アイコンタクト」というコミュニケーションの1つ。相手の感情や反応が伝わってくることもあれば、自分の感情や反応が自ずと相手に伝わってしまうこともあります。
人見知りのように、慣れない人とのコミュニケーションに困難がある場合、アイコンタクトも避けがちになります。そのため、相手から「目が合わない」という印象を持たれることが多いようです。
(4)雑談が苦手で輪に入れない
人見知りな人は、何気ない会話や雑談で何を話していいのかわからず、戸惑うことが多くあります。
「こんなことを話したら場がシラけてしまうのでは」
「見下されるのでは」
という不安から、会話に加わることができません。
あるいは、たあいもない噂話や社交辞令に対して「何の意味があるのか」と感じ、うまく会話に乗れない人もいるでしょう。
(5)飲み会やグループ活動の誘いを断る
人見知りな人は往々にして他人との会話や雑談が苦手です。そのため、集団での会話が発生しやすい活動を避ける傾向があります。
具体的には、飲み会やグループ活動の誘いを断ることなどです。頑張って参加しても、なかなか周囲の人と話せず、孤立してしまったという経験をした人は多いでしょう。
こうしたコミュニケーションの失敗体験が蓄積されることで、飲み会やグループ活動の場が、本人にとってますます「居心地の悪い場所」として印象づけられてしまいます。
(6)警戒心が強く自己主張・自己開示が少ない
これまで見てきたように、人見知りな人は「自分の言動を相手がどのように受け止めるか」を気にして話せないことが頻繁にあります。言い換えれば、自分の意見や情報を相手に開示することが苦手ということです。
仮に意見や情報を話すことができたとしても、その後「あんなことを言わなければよかった」と後悔することが珍しくありません。
たとえ聞き手がネガティブな評価をしていなくても、人見知りな人は自身を低く評価し、コミュニケーションの扉を閉めてしまうのです。
(7)打ち解けた人と二人きりなら話せる
人見知りな人は、慣れない人とのコミュニケーションが苦手である一方、慣れた人とであれば意外と話すことができます。相手の好みや反応の傾向、自分に対する態度などがわかっていたり、共有の興味対象や知識があったりするからです。「嫌われたらどうしよう」という心配も無用ですし、一緒に出かけることも可能でしょう。
ただ、慣れない人との距離感が必要以上に遠い反面、打ち解けた人との距離感が近くなりすぎてしまうケースがあります。その自覚があると、「他人との距離感がわからない」という悩みが生まれるようです。
ビジネスシーンでの人見知り問題
プライベートであれば、人見知りであることを理由に「極力他人と話さない」ことも可能です。しかし、ビジネスシーンでは、そうもいきません。仕事には複数のメンバーが関わっており、大なり小なりコミュニケーションが必要だからです。
人見知りのままでは、例えば次のような問題が生じるかもしれません。
組織内で上手に人間関係を築けない
人見知りがあると、業務報告やそれ以外のコミュニケーションに支障が出ることがあります。出社・退社時のあいさつ、休憩時間の雑談、懇親会などでの情報交換や人脈作りが典型的でしょう。
こうした会話の機会が少ない場合、同じ部署の中でも他のメンバーにとって「よく知らない人」のままになり、信頼関係の構築が遅れてしまいます。
信頼関係の構築ができないと、日々の業務にも悪影響を及ぼすかもしれません。具体的には、
- 業務で困っていることがあっても相談する相手がいない
- 相談しないまま仕事を進めることで「ミスを隠している」と誤解される
- 周囲で共有されている情報の中で、自分だけ知らないものがある
- 職場で孤立することが多い
といったことです。
アイデアはあるのに伝えられない
人見知りな人は、うまく発言できなくても、頭の中には様々なアイデアが浮かんでいる場合があります。周りの意見や情報をもとに「こうすればいいのでは」と具体的なアイデアが生まれているのに、それを他のメンバーに対してアウトプットできない状態です。
これが常態化すると、周囲からは「自分の意見がない人」「アイデアがない人」と誤解されかねません。特に、上司からそうした誤解を受ければ、人事考課で適切な評価を受けにくくなってしまうでしょう。
企画会議やプレゼンが多い部署で働く人にとって、人見知りは死活問題です。
営業職なのにうまく交渉できない
営業職にとって、取引先との適切なコミュニケーションは非常に重要です。相手から見て魅力的なプレゼンを行うには、どのような課題・制約があるのかを聞き取らなければならないからです。
もし人見知りが原因で最低限の会話しかできなければ、せっかくアポイントを取れても、成約にこぎ着けるのは至難の業でしょう。交渉の場で「アイデアはあるのに伝えられない」という問題が発生すると、準備不足を疑われてしまうことさえあります。
なぜ人見知りが出る?原因と治し方
人見知りを改善するには、なぜ人見知りが出るのかを自己分析すると効果的です。そこで、人見知りにつながる代表的な原因と改善方法を3つご紹介しましょう。
自己防衛心が強い:あいさつの習慣化から始める
1つめの代表的な原因は、自己防衛心の強さです。例えば、「こんなことを言ったら嫌われるかもしれない」という不安により、コミュニケーションに消極的になってしまう例があげられます。
他人の評価や危機的状況から自身を守ろうとすること自体は、決して悪いものではありません。防衛によって自身を守り、ストレスからの回復につなげられることも多いからです。ただ、自己防衛心が強すぎて、はじめから他者との関わりをシャットアウトしてしまうと、人見知りという大きな問題につながります。
強すぎる自己防衛心を軽減する第一歩は、相手の存在を認識し、あいさつをすることです。日頃あいさつができていないのであれば、受付の人や職場の人などに、自分からあいさつをする習慣をつけましょう。
その際、相手の目を見られると理想的です。何度もアイコンタクトやあいさつを交わすことで、「慣れない人」が「慣れた人」に変化していきます。気軽にあいさつができるようになったら、「今日はいい天気ですね」など、簡単な会話をひとつ付け加えるとよいでしょう。
コミュニケーションスキル不足:会話パターンと「聴く力」を習得する
2つめの原因としてあげられるのは、コミュニケーションスキルの不足です。あいさつはできるものの、休憩時間の雑談や飲み会などでの会話に困るケース、営業先で会話に詰まってしまうケースが、これにあたります。
コミュニケーションスキルを高めるには、会話パターンや「聴く力」の習得に励みましょう。
人見知りな人には、「上手な会話はその場の対応力が大切」と考えている人もいるのではないでしょうか。しかし、実際のところ、会話には一定のパターンがあります。周囲の会話を聞き、そのパターンを分析してみてください。
なお、当たり障りのない話題としては、次の5つが便利です。
- 天気
- スポーツ・映画・展示会などのイベント
- 最近の仕事
- グルメや話題のお店
- 相手の持ちもの・服装(褒める)
これらの話題は、英語圏でも初対面の人と交わす「スモールトーク」として重宝されています。
会話を展開させるには、「聴く力」も威力を発揮します。相手が話す調子に合わせて相づちを打ったり、相手と同じような表情を自分も作ったりしてみましょう。
さらに話を引き出すには、質問力のトレーニングが効果的です。質問のポイントは、「5W1H」。「When(いつ)」「Where(どこで)」「Who(誰が・誰と)」「What(何が・何を)」「Why(なぜ)」「How(どうやって・どのくらい)」という6つの要素をヒントに、相手が話すきっかけをつくっていきましょう。
【5W1Hを活用した質問の例】
ジャンル | 5W1Hの要素 | 質問例 |
---|---|---|
スポーツ | Who | どの選手が好きですか? |
What/Which | その場面が印象的でしたか? | |
How | 相手チームは、どのくらい強いチームですか? | |
グルメ | What/Which | どのお店がおすすめですか? |
Where | その商品は、どこで買えますか? | |
When | いつ頃、そのお店に行きましたか? |
テレビ番組や雑誌のインタビューなどで使われている質問のパターンも参考になります。
情報過多な環境:下調べと「割り切り」で負荷を減らす
3つめの原因は、人見知りのある人がさらに話しづらい状況に陥る環境要因です。典型的なものでは、「周囲でやりとりされている情報が多すぎて、ついていけない」という状況があるでしょう。
自分にとって知らないことや理解しにくいことが多すぎると、それらの情報処理で精一杯になり、自分から何かを発信することが難しくなります。人見知りがない人なら、その場で「どういう意味ですか」と尋ねることができます。しかし、人見知りな人は、自分への評価を気にして何も言い出せません。
こうした状況の負担を軽減するには、情報処理にかかる負荷を下げる工夫が必要です。例えば、事前に下調べをしておくことが考えられます。
具体例として、あまり知らない人たちが多く出席する会議やグループワークへの参加を考えてみましょう。事前に参加予定者がわかる場合は、それが誰なのか、その人の専門分野・役職・業績・関心があることなどを、可能な範囲で調べておきます。顔写真とともにメモしておくと、はじめて会う人でも「初対面」という印象を軽減できるでしょう。
扱われるテーマについても、基本的な知識や現在の動向をざっと調べておくと、全体の流れについていきやすくなります。
下調べをしてもわからない点は、
「他の人もあまり知らないこと」
「会議やワークショップの中でわかればいい」
「あとで調べればいい」
と考え、割り切ってしまうのも1つの手です。
このような準備をすることで、慣れない場、人とのコミュニケーションでも、少し気が楽になります。
人見知りな部下への接し方
ここまでは、人見知りがある当事者について述べてきました。本コラムの最後では、やや視点を変えて、人見知りの部下をもつ管理職の人が心がけると良いポイントを解説します。ぜひ二人三脚で取り組み、活躍するビジネスパーソンへの成長にお役立てください。
1対1のコミュニケーションから始める
人見知りな部下は、他者とのコミュニケーションにおいて、自身が低く評価されることや、周囲の状況についていけないことを恐れているかもしれません。慣れない相手が多いほど、こうした不安は強くなります。
そこで、まずは1対1の小さなコミュニケーションからトレーニングを始めるとよいでしょう。改善方法でも提案した通り、最初はあいさつの習慣化、スモールトークの練習がおすすめです。
朝礼など、複数のメンバーがいる場で無理に発言を促すと、逆に萎縮してしまう恐れがあります。まずは本人と課題の認識を共有し、解決に向けた取り組みが重要であることを伝えましょう。そして、特定のパターンを安心して練習できる機会を日々設けてください。
取り組みの中では、管理職やリーダーから声をかけ、慣れてきたら本人が自分からあいさつをするよう促すなど、スモールステップで成功体験を重ねさせることが大切です。
無理のないトレーニングにより、部下の自己防衛心を少しずつ和げられるでしょう。
口頭だけでなく、テキストでの会話も活用する
人見知りな人の中には、口頭での会話が苦手であっても、テキストでなら問題なくコミュニケーションができる人もいます。これには、音声よりも文字のほうが理解しやすく、混乱しにくいという、本人の特性が関係している場合もあります。
もしテキストでのコミュニケーションが得意な部下なら、口頭での会話だけでなく、ビジネスチャットやメールでの報連相・雑談ができる仕組みを作ると効果的です。テキストによるコミュニケーションで見えてくる能力や長所も、あるかもしれません。
複数のコミュニケーションツールを活用しながら、部下との相互理解を進めましょう。
質問形式を意図的に使い分ける
人見知りの部下に質問をする際は、質問形式もうまく使い分けたいところです。
例えば、YESまたはNOで答えられるクローズドクエスチョンは、部下が比較的答えやすい質問形式といえます。答えが2択になるため、基本事項の確認や、明確な答えが欲しい場合に便利でしょう。
ただし、クローズドクエスチョンに適さない内容もあります。「依頼した資料の準備は期日に間に合うか」などの質問は、条件によって回答が変わるため、必ずしもYESまたはNOだけで答えられるものではありません。
「依頼した資料の準備は進んでいるか」
「進捗の遅れについて、困っていることはあるか」
といったように、いくつかの段階に分けて尋ねるとよいでしょう。
これに対して、質問された側が自由に答えられるオープンクエスチョンは、部下の得意な分野、興味・関心が高いことに使うと有効です。
例えば、自社が提供するサービスAに詳しい部下の場合、「サービスAを取引先Bに提案したいが、どういった点を強調すると良いか」などと尋ねると、自分の意見やアイデアを話しやすくなります。
質問に対して部下が誠実な回答や効果的な意見を述べた場合は、
「頑張っているね」
「いいアイデアをありがとう」
など、ポジティブなフィードバックも忘れずに行ってください。これも、部下にとって大切な成功体験となります。