アンガーマネジメントとは?怒りの感情をコントロールする6秒ルールや実践方法
アンガーマネジメントは、現代のビジネス現場において不可欠なスキルです。怒りの感情コントロールを学ぶことで、職場環境の改善やハラスメント防止などにも大きく寄与します。
本コラムでは、アンガーマネジメントの基本概念から実践方法まで詳しく解説。メリット・デメリット、6秒間を乗り切る対処法などをご紹介します。
アンガーマネジメントとは?
アンガーマネジメントとは、怒りの感情とうまく付き合うための心理トレーニングです。「怒らない方法」や「怒りを抑える方法」ではなく、怒りに任せた衝動的な言動をコントロールし、建設的に表現することを目的としています。
ここでは、アンガーマネジメントの背景と必要性について解説します。
アンガーマネジメントが広まった背景
アンガーマネジメントは1970年代にアメリカで開発され、当初はDV加害者や軽犯罪者の矯正プログラムとして使用されていました。
現在では、教育、育児、スポーツ、ビジネスなど、幅広い分野で活用されています。特にビジネスの現場では、必須のスキルとして認識されるようになりました。
日本では「パワハラ防止法」により、2020年には大企業、2022年には中小企業でパワハラ防止措置が義務化されました。これにともない、厚生労働省は「感情をコントロールする手法についての研修」や「コミュニケーションスキルアップについての研修」などの実施を企業に求めています。
感情のコントロールに効果的なアプローチとして、アンガーマネジメント研修があげられます。職種や役職を問わず全社員が対象となり、特に部下を持つ管理職の受講は重視されています。
*参考:厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
アンガーマネジメントの必要性
怒りの感情は、想像以上に広い範囲に影響を及ぼします。特に管理職が部下に対して怒りを示すと、その部下だけでなく他のメンバーにも不安を与え、パワーハラスメントと解釈されるリスクもあるでしょう。こうした事態を防ぐため、アンガーマネジメントは重要なスキルとなります。
職場ではクレーム対応やスケジュール変更など、様々なストレスの要因があります。しかし、イライラなどの怒りの感情をストレートに出してしまい、トラブルを引き起こすことは避けなければなりません。
アンガーマネジメントを学ぶことは、怒りによる混乱を避け、良好な職場環境の維持に役立ちます。感情をコントロールし、適切なコミュニケーションが可能になるでしょう。
怒りの発生メカニズム
「怒り」は全ての人が持つ自然な感情であり、ときには危険から身を守る防衛反応でもあります。しかし、ビジネスシーンにおいて不適切な形で怒りを表すことは、生産性の低下やチームワークの悪化を招く恐れがあります。怒りと適切に向き合い、効果的に管理することが重要です。
怒りの発生メカニズムを理解することは、感情をコントロールするための第一歩となります。ここでは、怒りが生じるプロセスを3つの側面から解説します。
怒りに潜む一次感情
怒りの裏には、表には出ない別の感情が隠れていることがあります。これを「一次感情」といいます。一次感情を認識することで、怒りの本当の理由を把握し、より効果的に感情をコントロールできます。
例えば、「同僚に教えてあげたら、相手が怒り出した」という状況を考えてみましょう。この場合、同僚の怒りの裏には、恥ずかしさや自尊心の傷つきといった一次感情が潜んでいる可能性があります。相手は自分の能力不足を指摘されたと感じ、それを怒りとして表現しているかもしれません。
自分自身が怒りを感じるときも同様の仕組みです。例えば、仕事で指摘を受けて怒りを感じた場合、その裏には自信の喪失や不安という感情が隠れている可能性があります。
このように、怒りの根底にある一次感情を理解することは、怒りの感情と向き合うきっかけとなります。
怒りと事象の意味づけ
怒りは、ある事象が起これば必ず湧くというものではありません。その事象に対する解釈(意味づけ)によって、生まれます。そのため、同じ状況でも人によって反応が異なるのです。
例えば、「後輩と約束をしていたのに、30分遅れてやってきた」という状況を考えてみましょう。ある人は「時間にルーズで無責任だ」と解釈して怒りを感じるかもしれません。一方で、別の人は「何か予期せぬ事態が起きたのかもしれない」と考え、心配や気遣いをする可能性があります。同じ事象でも、「意味づけ」によって生まれる感情が大きく異なります。
怒りをコントロールするためには、自分がどのような「意味づけ」をしているかを認識し、必要に応じてその解釈を変更する能力を養うことが重要です。
怒りが生まれる「べき」「はず」とのギャップ
怒りの発生メカニズムには、複数の要因がかかわります。その1つが、現実とのギャップです。「~するべき」「~であるはず」という自分の願望や期待が現実と異なったときに、怒りの感情が湧き起こることがあります。
例えば、先ほどの後輩が30分遅刻してきた例で考えてみましょう。
「特別な事情なく、約束の時間に遅れるべきではない」
「あの後輩には、特別な事情などないはずだ」
「だから、後輩は約束の時間通りに来るべきだ」
こうした自分の中の「べき」「はず」が先行した結果、それとは異なる事態になったときに怒りが発生したと考えられます。
注意すべきは、この「べき」「はず」は人によって異なるということです。まずは、自分の中で当たり前に持っている価値観を認識することが大切です。そのうえで、価値観の許容範囲を広げることで、不要な怒りの発生を防げます。
アンガーマネジメントの効果やメリット
アンガーマネジメントにより怒りの感情をコントロールすることで、多くの効果やメリットがあります。ここでは、主な5つの効果やメリットを解説します。
自己分析ができる
アンガーマネジメントを学ぶことで、自分を客観的に見る機会が増えます。これにより、自分がどのような場面で怒りを感じるかを把握するだけでなく、怒り以外の自分の性格や行動の傾向も理解できるようになります。
正義感が強い、完璧主義の一面がある、思ったことを素直に伝えたいといった自分の特性が明確になるでしょう。さらに、伸ばすべきスキルや不足している経験なども浮き彫りになり、総合的な自己分析につながります。このような気づきは、今後のキャリアやポジションの形成にも活かせるでしょう。
コミュニケーションが活性化し職場環境が改善する
怒りをうまくコントロールできれば、対人関係のストレスが減り、働きやすい職場環境づくりにつながります。
一方で、感情的なメンバーの存在は、必要な情報の共有に支障をきたす恐れがあります。組織内のコミュニケーション不全は、職場の人間関係を悪化させ、離職など深刻な問題を引き起こしかねません。
アンガーマネジメントの実践により、メンバーがお互いに思いやりを持って協力し合える関係性が構築されます。このような環境づくりができれば、困ったときでも相談しやすく、チームの結束力も高まります。その結果、職場全体の雰囲気が改善され、仕事へのモチベーションアップにもつながるでしょう。
パワハラの防止・抑止になる
上司が部下を大勢の前で叱責したり、理不尽な怒りをぶつけたりする行為は深刻な問題になり得ます。部下が萎縮して必要以上に上司の顔色をうかがい、生産性が低下したり、パワーハラスメント(パワハラ)として大きな問題へ発展したりする可能性もあるでしょう。
パワハラ行為をする上司は意図的に部下を傷つけているわけではなく、単に怒りのコントロールができていないことが多いようです。
アンガーマネジメントを組織的に導入することで、上司も部下も感情をコントロールするスキルを身につけ、互いを尊重して仕事を進められるようになります。全社的に知識が広まれば、パワハラの発生を未然に防ぐだけではなく、問題を是正する自浄作用も強化されるでしょう。
柔軟な思考と寛容さが身につく
アンガーマネジメントを身につけることで、自分の価値観や思い込みを客観的に見つめ直せるようになります。これにより、他者の異なる考え方にも柔軟に対応できるでしょう。
近年、職場環境が大きく変化し、ダイバーシティ&インクルージョンの重要性が高まってきました。海外で事業を展開する企業や外国人労働者を雇用する企業が増え、LGBTQ+の方や障害をもつ方の雇用も進んでいます。
国内における男女の働き方を見ても、出産・育児や介護のための休暇取得、時短勤務、リモートワークなど、価値観や働き方が多様化しています。
アンガーマネジメントによる感情のコントロールを行い、冷静に対話する能力を身につけることで、これらの多様な価値観や働き方を受け入れやすくなるでしょう。
教育や指導の効果が高まる
アンガーマネジメントを導入することで、社内の教育や指導の効果向上が期待できます。管理職やリーダーが冷静かつ適切に感情をコントロールすることで、部下に対する指導がより的確になり、信頼関係が深まるでしょう。
また、社員同士のコミュニケーションが円滑になり、衝突やストレスが減ることで、学習環境の改善が見込めます。これにより、個々の社員のスキルが向上し、結果として組織全体のパフォーマンスアップにつながるでしょう。
アンガーマネジメントのデメリット
アンガーマネジメントにはメリットが多い一方で、誤解や誤った知識などにより、デメリットが生じることもあります。ここでは、アンガーマネジメントの実践により考えられる3つのデメリットを紹介します。
怒りを無理に抑えてしまう
「怒ってはいけない」と怒りの感情に無理に蓋をすると、心と体のバランスを崩してしまうことがあります。
怒りは、人間にもともと備わっている感情です。ただ怒りを抑え込むのではなく、一度心を落ち着かせ、怒りが生じた理由をじっくり考えることが大切です。怒りが生じる要因には、自分でも気づいていない欲求が隠れているかもしれません。
都合よく扱われる
アンガーマネジメントによって「怒らない」ことを心がけすぎると、誤解を招くことがあります。
「嫌なことがあったり、理不尽な要求をされたりしても怒らない」
「あの人はNOと言わない」
このような印象を与えると、都合よく扱われる可能性があります。キャパシティを超えた仕事を振られる、嫌な仕事を回される、ということが生じるかもしれません。積み重なれば、深刻なストレスとなるでしょう。
誤解を避けるためには「怒らない」だけではなく「伝える」ことが重要です。自分の要求を論理的に伝える、上司を通して伝えるなど、怒らず、要求をしっかり伝える必要があります。
モチベーションが低下する
怒りを原動力にしてやる気を保つタイプの人もいるため、アンガーマネジメントによりモチベーションが低下したと感じることがあります。
「負けた悔しさをバネに頑張る」という例がこれにあたります。怒りや悔しさは、ときとして前向きな行動を起こすきっかけとなります。そのため、完全に抑制しようとすると、逆効果になり、活動するためのエネルギーが不足してしまうかもしれません。
怒りをなくすことではなく、それを前向きなエネルギーに変える方法を学ぶことが大切です。これもアンガーマネジメントのスキルの1つです。身につけることで感情をコントロールしつつ、ポジティブな目標達成に向けてエネルギーを活かすことができます。
アンガーマネジメントの5つの実践方法
いよいよアンガーマネジメントの実践です。効果的に怒りをコントロールするには、次の5つを試してみてください。
(1)深呼吸をする
自分の中に怒りの感情が生じたら、まずは深呼吸をしてください。深呼吸にはリラックス効果があり、冷静さを取り戻しやすくなります。
怒りを感じて冷静になるまでには、一般的に「6秒間」かかるといわれています。つまり、怒りの感情を6秒我慢できれば、衝動的な言動を抑え、より効果的な対処ができる可能性が高まるということです。
カッとなりそうなときは、「深呼吸しながら、心の中で6秒カウント」。ポイントは、呼吸やカウントに集中することです。たとえ深呼吸していても、意識を怒りの原因に集中すると怒りが増幅される恐れがありますので、注意してください。
(2)怒るのではなく、リクエストする
怒りの感情が生じた際、ストレートに怒りを伝えることは得策ではありません。相手からの反発を招き、さらに感情的な衝突が強まって悪循環に陥る可能性があるためです。
そこで、怒りの言葉ではなく、「相手にして欲しいこと」をリクエストする形で伝えるようにしましょう。例えば、書類の提出に関して苛立ちを覚えたときは、「余裕を持って提出してもらえるとチェックがしやすいので、次回からは○日前に一度提出してほしい」など、具体的に要望を伝えます。
相手がそれを承諾したり、より良い改善策を検討できたりすれば、感情的な衝突を避けながら、怒りの原因を解消できます。
(3)自分の「怒りログ」をつけ、分析する
自分の怒りをコントロールするには、「アンガーログ(怒りログ)」が有効です。アンガーログとは、自分は何に対して怒ったのか、なぜ怒ったのかを記録するものです。怒りを分析し、コントロールするための大切なツールとなります。
アンガーログをつけ続けると、「どんなときに怒りやすいか」を可視化できます。自分の怒りのパターンを把握することで、怒りの原因を避ける、怒りの感情への対処法を決める、といった対策を立てられます。
(4)怒り度合いを数字で記録する
前述したアンガーログには、「怒りの度合い(レベル)」も一緒に記録します。あとで比較できるよう、以下のように数字で記すとよいでしょう。
- 同僚が約束の時間に遅刻してきた……怒り「2」
- 部下のミスで取引先からクレームが入った……怒り「5」
怒りを数値化することで、自分がどんなことに強く怒りを覚えるかがわかります。自分の怒りを客観的に把握することにより、冷静な判断や怒りのレベルに応じた対策ができるようになります。
(5)アンガーマネジメントを体系的に学ぶ
アンガーマネジメントの実践には、体系的な学習が効果的です。講座や研修で学ぶことで、実践的なスキルを効率よく身につけられます。
資格取得や社内外のセミナーへの参加なども有効な方法です。特に部下を抱える管理職の方は、積極的な学習をおすすめします。
ALL DIFFERENTでは、アンガーマネジメント研修など、働きやすい職場づくりを支援する企業研修をご提供しています。自分の意見を効果的に伝え、相手の行動を促す説得力のあるコミュニケーションスキルを習得できます。
怒りの6秒間を乗り切る5つの対処法
アンガーマネジメントの実践方法に、「6秒間」というキーワードがありました。
怒りを感じてから6秒の間に行動すると、言葉や行動が感情的になり、相手に過度な怒りをぶつけてしまうことがあります。一方で、怒りが発生しても6秒間だけ我慢できれば、より冷静な対処ができるでしょう。
ここでは、深呼吸以外のテクニックとして、怒りの6秒間をやり過ごす5つの対処法を紹介します。
(1)思考を停止させる(ストップシンキング)
1つめは、怒りを感じた瞬間に、全ての思考を止めるというものです。心の中で「ストップ!」と呼びかけ、真っ白な何もない空間を思い描きます。思考を強制的に断ち切り、「本当にこの人は…。そういえば、あのときも…」といった怒りの連鎖を防ぎましょう。
(2)心の中で怒りが和らぐ言葉を唱える(コーピングマントラ)
2つめは、怒りが収まる魔法の言葉を、心の中で唱える方法です。以下のように、自分が落ち着ける言葉をあらかじめ用意しておきましょう。
「大丈夫」
「たいしたことない」
「明日には忘れるだろう」
好きな食べ物やペットの名前、無意味だけど好きな音など、気持ちが落ち着く言葉であれば何でも構いません。
魔法の言葉によって、怒りの原因から意識を遠ざけることで、心を落ち着かせます。
(3)怒りの数値化に集中する(スケールテクニック)
3つめは、アンガーマネジメントの実践方法でも登場した「怒りの度合いを数値化する」という方法です。
例えば、10段階などで数値化することで、自分の怒りを分析できるようになります。数値化した結果、「実はたいした怒りではなかった」と気づくこともあるでしょう。
怒りの数値化を習慣化すると、怒りの強さを判断する基準ができます。結果として、「怒るべきときに怒り、怒らなくてもいいときは怒らない」という感情のコントロールがうまくなります。
(4)全く別のものに意識を向ける(グラウンディング)
4つめは、怒りが生じたと気づいた瞬間に、全く関係ないものに注目し、意識をそらす方法です。例えば、以下のようなものを観察します。
- 手元のマウスの色や形状
- 手のひらの皺の数や長さ
思考を別のものに向けることで、怒りの感情から距離を置くことができ、時間稼ぎができます。
(5)仕切り直す(タイムアウト)
1~4のテクニックを用いてもどうしても怒りが収まらないときは、その場を仕切り直しましょう。
「15分席を外させてください」
「一度解散し、後日改めてお時間いただけますか」
このように物理的にその場を離れ、時間を置いて冷静さを取り戻します。
怒りが収まらないまま無理に続けても、事態が悪化してしまう可能性があります。一旦仕切り直すことで、自分と相手の双方にとって、より建設的な対話ができるでしょう。
一人ひとりがアンガーマネジメントを身につけ、より良い職場環境へ
怒りは周囲に伝わる性質があるため、周囲の人にも悪影響を及ぼします。
怒っている本人はイライラして仕事への集中力が低下し、怒りをぶつけられた側も怒りにとらわれたり、萎縮して業務効率が落ちたりしてしまう可能性があります。パワーハラスメントが生じる恐れもあるでしょう。
一人ひとりがアンガーマネジメントを身につけることで、怒りの感情とうまく付き合えるようになり、業務上のコミュニケーションがスムーズになります。その結果、組織全体の生産性向上にも寄与するでしょう。
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