企業価値を上げるリカレント教育とは?
リカレント教育とはどういったものかに加え、企業が導入するメリット、企業や労働者が利用できる制度などについて解説します。
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リカレント教育とは
リカレント教育を端的に言えば「学び直し」です。就職後に仕事で必要な技能を身につけるため、学校や講座などに通って学ぶことを言います。
また、一生を通して学んでいく点で生涯学習と類似点がありますが、生涯学習は生きがいや趣味的な要素を含む一方、リカレント教育は仕事のためにのみ行う学習であることが特徴。新たに学ぶことで、職能スキルの向上が図れる、または転職に有利になる点がメリットです。
欧米のリカレント教育との違い
欧米でのリカレント教育は、就業と復学を繰り返して学ぶスタイルを指します。つまり、働きながら学ぶのではなく、働くときは働き、学ぶときは学ぶ方法です。対して日本では、仕事をしながら学習することを指しているケースがほとんどです。
リカレント教育が注目されている理由
人生100年時代や早期リタイアのFIREムーブメントなどにより、自身のキャリアパスをより明確にする必要が出てきています。そのためには、仕事上でのスキルアップや新しい技術の習得は不可欠です。
さらには、AIによる仕事の変化やICT化への対応、SDGsやグローバル化などに対応できる社員・従業員こそが、企業をより成長させ守ることにつながります。そうした背景からも注目が集まっているのです。
人生100年時代と言われているため
医療が発達したことで人類の寿命が伸びており、人生100年時代が到来しました。海外の研究によると、2007年に日本で生まれた子供の半数が100歳より長く生きると推計されています。単純に言えば、寿命が延びることで働く時間が伸びます。
キャリアだけが学び直しの利点ではありません。年齢を重ねるにつれ、身体機能の低下はどうしても避けられません。しかし、リカレント教育を実施して学び続けることで、気持ちを若々しく保つことができ、健康寿命が延びるとも言われています。仕事を長く続けるといった目的だけでなく、自分自身のためにもなるため、リカレント教育が推奨されています。
価値観の多様化が進んでいるため
現代社会はグローバル化が進んでおり、日系企業でもさまざまな人種や価値観を持つ人材を受け入れています。社内公用語が英語の企業もあり、グローバル化と言えば語学習得が一般的かもしれません。加えて、さまざまな国や人種、バックボーンを持つ人々との交流が生まれるため、文化の違いを学ぶ必要性も出てくるでしょう。
このような、新しい価値観を受け入れるためには、自身の知識をアップデートしていく必要があります。リカレント教育を通して、知識やスキルを獲得する中で、価値観も併せてアップデートすることが求められています。
AIによる仕事の変化
生成型AIの技術革新により、さまざまな仕事に変化が起き、仕事が失われると言われています。一方、人の手で行う仕事の価値が高まっていくポテンシャルも秘めています。
AIを「仕事を奪うもの」ではなく、仕事を創造するものとして活用するためにも、やはり知識が必要です。また、AIが及ばない分野へ進出するという手もあるでしょう。AIによる仕事の変化は、過渡期の真っただ中と言っても過言ではありません。今後の動向を待つだけでなく、能動的に学ぶ姿勢が今後の仕事につながっていくと考えられています。
厚労省の「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」とは
令和4年6月29日に厚生労働省より「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」が公表されました。「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」は、職場における人材開発の強化を目指すため、企業と従業員が取り組むべき項目を示したものです。
企業がリカレント教育に取り組む際には、以下の3項目が重要とされています。
- 労働者の自律的・主体的な学び・学び直しの機会の確保
- 持続的なキャリア形成につながる学びの実践、評価
- 現場リーダーの役割、企業によるリーダーへの支援
企業は労働者が社会環境の変化に対応するため、学び直しができる機会を確保することが重要です。自社で得ることができないスキルの獲得・実践については、副業・兼業や在籍型出向の活用を推奨しています。
労働者がスキルを獲得した場合は、企業が実践の場を提供して、スキルに対して適切な評価を行うことが重要です。また、現場のリーダーには労働者の学び直しを含めたキャリア形成のサポートが求められています。
リカレント教育とリスキリングの違い
リカレント教育とリスキリングは、社会人の学び直しを促進する点においては共通した概念ですが、内容や目的は異なります。
リカレント教育は従業員個人がキャリアアップや学び直しを目的として実施します。主に、教育機関が門戸を開き、リカレント教育を希望する人を受け入れることで成り立っています。企業から求められるスキルに限定されず、個人が学びたいことも含まれるため、学び直しの分野は多岐に渡ります。
リスキリングは、現職とは異なる分野の知識やスキルを身に付けることに重点を置き、主にデジタル分野を中心に学習します。これは、DX推進にともなうIT人材の確保が各企業において重要な課題のためです。言い換えれば、企業側が必要なスキルの獲得を従業員に促す形で実施されます。
主体となるのが個人か企業かの他、自社に必要なスキルを学ばせるか、個人が欲しいスキルを学びにいくかといった違いがあります。
リカレント教育で学べる分野
リカレント教育では、以下の分野や内容を学ぶことができます。
- 語学|英語・中国語など
- IT関連|セキュリティ・言語・システム構築など
- 介護・福祉|管理栄養士・看護職など
- 地域発展|観光・農業・土木など
- ビジネス|経営学・会計・法律・マーケティングなど
学習の場は大学や専修学校などの他、企業への派遣講師などもあります。リカレント教育には、より高い技能の習得を目指すタイプの他、再就職支援に重きを置いているタイプなど多彩です。そのため、ニーズに合わせて選択できます。
企業がリカレント教育を取り入れるメリット
業績の向上が期待できる
リカレント教育により獲得した最新の知識や技術を現場の業務に活かすことで、これまでとは異なる仕事の進め方の発見につながります。その結果、個々の従業員の業務効率向上や、新たなサービスの開発、ひいては企業の業績向上につながるでしょう。
また、学習をしなかった人と比較すると、学習した人は、2年後に約10万円、3年後で約16万円も年収が上がることが内閣府の調査で報告されています。年収が上がれば、業務へのモチベーションが上がり、より業績の向上が期待できるでしょう。
参照元:参照:内閣府「第2章 人生100年時代の人材育成」人材の確保が可能
企業側がリカレント教育を取り入れることで、従業員はその会社で働きながらキャリアパスを形成できます。その結果、人材の流出を防ぎ、人手不足の解消が期待できるでしょう。
また、定年後の再雇用やシニア職員に対しても活躍の場を提供できるため、豊富な人材を自社にとどめておけるようになります。
女性従業員のキャリア形成のサポートになる
女性のキャリア形成にもリカレント教育は役立つでしょう。日本は男性に比べ、女性の平均年収がまだまだ低い傾向にあります。結婚・出産・育児・介護など、ライフステージの変化によって女性が抱える負担割合はまだまだ大きいのです。
そうした中でも働き続けるために、リカレント教育が役立ちます。新たに獲得した技術や知識によって配置転換が可能になり、今までとは別の業務で活躍するチャンスを企業が与えられるためです。
また、産休や育休により長期間に渡って業務を離れていた従業員にリカレント教育を実施することで、復職後でもスムーズなパフォーマンス向上が期待できます。
従業員の定着や確保につながる
リカレント教育を取り入れることで、独立や退職などを想像するかもしれません。しかし、スキルを得た従業員は所属企業でそれまで以上の成果を出せるため、収入アップやキャリアアップが叶うことから、定着率が高まります。また、学び続けられる環境があると評判が得られれば、就職希望者も増えるでしょう。そうした意味でも、企業が取り入れるべき制度・考え方として広がりを見せているのです。
リカレント教育の課題とは
リカレント教育を導入すると、労働者だけでなく企業にも多くのメリットがあります。しかし、課題点がまだまだ多く、外国と比べて制度も十分に整備されていない状況です。自社でリカレント教育を導入する際は、課題解決の対応が必要になります。
OECD諸国と比べてニーズ・効果が低い
日本のリカレント教育はOECD(経済協力開発機構)諸国と比べて柔軟性が低く、労働者のニーズにマッチしていないという調査結果が出ました。リカレント教育について評価したスコアを確認すると、ニーズと効果の低さが目立ちます。また、大学・大学院の正規課程で学ぶ社会人の割合も著しく低い状態です。特に25歳以上の学士課程への入学者割合は2.5%しかいません。
学び直しの機会を用意するには、社員のニーズを掴むことが課題解決へのポイントです。自社にリカレント教育を導入する前に、学び直しに対するアンケートやヒアリングを実施して社員のニーズを掴むと良いでしょう。企業内での整備が追い付いていない
厚⽣労働省「能⼒開発基本調査」から算出したデータによると、働きながら学べる制度を取り入れている企業は、1割程度とされています。就労と学習のサイクルを繰り返すリカレント教育は、雇用形態によっては離職のリスクがあるとされているため、企業内における体制の整備が求められているのが現状です。
「働きがい」を感じにくい人が多い
リカレント教育のメリットは学び直しによって得たスキルを発揮し、労働者に働きがいを感じてもらうことです。しかし、日本は労働環境や福利厚生、女性進出といった面の課題があり、働きがいにつながりにくい状態が続いており、まずは労働環境の整備や近代の価値観に合わせた社内風土の醸成などが先かもしれません。
リカレント教育の導入に際しては、学び直しだけでなく企業が抱える課題との関連性も確認しておく必要があります。リカレント教育を実施する手段
リカレント教育を実施する手段は教育機関で学ぶことだけではありません。セミナーや研修の実施も取り入れて選択肢が増えれば、より社員が働きながら学びやすい環境を整えられます。リカレント教育を自社で導入する際に、どのような手段を用意するべきかしっかり検討しましょう。
教育機関で学ぶ
国内の大学・大学院では社会人を対象としたコースが用意されており、社会人向けの特別選抜での入学が可能です。一部の科目を履修することで単位を取得できる教育機関もあります。また、定時制・通信制大学であれば、仕事と両立しやすいでしょう。仕事や家庭状況による時間的な制約がある場合に、おすすめの選択肢です。
教育機関での学習を希望する社員のために企業ができることには、休業制度や学費支援制度の用意などがあります。
職業訓練に通う
職業訓練は、正しくは公的職業訓練と言い、就業に役立つ知識やスキルが無料で習得できる制度です。介護やプログラミングなど、就業に役立つ技術が習得できる多様なコースが用意されています。
受講期間は3~6ヶ月が一般的ですが、1~2年の長期コースもあります。職業訓練はテキスト代を除き無料で利用できるため、コストを抑えて学び直したい方におすすめです。
セミナーや講習に通う(対面・オンライン)
社外のセミナーや講習を活用するのもリカレント教育を実施する手段のひとつです。セミナーや講習には対面・オンラインの2種類があり、受講しやすい方法を選択できます。
セミナーや講習であれば、教育機関に通うよりも経済的な負担がかかりません。インターネット回線や学習用の端末は必要ですが、学習を続けやすい環境を整えられます。
特にオンラインでセミナーや講習を受講する場合は、場所を問わず興味のあるコースを選べるのがメリットです。学び直しのために遠くまで通う必要がないため、在職中でも知識やスキルを身に付けやすいでしょう。
自社で研修を実施する
社内で講師を立てたり、外部講師を招いたりすると、自社内でも研修を実施することが可能です。社員のニーズに合わせたカリキュラムを組んで実施すれば、エンゲージメントも高まるでしょう。
社内で学習環境を整える際には、eラーニングのようにオンライン学習環境を整備すると、リモートワークの社員にも学ぶ環境を提供できます。研修を用意しているアウトソーシングを活用するのも手です。
あわせて、社員のキャリアアップにフォーカスした支援制度も整備するのがおすすめです。例えば、社内にキャリアアドバイザーを在籍させることで、社員一人ひとりのキャリア形成に対して適切なアドバイスが行えます。転職せずにキャリアアップを目指せる環境があれば、定着率アップと人材育成を同時に実現できるでしょう。
ALL DIFFERENTでは、各種サービス資料をご用意しています。無料動画セミナーからお役立ち資料まで、人材育成に関するコンテンツを提供していますので、ぜひ貴社の育成にお役立てください。
リカレント教育の実例
リカレント教育は人生100年時代や、グローバル化する社会に対応するために注目されています。厚生労働省も社会人の学習環境整備を推進しており、多くの企業がリカレント教育を導入しています。
味の素株式会社
味の素株式会社では企業価値を向上するために、社員の問題解決力を高める能力開発を実施しました。DXによる業務改革が不可欠であることから、デジタル人材の育成に注力しています。
ビジネスDX人材育成コースを設置し、受講を希望する社員は会社が費用を負担したうえで学習できるのが特徴です。初級・中級・上級の3コースが用意されており、DXについての知識・スキルをステップアップ方式で習得できるのが特徴です。
社員に受講を強制することはなく、自律的なキャリア開発を尊重。また、エンゲージメントの向上実現に向け、社員を表彰する「ASVアワード」を設け、学習意欲を高めています。
SCSK株式会社
SCSK株式会社では「共創ITカンパニー」の実現に向けて、事業革新、DX事業化、人材投資を軸とした基本戦略を立てました。IT企業としてビジネスデザイン力や提案力を強化するために、ビジネスクリエイターやサービスマネージャーの育成に注力しています。
社内に専門性認定制度を導入し、スキルを可視化することで社員のレベルアップをサポート。資格取得やスキルアップだけでなく、3~5年後を見据えた配置変更も整備しているのが特徴です。
主体的に学び続ける文化をつくるために「コツ活」を実施し、自己研鑽活動に取り組んだ社員が申請することで図書カードの支給や学ぶ機会を提供しています。
サイボウズ株式会社
サイボウズ株式会社では「100人100通りの人事制度」を実現することを人事制度上の方針としています。社員はキャリアのために必要な内容を学び、会社は社員の学びを支援する体制を整備しました。
キャリア形成に必要な学びについては、社員の主体性を尊重。業務時間外での自己啓発に関する金銭的支援も、業務との関連性から個別に是非を検討しているのが特徴です。
社員のキャリア形成を支援する目的で、所属していない部署で業務を体験できる「大人の体験入部」も用意。また、退職後、最長6年間は再入社が可能となる制度でも、社員の学び直しをサポートしています。
三井住友不動産株式会社
三井住友不動産株式会社では、人口減少やテクノロジーの加速度的な進化を受けて、イノベーションの推進や新産業の創造を実現する人材の育成を実施しています。
社員数名を大学等に外部派遣することで、将来のリーダーを育成。また、デジタル分野に関しては、DXビジネス人材の育成を目的として、大学院等への派遣を検討しています。
三井住友不動産では人事制度の工夫として、ジョブローテーションにより、変化する環境に対応できる社員と組織の形成を目指しています。また、研修派遣者の体験レポートや報告会を通じて、社員同士が触発されやすい環境を整えているのも特徴です。
株式会社メルカリ
株式会社メルカリでは組織規模が急拡大する中で、組織と個人の双方がバリューを発揮できるように各種制度を導入しています。イノベーション促進や競争力の向上を目的として、博士課程進学を支援しています。
「mercari R4D PhD Support Program」を導入し、学費や研究時間の確保できるようサポートしているのが特徴。具体的には年間200万円までの学費支援や、研究と両立可能な業務時間の選択を実施しています。
さらに、社員はワークスタイルを自由に選択でき、日本国内であれば住む場所・働く場所を自由に決められるよう人事制度面も工夫しています。また、セミナーの受講補助や書籍の購入補助によっても、社員の学びを支援している企業です。
事業主側が利用できる助成金やサポート
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、企業が従業員のキャリア形成のため職業能力開発に取り組んだ場合に、その経費や賃金の一部を助成するものです。障害者職業能力開発コースを除き、訓練の対象者が訓練開始時から終了時までの間に雇用保険の被保険者であることが条件となります。
職務に関連した専門的な知識や技能を獲得させるための職業訓練、教育訓練休暇制度を適用した雇用保険適用事業所の事業主に対して支払われます。
事業主は、訓練計画を都道府県労働局へ提出します。その後、訓練を実施して2か月以内に受給申請し、審査に通れば助成金が受給されるというのが、申請から受給までの基本的な流れです。
その他、特定分野の訓練を行う「生産性向上支援訓練」もあります。
企業内のキャリアコンサルティング(セルフ・キャリアドック)
セルフ・キャリアドックとは、企業が従業員に対し、コンサルタントによるキャリアコンサルティングやキャリア研修を受けさせる仕組みのこと。従業員が自身の仕事内容やキャリアを主体的に見直すことが目的です。厚生労働省委託事業としてキャリア形成サポートセンターが実施しています。
労働者が利用できる給付金やサポート
労働者が利用できる制度には、「教育訓練給付金」「高等職業訓練促進給付金」「キャリアコンサルティング」「ハロートレーニング」などがあります。事業主が利用できる助成金やサポートの内容と合わせて把握しておくと良いでしょう。
リカレント教育を取り入れて企業価値を上げよう
情報技術の目覚ましい進歩や転職も当たり前になるなど、雇用の流動化による労働環境の変化により、リカレント教育の必要性が高まっています。
企業においては、リカレント教育を取り入れることにより従業員の能力が向上し、業績アップが期待できます。また、労働人口が減少する中であっても、人材の確保が可能です。今こそ、リカレント教育を導入することによって、企業価値を高めましょう。