魅力的なキャリアとは?キャリアの提示が会社への愛着にも影響

published公開日:2017.08.07
魅力的なキャリアとは?キャリアの提示が会社への愛着にも影響
目次
キャリア開発支援は、働き方の多様化が進む今の時代に欠かせません。今回のコラムでは、仕事を通じたキャリア開発を行うに当たって、企業、そして人事部が持つべき視点や取り組みたい施策を考えていきます。

「キャリア」とは「個人を主役とした仕事のつながり」

「キャリア」と聞いて、皆さんは真っ先に何を思い浮かべるでしょうか。出世や転職といった仕事に関係することのほか、テレビドラマの影響もあってか「キャリア組」「キャリア官僚」を挙げる人も多いかと思います。人材育成や採用の場面でも「キャリアパス」「キャリアアップ」「キャリアデザイン」など様々な使われ方があり、世間にはキャリアに関する用語があふれています。

本コラムで定義するキャリアとは、「個人を主役とした仕事(経験)のつながり」のことです。一般的に個人(社員)の仕事人生は何十年にも及ぶため、会社が社員のキャリア形成を支援するのは当然のことながら、社員が自分自身のキャリア形成を考えることも求められます。今回のコラムでは、人事担当者が社員の「キャリア」というテーマをどう捉え、何を行う必要があるのかを考えていきます。

キャリアは「会社が管理する」から「自身で設計する」時代へ

まずは、個人のキャリア形成がクローズアップされるようになった背景から見ていきます。当社と女性活躍推進研究などで協働している東京大学の中原淳准教授※1によると、1990年代までは日本企業の多くが年齢や入社年次によって社員のキャリアを一律にマネジメントし、より上のポストに就くことが「キャリア」であると捉えられていました。しかし、90年代半ば以降、企業間の国際競争の激化やITの技術革新などにより産業構造が大きく変化します。また終身雇用の保証が崩れ始め、雇用形態の多様化が進んだことから、労働者は自身の雇用を確保するため、他社でも通じる能力を身に付ける必要に迫られました。このような時代背景から、会社がキャリアを管理するのではなく、労働者が自律的に自身のキャリアを設計することが求められるようになったとされています。

※1 肩書は調査当時のもの

このように、キャリアは会社がマネジメントする時代から、社員一人ひとりが自身で設計する時代へと変わってきました。しかしこれは、何から何まで社員個人に任せるということではありません。「キャリアは個人と仕事のつながり」であることからも分かるように、個人と企業は仕事を通じてつながっています。つまり企業には、仕事を通じた社員のキャリア開発支援が求められるのです。

若手時代からキャリア・ビジョンを描かせることの効果とは

では、キャリア開発を行っていく上で企業が気を付けるべきことは何でしょうか。それは、会社の都合を一方的に押し通さないということです。特に中堅・中小企業では、社員一人ひとりに与えられる裁量が大きい分、どうしても社員が“何でも屋”になってしまいがちです。何でも屋は言い換えるとゼネラリストと捉えることもでき、幅広い知識を持って幅広い業務をこなし、会社の全体像を把握できるなどのメリットがあるため、日本企業においてはゼネラリスト人材=“何でも屋”が重宝されるケースも多々あります。つまり、何でも屋がダメということでは決してありません。しかし、キャリアの方向性を示さずに、「彼ならできるから」「他のメンバーは手が回らないから」などという理由で一方的に仕事を任せたり、異動・転勤を命じたりすると、社員は自身の専門性や市場価値が分からなくなってしまい、キャリアに迷いが生じてしまう可能性があります。たとえ会社都合で仕事を任せたり、異動・転勤を命じたりする場合でも、あらかじめキャリアの方向性を提示してから、仕事を割り振る必要があるということです。

また、提示するキャリアの方向性は、当然、社員にとって魅力的なものでなくてはなりません。社員が納得できないキャリアを提示しても、就業先としての魅力が下がるだけです。人材獲得競争の面で不利になるばかりか、せっかく獲得した人材も「デキる人から辞めていく」といった事態が起こり得ます。

ここまで、キャリア開発の必要性や留意点を考えてきましたが、その一方で、「下手に経験を積まれると、優秀な社員が辞めてしまうのでは?」と、キャリア提示に消極的な経営者や人事の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この懸念は誤解であることが明らかになってきました。当社が前述の中原准教授と共同で実施した調査※2からは、「将来の目標(ビジョン)を持たせ、逆算して今できることを実行させること」で自社への愛着が増し、ひいては社長の右腕となる幹部の育成につながるという結果が出ています。若いうちからキャリア・ビジョンを描かせること(当社では「経験ビジョン」と呼んでいます)で、企業にとって欠かせない人材の育成につながると言うことができるのです。

※2「中小企業の人材育成を科学する」(2015)、また『キャリア開発/キャリア・カウンセリング』という書籍の中でも、キャリア開発支援を行うことと個人の退職が関係ないことを示唆する面白い調査結果が紹介されています。

キャリア開発支援で人事部に求められる3つの機能

キャリア開発支援の重要性は十分ご理解いただけたと思います。ここからは、魅力のあるキャリア開発支援を行うに当たって、人事部の皆さまがすべきことを具体的にお伝えしていきます。

当社では、キャリア支援開発において人事部に求められる機能は、大きく下記の3つと考えています。

  1. (1)組織が求める人材像の明文化
  2. (2)個人のキャリア開発を組織の成果に結びつける仕組みづくり
  3. (3)仕事(経験)以外のキャリア開発支援(Off-JT)

(1)について、求める人間観や人材観は組織によって異なるのは当然のことです。まずは会社や組織の理念・大義 、簡単に言うと「事業を通して世の中に対してどんな影響を与えようとしているのか」を明文化する必要があります。その上でなぜそれを目指すのか(Why)をしっかりと浸透させると良いでしょう。 “Why”の部分が社員に浸透しないまま様々な施策を実行しても、食い違いが生まれ、せっかくの施策が形だけのものとなってしまいます。

(2)は、組織の目標を個人の目標に落とし込み、PDCAを回すためのMBO(Management by Objectives:目標による管理)や、個人の意思を配置に活かす社内公募制度、社内FA制度などの仕組みをつくり、常に組織と個人が対話しながら成長できる環境を整えることです。組織として、異動などの社員の希望をそのまま受け入れることは困難かと思いますが、社員が「○○をやってみたい」という希望を組織に伝えることができ、受け入れることが可能かどうかを話し合える環境があることが肝心です。

一般的に人間は、仕事に限らずやりたいことをやっている時の方が大きな成果を出すと言われています。個人の意思を尊重することが組織の成果に結びつくのはこのためで、社員に個性や自律性を発揮してもらうことを期待しキャリア開発を行うのであれば、社員がどのようなキャリアを望んでいるのかを明らかにすることを忘れてはいけません。

(3)は教育施策のことで、「組織が必要とする人材になってもらうための育成」と「個人のキャリアのための支援」の両面から考える必要があります。前者が上司や人事部が「受けさせたい」教育だとすると、後者は社員が自主的に「受けたい」教育と捉えることができます。個人のスキルやレベルに即した教育を会社が受けさせるのも大切ですが、一方的に受けさせるだけなく、社員個人の考えとしっかりと擦り合わせ、個人が受けたいと思った教育を受けさせることもキャリア開発につながります。

当社では、定額制の人材育成サービス「Biz CAMPUS Basic」を通じて様々な研修を提供しています。「Biz CAMPUS Basic」は、人事部をはじめとする管理責任者が社員を指名して研修を受けさせる仕組みと、個人が自発的に受講予約できる仕組みを備え、「受けさせたい」「受けたい」の両面から企業の研修をサポートしています。社員の望むキャリアを把握し、それに即した支援を実行していくには、面談やカウンセリングを行うことももちろん効果的ですが、日常の業務から離れた研修を活用しながらキャリア開発を推進していくことも一手です。

参考文献

『キャリア開発/キャリア・カウンセリング』(生産性出版)