行動変容ステージモデルを活用した効果的研修のポイント
今回は、行動変容ステージモデルを効果的に研修に活かす方法を中心に、メンバーの行動変容をサポートするポイントをお伝えします。
行動変容とは? 企業の研修担当者の悩みと解決策
行動変容とは一般的な意味では「人の行動が変わること」ですが、ビジネスでは「業務において課題となっている行動をより望ましい行動に変えること」を意味します。
より詳しく言えば「現在の状況への適合やビジョン実現に向けて、不適切な行動習慣を適切な行動習慣に変えることである」と定義できるでしょう。
企業の人材育成担当者の皆さまから、次のような悩みをよく伺います。
- 研修をしてもその内容が職場で活用されていない
- 研修を受け身で受講し、「やらされ感」がある社員がいる
- 上司が研修内容を理解しておらず、研修と現場で食い違いが出てしまう
- 研修後は「やりっぱなし」になってしまい、投資対効果が測定できない
研修に参加した社員の行動変容を促そうとしても、なかなかうまくいかないというお話です。
人材育成ロードマップや研修計画、研修企画を作成している時は、こうした状況に陥らないよう対策を考えながら検討をしているはず。ところが、実際に研修を行ってみると、結果はいつもと同じになってしまう企業が少なくありません。
なぜ、こうした事態が生じてしまうのでしょうか。その答えの1つは、「気づきはあるが、行動変容につながっていない」から。さまざまな調査機関の調査結果を見ても、このように答える方が圧倒的に多く見られます。
「研修を受けたら、気づきを得て行動変容につなげてほしい」というのが、人材育成担当者の本音でしょう。しかし、行動変容を実現させるには、ただ研修をやるだけでは不十分です。育成対象となる社員がどのように考え、新しい行動につなげていくのかを知らなければなりません。そして、研修とその前後で、各段階に応じたサポートを行うことが重要なのです。
行動変容のステージモデル
行動変容の理論は、B.F.スキナーによる行動分析学を土台として、エドワード・デシ、アルバート・バンデューラが研究を進めて確立されました。これが、「現在の行動は過去に学習したものであり、求める行動も学習させれば習得できる」という考え方です。
さらに、各種理論を統合して「行動変容ステージモデル」が提唱されました。
行動変容ステージモデルは、対象者の関心の程度や実行の状況に応じて5つのステージに分類され、各ステージにおいて効果的な変容プロセスがあります。
育成対象者は、各ステージを行ったり来たりしながら、最終ステージである「維持期」に至ります。一定期間以上の実践によって新しい行動が習慣化され、定着するという流れです。
【行動変容ステージモデル】
段階 | 本人の状態 |
---|---|
第1ステージ: 前熟考期 | 本人の課題が明確ではなく、新しい行動への取り組みに無関心 |
第2ステージ: 熟考期 | 課題をおぼろげながら認識し、どのような課題に向かうかを考える |
第3ステージ: 準備期 | 課題を明確にし、その課題解決に向けて準備やトライアルを行う |
第4ステージ: 実行期 | 設定した課題に対して、6カ月程度、実際に新しい行動に変えて挑戦する |
第5ステージ: 維持期 | 実行期で実践した新しい行動を習慣化させ、定着を意識して |
5つのステージの中で、研修などでの学びが効果的な段階が、第2ステージや第3ステージです。研修後のフォローアップや振り返りを兼ねた研修は、第4ステージや第5ステージで効果を発揮するでしょう。
では、研修やその前後において具体的にどのような施策を行えばよいのでしょうか。
行動変容を促す施策と研修のポイント
育成対象者の行動変容を促すには、「新しい行動を習得する必要がある」という動機づけとともに、その行動を促す刺激が必要です。しかし単発の刺激では、行動変容に向けての意志を継続しにくいもの。研修自体だけでなく、研修前後にも育成対象者に刺激を与える必要があります。
効果的な研修にするために、研修プロセス上で重要となる比率は、以下のように言われています。
研修前 : 研修 : 研修後 = 4 : 2 : 4
この比率を考慮しながら研修を企画し、行動変容のステージアップへとつなげていきましょう。
研修前の施策: 本人の自覚を促す
研修前は、行動変容ステージモデルの第1ステージや第2ステージを意識しながら、育成対象となる本人に自身の課題に気づかせる施策を行いましょう。第1ステージで本人の気づきが得られれば、次の第2ステージに進むことができます。
具体的な施策としては、
- 知識テストを実施して定量的に課題を把握させる
- 上司から会社の期待を伝え、本人に現状とのギャップを考えてもらうなどの方法で、定性的に課題を把握する
- 行動を変えることによるメリット、変えないことによるデメリットを伝える
などがあげられます。
さらに自らの課題を明確にするには、課題となっている行動を言語化して書き出してもよいでしょう。明文化することで、「次のどのような取り組みをすべきか」に意識を向けやすくなるからです。
課題を明文化することは、上司や同僚など関係者に宣言することにもつながります。
後に実施する研修内容をその後の日常業務で実践させるためにも、早い段階から上司をうまく巻き込み、実践させる環境を作っておきましょう。
研修内容を考える際は、効果測定に向けて研修のゴールも定めてください。
研修での施策: 新しい行動の習慣化に向けた計画と実践
行動変容ステージモデルの第2ステージ、第3ステージに相当する施策が、研修の実施です。
研修では、課題解決に向けてどのように取り組むべきかを示す必要があります。新しい行動習慣をまずは知識としてインプットし、実践によってアウトプットする機会を設けましょう。
研修内で実際に新しい行動のトレーニングを行うことで、受講者は研修後に現場で実践するイメージを持ちやすくなります。こうしたイメージの獲得は、日常業務における実践を強く後押しするもの。知識だけを伝える研修にならないよう、うまくトレーニングを組み込んでいきましょう。
研修の終わりには、新しい行動を始めること、それを継続することを書いた実行計画を立案・宣言させることも大切です。自身の課題と対策、そして目標を明確にして、具体的にいつ・何をするのかを宣言させることで、「やらなければならない」という意識を高められるでしょう。
なお、研修後の実践の中で、「思ったようにできない」という壁にぶつかるかもしれません。例えば、
- 報連相の徹底を目指していたのに報告を忘れてしまう
- 上手に伝えるために事前メモを作ろうと決めたのにメモなしで報告に行ってしまった
- そもそもやる気が薄れてきた
などです。
対策としては、受講者が壁にぶつかりそうな時期を見計らって、2回目の研修を実施するなどが有効です。1回目の研修で作成した実行計画や宣言を振り返り、
- どのような壁にぶつかっているか
- どうすれば壁を乗り越えられるか
をグループワーク等で話し合いながら、実行計画を改善していくとよいでしょう。
研修後の施策: 定期的な振り返りとフィードバック
研修後は、研修で学んだ新しい行動を実践し、実行計画に沿って習慣化していくサポートを行いましょう。行動変容ステージモデルでは、第3ステージから第5ステージになります。
定期的な振り返りとフィードバックを行う
まずは、本人任せで実践させるだけでなく、上司や育成担当者が定期的な振り返りやフィードバックの機会を設けましょう。
振り返りは、なるべく短い期間で多く実施します。頻繁に振り返ることで、実際に本人がどのような行動をしていたかを思い出し、改善につなげやすくなるためです。
- 新しい行動ができた場合にどのような心がけや準備をしていたか
- 新しい行動ができなかった場合、どのような状況だったか
など、成功と失敗のそれぞれについて環境や行動のパターンを本人に分析してもらいましょう。分析で行き詰まる場合は、上司や育成担当者が「こういう状況だったんじゃない?」など、ヒントやフィードバックを与えると効果的です。
分析のあとは、新しい行動を続けるためにすべきこと、新しい行動をもっとできるようにするためにすべきことなど、対処法を考えさせましょう。
行動変容には時間がかかります。上司や育成担当者は、本人が納得して新しい行動の習慣化に取り組めるよう見守る姿勢を大切にしてください。
ポジティブフィードバックで成功体験につなげる
また、新しい行動の実践に成功した場合、上司の方はぜひポジティブフィードバックを行ってください。小さな成功体験を重ね、それを本人が実感できれば、新しい行動を継続しやすくなります。より効果的な行動に向けてチャレンジしようという動機にもつながるでしょう。
成功体験はやる気を高め、新しい行動の定着と習慣化に寄与します。研修後に一定の期間が過ぎたら、実行計画で設定した目標に到達しているかどうかもチェック。目標を達成できていれば、それ自体が成功体験になります。
他の受講者の前で発表する機会を与える
次の行動変容に関わる研修で、本人がそれまでに実践してきた行動や工夫を他の受講者に発表する機会を与えるという施策もおすすめです。
話を聞いた他の受講者の反応を得て自己効力感が高まり、さらには自身の発言により責任を感じて新しい行動を続けやすくなるでしょう。
上司・育成担当者が心がけるべきポイント
社員の行動変容を促すためのモデルや研修を中心とした施策を解説してきました。ここで改めて、上司や育成担当者の方にぜひ意識していただきたいポイントがあります。
それは、
- とってほしい行動を組織ごとに絞り込み、明確化する
- 上司や育成担当者が率先して実践する
- フィードバックは短い間隔で行う
- フィードバックの内容を決めておく
の4点です。
どのような行動が望ましいか、どのような行動を優先的に習得させるかは、業務内容によって異なります。そのため、漠然と「○○できるようにして」と伝えるよりも、「こういう時は、こうしてほしい。なぜなら…」と伝えるほうが、より現実に即した行動を習得しやすくなるでしょう。
そして、その組織にとって望ましい行動であるなら、上司や育成担当者も実践できている必要があります。他の社員に教える前に、自らが行動できるよう準備しておきましょう。
フィードバックは、先述したように短い間隔で行うことが重要です。例えば、実際の行動から1カ月たってしまうと「あのとき、こうしてたよね」と確認しても本人は覚えていない可能性があるからです。
望ましい行動が実践されたときは、短い言葉でもよいのでポジティブフィードバックを与えてください。「懸念点は早めに相談する」ことが目標である場合は、相談までに少し時間がかかったり、ほんの小さな懸念だったりしても「ちゃんと相談してくれてありがとう」などの働きかけが大切です。
逆に、望ましい行動が実践できていない場合は、リマインドメールを送ったり、帰る前に注意したりするなど、改めて行動の習慣化に向けた働きかけを行いましょう。
研修前後の施策で行動変容促進へ
社員に望ましい行動を習得させるには、研修の実施だけでなく、研修前後の施策も重要です。研修前後も含めた行動変容の取り組みには、行動変容ステージモデルが効果的。どの段階で何をすべきかがわかりやすくなりますので、ぜひ折に触れてチェックしてみてください。
研修後の行動習慣の定着では、上司や育成担当者による適切なフィードバック、本人が壁にぶつかった際に、それを乗り越えるためのサポートが必要です。行動変容を本人任せにするのではなく、周囲が適切にサポートしながら、組織として望ましい行動の定着を図っていきましょう。
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