扶養手当(家族手当)とは?支給対象や条件・支給金額の相場から企業の現状などを解説

published公開日:2024.10.24
扶養手当(家族手当)とは?支給対象や条件・支給金額の相場から企業の現状などを解説
目次

扶養手当とは、扶養家族を持つ従業員へ企業が支給する手当のこと。公的な児童扶養手当と異なり、企業によって支給金額や条件が異なります。また、共働きなどライフスタイルの多様化により、扶養手当自体の廃止・見直しを検討している企業も増えているようです。

本コラムでは、扶養手当とは何か、支給条件やメリット・デメリット、廃止が増えている背景などについて解説します。

扶養手当とは?児童扶養手当・扶養控除との違いに注意

扶養手当とは、扶養している家族がいる従業員に対して支払う手当をいいます。法的に定められた制度ではなく、企業が独自に行う法定外福利厚生の一種です。

扶養手当というと、各自治体が給付する「児童扶養手当」や所得税法上の「扶養控除」との違いがわからず迷ってしまう人も多いのではないでしょうか。児童扶養手当は、児童扶養手当法に基づき、都道府県・市町村などが子供を養育する家庭に支給されます。扶養控除は、扶養している家族の数などにより、所得から一定の額を控除して所得税を軽減する制度です。

自治体が給付する児童扶養手当と所得税法上の扶養控除について、概要や支給基準は以下の通りです。呼称は似ていますが、企業が支払う扶養手当とは全く別物ですので、混同しないように注意しましょう。

(1)児童扶養手当(じどうふようてあて)*1

  • おもにひとり親家庭の生活安定と自立促進のため、当該児童について手当を支給
  • 支給対象者は、18歳未満(障害児の場合は20歳未満)の児童を監護するひとり親などで所得制限あり
  • 都道府県・市・福祉事務所設置村(国が1/3、地方自治体が2/3を補助)が子供を養育する家庭に手当を支給、支給日は1・3・5・7・9・11月の隔月

(2)扶養控除(ふようこうじょ)*2

  • 納税者と生計を同一にする扶養者がいる場合、一定の金額を所得から控除し税負担を軽減する制度
  • 扶養される者の所得が48万円以下(給与収入で103万円以下)であることが条件
    控除額は38~63万円

*1 参考:こども家庭庁|児童扶養手当について

*2 参考:国税庁|扶養控除

扶養手当と家族手当の違い

扶養手当と似たものに家族手当があります。どちらも企業が従業員に対して支払う手当です。

扶養手当と家族手当の違いは、扶養手当が家族を扶養していることが条件であるのに対し、家族手当は原則として扶養にかかわらず家族がいれば支払われるという点です。家族手当は家族の有無や構成を判断基準にしているので、扶養しているかどうかは問題ではありません。

しかし、企業の中には、家族手当でも家族の収入や年齢について一定の条件を定めているところもあります。扶養や家族の定義も企業ごとに異なるため、扶養手当と家族手当が同じような意味合いで使われているケースも多いようです。

扶養手当と家族手当の言葉の使い分けは、それほど厳密に行われていない場合がありますので、定義や支給条件など内容をよく確認するようにしましょう。

扶養手当や家族手当がない会社の割合は?

多くの会社が扶養手当や家族手当の制度を設けていますが、法定ではありませんので手当がない会社もあります。

令和4年の民間給与の実態調査によると、家族手当を支給している会社の割合は75.3%です。そのうち、配偶者に扶養手当や家族手当を支給している割合は55.1%となっています。配偶者に対する家族手当を支給していない会社が26.7%、そもそも扶養手当や家族手当の制度がない会社も24.7%あることがわかります。

*参考:人事院|表12 家族手当の支給状況及び配偶者の収入による制限の状況

扶養手当の支給条件‍・所得制限と扶養手当不支給証明書

扶養手当の支給には条件があり、扶養者への所得制限を設けている企業が多く見られます。配偶者への所得制限とは別に、扶養手当の二重取りを防ぐため、配偶者からの扶養手当不支給証明書の提出を義務づけている企業もあるようです。


一般的な扶養手当の支給条件や扶養者の所得制限、扶養手当不支給証明書とは何かについて解説します。

扶養手当の支給条件

扶養手当の支給条件は企業によって異なりますが、一般的には以下のような要素を考慮して条件が定められます。

  • 従業員が配偶者や子供を扶養していること
  • 扶養対象者と同居または生計を一にしていること
  • 従業員との続柄(配偶者と子供のみ、兄弟姉妹は不可、など)
  • 扶養対象者の年齢(子供は18歳未満、親は60歳以上、など)
  • 子供の学業状況(義務教育中のみ、18歳以上の場合は大学や専門学校への通学を条件とする、など)
  • 家族の人数
  • 配偶者など扶養対象者の所得制限

扶養手当は法定外の手当ですから、支給条件は企業によって様々です。子供が多い従業員の家庭を優遇する企業もあれば、老親の扶養手当を厚くする企業もあるでしょう。

扶養控除の支給条件に絶対的な正解はありません。自社における福利厚生についての方針や基準に沿って条件を設定することが重要です。

配偶者の所得制限

多くの企業では、扶養手当の支給条件として配偶者の所得制限を設けています。

令和4年の民間給与の実態調査によると、配偶者に扶養手当や家族手当を支給する企業のうち、「配偶者の収入による制限がある」と回答した企業は、84.1%でした。

その中で配偶者の所得制限の金額で最も多いのは「103万円」で46.7%、次に「130万円」で34.3%です。103万円は所得税が発生する基準、130万円は健康保険加入義務が発生する基準ですので、公的な扶養基準を準用して所得制限を適用している企業が多いことがわかります。

*参考:人事院|表12 家族手当の支給状況及び配偶者の収入による制限の状況

扶養手当不支給証明書とは

共働きの増加に伴い、夫婦それぞれが勤める企業で家族手当や扶養手当を支給しているケースも珍しくありません。夫婦で重複して扶養手当を受け取ることを防ぐため、企業や組合によっては配偶者の扶養手当不支給証明書の提出を義務づけているところもあります。

扶養手当不支給証明書とは、企業や組合などが当該従業員に対し扶養手当を支給していないことを証明する書類です。扶養手当不支給証明書は、通常、従業員の配偶者が勤める企業や所属する組合に提出する書類ですので、配偶者の氏名や勤め先などの情報の記載が必要です。

扶養手当不支給証明書は、扶養手当がない会社でも発行が必要となりますから、証明書の形式や項目などをあらかじめ決めておくようにしましょう。

扶養手当の支給金額の相場

では、扶養手当の支給金額の相場はいくらなのでしょうか。令和2年就労条件総合調査によると、生活手当のうち、扶養手当・家族手当・育児支援手当に該当するものの平均支給額は1万7,600円で、前回調査(平成27年)の1万7,300円からわずかにアップしています。

平均支給額は従業員の多い企業ほど高額になる傾向があり、従業員数1,000人以上で2万2,000円であったのに対し、100人未満の企業では1万2,800円でした。

*参考:厚生労働省|令和2年就労条件総合調査の概況

扶養手当を導入するメリット・デメリット

こうした扶養手当制度の導入・運用には、従業員のエンゲージメントや企業イメージの向上などのメリットがあります。一方で、従業員間の格差や不満を生むリスクがあるなど、いくつかのデメリットもあります。効果的な運用には、メリット・デメリットの両方をおさえておく必要があるのです。

ここでは扶養手当の導入に伴うメリットとデメリットを紹介します。メリットとデメリットを総合的に考慮し、従業員と企業の両方にとって最適な扶養手当を設計・実施することが大切です。

扶養手当導入のメリット3つ

扶養手当を導入し、支給するメリットには、以下のものがあります。

従業員満足度の向上

扶養手当を支給することによって、従業員満足度(ES)が向上します。

扶養する家族がいる従業員は経済的負担が大きくなるため、賞与などとは違って毎月安定した金額が支給される扶養手当は心強い支えになるでしょう。

エンゲージメントの向上

手厚い扶養手当によって従業員の会社への愛着がわき、エンゲージメントが向上しやすくなります。

その主な理由は、やはり経済的負担が軽減されること。従業員が安心して仕事に集中できますので、パフォーマンスが向上する効果も期待できます。

子育て支援など企業イメージアップ

少子化や高齢者介護が社会問題となっている今、会社が充実した扶養手当や家族手当を支給していることは、企業の社会的責任を果たすことにもなります。

社内のことだけでなく社会的問題にも向き合っているという姿勢が評価され、企業イメージの向上につながるでしょう。

扶養手当導入のデメリット4つ

扶養手当を導入するデメリットには、以下のものがあります。

企業の負担が大きい

扶養手当は企業の人件費を増加させる可能性があります。特に、家族の人数や状況によって手当額が変動する場合、企業の負担はさらに大きくなるでしょう。

企業側の負担を減らすには、扶養手当の支給条件を厳しくしたり、不正受給を減らすようチェック体制を厳しくしたりする方法が考えられます。扶養手当の原資を確保するため、他の福利厚生費を削るなどの対策も必要です。

従業員間の格差や不満を生む可能性がある

扶養手当は、従業員の仕事ぶりや成果とは関わりなく支給されるため、従業員間の格差や不満を生むリスクがあります。

家族がいない従業員や家族がいても支給条件にあてはまらない従業員は、同じ仕事をしていても手当が受け取れず、不公平と感じるかもしれません。

最近では生き方や働き方の多様性が進んでおり、扶養手当や家族手当の支給条件にあてはまらない人が増えてきています。一定のライフスタイルを前提とする扶養手当制度は、現代の多様化した価値観やライフスタイルに合わないと受け取られるリスクがあります。

扶養手当を導入する際には、目的を明確化し、従業員側にも丁寧な説明を行いましょう。また、不公平感が出ないよう、扶養手当の支給条件にあてはまらない従業員に、他の手当や福利厚生を準備することも大切です。

急な廃止が難しい

一度導入した扶養手当を急に廃止することは難しく、従業員からの反発を招く可能性があります。

後述するように、社会環境やライフスタイルの変化に伴い、扶養手当や家族手当を廃止する会社も増えてきていますので、廃止自体は不可能ではありません。しかし、廃止する可能性まで考えた制度設計や導入は必要です。

扶養手当を廃止する際には時間をかけて従業員側に説明をし、一方的な給与カットと受け取られないよう、他の福利厚生案を用意するなど代替案を示すとよいでしょう。

手当は課税対象

扶養手当や家族手当は給与所得に該当するため、所得税の課税対象となります。社会保険の報酬月額や雇用保険の賃金の算定にも含まれますので、従業員の所得によっては手当を支給しても実質的な手取りは低くなる可能性があります。

福利厚生の一環としては、借り上げ社宅制度など課税対象などにならない制度の方が望ましいケースもありますので、扶養手当制度の導入には慎重な判断が必要です。扶養手当を導入する際には、課税や社会保険料への影響を考慮して、金額や条件を決めるようにしましょう。

扶養手当を廃止する企業が増えている

約7割の企業が扶養手当や家族手当制度を導入していますが、近年では手当の見直しや廃止を行うところが増えています。

扶養手当を廃止する企業が増えている原因には以下のようなものが挙げられます。

共働き世帯の増加

扶養手当の廃止が進む主な理由の1つは、ライフスタイルの変化です。過去には、男性が単独で収入を得て家計を支える「シングルインカム」の世帯が主流でした。しかし、現代では夫婦ともに働く「ダブルインカム」の世帯が増加しています。

既に説明したように、扶養手当を導入している企業の中には、配偶者の所得制限を設けているところや、手当を二重でもらわないよう配偶者の扶養手当不支給証明書の提出を義務づけているところがあります。

共働きの増加により、扶養手当の対象から外れる家庭が多くなってきたことから、扶養手当を廃止する企業が増えているのです。

厚生労働省主導の配偶者手当廃止の動き

労働力不足を解消し労働生産性を向上させるため、配偶者の就業調整につながる配偶者手当(扶養手当)を見直すよう、厚生労働省が働きかけています。

平成27年には、「女性の活躍促進に向けた配偶者手当の在り方に関する検討会」が設置され、配偶者手当の見直しを呼びかけるリーフレットの公開や事業主向けセミナーなどが行われてきました。

厚生労働省の調査によると、配偶者手当の支給状況は平成27年度の58.6%から令和5年度には49.1%まで減少しているとのこと。所得制限を「103万円」としている企業は、平成27年度は40.4%でしたが、令和5年度には20.6%とおよそ半減しています。

*参考:厚生労働省|企業の配偶者手当の在り方の検討

職場における多様性(ダイバーシティ)の変化

企業の職場における多様性(ダイバーシティ)の変化も、少なからず影響を与えています。近年では、独身者や夫婦のみの世帯、シングルペアレントが増加するなど、家族の形態が多様化。さらに、外国人や障害者、高齢者雇用など、職場におけるダイバーシティ&インクルージョンも拡大しています。

正社員の夫を専業主婦の配偶者が支える家族形態を前提にした扶養手当は、職場における多様性を考慮すると支給対象が限定的であるため、制度の見直しや廃止を検討する企業が増えているのです。

共働き増加などの実態に応じた手当制度改革へ

現在では、約半分の企業が従業員の配偶者への扶養手当や家族手当を支給していますが、廃止を検討しているところも増えてきました。扶養手当の廃止は、社会の変化と企業の給与制度の見直しに合わせて進行しています。

ただし、一方的に扶養手当を廃止すれば、今まで手当の対象となっていた従業員にとっては収入ダウンに……。企業の方針や労使の協議結果によって具体的な廃止方法やステップが異なります。慎重な検討・判断、自社に合う選択を行いましょう。