福利厚生とは?制度の種類・導入方法とメリット・デメリット

update更新日:2024.11.13 published公開日:2023.11.29
福利厚生とは?制度の種類・導入方法とメリット・デメリット
目次

福利厚生は、給与や賞与以外に会社が従業員に提供する報酬・サービスのこと。従業員の満足度やモチベーションを向上させるだけでなく、健康経営や対外的な企業のイメージアップにもつながります。

本コラムでは、福利厚生の概要や目的、制度の種類、導入するメリット・デメリット、導入方法をご紹介します。ぜひ、福利厚生の充実にお役立てください。

福利厚生とは何か

まずは、福利厚生の概要や目的、福利厚生が提供される対象について見ていきましょう。

福利厚生の概要

福利厚生とは、企業が従業員とその家族に提供する、給与や賞与以外の報酬やサービスの総称です。従業員が安心して働くための雇用保険や労災保険、企業から貸与される業務用PCなども、全て福利厚生に含まれます。

福利厚生の具体的な内容は、企業によって様々です。従業員にとって魅力的な福利厚生を提供できれば、従業員満足度やエンゲージメントの向上につながるでしょう。

働きやすさや私生活の充実につながる重要な制度であるため、求職者にとっても見逃せないポイントです。

福利厚生を提供する目的

福利厚生を導入する大きな目的は、従業員とその家族の健康的な生活を支援することと、働きやすさの向上により従業員の満足度やエンゲージメントを高めることの2つです。

日本企業における福利厚生は、明治時代に始まったといわれています。産業革命により急速に発展を続ける西洋に追いつこうとする企業が、鉱山や工場で働く労働者を確保するために導入したのがきっかけです。

現在の日本では人口減少が進んでおり、多くの企業が福利厚生制度の充実により、優秀な人材を確保しようとしています。従業員が働きやすい環境を提供し、健康的な生活とプライベートの充実をアピールすることで、求人への応募数増加につながるからです。

福利厚生の提供対象

2020年4月に施行された改正パートタイム・有期雇用労働法および労働者派遣法によって、正社員とパートタイム労働者、有期雇用労働者との間の不合理な待遇差の禁止が明確化されました。

これにより、福利厚生制度の対象者は、以下に当てはまる全ての労働者となりました。

  • 正社員
  • 正社員と同様の業務を行う有期雇用労働者、パートタイム従事者
  • 派遣会社から派遣されて働く従業員

さらに、同年5月に成立した年金制度改正法における被用者保険の適用拡大により、従来よりも多くの非正規労働者が社会保障制度の恩恵を受けられるようになります(従業員数101名以上の企業は2022年10月から、51名以上100名以下の企業は2024年10月から適用)。

*参考:厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法の概要」

*参考:厚生労働省「派遣労働者の≪同一労働同一賃金≫の概要(平成30年労働者派遣法改正)」

*参考:厚生労働省「年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました」

法定福利厚生・法定外福利厚生の種類と一覧

福利厚生には、大きな分類として「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」の2種類があります。

法定福利厚生の種類

法定福利厚生とは、法律で定められた福利厚生です。企業における導入・実施が義務付けられており、主に以下の2つのカテゴリーに分類されます。

(1)保険・労働保険関連の法定福利厚生

  • 健康保険
  • 介護保険
  • 厚生年金保険
  • 雇用保険
  • 労災保険
  • 子ども・子育て拠出金

(2)福利厚生に含まれる主な休暇・休業制度

  • 年次有給休暇
  • 産前産後休暇
  • 育児休業
  • 介護休暇
  • 子の看護休暇
  • 生理休暇

    など

その他、労働安全衛生法などに基づいて実施が義務付けられている「法定健診(定期健診)」なども、広義の法定福利厚生に含まれます。

一般的な法定外福利厚生の種類

一方、法定外福利厚生は法律で定められておらず、企業が任意で導入するものです。内容は各企業で自由に決められますが、多くの企業で共通して提供されているものがいくつかあります。

以下の10種類が、一般的な法定外福利厚生の例です。

種類 目的 具体例
住宅 従業員の住まいに関する資金をサポートする 住宅補助制度
社宅・寮の提供
交通費 通勤にかかる交通費を補助する 通勤手当(非課税限度額を超えるもの)
健康増進 従業員の健康維持・向上や栄養摂取をサポートする 人間ドック費用補助
メンタルヘルスケア
食事補助制度
出産・育児・介護 仕事と家庭生活の両立をサポートする 育児・介護休業期間の延長
育児・介護の短時間勤務制度
慶弔・災害 従業員に慶事や身内の不幸があった際に、従業員とその家族を支援する 慶弔見舞金
災害見舞金
自己啓発 従業員のスキルアップやキャリア形成に向けた成長をサポートする 資格取得支援制度
書籍購入補助金
e-ラーニング
財産形成 従業員の財産形成を企業がサポートする 財形貯蓄制度
持ち株制度
多様な働き方 自由度の高い勤務時間・場所で多様な働き方をサポートする 在宅勤務制度
フレックスタイム制度
特別休暇 有給休暇以外の休暇を与えて私生活の充実をサポートする 長期連続休暇
文化・体育・レクリエーション 社内イベントを開催して従業員をねぎらう 社内サークル
社内旅行
親睦会

企業独自のユニークな福利厚生事例

法定外福利厚生には、非常にユニークな施策として有名な事例がいくつかあります。こうした取り組みは、「面白いことをやっている会社」という印象だけでなく、企業の独自性や文化を表現するものでもあります。

そのような独自の福利厚生で話題になっている企業事例を3つご紹介しましょう。

サイコロで手当の金額が決まる

株式会社カヤックでは、福利厚生としてサイコロ給を導入しています。サイコロ給とは、サイコロを振って、出た目に応じて月給に手当が付く制度。

同社は「人間には、資本主義のモノサシで測れない価値もある」として、この制度を実施しています。サイコロは従業員自らが振り、運によってその月の給与が決まります。

*参考:面白法人カヤック|サイコロ給とスマイル給

カイロプラクティックやネイルケアの実施

ペブルコーポレーション株式会社は、従業員の心身の健康維持をサポートするため、2021年に福利厚生としてカイロプラクティックとネイルケアを導入しました。

週に1度、著名なカイロプラクティックの施術者やネイルケアの施術者を招き、従業員は自己負担3,000円で、就業時間内に施術が受けられる制度です。

*参考:PEBBLE|新たな福利厚生施策を追加導入

15万円の旅行代金プレゼント

クルーズ株式会社は多くのユニークな福利厚生を提供しています。その中で「ルーラ制度」は特別休暇に当たる制度です。

「ルーラ」とは、ロールプレイングゲームに登場するワープのための呪文に由来しています。勤続7年を迎えた従業員に5日間の休暇と15万円の旅行代金がプレゼントされます。

導入の目的は、「長く勤めてくれている従業員へのねぎらい」と、「従業員を支える家族への恩返し」です。

*参考:厚生労働省|人と企業を活性化する休暇制度を導入しましょう

福利厚生導入のメリット・デメリット

福利厚生を導入することの最大のメリットは、従業員の働き方や私生活をサポートすることで、従業員のモチベーションが向上し、ひいては離職率低下につながることです。しかし、福利厚生を充実させるほど企業側の負担が増加しやすいというデメリットもあります。

福利厚生を導入する際は、メリット・デメリットを把握し、バランスの良い落とし所を探ることが大切です。

福利厚生のメリット

先に、福利厚生がもたらす3つのメリットを見ていきましょう。

①従業員の満足度が向上しやすくなる

福利厚生では、従業員の成長やライフステージにおけるイベント、住宅など、職場で活用できるものから私生活のサポートになるものまで、様々なサービスを提供できます。こうしたサービスが充実すればするほど、従業員のワーク・ライフ・バランスもより良いものとなるでしょう。

例えば、自己啓発支援制度や時短勤務、テレワーク制度など、働きやすい環境を提供することは、仕事への集中力アップや生産性向上につながります。

出産・育児休業、特別休暇、福利施設の利用などは、プライベートな時間でしっかり休養するとともに、本人にとって有意義な過ごし方もできるでしょう。私生活の充実によって働く意欲が高まり、会社に対する満足度向上にもつながります。

②優秀な人材を確保しやすくなる

独立行政法人労働政策研究・研修機構が2020年7月に発表した「企業における福利厚生施策の実態に関する調査」によれば、回答した従業員のうち、若い世代ほど会社の福利厚生を重視して勤務先を選んでいる傾向が見られました。

年代別の福利厚生重視度は以下の通りです。

【年代別 福利厚生重視度】

質問:現在の勤め先を選ぶときに、福利厚生制度の内容を重視したか(単一回答)

年代 非常に重視する ある程度は重視する 合計
20歳未満 11.1% 44.4% 55.5%
20歳代 8.7% 43.9% 52.6%
30歳代 5.5% 33.6% 39.1%
40歳代 3.3% 29.9% 33.2%
50歳代 3.1% 28.1% 31.2%
60歳以上 2.1% 24.5% 26.6%

また、IT人材を対象とした2023年の民間企業によるWebアンケートでも、「とても重視する」「やや重視する」と答えた人は全体の6割を超え、20代では8割を超えています。20代が特に望む福利厚生は「住宅補助」。「スキルアップ補助」「リモートワーク補助」も人気でした。

福利厚生の充実は、こうした求職者のニーズに応え、優秀な人材の確保に欠かせない要素となっています。

*参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構|企業における福利厚生施策の実態に関する調査

③離職率の低下につながる

働きやすさやプライベートの充実につながる各種制度・手当が拡充されれば、従業員が健康に暮らしながら安定した生活を営めます。従業員にとって福利厚生によるメリットが大きいほど、「この会社で働き続けたい」という気持ちも高まるでしょう。

どのような福利厚生を提供すべきかについては、それぞれの企業のミッション・ビジョンや事業内容によって異なります。しかし、従業員に「この会社で働いてきてよかった」「これからもこの会社で働き続けたい」と感じさせる施策こそが、提供する側の企業に大きなメリットをもたらすのです。

福利厚生のデメリット

今度は、福利厚生の導入のデメリットを見ていきましょう。これらのデメリットを最小限に抑えるためには、事前に課題となりやすい点を把握しておくことが重要です。

①コストが増加する

福利厚生の導入には、当然ながらコストがかかります。コストには、費用面のコストと、時間的なコストがあります。

費用面では、例えば住宅手当を導入する場合、単純に対象従業員数×支給金額分の費用が必要となります。法定福利厚生は法律で義務付けられているため、必ず実施しなければなりません。しかし、法定外福利厚生については各企業の裁量で決定できます。その点を考慮して、企業は法定外福利厚生にどの程度のコストを投じられるかを慎重に検討する必要があるでしょう。

時間的コストは、制度を作り、浸透させるまでにかかる期間のことです。従業員のニーズが存在し、導入しようとする施策の目的や方法が明確であれば、比較的短期間で導入できるでしょう。

しかし、福利厚生によっては、従業員の即時利用や意図の理解が難しい場合もあります。「すぐに効果が出る」と考えるのではなく、時間をかけて理解を促し、企業文化の醸成を図ることが重要です。

②管理負担が増加する

企業にとって、福利厚生は管理負担の増加にもつながります。制度ごとに処理方法が異なっていたり、書類作成や利用サービスの窓口とのやり取りなど、新たな事務作業が発生したりするためです。これらの処理をアウトソーシングすることも可能ですが、その場合は費用面での検討が必要となります。

福利厚生は、単に制度の数が多ければよいというわけではありません。費用が過度にかさめば事業に悪影響を及ぼす可能性があります。従業員の利用率を調査し、利用率の低い制度は、場合によっては廃止を検討することも必要です。

③従業員のニーズに合わないと不満につながる

どのような福利厚生を提供すべきかは、企業側のミッション・ビジョンや目的だけでなく、従業員の年齢やライフスタイル、価値観によっても異なります。そのため、せっかく導入しても従業員のニーズに合っていなければ、利用頻度が低く、無駄な制度となってしまう可能性があります。

重要なのは、「全ての従業員が満足する福利厚生は存在しない」ということです。どのような制度であっても、一部の従業員にとっては不要であったり、不満の原因になったりする可能性があります。また、時代や社会状況の変化に伴い求められる福利厚生も変化するため、定期的な見直しが欠かせません。

従業員へのアンケートやヒアリングを実施し、利用率、満足度、希望する福利厚生のアイデアなどを現場から吸い上げ、それらの実現に向けて積極的に取り組みましょう。実現が難しい場合でも、ニーズに合った代替策を講じることで、従業員の納得感につながるはずです。

福利厚生にかかるコスト(費用面)

福利厚生の導入におけるデメリットのつに、コストがありました。費用面でのコストが実際にどのくらいかかるかについては、経団連が実施した福利厚生費調査が参考になります。

同調査によれば、2019年度における従業員一人一カ月当たりの福利厚生費は10万8,517円。このうち8万4,392円が法定福利厚生、残りの2万4,125円が法定外福利厚生でした。

もう少し詳しく見ると、法定福利厚生における項目別の割合は、厚生年金保険が最も大きく、次いで健康保険・介護保険、雇用保険・労災保険となっています。内訳は、以下の通りです。

法定福利厚生 従業員一人一カ月当たり
健康保険・介護保険 3万1,041円
厚生年金保険 4万6,832円
雇用保険・労災保険 4,810円
子ども・子育て拠出金 1,671円
その他 39円

*引用元:経団連「福利厚生費調査結果報告」

他方、法定外福利厚生のコストでは、住宅関連が最も大きく、ライフサポート、医療・健康、レクリエーション、慶弔関係となっています。

法定外福利厚生 従業員一人一カ月当たり
住宅関連 1万1,639円
医療・健康 3,187円
ライフサポート 5,505円
慶弔関係 514円
文化・教育・レクリエーション 2,069円
共済会 272円
福利厚生代行サービス費 309円
その他 629円

*引用元:経団連「福利厚生費調査結果報告」

新たに福利厚生を導入するには

費用面でのコストの次は、時間的なコストを考える必要があります。時間的コストを考えるには、新しい福利厚生の導入手順を押さえておきましょう。そこで、福利厚生の導入手順を5つのステップでご紹介します。

(1)導入目的を明確にする

最初のステップは、福利厚生を導入する目的の明確化です。目的をはっきりさせることで、どのような従業員を対象とするのか、それによってどのようなメリットが生まれるのか、どのくらいサポートを行うべきかなども明確になります。

例えば、在宅勤務制度の場合、「出社が難しい状況でも生産性を維持する」「出社が難しい従業員も雇用できるようにする」などが考えられます。そして、前者であれば「在宅勤務でも生産性を維持するには、どのようなサポートが必要か」、「在宅勤務が必要な従業員は、どのような人か」を検討することになります。

(2)制度を設計する

導入する目的を明確化したら、次は目的を達成できるような制度の設計です。

制度の設計では、従業員の具体的なニーズの把握が欠かせません。「他社で人気だから」と安易に取り入れるのではなく、「自社の従業員のニーズ」を掴む必要があるのです。

ニーズの把握には、様々な職位の従業員へのアンケートやヒアリングを実施するとよいでしょう。定期的な1on1も、業務上の課題を通してニーズを把握する絶好のチャンスです。

(3)コストを試算する

そして、避けて通れない導入・運用コストを試算しましょう。試算結果をもとに、導入が実現可能であるかを判断します。はじめに想定していた内容での実現が難しい場合は、よりニーズや重要度の高い要素に絞るという手もあります。

「導入したがコストがかさんで数カ月で廃止」という事態は極力避けなければなりません。最初は導入コストを抑えて安定的に運用し、必要に応じて段階的に拡充していく方法がおすすめです。

コスト管理には、後述するアウトソーシングサービスの利用を検討するのも効果的です。また、国や自治体、健康保険組合が提供する助成金・補助金制度を活用することで、初期費用の負担を軽減できる可能性があります。

(4)就業規則の規定・マニュアルを作成する

福利厚生の制度設計ができたら、その内容や条件に基づいて就業規則を作成します。労使間で認識の齟齬が発生しないよう、対象者や利用条件、申請方法、金額などを明記してください。

また、制度を円滑に運用するため、担当者向けのマニュアルも作成しましょう。事務処理などを担う従業員のほか、管理職向けの対応マニュアル、一般従業員向けの申請マニュアルもあると、申請や活用の誤りを減らせます。

(5)従業員に周知する

福利厚生の導入後は、従業員への周知も忘れてはいけません。制度の内容を記載した資料を配布し、従業員に利用を促しましょう。資料は配布するだけで終わらず、必ず目を通してもらえるような工夫も必要です。

なお、運用開始後は、定期的に利用者数や必要などの調査を行い、費用対効果を明確にすることも大切です。自社に合ったサービスに更新することで、よりバランスのとれた制度へと成長させられます。

福利厚生の運用形態

最後に、福利厚生の運用方法について解説します。

企業における福利厚生の運用には、大きく分けて自社運営型、アウトソーシング型、ハイブリッド型の3つのパターンがあります。企業の規模や業種、従業員のニーズ、コストなどを考慮し、適切な形態を選択することが重要です。

(1)自社運営型

自社運営型は、企業が独自に福利厚生サービスを企画・運営し、従業員に提供する形態です。企業の特性や従業員のニーズに合わせたきめ細かいサービス提供が可能ですが、運営コストや人的リソースの負担が大きいという課題があります。

(2)アウトソーシング型

アウトソーシング型は、福利厚生サービスの運営を外部の専門業者に委託する形態です。近年、多くの企業で採用されています。主に以下の2つの方式があります。

  • パッケージプラン(定額制の福利厚生サービス)
  • カフェテリアプラン(ポイント制の選択型福利厚生)

専門業者のノウハウを活用でき、運営コストと人的リソースを削減できるといった利点があります。しかし、中小企業の場合はポイント制にすると割高になったり、自社の特性を反映しにくかったりするデメリットもあります。

(3)ハイブリッド型

ハイブリッド型は、自社運営型とアウトソーシング型を組み合わせた形態です。基本的なサービスはアウトソーシングし、特殊なサービスは自社で運営するといった柔軟な運用がメリットです。一方で、管理が複雑化する可能性があることが課題となります。

*参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「企業における福利厚生施策の実態に関する調査―ヒアリング結果―」