人事異動の目的と効果とは?円滑に進めるポイント

published公開日:2023.11.21
人事異動の目的と効果とは?円滑に進めるポイント
目次
人事異動は、会社が従業員の配置や勤務条件などを変更することです。転勤や引っ越しを伴うこともありますが、人事権を行使する人事異動は原則として拒否できません。円滑な人事異動を実現するために、企業が事前に押さえておくべき配慮のポイントや対策をご紹介します。

人事異動とは

人事異動とは、会社が従業員の配置や職位、勤務条件などを変更することです。
ほとんどの場合、「配置転換」「ローテーション」と同じ意味で用いられます。

人事異動の種類

人事異動について統一的な定義はないものの、大きく分けると「企業内部での異動」と「企業間での異動」の2つに分かれます。企業内部の人事異動には、勤務地の変更を伴う「転勤」、等級変更による「昇格(もしくは降格)」、一般職から総合職、研究職から事務職への「職種変更」があります。

企業間の人事異動では、在籍している企業との雇用関係を維持したまま他社の事業所に勤務する「出向」、在籍している会社との雇用契約を終了し、異動先の会社と新たな雇用契約を結ぶ「転籍」があります。

企業内部での人事異動 ● 転勤
● 昇格/降格
● 職種変更
企業間での人事異動 ● 出向
● 転籍

人事異動は人事権の行使である

人事異動は会社の命令(人事権)によって行使されます。部署や担当業務の変更をはじめ、勤務地変更による転居を伴う場合もあるでしょう。そうなれば、辞令を受ける側の従業員の生活は大きく変わります。

労働法規によって権利濫用や差別の禁止など、いくつかの特別な定めが設けられており、一定の配慮を持って慎重に実施することが求められています。

人事異動の目的と効果

人事異動は、事業活動の変化に対応し、組織を効率的に運営するために行われます。
「適材適所」の人員配置が実現することで、以下のような効果が期待できます。

従業員の育成と人材開発

人事異動は組織の再編だけでなく、従業員の育成を目的に行われる側面もあります。

代表的な例は、ジョブローテーションです。ジョブローテーションは、定期的かつ計画的に配置換えを行い、従業員にさまざまな部署や業務を経験してもらう制度。こうして全社的な視点を養うことで、将来経営の中核を担うジェネラリストの育成につなげるのが狙いです。

優秀な人材をジョブローテーションで異動させることによって、業務プロセスや知見を異動先のメンバーに共有し、会社全体で従業員の能力やスキルの底上げを図れます。

適性を見極めた配置転換によって、これまで成果を出せていなかった人材が新しい環境で能力を発揮できるようになるケースもあるでしょう。そうなれば、本人のモチベーション向上になり、休職や離職を未然に防ぐことにもつながります。

組織の活性化

人事異動には、組織を活性化する役割もあります。長期間、同じチームや同じポジションにいることで考え方が固定化すると、個人やチームの成長が止まってしまいます。そこで定期的に人事異動を行い、組織内の流動性を高めて、活性化を図るのです。

また、一人の担当者が同じ業務を長く続けていると、業務の属人化が進み、
担当者の急な離脱によって業務が遂行できなくなったり、不正のリスクになったりすることも考えられます。

人事異動のメリットやデメリット

人や組織を動かす人事異動には、メリットとデメリットがあります。人事異動が従業員や企業に与える影響を確認していきましょう。

人事異動が従業員に与えるメリット

  • 新たな学びやコミュニケーションの経験・チャンスの提供
  • マンネリ解消とモチベーション向上
  • キャリア展望の広がりとキャリアプランの実現に近づく可能性の提供
  • チームに多様な経験を持つ人材が加わることでのナレッジ共有とパフォーマンス向上
  • 新しいコミュニティの形成による刺激と知見の広がりをもたらす

人事異動によって新しい環境に置かれることで、従業員は新たな学びやコミュニケーションを経験します。これにより、業務へのマンネリ解消とともに、モチベーション向上が期待されます。また、新しいスキルや経験を得ることでキャリアの展望が広がり、自身の思い描くキャリアプランの実現にも近づけるでしょう。

多様な経験を積んだ人がチームに加わることで、部署内にナレッジが共有され、全体のパフォーマンスやスキル向上にもつながります。さらに、部署異動によって新しいコミュニティを作ることができるのもメリットの1つです。それまでとは違った特性やカルチャーを持った仲間と仕事をすることで刺激を受け、知見の広がりも期待できます。

人事異動が従業員に与えるデメリットと対処法

  • 新しい環境に移ることでストレスや離職意向が生まれる可能性がある
  • スキルを十分に習得する前の異動や、頻繁な異動辞令は中長期的なキャリア像を抱きにくくなる
  • 拒否できない制約によるメンタルヘルスへの影響と休職・離職のリスクがある

新しい環境に移ることで従業員がストレスを感じるのは自然なことでする。また、頻繁に異動を繰り返すと、十分な専門性を身につける前に次の部署に移ることになり、キャリア形成が中途半端になるおそれがあります。

そして、人事異動における最大のデメリットは「拒否できない」ということです。自分に合わない、やりたくないと思っている仕事でも、辞令が出たら基本的に拒むことはできません。それが、メンタルヘルスに影響を及ぼし、休職や離職につながるおそれもあるため、人事異動を決定する際には本人の適性を慎重に見極めることが求められます。

転勤を伴う異動の場合、配偶者の仕事や子どもの学校にもかかわるため、十分な配慮が必要となります。従業員側も、どうしても受け入れられない異動がある場合は、事前に上司に相談しておくことで配慮を促すことができます。
このように、人事異動の決定にあたっては日頃のコミュニケーションが大切になります。

人事異動が企業に与えるメリット

  • 最適な人材配置による人材育成や組織活性化の効果
  • 経験による柔軟性と適応力の向上
  • リーダーシップの育成
  • 多様なアイデアとイノベーションの促進
  • 従業員の定着率とモチベーション向上

次に、人事異動が「企業」に与えるメリット、デメリットを見ていきましょう。

まず、人事異動は企業の求めた目的を果たすために行われるものですので、最適な人材配置ができれば、前述のように人材育成や人材開発、組織の活性化に効果をもたらすでしょう。これらは、従業員の離職率低下や生産性向上といった好循環を生み出すことにもつながります。

また、人事異動によるさまざまな経験は組織全体の柔軟性と適応力を向上させます。従業員が異なる部署やプロジェクトで経験を積むことで、変化する環境に対応する能力が強化され、組織の協力体制が強固になるでしょう。
さらに、異動によって新しい部署やプロジェクトでリーダーとしての役割を担う機会が増えることで、
従業員のリーダーシップ能力が向上し、企業全体のリーダー層の育成に寄与します。

さらに、異動によって異なるバックグラウンドやスキルを持つ従業員が交流することで、多様なアイデアや視点が生まれ、組織の創造性やイノベーションが促進されます。適切な異動により従業員は自身の能力や成長に合ったポジションで働くことができるため、定着率が向上し、モチベーションが高まる効果が期待されます。

人事異動が企業に与えるデメリットと対処法

  • 組織内のナレッジ蓄積が困難になる
  • 業務の引き継ぎが難航すると、パフォーマンス低下や顧客からの信頼減少のリスクがある
  • 担当者の頻繁な変更により、業務の責任の所在が曖昧になる
  • 労使トラブルの可能性がある

一方で、人事異動を頻繁に行うことは従業員だけでなく、企業にとってもいくつかのデメリットが生じることを忘れてはいけません。例えば、頻繁な異動はチーム内に専門的な知識や経験をもった人材の不足につながりやすく、組織の中のナレッジが蓄積しにくくなってしまいます。また、異動には後任への引き継ぎが必須ですが、それが上手くいかなかった場合、パフォーマンス低下を引き起こしたり、顧客からの信頼を失ったりすることも考えられます。

また、担当者が頻繁に代わることで、業務の責任の所在が曖昧になり、コンプライアンスや企業倫理上の問題が発生しやすくなるというリスクも考えられます。引き継ぎには、上司を交えて十分な打ち合わせを心がけましょう。

そして、人事異動におけるデメリットの中で、企業が最も避けたいのは「労使トラブル」です。従業員にとっての不利益が限度を超えた場合、組合や裁判所を巻き込んだ労使トラブルに発展するおそれがあります。企業側には、労働に関する法規をしっかりと把握・確認したうえで、企業と従業員の双方に不利益の少ない人事異動を考えることが求められます。

人事異動で気をつける3つのポイント

ここまで、人事異動には従業員、企業ともにメリットとデメリットの両方の側面があることを確認してきました。
では、人事異動のデメリットを最小限におさえ、メリットを最大限に享受するためにはどうすればいいのでしょうか。
人事異動を円滑に行うための3つのポイントを押さえておきましょう。

(1)異動の基準やルールを明確にする

人事異動を行うには、異動の基準やルールをあらかじめ従業員に明確に示しておくことが大切。就業規則に人事異動に関する規定を設けて、採用前や入社時に周知することが一般的です。

規定には、対象者の選定基準や異動時期などの要素を明文化しておきましょう。自社の人事異動には基準に沿った合理性があり、だから正当な理由以外では従業員は拒否できないルールになっている、と従業員に正しく理解してもらうことで、人事異動のトラブルを未然に防ぐことにつながります。

(2)本人に異動理由や目的をしっかりと伝える

人事異動を従業員本人に伝えるときには、異動の理由を具体的に説明したうえで、異動先での業務内容や期待される役割を話しましょう。本人の疑問にはしっかりと回答し、異動先への不安を解消できるように対応することを心がけましょう。

(3)自社に合った人事異動を検討する

人事異動は企業の経営方針に沿って行われるものです。ただし、人事異動を行う側の経営陣と、人事異動の対象となる現場の従業員との双方が納得した内容でなければ適切に実施することはできません。
近年では、トップダウンの人事異動だけではなく、従業員のキャリア形成を目指して本人の希望を重視する企業も増えています。

どのような人事異動がもっとも双方にメリットを生むか、自社の規模や社風などを加味したうえで検討すると良いでしょう。

人事異動を円滑に行うには

昨今では働きやすさやライフワークバランスが重視されるようになり、人事異動の制度に対しても一定の配慮や柔軟な制度が求められています。

人事異動に必要な配慮

人事異動を行う際は、公平性や個別の事情への配慮をしましょう。例えば、特定の部署や特定の人材にばかり異動が集中しないように留意したり、転勤の際の引っ越し費用を補助したり、賃料の高い都市部では家賃補助の金額を手厚くしたりと、
合理的かつ公平性の高いルールを設けておくことが大切です。

また、個人の意思や家庭環境などをあらかじめ把握しておくことも重要です。
育児や介護、持病など、従業員の事情を考慮した人事異動を行うことで、離職や労使トラブルのリスクを低減できます。

働き方を選択できる制度づくり

急速に変化する社会情勢の中、企業には競争力を維持していくために、従業員がより働きやすい環境や制度を整備することが求められています。リモートワークやフレックスタイム制、時短勤務などの取り組みを推進することによって、人事異動に伴う転勤・引っ越しを回避できたり、これまでは育児や介護で諦めていたキャリアの形成がしやすくなったりと、多様な人材が活躍できるようになります。