退職金制度を導入するには?相場や計算方法、税金についても解説

published公開日:2024.07.23
退職金制度を導入するには?相場や計算方法、税金についても解説
目次

退職金とは、退職する従業員に支給するお金です。支給の有無や支給額は会社が独自に定められます。退職金制度導入の際は、自社の現状と照らし合わせつつ、どういった制度が適当かを考えましょう。

本コラムでは、人事担当者や経営者に向けて退職金制度の基本をわかりやすく解説。退職金の相場や種類、退職金額の計算方法、税金、制度導入の流れなどを見ていきます。自社に合った退職金制度の検討にお役立てください。

退職金の相場

退職金とは、従業員が勤めていた企業を退職する際に支給するお金です。

東京都産業労働局による調査「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」によると、企業の約7割が何らかの退職金制度を導入しています。退職金の支払いは法律で義務づけられたものではありませんが、多くの企業で支払われていると考えてよいでしょう。

退職金制度にはいくつかの種類がありますが、まずは実際に支払われた退職金の相場を見てみましょう。企業規模別の相場、従業員の勤続年数や業種別の相場をご紹介します。

参考:東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」

参考:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」

中小企業の退職金の相場

東京都産業労働局が公表する「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」によれば、従業員数が10~300名の中小企業における、定年まで勤務した場合のモデル退職金は以下の通りです。

【中小企業のモデル退職金(東京都)】

大卒の場合 1,091万8,000円
高専・短大卒の場合 983万2,000円
高卒の場合 994万0,000円

大卒の従業員の方が、高専・短大卒、高卒の従業員よりも、退職金の相場が100万円ほど高くなることがわかります。

大企業も含む退職金の相場

大企業も含む全国の企業における退職金については、厚生労働省が公表する「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」が参考になるでしょう。

同調査は、従業員数30名程度の中小企業から1,000名以上の大企業までを含めたもので、以下の表は勤続20年以上かつ45歳以上の退職者の退職金の相場を示しています。

【退職金の相場(全国・民間企業全体)】

大卒の場合 1,896万円
高卒(管理・事務・技術職)の場合 1,682万円
高卒(現業職)の場合 1,183万円

東京都のモデル退職金と合わせて考えると、大卒の従業員が新卒採用から定年まで勤務した場合の退職金では、1,000万円を超える金額を支給するケースが多いと考えられます。他方、高卒の従業員の場合でも、大企業までを含めれば1,000万円を超える退職金を支払うケースが増えるといえるでしょう。

自己都合退職における、勤続年数別の退職金相場

上の2項では、従業員が定年まで勤め上げた場合の退職金の相場金額を見てきました。しかし、人材の流動化が進む近年、定年を待たずに途中退職する従業員も多く存在するでしょう。

そこで、また東京都の資料に戻り、勤続年数別の退職金の相場を見ていきましょう。従業員数が10名以上300名未満の中小企業で働く大卒者が自己都合退職する場合における、勤続年数別のモデル退職金です。

【勤続年数別のモデル退職金(東京都・中小企業・大卒者・自己都合退職)】

勤続年数 退職金の相場
1年 9万5,000円
3年 23万8,000円
5年 47万0,000円
10年 112万1,000円
15年 212万9,000円
20年 343万1,000円

高専・短大卒者、高卒者においては、勤続年数が長いほど、大卒の退職金の金額との差が開く状況となっています。

なお、退職金を受給するための最低勤続年数は、「1年」が18.0%、「3年」が51.5%でした。勤続年数1年未満でも退職金を支給する企業が全体の2.5%存在する一方で、8.9%の企業が「5年以上」とするなど、各企業がそれぞれの実情に応じて規定していることがわかります。

業種別の退職金相場

退職金の相場は、業種別でもバラツキがあります。

引き続き東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」を見ると、業種別モデル退職金の金額は以下のようになりました。

【業種別のモデル退職金(東京都・中小企業・大卒者・定年退職)】

業種 退職金の相場
建設業 1,220万3,000円
製造業 1,068万5,000円
情報通信業 1,192万9,000円
運輸業,郵便業 1,332万3,000円
卸売業,小売業 1,132万9,000円
金融業,保険業 1,442万2,000円
不動産業,物品賃貸業 1,012万8,000円
学術研究,専門・技術サービス業 964万8,000円
生活関連サービス業,娯楽業 846万9,000円
教育,学習支援業(学校教育を除く) 1,244万9,000円
医療,福祉 342万4,000円
サービス業(他に分類されないもの) 904万4,000円

相場が比較的高いのは、「金融業,保険業」や「運輸業,郵便業」、「教育,学習支援業」「建設業」といった業種です。一方、「医療,福祉」は他の業種と比べて退職金の相場金額が低くなっています。

退職金制度の種類

ここまで見てきた退職金の相場金額からわかる通り、従業員一人ひとりに支給される退職金は、多くの場合かなり大きな額になるでしょう。では、企業はどのようにして従業員に支払う退職金の原資を準備すればよいのでしょうか。

退職金制度は、退職金原資の準備方法によって「自社積立型」「企業年金型」「退職金共済型」の3種類に分類されます。それぞれの退職金制度の特徴を確認していきましょう。

自社積立型(退職一時金制度)

自社積立型は、企業が自社の資金で退職金の原資を積み立て、従業員の退職時に退職一時金を支給する仕組みです。この制度では、企業が直接退職金の支払いに充てる資金(積立金)を内部留保として管理します。積立金は、特別な管理口座に積み立てられることが一般的です。

退職一時金制度のメリットは、後述する外部機関への委託に比べて管理費用を抑えられるとともに、自社で自由な退職金制度の設計ができる点です。しかし、退職者が出るたびに退職金を拠出しなければならないため、退職者が増えたり、企業の経営状態が悪化したりした場合、退職金の支払いが困難になるリスクがあります。

退職一時金制度でよく用いられる計算方法については、後の項目「退職金(自社積立型の退職一時金)の計算方法」にてご紹介します。

企業年金型

企業年金型は、企業が従業員のために掛金を拠出し、従業員の退職後に一定期間をかけて退職金を分割支給する制度です。厚生年金のような国が提供する公的年金とは別に、企業が独自で加入します。支払った掛金は会計上損金扱いにできるため、自社積立型の退職一時金よりも税制上のメリットが大きい点が特徴です。

企業年金型には、「確定給付企業年金(DB)」「企業型確定拠出年金(企業型DC)」「iDeCo+(イデコプラス)」といった種類があります。

確定給付企業年金(DB)

確定給付企業年金は「確定給付企業年金法」によって規定される、従業員が受け取る年金額が事前に確定している制度です。別名では、「DB(Defined Benefit Plan)」や「給付建て年金」とも呼ばれています。

確定給付企業年金(DB)では、企業が金融機関などの運用会社に掛金を拠出し、それらの外部機関が年金資金を管理・運用します。

従業員自身が資産運用を行わないため気軽に導入できる点、後述する企業型確定拠出年金より給付要件が易しく、条件を満たせば中途退職であっても退職一時金が従業員に給付される点がメリットです。

一方、運用のリスクは企業が負うことになります。外部機関による資産運用の結果が事前に約束した退職金の支給額に満たなかった場合は、会社が差額を補填しなければなりません。

企業型確定拠出年金(企業型DC)

企業型確定拠出年金は、原則として企業が毎月一定額を積み立て、その資金を従業員自身が運用する制度です。別名では、企業型DC(Defined Contribution Pension Plan)と呼ばれ、「確定拠出年金法」によって規定されています。

企業型確定拠出年金では、毎月の拠出額は確定していますが、受け取る退職金の額は運用の成果によって変わります。従業員が運用商品を選択できるため、従業員自身のリスク許容度に応じた資産運用が可能です。

ただし、前述の確定給付企業年金とは異なり、企業型確定拠出年金では投資リスクを従業員が負わなければなりません。運用が成功すれば将来の年金額が増えますが、運用に失敗すれば年金額が減少してしまいます。

企業にとってのメリットは、運用に失敗した場合でも、補填する責任がないことです。一方、従業員に投資への意欲や運用知識がない場合、魅力的な退職金制度として捉えてもらえない可能性があり、この点はデメリットといえるでしょう。

また、企業型確定拠出年金の給付金は、原則60歳まで支給されません。

iDeCo+(イデコプラス)

iDeCo+(イデコプラス)は、企業が従業員のiDeCo(個人型確定拠出年金)への拠出を支援する仕組みです。

iDeCoは個人が掛金を拠出し運用することで、自身の年金を準備する制度。これをもとに、iDeCo+では従業員のiDeCo口座に対して、企業が追加で掛金を拠出します。

iDeCoおよびiDeCo+は国民年金基金連合会によって実施されています。企業が拠出した事業主掛金と給与から天引きした加入者掛金を、事業主がまとめて、実施機関である国民年金基金連合会へ納付するシステムです。

ただし、iDeCo+はどの企業でも登録できるわけではありません。iDeCo+に登録できる要件は「企業年金を実施していない従業員300名以下の事業主」となっています。

また、対象者はiDeCo加入者の従業員に限られるという点にも注意が必要です。

退職金共済型

退職金共済型とは、企業が共済機関へ毎月掛金を拠出し、従業員の退職時に退職金が支給される制度です。共済機関が運営するため、運営コストや資産運用、運用リスクを自社で負担する必要がなく、企業単独で退職金を準備するよりも安定した運用が可能となります。

退職金共済型には、主な種類として「中小企業退職金共済制度(中退共)」「特定退職金共済」「小規模企業共済」があります。

中小企業退職金共済制度(中退共)

「中小企業退職金共済(中退共)」とは、中小企業退職金共済法に基づいて設けられた、中小企業向けの共済型退職金制度です。国の退職金制度ですので、比較的簡単に導入できるとともに、確実に従業員へ退職金を支給できます。

掛金は全額を企業が負担しますが、先ほど解説した企業年金型と同様、会計上損金扱いにできるため自社積立型の退職一時金よりも税制上有利です。

掛金月額は5,000円~3万円の間から選択します。条件によっては国の助成を受けられる可能性もあります。

ただし、いくつかの注意点があります。1つは、加入できる中小企業の条件について、従業員数や資本金などの要件が業種によって異なること。次に、加入する場合は、原則従業員全員を加入させなければならないことです。そして、掛金月額の増額はいつでも行える一方、減額については従業員の同意がなければなりません。

参考:中小企業退職金共済事業本部

特定退職金共済制度

特定退職金共済制度は、市町村や商工会議所、一般社団法人などが所轄税務署長の承認を受けて実施する退職金制度です。特定の業界や団体に所属していたり、特定の地域で事業を営んでいたりする企業が対象です。

「原則従業員全員加入」「掛け金は全額企業負担」「掛金月額の減額は従業員の同意がないと行えない」といったことから、大まかな仕組みは先ほど解説した中小企業退職金共済(中退共)とよく似ています。

しかし、特定退職金共済は加入条件に事業規模がありません。中小企業限定で加入できる中小企業退職金共済(中退共)とは異なり、特定退職金共済は、大企業から小規模企業まで幅広い規模の企業が加入できる制度です。

小規模企業共済制度

小規模企業共済制度は、中小企業基盤整備機構が運営する、フリーランスなどの個人事業主や小規模企業の経営者、役員が加入できる退職金制度です。

前述した「中小企業退職金共済制度(中退共)」や「特定退職金共済」では、従業員は加入できますが、経営者や役員は加入できません。そのため、個人事業主や経営層は、小規模企業共済に加入して自身の老後の資金を用意することになります。

掛金は全額を所得控除できますので、節税対策としても活用可能です。

参考:中小企業基盤整備機構「小規模企業共済とは」

退職金(自社積立型の退職一時金)の計算方法

上の「退職金制度の種類」において、企業が直接退職金の支払いに充てる資金を管理し、従業員の退職時に退職一時金を支給する「自社積立型の退職一時金」をご紹介しました。

この退職金(自社積立型の退職一時金)では、支給金額の計算方法をそれぞれの企業が独自に設定します。ここでは、退職金(自社積立型の退職一時金)の計算方法のパターンや、それぞれの計算方法を採用している企業の割合をお伝えします。

基本給連動型

「基本給連動型」は、退職時の給与や在職期間に応じて退職金の額が決定される制度です。

例えば、以下のような計算式によって求められます。

計算式の例 退職金 = 基本給 × 勤続年数 × 勤続年数ごとの係数
計算例 基本給30万円、勤続年数20年、係数0.5の場合
退職金 = 30万円 × 20年 × 0.5 = 300万円

一般に、勤続年数が長いほど勤続年数ごとの係数が高くなります。

計算方法が明確なため、社員にとって理解しやすいという点がメリットです。一方で、年功序列型賃金を採用している企業では、長く勤務している人ほど退職時の基本給が高くなり、退職金が高額になるという難点があります。

ポイント制

ポイント制は、従業員の勤続年数や役職、保有資格などをポイント(点数)に置き換えて退職金を算出する方式です。ポイントの付与条件や具体的な点数は企業ごとに異なりますが、多くの企業では、勤続年数や役職のほか、組織への貢献度、人事評価、特別表彰などが考慮されています。

ポイント制は、自社が重視したい要素にポイント比重を置くことが可能です。そのため、設計の自由度が高く、企業の特色を打ち出しやすい仕組みといえます。

しかし、公平なポイントの仕組みを導入・運用する手間やコストがかかるというデメリットもあります。また、従業員の入社から退職までを把握してポイント管理を行わなければならないため、そうした管理が可能な企業向けの制度といえるでしょう。

経団連が公表する「2021年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」によると、ポイント制を採用している企業の割合は76.7%でした。

参考:経団連「2021年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」

別テーブル制

別テーブル制は、毎月支払う基本給と連動しない別のテーブル(基準表)を作成し、それをもとに退職金を算出する方式です。多くの場合、勤続年数や職位、給与などの要素に基づいて退職金の支給額を決定します。

別テーブル制のメリットは、例えば、一般社員と管理職で異なる退職金テーブルを設けられる点です。基本給や勤務年数が同じでも、一般社員か管理職かで、退職金に差をつけることができます。また、退職理由によって支給率を変えることも可能です(退職事由係数)。

一例として、別テーブルによる基礎金額が60万円(部長級)で、勤続年数による支給率が10.0(勤続30年)、退職事由係数が0.8(自己都合)の場合は、60×10.0×0.8=480万円が退職金となります。

先に参照した経団連の「2021年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」では、別テーブル制を採用している企業の割合は17.6%でした。

参考:経団連「2021年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」

定額制

定額制は、これまでの計算方法とは大きく異なる方式です。給与額や役職にかかわらず、勤続年数に応じた定額の退職金を支給する制度です。

シンプルで管理しやすいというメリットがありますが、一方で、社員の貢献度に応じた金額設定ではなく柔軟性に欠けるというデメリットもあります。

導入する際は、企業の財務状況や従業員のニーズを考慮し、他の報酬制度と組み合わせるなどして、全体的なバランスを取ることが重要です。

東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」によると、定額制を採用している企業の割合は、25.0%でした。

参考:東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」

退職金にかかる税金の計算方法

退職金も賃金と同様に税金がかかりますが、その計算方法は少し異なります。従業員が退職金を一時金で受け取る場合、税制上では退職所得として取り扱われ、他の所得と比べて優遇措置が設けられています。

退職金にかかる税金は、所得税と住民税、復興特別所得税です。

所得税は、従業員が退職金を一時金として受け取る場合と、年金として受け取る場合で計算方法が異なります。具体的な計算方法を確認していきましょう。

所得税の計算方法(退職金を一時金で受け取る場合)

従業員が退職金を一時金として一括で受け取る場合、税制上では「退職所得」として扱われ、退職所得控除を引いた金額に対して課税されます。また、退職所得は他の所得とは分離して課税される「分離課税」です。

退職金を一時金で受け取る場合の所得税の計算は、以下の手順で行います。

  1. ①退職所得控除額を求める
  2. ②課税退職所得金額を求める
  3. ③退職金の所得税額を求める

順番に計算式とともに解説します。

①退職所得控除を求める

所得税額を計算するにあたり、計算に必要な「退職所得控除額」を算出しましょう。

退職所得控除の金額は、以下の計算式で求められます。

【勤続年数が20年以下の場合】

退職所得控除額 = 40万円 × 勤続年数(最低80万円)

【勤続年数が20年を超える場合】

退職所得控除額 = 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)

勤続年数が20年以下か否かによって計算式が変わるため、ご注意ください。

②課税退職所得金額を求める

次に、所得税の課税対象となる「課税退職所得金額」を算出します。

退職金の金額から退職所得控除を差し引いたうえで、その金額を半分にするという計算式で求められます。

課税退職所得金額 =(退職金額 - 退職所得控除額)× 1/2

この課税退職所得金額を用いて、ようやく退職金の所得税を計算できます。

③退職金の所得税額を求める

退職金の所得税率は、課税退職所得金額に対して国税庁が設定する所得税率をかけて求めましょう。この際、さらに一定の控除額が適用される場合があります。

所得税額 = 課税退職所得金額 × 所得税率 - 控除額

例えば、勤続年数35年で退職金が2,000万円の場合、退職所得控除額は800万円 + 70万円 ×(35年 - 20年)= 1,850万円となり、課税対象となる退職所得額は(2,000万円 - 1,850万円)÷2 = 75万円となります。最後に上の計算式に当てはめて計算すると、所得税額は、75万円 × 5% - 0円 = 3万7,500円となります。

同じ退職金2,000万円でも、勤続年数が10年の場合、退職所得控除額は40万円 × 10年 = 400万円となり、課税対象となる退職所得額は(2,000万円 - 400万円)÷ 2 = 800万円となります。課税所得税額が800万円の場合、税率は23%、控除額は63万6,000円です。したがって、所得税額は800万円 × 23% - 63万6,000円 = 120万4,000円となり、先の例よりもかなり多くの税金を納めなければなりません。

具体的な所得税率やこの際に適用される控除額は、国税庁の公式ページに掲載されています。年によって変更となる場合がありますので、最新の情報をご確認ください。

参考:国税庁「退職金と税」

所得税の計算方法(退職金を年金で受け取る場合)

従業員が退職金を年金として分割で受け取る場合、税制上は「公的年金等の雑所得」として扱われます。

退職金を年金で受け取る場合の所得税の計算は、以下の手順で行います。

  1. ①雑所得の金額を求める
  2. ②所得税額を求める

こちらも順番に見ていきましょう。

①雑所得の金額を求める

雑所得の金額は以下の計算式で求められます。

雑所得 = 退職金による年金や公的年金などの所得金額 - 公的年金等控除額

公的年金等控除額は受け取る年金額や年齢区分によって異なります。具体的な控除額は、国税庁の公式ページで確認可能です。

参考:国税庁「公的年金等の課税関係」

②所得税額を求める

次に、雑所得の金額に所得税率をかけて、所得税額を求めます。この際、さらに一定の控除額が適用される場合があります。

所得税額 = 雑所得 × 所得税率 - 控除額

所得税率は退職金を一時金で受け取る場合のものと同じです。

従業員が退職金を年金払いで受け取る「退職年金」では、運用益を上乗せして受け取ることができます。その一方で、退職一時金ほどの税制優遇がないため、税負担額が高くなるという点がデメリットです。

また、受け取る年金は雑所得として計上されますので、他の公的年金や収入と合計すると所得が大きくなる可能性があります。その分、税金や社会保険料が高くなる場合もあり、注意が必要です。

住民税と復興特別所得税の計算方法

住民税と復興特別所得税は、一時金・年金どちらで受け取りの場合でも、以下の計算式で求められます。

住民税 住民税額 = 課税退職所得額 × 10%
復興特別所得税 復興特別所得税額 = 退職金の所得税額 × 2.1%

「退職所得の受給に関する申告書」とは

なお、企業が退職金を支払う際、従業員から「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けているか否かによって、源泉徴収額の計算方法が異なります。

これまでご紹介してきた計算方法は、申告書の提出を受けている場合です。給与と同様に所得税・住民税を天引きして支払いましょう。

申告書の提出を受けていないときは、一律で20.42%の所得税および復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。払いすぎた分の税金は、退職金の受給者本人が確定申告を行い、精算します。

参考:国税庁「退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)」

退職金制度設計の流れ

ここまで、退職金の相場や種類、税金について概観してきました。最後に、退職金制度の設計の流れを解説します。

退職金は企業にとって大きな支出となるため、計画的に導入や運用を進めなければなりません。制度設計の流れを通して、自社に合った退職金の形を検討してみてください。

(1)退職金制度の要否を検討する

まずは、自社にとってそもそも退職金制度が必要かどうかを分析・検討しましょう。

退職金制度は必ず導入しなければならないものではありません。実際、退職金制度を導入していない企業もあります。しかし、退職金は求職者や従業員にとって老後の資金確保につながり、魅力的です。

現状の自社の課題、経営戦略やビジネスモデルなどを鑑みつつ、自社に退職金制度を導入するメリット・デメリットを考えましょう。

(2)導入する退職金制度の種類を検討する

退職金制度の導入を決定したら、どのような制度が適切かを検討します。

前述の通り、退職金制度には大きく分けて「自社積立型」「企業年金型」「退職金共済型」の3種類があり、その中にも一時金として支給するか年金として支給するかという選択肢があります。

自社積立型は、自社で自由な退職金制度の設計ができるというメリットがありますが、退職者が増えたり経営状態が悪化したりした場合、退職金の支払いが困難になるリスクがあります。

企業年金型や退職金共済型は、運営にかかるコストを自社で負担する必要がなく、企業単独で退職金を準備するよりも安定した運用が可能ですが、不足分を企業が補ったり従業員からの理解を得にくかったりするなど、一長一短である点を否定できません。

退職金制度それぞれの特徴を理解し、自社に合った退職金制度を選択しましょう。

(3)退職金制度の設計を行う

自社積立型の退職一時金制度を導入する場合は、退職金支給の基準や金額の計算方法なども決定する必要があります。退職金の計算方法には様々なパターンがありますが、大切なのは、どの点に比重を置いて金額を決定したいかという目的や意図です。

必要に応じて、会社への貢献度を指標化したり評価基準を見直したりして、人事考課との関連性も検討しつつ退職金制度を設計しましょう。労働組合や労働者の代表と話し合いながら設計を進めると、その後の導入・運用がしやすくなります。

なお、繰り返しになりますが、同じ職務内容を同じ責任の範囲で行っている従業員について、「正社員か、非正規雇用従業員か」といった雇用形態のみによって退職金に差をつけてはいけません。パートタイム・有期雇用労働法で規定される同一労働同一賃金の原則に抵触する恐れがあるためです。

参考:厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」

(4)退職金制度について従業員へ説明する

退職金制度の設計ができたら、従業員に向けて説明を行います。説明する項目は、

  • 退職金の支給対象者
  • 退職金の支給額(基準や計算方法など)
  • 退職金の支給時期と支給方法
  • 今後の導入・運用スケジュール

などです。

企業年金型や退職金共済型の場合は、自社ではなく外部機関から支払いを受けること、掛金の運用によって支給額が変動する可能性があることなどを説明し、同意を得ましょう。

(5)退職金規定を作成する

ここまできたら、いよいよ退職金制度の規程を就業規則に追加する段階です。追加したあとは、労働基準監督署に届け出てください。

就業規則の退職金規程には、

  1. ①適用される労働者の範囲
  2. ②退職手当の支払いの時期
  3. ③退職手当の決定、計算および支払の方法

の3点を記載する必要があります。

退職金は、企業が支給の有無や支給する額を自由に設定できます。ただし、就業規則に退職金の支給を明記した場合は、企業に退職金の支払義務が発生しますので、必ず支給してください。

運用する中で見直しを行い、退職金規程を追加・修正することも可能です。その際は、就業規則の変更に関するルールを守らなければなりません。労働者の代表から意見聴取を行ったうえで合意し、労働基準監督署に届出を行い、事業場内の従業員に対しても忘れずに周知しましょう。