財務とは?会計・経理との違い、業務内容をわかりやすく解説



財務とは、企業の将来のお金の流れを計画・管理する仕事です。近年は企業のグローバル化やDXの進展により、財務部門の役割はより戦略的なものへと進化しています。本コラムでは、財務の企業経営における役割や位置づけ、会計・経理との違いをわかりやすく解説。さらに、財務担当者の具体的な仕事内容や求められる資質、将来のキャリアパスについても詳しくお伝えします。
財務とは
財務とは、企業の経営活動に必要なお金の運用と管理を行う仕事です。具体的には、資金調達、財務諸表の分析、予算管理、財務戦略の立案、余剰資金の運用などを担当します。
企業経営における財務の重要性
財務は、企業の財務状況を俯瞰的に評価・分析し、今後の財務戦略を経営陣に提案する重要な役割を担っています。財務部門が示す資金計画や分析・予測は、経営判断に直結し、事業の方向性を大きく左右します。
財務部門は経営戦略を支える要であり、企業の持続的な発展を支える重要な基盤だといえるでしょう。
成長段階による財務の役割の変化
企業の成長段階に応じて、財務の役割は変化していきます。創業期には資金調達を通じた成長の加速、成熟期には余剰資金を活用したM&Aなどの事業拡大といった形で、各段階で最適な財務戦略が求められます。
財務と会計・経理の違い
「財務」、「経理」、「会計」は、会社のお金を扱うという点で兼任されることも多い仕事です。しかし、これら3つの業務は、それぞれ異なる目的や役割を担っています。
大まかには、下表のような違いがあります。
【財務・会計・経理の比較】
仕事内容 | 特徴 | |
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財務 |
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会計 |
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経理 |
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財務と会計の違い
会計は、企業活動における金銭や物品などの資産全般を管理する業務です。経理が作成した記録や決算書などをもとに、損益の記録や財政状態の報告を行います。財務との違いは、「過去から現在のお金」に関連する業務である点です。
財務は会計とは異なり、「未来のお金」に関する管理を担当します。それまでの会社の資産情報を分析し、今後の活動に必要な予算編成や資金計画、投資計画の立案や資金調達などを行います。
財務と経理の違い
経理は、事業活動における日々のお金の流れを管理・記録する業務です。預金・現金管理、売上管理、仕入管理、帳簿への記入、決算書作成といった実務を担当します。
一方、財務は、経理が作成した記録や財務諸表をもとに、予算編成や投資計画の立案、資金調達を行う部門です。経理が「過去から現在のお金」を扱うのに対し、財務は「現在から未来のお金」を見据えた業務を行うという点に違いがあります。
なお、中小企業では経理担当者が財務も兼務することが一般的です。この場合、過去から現在、そして未来へのお金の流れを一貫して管理することになります。
財務の具体的な業務内容
続いて、財務部門の主な業務内容について詳しく見ていきましょう。
財務戦略の立案
貸借対照表や損益計算書などの財務諸表をもとに、会社の財務状態を分析し、将来の成長とリスク対応のための戦略を立案します。短期・中期・長期の視点を持ち、自社の業績見通しや他社動向、マクロ経済の動向も考慮しながら、経営の方向性を左右する重要な判断を行います。
予算編成と管理
財務戦略に基づき、会社全体の予算編成と各部署への予算配分を行います。重要事業への重点配分や、物価高騰による予算調整など、状況に応じた柔軟な対応が求められる業務です。予算配分後は、計画通りの執行状況を管理し、必要に応じて部署間調整や追加の資金調達を検討します。
資金調達
企業経営に必要な資金を確保するため、銀行からの借入や株式・社債の発行、投資家からの資金調達など、様々な手段を活用します。経理部門が作成した決算書を正確に読み解き、金融機関や投資家との折衝も行います。
財務リスク管理
企業活動に伴う様々なリスクを評価・管理します。信用リスク、流動性リスク、金利変動リスクなど、企業価値に影響を与える要因を分析し、適切な対策を講じます。特に、グローバル展開をしている企業では、為替リスク管理も重要な業務の1つです。
資産運用とM&A
余剰資金が生じた際は、債券、株式、外貨資産などへの投資やM&Aを通じて、適切な運用を図ります。市場分析とリスク評価を行い、収益性・安全性・生産性を総合的に判断して投資判断を行います。
IR活動と監査対応
投資家や金融機関などステークホルダーへの情報提供(IR)や、公認会計士による監査対応も重要な業務です。財務諸表の適正性を確保し、社会情勢や業界動向を踏まえた説得力のある資料づくりと説明が求められます。
財務部門の最新動向
企業活動のグローバル化とデジタル化の加速に伴い、財務部門の役割も大きく変化しています。
国際化する財務管理
グローバル展開を進める企業が増加する中、グループ全体での統一的な財務管理が重要性を増しています。世界各地の子会社における資金効率の向上や為替リスク管理、グループ内資金移動の最適化など、グループ全体の財務状況を把握・管理する体制の構築が不可欠となっています。
財務業務のDX推進
近年のデジタル技術の急速な発展とともに、多くの企業において、以下のような財務部門のデジタル化・DX化が進んでいます。
- AIによる取引データの分析や異常検知
- RPA(ソフトウェアロボット技術)による定型業務の自動化
- データに基づく経営判断や財務戦略の創出
さらに、クラウドシステムの活用により、グローバルな財務情報をリアルタイムで共有・分析できる環境も整いつつあります。監査業務のオンライン化によって継続的監査が可能になり、企業活動の状況把握と意思決定のスピードが向上しています。
財務担当者に求められる3つの資質
財務担当者として活躍するには、以下のような3つの資質が求められます。
専門的な知識とスキル
財務・会計の専門知識はもちろん、会社法や税法などの法務知識も必要不可欠です。さらに、デジタル技術の進展により、デジタルリテラシーやデータ分析力も重要なスキルとなっています。常に変化する法改正や業界動向にも対応できるよう、継続的な学習姿勢が求められます。
戦略的思考力
企業の将来を見据えた財務戦略の立案には、幅広い視野と戦略的な思考力が必要です。市場動向や競合分析、マクロ経済の理解など、ビジネス環境を総合的に分析する力が求められます。また、複数の選択肢から最適な判断を導き出す決断力も重要です。
コミュニケーション能力
財務は、金融機関との折衝や、経営陣への提案、各部署との予算調整など、社内外との関わりが多い職種です。そのため、専門的な内容をわかりやすく説明する力や、円滑な人間関係を構築できるコミュニケーション能力が欠かせません。説得力のあるプレゼンテーションスキルも重要な要素となります。
財務担当者の将来性とキャリアパス
財務の実務経験者は、企業経営に不可欠な専門性を持つため、転職市場で高い需要があります。特に、グローバル環境で活躍できる財務人材の需要が増加しており、CFOや経営企画部門へのキャリアパス、専門知識を活かしたコンサルタント・士業の独立開業など、幅広い分野での活躍が期待されます。
CFO(最高財務責任者)
財務担当者が社内外で財務の経歴を活かす代表的な役職は、CFO(Chief Financial Officer=最高財務責任者)です。CFOは、法人の財務に関する業務執行を統括する役員や執行役であり、その名の通り財務のトップマネジメントを行う責任者。欧米企業や外資系企業でよく見られるポジションです。
近年はCFOを設置する日本企業も増えており、その役割の重要性が広く認識されるようになりました。そのため、国内の企業であっても、財務担当者として実績を重ねることで、CFOに就任できる可能性があります。
経営企画部門
財務で培った経験は、経営戦略の立案と策定を担う経営企画部門でも大きな強みとなります。予算管理や事業計画の立案といった財務視点からの提言ができる人材は、経営者の良きパートナーとして活躍できるでしょう。
財務・会計コンサルタント
財務・会計の専門知識を活かし、コンサルタントとして独立する道もあります。財務・会計コンサルタントは、顧客の資産状況を分析して、キャッシュフローの最適化や資産運用などのアドバイスを行います。
コンサルタントとして活躍するには、財務という専門知識だけでなく、コンサルティングに必要なプレゼンテーションスキルやコミュニケーションスキルも重要です。
税理士・公認会計士
財務で培った経験や知識を強化し、税理士や公認会計士といった国家資格取得を目指すこともできます。これらは独占業務を許された士業ですので、社内で資格を活かすだけでなく、税理士事務所や公認会計士事務所に所属して活躍したり、独立開業したりして、自身の思い描く働き方に近づけることも可能です。
財務担当者になるメリット・デメリット
最後に、財務担当者として働く魅力と課題について解説します。
財務担当者にとっての3つのメリット
財務担当者として働くメリットには、以下のようなものがあります。特に、経営に近い立場だからこそ得られる経験や専門性は、キャリアの大きな強みとなります。
①経営戦略に関われる
財務の仕事は会社の経営戦略に直結しています。財務戦略の立案や調整によって、企業全体の方向付けや投資の優先順位など、重要な決定に関与しながら会社の未来を描けるからです。
こうした経験を重ねれば、ビジネス全般に対する深い理解と経営視点を養うことができます。自身の成長、スキルアップとともに、より大きな影響力を持てるでしょう。
②市場価値が高まる
財務の仕事には、会計や税務、金融などの幅広い知識やスキルが必要です。そうした高い専門性を持つ財務経験者は企業にとって欠かせない存在。そのため、今後のキャリアアップでも市場価値が高い人材になれます。
ビジネスの中核であるお金の流れを厳密に捉えることができますので、財務以外の他部署でも知見を活かして活躍できるでしょう。
③活躍の機会が広がる
上記と関連して、財務スキルは、大小問わずあらゆる業界や企業で必要とされます。これは、自分の関心やキャリア志向に合わせて、多様な選択肢から職場を選べることにもつながります。
社内外の関係者との関わりを通じて築いた人脈により、新規事業参画などの機会も生まれ、さらにキャリアの可能性が広がるでしょう。
財務担当者にとっての2つのデメリット
一方で、財務の仕事には以下のような課題もあります。ただし、これらの課題は、適性のある人材にとってはむしろ「やりがい」や「手ごたえ」に感じる場合もあるでしょう。
①経営に直結するため責任が重い
自身が立案した戦略や判断が経営に直結するため、財務は非常に大きな責任を持ちます。責任が大きくなればなるほど、プレッシャーも大きくなるでしょう。特に、経営状態が芳しくなく、競争激化などで苦しい状況においては、経営陣から求められる厳しい条件に応えられる提案をしなければなりません。
意欲的に情報を収集し分析・立案を行える人材にとっては、これは大きなやりがいです。しかし、経験が浅い財務担当者や、情報分析・計画立案スキルが十分でない人にとっては、大きすぎる負担となってしまうでしょう。
②戦略的なビジネスセンスが必要
財務では将来を見据えて計画を立てます。確実に目標を達成できる完璧なプランは存在しないため、一度決定したプランでも、状況に応じて見直したり、状況の変化を想定した複数の選択肢を考えたりしなければなりません。
また、企業を維持・成長させるために、ときにはリスクを取る提案を行うこともあるでしょう。なぜそのリスクを取る必要があるのか、それによって何を得られるのかを説得力をもって説明するスキルが必要です。
常にビジネス環境の変化にアンテナを張り、その状況でどのように動けば自社のプラスになるか(あるいはマイナスを抑えられるか)を見いだすビジネスセンスがなければ、「何を提案すればいいのかわからない」と混乱してしまうかもしれません。
こうしたデメリットを避けるには、財務に必要な知識やスキルを身につけ、ビジネス環境の変化とそれに対する分析・評価、課題に応じた戦略立案ができるよう、先人に学びながら自己研鑽に励む必要があります。