「教育体系」「研修体系」作成のポイント
企業において適切な人材育成を推進するには「教育体系」と「研修体系」の作成が重要なポイントとなります。
本記事では、そもそも「教育体系」「研修体系」とは何か?作成する目的は?に加え、実際の作成手順や作成時のポイントなどを解説しています。
サンプルもご案内しておりますので、企業の人事・教育ご担当の方はぜひご活用ください。
教育体系・研修体系とは
適切な人材育成を実施するにあたって不可欠な「教育体系」と「研修体系」。
「教育体系」とは、職種や役職、等級とそれに伴う社員の役割やミッションごとに、必要なスキルと教育・研修テーマを整理して一覧で示した設計図のようなものです。
基本的には上記のように、縦軸を役職や等級、横軸を教育・研修の種別とした表形式でまとめられ、各セグメントに教育・研修テーマが記載されます。
一方で「研修体系」は教育体系の一部であり、教育体系を元に、知識やスキルを習得させるための具体的な研修テーマを落とし込んでマッピングしたものとなります。
自社の社員育成プログラムの全体像が「教育体系」、その中のひとつとして、実際の研修プログラムをマッピングしたものが「研修体系」とお考えください。
教育体系をなぜ作るのか
教育体系を作成する目的
教育体系を作成する前に、いったん原点に振り返ってみましょう。
「そもそもなぜ社員への教育・研修が必要なのか?」と考えたとき、それは経営理念を実現し、経営目標を達成するため、ひいては組織の業績向上や競争力の強化、社員の能力開発や業務効率化、モチベーションアップなどを目的として行われることが多いでしょう。
そうした目的を達成するために重要なポイントが「教育を中長期的に・継続的に実施する」ことといえます。
場当たり的に思いつきで教育を実施していても十分な効果は得られません。教育体系を作成し、計画立てて教育を進めることで、社員の能力開発や組織開発に向けた施策の全体像を俯瞰することができ、施策ごとの関連性や効果、改善策について、経営層や現場の管理職と共有しながらスムーズに実行できるようになるでしょう。
教育体系を作成するメリット
教育体系を作ることで、例えば以下のようなメリットが得られます。
1. 自社が求める人材像を明確にし、共有できる
教育体系を作るということは、自社のミッションやビジョンに照らし合わせた際の必要な人材像やスキルの方向性が具体化されるということです。それらが社員全体に共有されることで、目指すべき方向性が明確となり、一貫性のある人材育成が可能となります。
このように、キャリアが見える化され、そこにたどり着くための方法が具体化されることで、育成や成長に対してポジティブな空気が生まれ、全社的に人材育成の風土が根付くようになるでしょう。
2. 場当たり的にならず計画的に人材育成を実行できる
自社のビジョンや目標に合わせた教育体系を作成することで、「どの社員が」「いつまでに」「どのスキルを身につけて」「どのようになってほしいのか」といった計画的な育成が実現できます。
3. 育成後の効果検証や改善をスムーズに実行できる
教育体系を整備することで、育成後にどのような効果が見られるか、その結果どのように改善したらよいかが見えやすくなり、スムーズに改善策が実行できます。うまくPDCAを回すことで、以降の教育の質や生産性の向上につながります。
教育体系を作成するきっかけは何か
教育体系を作成するきっかけは様々ありますが、例えば下記のような組織上の計画や課題に対応するべく、体系的な教育計画を作成し研修を実施していくケースが多いようです。
- 新規事業の立ち上げ
- 業務改善の必要性
- 新入社員(中途社員)の採用
- 既任管理職の変革や、新任管理職(次世代リーダー)の育成の必要性
- 組織の急激な成長
これらに当てはまるようであれば、教育によるスキルアップを図るべく、教育体系の作成や整備をぜひ検討してみてください。
教育体系の作成手順
基本的な作成手順
教育体系には決まった作り方があるわけではありませんが、当社は以下の6つのステップを推奨していますので、参考にしてみてください。
1. 現状把握
まずは自社を取り巻く外部環境や、自社の内部環境の変化から課題を確認・検討しましょう。そのうえで経営層や人事、各セクションの管理職にヒアリングし、その課題が妥当か、中長期的な目線で課題を把握できているか、他に検討すべき課題はないかなどを確認します。
2. 人材ビジョンの設定
次に教育・研修の目的とスタンスを明確にするために、「社員にどのような人材になってほしいか」「どのような能力を身につけてほしいか」といった人材ビジョンを明確に設定します。
例えば、管理職であれば「会社視点で考えて判断し、部門の成果に責任を持つ社員」、中堅社員であれば「若手の育成をしながら、チーム全体を自部門の目標達成に向かわせる社員」など、階層ごとにビジョンを定めておくのがベストです。
なお、ここで設定した人材ビジョンが曖昧だったり、あまりにも現状と乖離していたりするのは望ましくありません。「社員がイメージできるか?」「現実的に感じるか?」という点に注意し、明確な人材ビジョンを設定しましょう。
3. 能力モデルの設定
次に、設定した人材ビジョン実現のためにどのような能力が必要かを考えます。
一口に「能力」といっても、実務での能力以外に知識やスキル、性格や情意、コンピテンシーなど様々な考え方があり、これらのモデルを多角的に考慮して設定する必要があります。
ここでは能力モデルの設定に有用なフレームワークをご紹介しますので、自社に合った能力モデルの設定にお役立てください。
▼キャリアをイメージした能力モデル
▼成果創出の能力モデル
▼基礎力重視の能力モデル
4. ターゲット層の設定
求める人材像と能力が具体的になってきたところで、次はターゲット層=教育対象者を設定しましょう。自社で特に育成が必要なターゲットはどの層でしょうか?
ターゲット層を設定するにあたって当社で推奨している考え方が「階層別発想×戦略的発想」です。
「階層別発想」で特に育成が必要な階層を定め、その階層に対してどういった方向に育成していきたいかの「戦略的発想」をかけ合わせることで、より精緻な研修に落とし込めます。
5. 施策の検討
いよいよ実施する施策の検討に入ります。
育成手法は大きく分けて
・OJT:職場での実践を通じて業務知識を身につける手法
・OFF-JT:職場や通常業務から離れ、時間や場所を取って知識やスキルを身につける手法
・自己啓発
の3つがありますが、ここで重要な考え方が「7:2:1の法則」です。
経営コンサルタントであるマイケル・ロンバルドとロバート・アイチンガーの研究によると、ビジネスにおいて人は7割を仕事上の経験から学び、2割を先輩・上司からの助言やフィードバック、残りの1割を研修などのトレーニングから学ぶといわれています。
これは「7・2・1の法則」とも呼ばれ、企業における研修などでもよく引用されています。
先に挙げた育成手法であるOJTは、この法則に当てはめるのであれば7割を占めるといえるでしょう。そのため、自社内でいかにOJTと連動した育成施策を実施できるか、あるいは実施するための社内体制や制度を整備できるかが重要となります。
一方「人の成長は7割が経験から」といわれると、「アドバイスや研修は重要じゃないの?」と思ってしまうかもしれませんが、そうではありません。
学びにとっての一番の資源である「経験」に、人との関わりや研修による気づきなどが加わることで、経験の質が高まり、個人の能力向上につながっていくのです。
「7・2・1の法則」を踏まえ、育成施策に落とし込んだ例が以下です。
3つの成長要素を考慮した育成の例
70 | ストレッチアサインメント | 現在の本人の力量より難易度の高い業務を意図的に割り当てること(例:新規事業の立上、業務改善、部門横断プロジェクトなど) |
---|---|---|
OJT ティーチング |
現場実績を通じて、業務上必要な知識や技術を身に付けること(OJT)。指導者から手順にしたがって知識・技術を伝達すること(ティーチング)。 | |
20 | フィードバック コーチング |
部下に自らの状態を認識させ(フィードバック)、質問を通じて改善すべき行動を考えさせる(コーチング)、双方向コミュニケーション |
10 | OFF-JT | 職場外での教育訓練のこと。集合研修や社内勉強会など、日常の業務を離れておこなう知識や技術の習得の機会のこと |
こちらを参考に、自社の状況や課題に合った適切な育成手法を検討しましょう。 また、OFF-JT研修について検討される際は、後述する「研修体系作成のポイント」で示すように、様々な種類がある事を把握し、目的にあった効果的な研修方法を活用していけるとよいでしょう。
6.施策の実行
1~5を設定すれば残すは施策の実行のみですが、実行時あるいは実行後についても注意すべきポイントがあります。
・対象者のレディネスの形成
「レディネス」とは学ぶための前提条件として、知識や経験、環境が整っている状態のこと。教育・研修の効果を最大化するには、対象者が「学ぶ必要性」に対する認識を高め、主体的な学びが促される必要があります。
具体的には「いつまでにどうなるのか」というゴールを設定し、達成のための受講計画を策定、あるいは計画通りに推進するための運用ルールを策定します。
・レビューと効果測定
教育・研修の効果が業績として現れると期待してはいけません。なぜなら業績に影響を与える要素は、教育・育成以外にも多数存在するためです。
例えば「社員の仕事の進め方が変わった」「人事評価の評点が上がった」など、「社員の変化」を効果として捉えるようにしましょう。
教育体系作成のポイント
自社に合った効果的な教育体系を作成するには、以下のポイントを押さえておくとよいでしょう。
1. 人事評価と連動させる
先に解説した「能力モデル」は、教育体系ひいては人材要件の基準となり得ます。その基準を人事評価と連動させることで、会社のビジョンや求める人材と評価との間に一貫性が出るため、その後の評価において納得感やパフォーマンス・モチベーション向上が見込めます。
そのため、能力モデルと人事評価表とを連動して作成することをおすすめします。
2. 完璧を求め過ぎず、PDCAを回してブラッシュアップする
入念に、工数をかけて作成した教育体系・研修体系でも、すべて計画通りに機能することはまずないでしょう。教育体系や研修体系に完璧を求め過ぎず、逐一振り返りを行い、PDCAを回して改善点を見つけていくことが重要です。
研修体系作成のポイント
「研修体系」は教育体系の一部であり、教育体系を元に研修テーマを落とし込んでマッピングしたものとなります。
研修体系を作成するには、次のポイントを押さえておくと効果的です。
OFF-JTの種類を把握する
OFF-JTとは、職場とは離れた場所での研修やセミナーのことを指します。
OFF-JTは集合型研修とe-ラーニングの大きく2つに分けられます。
・集合型研修
複数人を対象にミーティングルームや会場で実施、あるいはWeb会議ツールなどを用いたライブ配信型で実施する研修です。研修の目的に合わせて受講する社員を選別でき、必要な時期に必要な層に対して研修が行えます。
階層別や業務内容別、ビジネス全般のスキルに関する研修などが代表的です。
【階層別研修の例】
- 新入社員研修
- リーダー研修
- 中堅社員向け研修
- 管理職研修
【業務内容別研修の例】
- 経理、財務、法務を学ぶ研修
- クリエイティブ研修
- 語学研修
【ビジネススキルに関する研修の例】
- コーチング研修
- コミュニケーションスキル研修
- メンタルヘルス研修
【ビジネススキルに関する研修の例】
- コーチング研修
- コミュニケーションスキル研修
- メンタルヘルス研修
・e-ラーニング
社員の都合の良い時間・場所で受講できるタイプの研修です。スマートフォンやタブレットで移動時間にも学べるため、手軽なのが利点。e-ラーニングで知識レベルを揃え、集合研修でより高いレベルの研修を実施するなど、異なる実施形式を組み合わせて効果を高めるケースも見られます。集合型研修と比べると、比較的低コストで実施できる点もe-ラーニングの魅力です。
これら異なるタイプの研修をうまく使い分け、教育体系に基づき組み合わせながら研修体系を構築していくことで、効果的な育成が可能となります。
教育体系・研修体系を見直すタイミング
会社の体制や経営戦略が変われば、人材のリソースや配置、求められる人材像も変わります。教育体系・研修体系は作成して終わりではなく、定期的に、あるいは下記のようなタイミングで必ず見直し・更新が必要です。
- 自社の組織体制が大きく変わった
- 経営戦略、中長期計画、人事評価制度などが変更された
- 新入社員の採用を開始した
- 社会情勢や業界、テクノロジーなど、外部環境の大きな変化が発生した
業界別の教育体系のサンプル
以上、教育体系の作成手順やポイントを解説してきました。いかがでしたでしょうか?
教育体系の作成にあたっては、業種や業界による違いを考慮する必要があるでしょう。
そこで、業界別の教育体系の無料サンプルをご用意しました。
どの業界でも活用いただける内容ですが、特に製造業、情報通信業、卸売業に従事されている方で、教育体系の作成を検討されている方はそのままテンプレートとしてご使用いただけますので、ぜひご活用ください。
教育体系・研修体系の作成支援はALL DIFFERENTへ
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