ビジネスマナーとは?電話対応・名刺交換など基本作法と指導
ビジネスマナーは、社会人が仕事をスムーズに進めるために欠かせない基本的なスキルです。社内外の人々と良好な関係を築き、維持するうえで重要な役割を果たします。
本コラムでは、ビジネスマナーの種類や重要性、具体的な実践方法について詳しく解説。身だしなみや挨拶の基本から、電話対応、名刺交換の作法まで、社員にビジネスマナーを指導する際のポイントをご紹介します。
ビジネスマナーとは
ビジネスマナーとは、仕事をスムーズに進めるために欠かせない、ビジネス上の礼儀作法や行動規範のことです。社内外の人々と円滑なコミュニケーションを取り、良好な関係を築くための社会人の基本スキルといえるでしょう。
企業の社員研修などでよく取り上げられるビジネスマナーには、以下のようなものがあります。
- (1)身だしなみ
- (2)姿勢・お辞儀
- (3)挨拶
- (4)言葉遣い
- (5)名刺交換
- (6)電話応対
- (7)ビジネス文書の作成
これらに加えて、来客応対や顧客訪問、会食・冠婚葬祭のマナーなども含まれます。
ビジネスマナーの本質は、他者への思いやりの気持ちを行動で表すことにあります。常に相手の立場に立って考え、状況に応じて柔軟に対応することが大切です。
ビジネスマナーが必要とされる理由
アメリカの心理学者メラビアンの研究によると、人の第一印象は最初の数秒で決まるといわれています。その際の影響力は、言語情報7%、聴覚情報38%、視覚情報55%の割合だそうです。つまり、話す内容よりも声のトーンや話し方(聴覚情報)、表情や身だしなみ(視覚情報)の方が、相手に与える印象が大きいということです。
このことからもわかるように、ビジネスマナーは社会人にとって欠かせないスキルです。多くの企業が新入社員研修で取り上げるテーマであることも、その重要性を裏付けています。
ビジネスマナーが必要とされる背景には、主に以下の4つの効果が挙げられます。
【ビジネスマナーの主な効果】
効果 | 内容 |
---|---|
信頼関係の構築 | 適切なマナーを心がけることで取引先や社内の人との信頼関係を築きやすくなる |
顧客満足度の向上 | 丁寧な言葉遣いや適切な態度で接することで顧客に好印象を与えられる |
職場環境の改善 | お互いが気持ちよく仕事ができるよう相手を思いやる行動を心がけることで職場の雰囲気が良くなる。結果、チームワークの向上や生産性の向上につながる |
コミュニケーションの円滑化 | 適切なマナーを守ることで相手との意思疎通がスムーズになり、業務の効率化やミス・トラブルの防止につながる |
ビジネスマナーは単なる形式的なものではありません。ビジネスの成功や個人の成長に直結する重要なスキルです。日々の小さな心がけが大きな成果につながる可能性を組織全体で認識し、社員教育や評価制度に反映させることが大切です。
ビジネスマナーを習得していないことで起こるリスク
適切なビジネスマナーを身につけていないと、個人への印象だけでなく所属部署や組織、企業全体の評価にも悪影響を及ぼす可能性があります。
例えば取引先のA社を訪問した際、社内ですれ違ったA社の社員がこちらをちらっと見るだけで挨拶をしなかったとしたらどう感じるでしょうか。人それぞれですが、「A社の社員は感じが悪いな」と悪印象を抱き、極端な場合「A社とはあまり仕事したくないな」と思ってしまうかもしれません。このように相手の立場で考えると、社員一人ひとりが会社・組織の代表であることがよくわかります。
ビジネスマナーの欠如は、組織や会社全体に迷惑をかける恐れがあります。社内外の関係悪化や、クレーム・契約破棄などのトラブルを防ぐためにも、ビジネスマナーの習得は社会人にとって不可欠なのです。
ビジネスマナーの基本8種と具体例
ここからは、社会人が最低限身につけておきたい8つの基本的なビジネスマナーを具体例とともに解説します。
(1)「身だしなみ」のビジネスマナー
ビジネスシーンにおいて、身だしなみは相手に与える第一印象を左右する重要な要素です。先ほど触れたメラビアンの研究でも示されているように、視覚情報が第一印象に大きな影響を与えます。そのため、身だしなみには特に注意を払う必要があります。
具体的には、以下の点に気をつけましょう。
身だしなみの基本は清潔感です。髪型、服装、持ちものなど、細部まで気を配ることを心がけましょう。
また、TPOに応じた服装選びも重要です。取引先との会議や顧客との面談など、重要な場面ではフォーマルな服装を心がけましょう。身だしなみは、見た目だけの問題ではなく、ビジネスパーソンとしての意識や相手への敬意を示すものでもあります。
(2)「姿勢」「お辞儀」のビジネスマナー
「姿勢」と「お辞儀」は、身だしなみと同様に、相手に与える印象に大いに影響する重要なビジネスマナーです。初対面の相手だけでなく、日々の報告や挨拶など、様々な場面で周囲の人に観察されていることを意識しましょう。
「姿勢」の基本
正しい立ち姿勢のポイントは以下の通りです。
- a. 背筋を伸ばす
- b. 胸を張る
- c. 手は足の横にまっすぐ添える、またはへそのあたりで重ねる
- d. かかとをつける
良い姿勢で立つことで、相手に自信や誠意が伝わり、好印象を与えられます。
「お辞儀」の種類と使い分け
お辞儀は、「会釈」「敬礼」「最敬礼」の3種類に分類されます。ビジネスシーンでの一般的な使い分けは以下の通りです。
【「お辞儀」の種類と使い分け】
お辞儀の種類 | 使用場面 | 頭を下げる角度 |
---|---|---|
会釈 | 上司・同僚・お客さまとすれ違うとき | 約15度 |
敬礼 | お客さまをお見送りするとき | 約30度 |
最敬礼 | クレーム対応時のお詫びや深い感謝を示すとき | 約45度 |
お辞儀をする際は、首を曲げたり背中を丸めたりするのではなく、背筋を伸ばし上体だけを傾けて、見た目にも美しい姿勢を心がけましょう。
(3)「挨拶」のビジネスマナー
挨拶は、ビジネスにおけるコミュニケーションの第一歩です。良好な人間関係を築くうえで欠かせません。相手に好印象を与え、信頼関係を構築するための重要な機会と捉えましょう。
挨拶をする際は、以下のポイントを意識しましょう。
【正しい挨拶のポイント】
ポイント | 内容 |
---|---|
姿勢 | 胸を張って姿勢を正す |
声 | 明るくハキハキとした声で話す |
表情 | 笑顔を心がける(口角を少し上げるだけでも効果的) |
視線 | 相手の目を見て挨拶する |
言葉選び | 状況に応じて挨拶の言葉を選ぶ |
職場でよく用いられる挨拶としては、出勤時の「おはようございます」や、日中の「お疲れさまです」、退社時の「お先に失礼いたします」などがあります。ただし、これらはあくまで一般的な例です。職場や状況に応じて、ふさわしい挨拶をすることが大切です。
なお、基本的なビジネスマナーとして、相手よりも先に自分から挨拶をするように心がけましょう。日頃から挨拶を習慣化することは、社会人に意外と多く見られる人見知りの克服にも役立ちます。
(4)「言葉遣い」のビジネスマナー
ビジネスの場では、相手への敬意を表す手段として「丁寧語」「尊敬語」「謙譲語」を適宜使い分ける必要があります。基本的には丁寧語を使用し、状況に応じて尊敬語や謙譲語を適切に選択しましょう。
【敬語の種類と具体例】
種類 | 役割 | 具体例 |
---|---|---|
丁寧語 | 基本的な敬意を表す | です・ます調(「行きます」「言います」など) |
尊敬語 | 相手の行動に対し、相手を高めて敬意を表す | 「いらっしゃる」「おっしゃる」「ご覧になる」など |
謙譲語 | 自分の行動に対し、自分を低めることで相手を立てる | 「うかがう」「申し上げる」「させていただく」など |
言葉遣いは、ビジネスコミュニケーションの基本となるスキルです。単に敬語を使うだけでなく、状況や相手に応じて適切な表現を選ぶことが重要です。
例えば、電話応対では相手のペースに合わせて丁寧な口調を心がけ、報告・連絡・相談の際には簡潔でわかりやすい表現を用いるなど、場面に合わせた言葉選びが求められます。
(5)「名刺交換」のビジネスマナー
名刺交換は、初対面の相手に好印象を与え、信頼関係を築くための最初のステップです。以下のポイントを踏まえ、丁寧で失礼のない名刺交換を心がけましょう。
【名刺交換の基本的な流れとポイント】
-
①立場が下の人が先に名乗り、相手の名刺入れの上に名刺を差し出す
例:「はじめまして。私、○○会社の○○と申します。よろしくお願いいたします」
-
②差し出された名刺は、名刺入れの上に乗せながら「ちょうだいいたします」と言って両手で丁寧に受け取る
-
③名刺は両手で胸の正面で持つ
名刺は、所属や立場を示す「分身」ともいわれるものです。相手の名前や企業ロゴの上に指を置かないよう注意しましょう。また、受け取った名刺はすぐにしまわず、商談中は机の上に置いておくのがマナーです。
(6)「電話応対」のビジネスマナー
電話応対は、会社の「顔」として企業イメージを大きく左右する重要な業務です。特に新入社員にとっては、顧客や取引先との重要なコミュニケーション手段となるため、適切なスキルを身につけることが不可欠です。
電話対応の基本と一般的な流れを見ていきましょう。
「電話対応」の基本
明るく、はっきりと話すことが大切です。声の低い人は少しトーンを上げ、笑顔が伝わるような明るい声を心がけましょう。対面よりもやや丁寧な口調で話し、敬語の間違いには特に注意しましょう。
そして、電話対応をする際は、姿勢を正すことも忘れずに。背筋を伸ばすことで声の通りが良くなり、明るい印象を与えることができます。
正確に聞き取ることも電話対応の基本です。必ず復唱して確認してから伝言やメモを残すようにしましょう。
正しい電話の取り方
以下は、電話を受け取る際の一般的な流れです。
【「電話対応」の一般的な流れ】
段階 | 行動 |
---|---|
準備 | メモとペンを常に手元に置いておく |
応答 | 3コール以内に出て、会社名・部署名・自分の名前を名乗る |
相手の確認 | 相手の企業名・部署名・名前を正確に聞き取り、復唱する |
用件の確認 | 正確にメモを取り、最後に内容を復唱する |
取り次ぎ | 在席の場合は保留ボタンを押して取り次ぐ。不在の場合は折り返しか伝言かを確認する |
終了 | 感謝の気持ちを伝え、相手が電話を切るのを確認してから静かに受話器を置く |
電話応対は音声のみのコミュニケーションであるため、対面以上に細やかな配慮が求められます。上記のポイントを意識しながら、相手に好印象を与え、信頼関係を構築できるよう心がけましょう。
(7)「文書作成」のビジネスマナー
ビジネス文書の目的は、情報や意図を相手に正確に伝えることです。相手に誤解なく内容を理解してもらうために、正しくわかりやすい文章を書く必要があります。
ビジネス文書は、その内容によって社内文書と社外文書に大別されます。それぞれの特徴は以下の通りです。
【ビジネス文書の主な種類と特徴】
文書の種類 | 目的 | 特徴 | 注意点 |
---|---|---|---|
社内文書 | 社内での情報伝達や共有 |
|
|
社外文書 |
|
|
|
ビジネス文書を作成する際は、「誰に、何を伝えたいのか」を心がける必要があります。特に、以下の点に気をつけましょう。
- 原則として結論から書く
- 曖昧な表現は避ける
- 専門用語を多用しない
- 主語と述語を明確にする
- 一文は50文字以内が目安
- 誤字脱字・敬語の使い方に注意する
これらのポイントを意識することで、読み手にとって理解しやすい文書を作成できます。特に、結論を先に述べると、読み手は文書の目的を素早く把握できるでしょう。
簡潔で明確な文章を心がけることで、ビジネスにおける効率的なコミュニケーションが可能になります。文書作成後は必ず見直しを行い、誤字脱字や不適切な表現がないか確認しましょう。
(8)「メール」のビジネスマナー
メールは現代のビジネスにおいて不可欠なコミュニケーションツールです。しかし、細かなニュアンスが伝わりにくい点に注意が必要です。また、用件の緊急性に応じて、対面や電話とうまく使い分けることが求められます。
社内外の人とメールでやり取りをする際は、以下の点に気をつけましょう。
【メール作成における主な注意点】
項目 | 注意点 |
---|---|
言葉遣い |
|
件名 |
|
送信アドレス |
|
署名 |
|
ビジネス文書と同様に、段落分けや箇条書きなどを効果的に使用し、読みやすい文章を心がけましょう。また、相手からのメールには、速やかに返信するようにしましょう。
常に相手の立場に立って考え、適切な表現を用い、丁寧な言葉遣いのメール文書を作成することが大切です。
ビジネスマナー指導における5つのポイント
ビジネスマナーの指導は、新入社員教育だけでなく、既存社員の能力開発においても重要な役割を果たします。以下に、ビジネスマナーを指導する際の重要なポイントを5つご紹介します。
(1)ビジネスマナーの本質を理解させる
ビジネスマナーは単なるルールではありません。その根本には「相手を思いやる気持ちを言動で表すこと」があります。まずは、この本質を理解させることが重要です。
指導の際は、ビジネスマナーの背景にある考え方や意図を丁寧に説明しましょう。そうすることで、社員たちはマナーがただの形式的な行動ではなく、相手を尊重する姿勢そのものであることをより深く理解できるはずです。
(2)実践を通じて習得させる
研修で学んだ内容は、時間が経つと忘れてしまいがちです。実際のビジネスシーンでの経験を通じて学んだ方が、効果的に習得できるでしょう。
例えば、ロールプレイングや実際の業務で実践する機会を設けると、マナーが定着しやすくなります。実践後にフィードバックを行い、改善点や良かった点を共有することで、さらなる成長につながります。
(3)社会人として接する
特に新入社員に対しては、学生扱いしないことが重要です。社会人として接し、指導者として彼らの意見や価値観を尊重する姿勢が求められます。
新入社員の意見に耳を傾け、建設的な議論ができる環境を作ることで、社員の成長につながります。また、責任ある仕事を任せ、社会人としての自覚を持たせる方法も効果的です。
(4)指導側の意見を押し付けない
ビジネスマナーを指導する際は、異なる価値観や考え方を持つ社員の意見も尊重しながら進めていく姿勢が大切です。多様な意見を受け入れる姿勢を示すことで、社員の問題解決能力を引き出せるでしょう。
もし意見の相違がある場合は、建設的な対話を通じてともに解決策を見いだす作業も必要となってくるでしょう。
(5)社員の自立を促す
ビジネスマナーの指導は、指示だけで終わらず、自分で考えて行動できるよう促すことが重要です。仕事の目標を伝え、達成方法は自分で考えさせることで、自立した社会人へと成長を促せます。
具体的には、「なぜそう考えたのか」「他の方法はないか」といった質問を投げかけ、社員自身に考えさせる機会を設けましょう。また、失敗を恐れずにチャレンジする姿勢を評価し、失敗から学ぶ機会を提供することも、自立を促すために大切なポイントです。
ビジネスマナー習得までの4ステップ
ビジネスマナーは知識だけでなく、実践を通じて身につけることが大切です。効果的に習得するためには、次の手順で進めることをおすすめします。
【ビジネスマナー習得までの4ステップ】
- (1)マナーの重要性と未習得のリスクを理解する
- (2)正しい作法とマナーを学ぶ
- (3)学んだマナーを実際のビジネス場面で実践する
- (4)他者からフィードバックを受け、改善点を把握し修正する
正しいビジネスマナーを身につけるには、他の人からのフィードバックが何よりも重要です。本人だけでは気づきにくい点も、他者の意見を聞くことで問題が明確になり、より効果的に習得できます。組織全体で協力し、互いに学び合える環境を作ることが、ビジネスマナー習得の近道となるでしょう。