管理職意識調査(2023年 部下へのフィードバック実態編)
管理職のジレンマが明らかに!7割の管理職が部下の成長を願っているが、約6割が「フィードバックを躊躇」する結果に!
2023年10月6日
2023年6月19日~8月31日の期間、部下をもつ管理職を対象に「管理職意識調査」を行いました。本調査レポートでは、「部下へのフィードバックの実態」に関して、分析・考察しています。
背景
近年の管理職はプレイヤーとマネジメントの二足の草鞋を履きながら、ビジネス環境や社会情勢の変化に臨機応変に対応をすることが求められ、役割は複雑化・高度化しているといわれています。中でも、人材の定着や、多様化する人材の育成といったマネジメントの取り組みは、難易度が増しており、多くの管理職の悩みとなっています。当社が2023年に実施した調査*1において、人事担当者が最も注力して取り組みたい育成対象として「既任管理職」が最上位になりました。これらの状況からも、いま多くの企業が管理職の強化を必要不可欠と考えていることがわかります。近年の管理職の実態について調査した今回の結果が、管理職の育成に悩む経営層、人事担当者、さらには悩みを抱える管理職にとって、有益な情報となれば幸いです。
*1人事部の実態調査(社員の育成編)https://www.all-different.co.jp/topics/20230126
調査結果の概要
- ● 管理職としての悩み、半数以上が「部下育成」と回答し最多の結果に
- ● 9割以上の管理職が、部下の態度・ふるまい・発言などを普段から気に留めていると回答
- ● 部下の現状の業務領域や改善すべき課題は、半数以上の管理職が把握。一方、キャリア思考や業務に関わるプライベートの状況まで把握している管理職は2割以下
- ● 部下の課題を感じる場面、6割以上が「部下の業務の進め方など行動面を見たとき」と回答
- ● フィードバックする際、7割以上の管理職が「部下に成長してもらいたい」と願う
- ● 約6割の管理職がフィードバックを躊躇。「部下の反応が不安」「適切な伝え方がわからない」ことが理由の上位に
- ● 部下への評価に対する自身の課題「ひとりひとり十分に時間をとることができていない」がトップに
1. 管理職としての悩み、半数以上が「部下育成」と回答し最多の結果に
まず初めに、部下を持つ管理職484名に対し、管理職としてどのような悩みがあるかを質問しました。 結果、「部下育成」が54.3%と最も高い割合となりました。次に、「人事評価・フィードバック」が33.1%、「チーム・部門の運営」が26.0%と続きました。(図1)
以前当社で実施した人事担当者向けの調査結果*2でも、人事担当者が抱く管理職の課題として、「部下育成」が最も高い割合となりましたが、管理職自身も同様の悩みを抱えていることが明らかとなりました。
*2人事部の実態調査(社員の育成編)https://www.all-different.co.jp/topics/20230126
2. 9割以上の管理職が、部下の態度・ふるまい・発言などを普段から気に留めていると回答
管理職の最大の悩みである「部下育成」では、部下へのフィードバックが必要不可欠です。フィードバックをするにも、部下のことをよく観察し、知る必要があります。そこで、管理職が部下の態度・ふるまい・発言などに、どれほど普段から気に留めているか質問しました。
結果、93.4%の管理職が、部下の態度・ふるまい・発言などを普段から気に留めているという結果となりました。(図2)
3. 部下の現状の業務領域や改善すべき課題は、半数以上の管理職が把握。一方、キャリア思考や業務に関わるプライベートの状況まで把握している管理職は2割以下
次に、部下のことをどの程度理解しているか質問したところ、6割以上の管理職が「部下の現状の業務領域(64.0%)」を理解していると回答。「改善すべき課題や短所(54.3%)」「部下の言葉・行動における特徴及び変化 (50.8%)」が続きました。半数以上の管理職が、部下の現状業務における行動面や改善すべき課題点を把握していることがわかります。
一方、「部下のキャリア思考(16.9%)」「求める人材像に近づくために任せるべき業務領域(18.6%)」「業務に影響のある部下のプライベートな状況(19.4%)」の項目は2割未満と少ない結果となり、部下の将来のことやプライベートの状況までは踏み込んでいない実態も明らかとなりました。(図3)
4. 部下の課題を感じる場面、6割以上が「部下の業務の進め方など行動面を見たとき」と回答
続いて、管理職はどんな時に部下の課題を感じるのか、その場面を質問したところ、「部下の業務の進め方など、行動面を見た時」と回答した管理職が65.9%と最多の割合に。次に「部下の発言を確認した時(43.4%)」「部下の制作物、成果物を確認した時(39.9%)」と続きました。管理職が、部下の課題を感じるのは、業務の進め方や発言など部下の行動面を見た時であることがわかりました。(図4)
5. フィードバックする際、7割以上の管理職が「部下に成長してもらいたい」と願う
では、部下の課題に気づいた管理職は、フィードバックをする際どのような気持ちで臨んでいるのか、質問してみました。
結果、7割以上の管理職が「部下に成長してほしいと願う気持ち(70.9%)」と回答し、多くの管理職が部下の成長を願っていることが明らかとなりました。次に、「部下の思考や行動に関心を持つ気持ち(44.4%)」、「部下と思考や行動の基準を擦り合わせたいと思う気持ち(40.7%)」と続きました。(図5)
6.約6割の管理職がフィードバックを躊躇。「部下の反応が不安」「適切な伝え方がわからない」ことが理由の上位に
これまでの結果で7割以上の管理職が部下の成長を願っていることがわかりましたが、部下にフィードバックすることができずに躊躇してしまうケースも見受けられ、約6割もの管理職が「部下にフィードバックすることを躊躇したことがある」と回答しました。(図6)
フィードバックすることを躊躇する最大の理由は「部下の反応に対して、不安があるから(39.9%)」でした。次に、「適切な伝え方がわからなかったから(37.0%)」「自分が本当に正しいかに自信がなかったから(29.0%)」と続きました。多くの管理職が自身のフィードバックスキルに対し、自信がないと感じている傾向が見受けられました。(図7)
7.部下への評価に対する自身の課題「ひとりひとり十分に時間をとることができていない」がトップに
次に、部下を評価をする際、評価者として自分自身にどのような課題があると思うか質問しました。結果、「ひとりひとり十分に時間をとることができていない(28.7%)」「評価期間全体で評価せず、直近の状況に引きずられてしまう(26.2%)」「チーム内で極端な評価をつけることをためらってしまう(23.1%)」が回答の上位を占める結果となりました。(図8)
まとめ
役割や業務が高度化する中で、会社の中核を担う管理職は今、何に悩んでいるのかを明らかにすべく、管理職の実態調査を行いました。結果、半数以上の管理職が「部下育成」に課題を抱えている結果となりました。第1弾の今回は、部下育成には欠かせないフィードバックに焦点をあて、その実態について調査結果をまとめました。
調査結果では、9割以上の管理職が、部下の態度やふるまい・発言に普段から注意を払っており、改善すべき課題として、「部下の業務の進め方など、行動面を見た時」「部下の発言を確認した時」などが挙げられました。課題をフィードバックする際には、7割以上の管理職が「部下の成長を願っている」ことも明らかになり、部下育成に積極的に取り組もうという姿勢も感じられました。
一方で、「部下へのフィードバックを躊躇する」という回答が6割にのぼりました。「躊躇」の背景には「部下の反応が不安」「適切な伝え方がわからない」と部下への「遠慮」が多く見受けられました。また、8割以上の管理職が、部下の将来像や業務に関わるプライベートの状況までは踏み込んでおらず、近年ニュースなどで取り上げられるハラスメント問題への意識が、部下と接する際の「躊躇」につながっている可能性も考えられます。
部下の成長を願うものの、適切なフィードバックができない管理職の“ジレンマ”を解消するためには、対話を通じて部下のことを深く知ることが重要です。そのためにはコミュニケーションの機会を増やし、信頼関係を築くこと、また、会社として、正しいフィードバックの手法とその効果を確認する機会をつくることも検討してみるとよいでしょう。本調査レポートが、組織づくりや新入社員育成に悩む経営層、人事担当者、さらには現役の管理職の方や次期管理職の方にとって、有益な情報になれば幸いです。
考察(組織開発・人材開発の専門家より)
株式会社ALL DIFFERENT株式会社
組織開発コンサルティング本部 開発室 室長
根本博之氏
大阪支社の立上に参画し、営業リーダーとして支社年間目標達成に導いた後、本社にてコンテンツ開発業務に従事。中堅・大企業向けコンサルティング事業部門の責任者を歴任。コンサルタントとして営業活動と講師業務にて、年間100~150社ほど担当する傍ら、社内能力開発・組織開発部門の責任者として活動。
調査結果から、部下の表面的な態度や言動には気を配っているものの、部下の内面、例えばキャリア志向にはなかなか踏み込めていない等の管理職の悩みが浮かび上がりました。また、管理職が部下に対してフィードバックを躊躇する主な要因として、「部下からの反応が不安」や「適切な伝え方がわからない」という問題もあります。
管理職がこれらの課題を解決するためには、フィードバックを含めたコミュニケーションの根幹を支えるスキル(バイタルスキル)の体得が不可欠です。
フィードバックやコミュニケーションに関連するバイタルスキルの一例として、わかりやすく伝える力だけでなく、適切な情報を収集するための傾聴力や内容を誤解なく理解するためのビジネス読解力、部下に気づきを促す質問力や原因・要因を分析する論理的思考力などが挙げられます。フィードバックは複数のバイタルスキルの総合結晶であるため、「フィードバック」についての認識が抽象的なものに留まってしまうと、表面的なテクニックの習得に終始しがちです。部下のキャリア志向やより踏み込んだ情報を把握するためのコミュニケーションにも同様のことが言えます。
部下に対する効果的なフィードバックやコミュニケーションを実現するために、管理職はまず自身のバイタルスキルに関する適切な自己認識を醸成することから始めるべきです。その上でフィードバックやコミュニケーションを構成する一つ一つのスキルを着実に体得していくことを推奨いたします。
調査概要
調査対象者 | 当社が提供する研修の受講者 | |
---|---|---|
調査時期 | 2023年6月19日~2023年8月31日 | |
調査方法 | Web・マークシート記入式でのアンケート調査 | |
サンプル数 | 484人 | |
属性 |
(1)業種 情報通信業 106人(21.9%) 製造業 96人(19.8%) 卸売業,小売業 56人(11.6%) サービス業(他に分類されないもの) 56人(11.6%) 建設業 29人(6.0%) 不動産業,物品賃貸業 20人(4.1%) 学術研究,専門,技術サービス業 20人(4.1%) 運輸業,郵便業 15人(3.1%) 電気,ガス,熱供給,水道業 13人(2.7%) 金融業,保険業 13人(2.7%) 生活関連サービス業,娯楽業 7人(1.4%) 宿泊業,飲食サービス業 6人(1.2%) 複合サービス事業 6人(1.2%) 教育,学習支援業 3人(0.6%) 医療,福祉 2人(0.4%) その他 36人(7.4%) (2)企業規模 1~50人 56人(11.6%) 51~100人 101人(20.9%) 101~300人 198人(40.9%) 301~1,000人 97人(20.0%) 1,001~5,000人 27人(5.6%) 5,001人~ 4人(0.8%) 分からない 1人(0.2%) |
*本調査を引用される際は【ラーニングイノベーション総合研究所「管理職意識調査(部下へのフィードバック実態編)」】と明記ください
*各設問において読み取り時にエラーおよびブランクと判断されたものは、欠損データとして分析の対象外としています
*構成比などの数値は小数点以下第二位を四捨五入しているため、合計値が100%とならない場合がございます
調査・研究 一覧
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