研修内製化・外注化を判断する際のポイント
企業による研修内製化の取り組み
どの位の企業が研修の内製化に取り組んでいるのでしょうか。産労総合研究所の調査※1 によれば、研修を内製化している企業の割合は2015年時点で67.4%となっています。研修内製化は企業規模に比例して高くなっており、299人以下の企業で55.9%、300-999人で68.0%、1,000人以上では74.1%となっています。また製造業が58.8%であるのに対し、非製造業は72.4%となっています。
研修内製化は2008年9月のいわゆるリーマンショックを契機に大きなテーマとなりました。当時はコスト削減が大きな動機であったとみられます。しかし、研修の内外製を判断するにあたって、コスト面だけに焦点を当てるのは早計です。以下、どのような項目を検討していくべきか考えていきたいと思います。
※1 産労総合研究所 2015年10月28日「2015年度(第39回)教育研修費用の実態調査」
研修内製化のメリット及びデメリット
研修の内外製を決めるためには、それぞれのメリット及びデメリットを整理しておくことが必要です。まずは内製型研修について検討したいと思います。
内製型研修の主なメリット
- ・育成に関する知見の蓄積や育成文化の醸成が期待できる
- ・社内の状況を十分勘案した内容にできる(経営方針との連動、自社事例の活用など)
- ・講師となる社員に成長機会を提供できる(教えることで学ぶ)
- ・コンテンツの修正・変更が柔軟にできる
- ・キャッシュアウトが防げる
内製型研修のデメリット
- ・社内コストが増加する可能性がある
- ・社内講師の量と質の確保が難しい(講師育成が必要)
- ・我流理論による研修プログラムになってしまうリスクがある
以下、見過ごされがちなデメリットについて補足・詳述します。
一点目は「研修コスト」に関してです。研修内製化の目的としてコスト削減が挙げられますが、内製の場合、企画立案、研修会場の手配、テキスト開発、社内講師の養成、スケジュール調整、研修アンケートの分析、効果測定、結果を踏まえた次期企画への反映など、一連の業務を全て社内リソースで実施することになります。他業務の機会損失を含めた総コストを考えると、一概にコスト削減にはつながらないケースが多いのが実情です。研修内製の目的を明確にし、仮に社内コストが増加したとしても、それを上回るメリットがあるのか熟考する必要があります。
二点目は「研修講師」に関してです。社内講師は、業務のプロではありますが教えるプロとは限りません。講師の知見を効果的に伝達するためにも、デリバリースキル及びファシリテーションスキルの基礎的なトレーニングは実施すべきでしょう。また、研修の継続性及び一貫性を考えた場合、標準化を推進しておく必要があります。人事異動等で講師を交替せざるを得ない場合でも最低限の質が維持できるような方策を事前に考えておくべきです。
三点目は「研修プログラム」に関してです。内製型研修で留意すべきことは我流理論に陥らないことです。人は多くの場合、自分が育ってきた経験を基にして育成論を語ります。しかし、自身にとって効果的だったことが他の社員に最適とは限りません。したがって、最低限の教育理論は押さえた上でプログラムを構築することが求められます。具体例としては、ADDIEモデル、ARCSモデル、レディネス、教育に関する効果測定理論等の基礎理論が挙げられます。
外部研修のメリット及びデメリット
外部研修には大きく二種類あります。一つは不特定多数が参加する公開型研修です。これは研修会社が主催し特定の日時・場所に参加者を送り込んで受講させます。もう一つは講師派遣型の研修です。これは研修会社から講師を自社に派遣してもらい実施します。今回は話を単純化するために講師派遣型研修についてメリット・デメリットを整理します。
講師派遣型研修のメリット
- ・パッケージ研修であればプログラムが確立されており安心感がある
- ・自社の課題を踏まえたカスタマイズが可能な場合、実情にフィットしたものにできる
- ・自社に合った講師を選定できる
(但し、カスタマイズや講師指名ができない研修会社もある) - ・事務局の負担が軽減できる
- ・プロの知見やプレゼンテーションを学ぶことができる
講師派遣型研修のデメリット
- ・育成に関する知見がたまりにくい
- ・パッケージ研修の場合、用いられる事例が自社に合う内容ではない場合がある
- ・コンテンツの修正・変更が柔軟に対応できない場合がある
- ・相応の費用を要する
講師派遣型研修の中でもパッケージ研修とカスタマイズ研修があります。この使い分けはテーマの切り口で検討するのが良いと考えられます。例えばマネジメント研修であっても、管理職としての基本事項(例えば労務管理の基礎、モチベーション理論、目標管理の基礎、コーチング基礎等)であればパッケージ化された研修の方が体系的・効率的に学べます。逆にマネジャーとしての心構えの醸成、人事評価スキルの習得、職場課題の解決等がテーマとなれば、企業ごとの個別性が強くなるためカスタマイズ研修を選択すべきでしょう。
内外製の判断基準は所期の目的
内製型研修と外部研修(講師派遣型研修)の2つについてメリット及びデメリットを整理してきましたが、検討を重ねていくとそれぞれが得意とする領域が浮かび上がってきます。
内製型研修が適切なテーマ例
- ・経営理念や行動規範の浸透や求心力の醸成
- ・社内ルールの理解と徹底
- ・業界、商品、業務に必要事項の習得
外部研修が適切なテーマ例
- ・階層別の基礎的なテーマ
(例:新入社員向けビジネスマナー、管理職向け労務管理等) - ・ビジネス知識を体系的に提供するもの
(例:問題解決手法、マーケティング、財務会計等) - ・独自に開発されたノウハウを提供するもの
(例:7つの習慣、EQ等) - ・専門領域における最新動向を提供するもの
(例:AI、フィンテック、IFIRS等)
基礎的なテーマであれば外部研修ではなく内製型研修でも比較的容易に対応できます。内製化の主目的がコスト削減となっている場合は、まずは取り込みが簡単そうな基本研修からとなりがちです。しかしここに落とし穴があります。
先ほど内製型研修が適切なテーマ例をいくつかお伝えしましたが、自社のコアとなる知識、スキル、ノウハウの伝達や、経営理念や行動規範の浸透を目的とするものについては、やはり第三者から教わるというのは難しいでしょう。従って、内製型研修を検討する場合は、まずは内製型研修にしかできないことを優先して取り込み、それでも工数に余裕があれば基礎的な研修の内製化を進めるという順番であるべきかと思います。
また、外部研修を選択した場合(また外注せざるを得なくなった場合)も、ユーザー側がしっかりとイニシアチブをとるべきです。例えば同じプログラム・テキストを用いても登壇する講師によって研修は様変わりしますので、講師の経歴、実際の講師ぶりの見学、講師との事前面談など研修会社に相談をするといいでしょう。ほかに以下のような確認事項が挙げられます。
- ・テキストの開発体制
- ・カスタマイズ対応の可否
- ・営業と講師とのリレーション
- ・講師陣の体制とバックグラウンド
- ・講師トレーニングの体制
- ・同業、同規模、同レベルにおける実績
その研修会社が自社に適した中長期的なパートナーと足りうるか、協力関係を築けそうか心証を得ることが重要です。
いかがでしたでしょうか。
内製型研修と外部研修のメリット、デメリットや、それぞれに適した研修テーマなどお分かりいただけましたでしょうか。
当社でも講師派遣型研修や、公開型研修など様々なサービスを提供しております。テーマも新入社員向けから経営層、幹部向けまで幅広くご用意しておりますので、外部研修を検討される際はぜひお問合せいただけますと幸いです。