合理的思考とは?論理的思考との違いと鍛えるポイント

published公開日:2024.07.11
合理的思考とは?論理的思考との違いと鍛えるポイント
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ビジネスシーンでは、合理的思考を求められる場面が多くあります。しかし、合理的思考力は一朝一夕に身につくものではありません。合理的思考の意味、その特徴や論理的思考との違い、鍛え方のポイントなどをおさえた日々のトレーニングが重要です。

本コラムでは、合理的思考とは何か、合理的思考ができる人の特徴や鍛え方の6つのポイントを解説します。

合理的思考とは?

合理的思考とは何かを理解するには、「合理的」という言葉の意味が重要です。そのうえで、「合理的思考」で求められることをおさえましょう。

「合理的」思考の意味

「合理的」という言葉の辞書的意味は、「道理や論理にかなっているさま」「無駄がなく能率的であるさま」です。ビジネスシーンでは、両者の意味合いから「目的に合わせて論理的で無駄がないさま」となります。

よって、ビジネスでの「合理的思考」は「目的に合わせて論理的で無駄がないように考える力」といえるでしょう。

例えば、「解決策を合理的に考えてほしい」という場合、その意味は「特定の問題を解決するために、論理的かつ無駄のない施策を考えてほしい」となります。

合理的思考で世界の見方を変えた哲学者タレス

合理的思考は、大きな変革をもたらすことがあります。有名な例は、古代ギリシアの哲学者タレスの思想です。「万物の根源は水である」とする彼の思想は、神話による世界理解から、科学的な世界理解への扉を開きました。

これまで信じられてきたイメージにとらわれず、物事を観察し、事実に基づいて考察するタレスの姿勢は、現代のビジネスパーソンにとっても無関係ではありません。「社内の“神話”にとらわれていないだろうか」と考えることが、時として大きなヒントになるでしょう。

合理的思考の対義語

合理的思考は、目的に合った論理的で無駄がない思考のこと。よって、合理的思考の対義語は「感情論」や「先入観に基づく思考」などとなります。

シンプルに「非合理的な考え方」と表現することも可能です。

合理的思考と論理的思考、演繹的思考との違い

合理的思考を説明する際、「論理的思考」や「演繹的思考」を持ち出すことがあります。これらは相互に関連する言葉ですが、全く同じ意味というわけではありません。

合理的思考と論理的思考の違い

ビジネスにおける合理的思考と論理的思考の違いは、目的や条件にかなっているか否かです。

論理的思考は、論理的に正しい推論による思考です。人気の書籍や研修などで論理的思考、すなわち「ロジカルシンキング」を学んだ方は多いでしょう。

一方、合理的思考では、論理的であることに加え、「目的・条件にかなっている」ことが求められます。例えば、「取引先であるA社は予算があまり大きくないため、比較的手頃な価格帯のサービスを提案する必要がある」ことを前提として、A社が抱える課題の軽減・解決に向けた提案をすることです。

論理的思考のみでA社の課題に対処しようとすると、特定の原因に対する施策は出せるかもしれませんが、A社の希望条件と食い違う恐れがあります。そうなれば、「原因も対策も理解できるけれど、その案は採用できない」と言われてしまうでしょう。現実的でない商品・サービスを提案することは、合理的ではありません。

合理的思考と演繹的思考の違い

合理的思考と演繹的思考の違いも、目的・条件にかなっているか否かにあります。なぜなら、演繹的思考は論理的思考の一種だからです。

演繹的思考とは、より一般的な事柄から個別的な事柄を推論する思考法です。例えば、「今製造業は物価高で原材料の調達に苦労している」という情報から、「下請けB社も原材料の価格高騰で苦労しているはずだ」と推論します。マーケティングでも、フレームワークの活用で演繹的思考を使っていると考えてよいでしょう。

演繹的思考と対比的な思考法は、「帰納的思考」です。個別的な事柄から一般的な事柄を推論する方法です。「取引先A社は商品Cや商品Dに難色を示した。CもDもクラウドを活用する商品だ。A社はクラウドを活用した商品を使いたくないのだろう」などと推論することが、帰納的思考の例です。

演繹的思考と帰納的思考は、いずれも論理的思考の種類を指します。

これに対して、合理的思考は、より広い概念です。「演繹的思考や帰納的思考を含む論理的思考を使いながら、目的や条件を満たしながら推論し、判断する」とイメージするとよいでしょう。

合理的思考ができる人の4つの特徴・チェックリスト

合理的思考ができる人には、主に4つの特徴があります。まずは以下のチェックリストで、ご自身や部下の合理的思考力をチェックしてみてください。

【合理的思考力 チェックリスト】

目的・条件に合う基準で判断している
根拠の有無と情報の信頼性を重視している
思考が明確で話の流れに無理がない
正解がない問題への対応力が高い

では、なぜこのような特徴が出るのか、理由を見ていきましょう。

目的・条件に合う基準で判断している

論理的思考との違いでも述べたように、合理的思考の大きな特徴は、目的・条件に合う形で考えることです。そのため、合理的思考ができる人は、論理的に正しい推論ができるだけでなく、実現可能なアイデアを出すこともできます。

ビジネスで直面する問題には、多くの要因が関わっているものです。しかし、人間は全ての要因を特定することはできませんし、利用できる資源にも限りがあります。利用可能なリソースを無視した解決策は、論理的に正しくても「机上の空論」に終わる可能性が高いでしょう。

合理的思考をする人は、これらの限界を加味したうえで、結論を導きます。机上の空論ではなく、実際に取り得る選択肢を提示できるのです。

根拠の有無と情報の信頼性を重視している

合理的思考ができる人は、根拠の有無と情報の信頼性を重視しています。適切な情報に基づかなければ、あとで前提が間違っていたことに気づいて考え直さなければならないからです。

インターネットの活用が当たり前になった今、世の中には、個人の主観にあふれた情報から科学的に基づく情報まで、多様な情報があふれています。一方で、人間は、自分の主観から完全に逃れることはできません。特定の誰か一人から聞いただけの情報は、それだけでは信用できないのです。

複数のメディアを比較したり、複数の人によって確かめられたデータや事実を探したり、そうしたデータに基づく専門家の考察を参照したり。合理的思考の持ち主は、入手した情報の信頼性を入念にチェックしています。

思考が明確で話の流れに無理がない

合理的思考をする人は、その思考で用いる言葉の意味を明確にしようとします。重要な言葉の意味が曖昧なままでは、細かい条件分けができず、自らの印象に頼った推論をしてしまうからです。

例として、「なるべく早く資料を提出してほしい」と部下に指示を出す場面を考えてみましょう。「なるべく早く」の印象が「明日の午前のうちに」だとして、必要な資料の分量が50ページ程度である場合、その指示にしたがって締め切りまでに資料を提出するのは、ほぼ不可能です。

反対に、「3日以内」に5ページ程度で商品・サービスの基本仕様とオプションを説明する資料を作成するのであれば、比較的時間に余裕をもって進められます。このとき、過去に別の商品・サービスで似たような資料が作成されていれば、その形式を土台にしてより効率的に進めることも可能でしょう。

これらの条件を加味して指示を出すなら、「5ページ程度で基本仕様とオプションの概略を説明するだけの資料を作成してほしい。締め切りは3日後、19日の午前10時。以前別の商品でも同じような資料を作成したことがあるから、そのフォーマットを活用すると効率的だろう」となります。

ポイントは、人によって受ける印象が異なる言葉は、その具体的な意味を明確にすることです。明確な指示を出せば、聞き手である部下は「どういう意味だろう」「きっとこうだ」と悩む必要がなく、スムーズに指示を理解できるでしょう。

正解がない問題への対応力が高い

合理的思考に慣れている人は、自分の思考が必ずしも常に正解とは限らないことを知っています。そのため、正解がない問題にも負けずに対応していきます。

世の中には正解がない問題が多く、人間には予測できない感情の変化があります。多数のデータや知見をもとに判断しても、途中で新たなファクターが生じて状況が変わってしまう場合もあるでしょう。

しかし、合理的思考ができる人は、ここで「正解がない」とパニックに陥ることはありません。「今わかっていること」を手がかりに、状況を少しずつ理解していこうとするのです。判断に必要な情報が不足していれば、それを入手する方法も考えます。

こうした経験を重ねるからこそ、正解がない問題に対してますます高い対応力を発揮できるようになります。

合理的思考力を鍛える6つのポイント

合理的思考力を鍛えるには、日々のトレーニングや実践が欠かせません。具体的には、以下の6つのポイントを意識して分析・検討するとよいでしょう。

【合理的思考力を鍛える6つのポイント】

  • 情報リテラシーを身につける
  • 知識・経験を増やす
  • 目的・条件を明確にする
  • 適切なデータや判断の根拠を探す
  • 人は感情で動くことも考慮する
  • 失敗を想定してプランBを考える

情報リテラシーを身につける

合理的思考には信頼性の高い情報が必要です。しかし、誰もが発信者になれる社会では、入手できる情報は玉石混交であるというのが現実です。

そこで重要なスキルが、情報リテラシーです。パソコンなど情報を得るためのツールを使えるだけでなく、情報自体の扱い方も習得しなければなりません。

情報の信頼性を確認するには、発信者と内容の両方に注目する必要があります。

発信者については、省庁や地方自治体、大学、研究所、大きな業績のある専門家などは、信頼性の高い情報を発信している場合が多くあります。社内のエキスパートに意見を聞くのもよいでしょう。もちろん、ファクトチェックが行われた百科事典や辞書も使えます。

消費者の価値観を知るには、主観的な文章が掲載されているSNSやブログなども選択肢に入ります。「どのような人の意見なのか」を確認するため、必ず投稿者のプロフィール欄もチェックしましょう。

情報の内容面では、既知の情報との整合性、専門家の見解との突き合わせによって、信頼性を確認します。複数の知見と比較して、誤解や矛盾がないかを確かめましょう。

知識・経験を増やす

情報リテラシーを高めて正確な情報を入手できても、その情報を正確に理解できなければ誤った判断をする恐れがあります。これを防ぐには、合理的思考を巡らせる分野について、最低限の基礎知識を習得しましょう。

一般に、特定の分野の深い知識や豊かな経験がある人ほど、その分野の資料を正確に読み、適切な判断を行います。逆に、知識・経験が浅いと情報を誤解したり見落としたりして、考察が不十分になる傾向があります。

基礎知識を学ぶには、辞書・事典・入門書などを足がかりに、専門書や研修で学ぶとよいでしょう。さらに、その分野で活躍する人々の経験を書籍やセミナーなどで学びながら、「自分ならどうするか」を日々考えるとよいでしょう。

目的・条件を明確にする

繰り返しになりますが、合理的思考では目的・条件を満たすように推論し、判断しなければなりません。トレーニングでも常に目的と条件を満たすことを意識しましょう。

例えば、「顧客の労務管理にかかる工数を削減するサービスを提案する」という目的がある場合、

  • 誰が使うのか
  • 何をするために必要か
  • 予算はいくらか
  • いつまでに必要か
  • サービスの提供・問い合わせ対応に必要な人材は用意できるか

などを確認する必要があるでしょう。そのうえで、

  • 顧客が課題に感じている部分は何か
  • どの部分で工数が多いか
  • 工数削減にはどのような仕組みが必要か
  • 不要な作業はないか

といったチェックも行います。

こうした目的・条件を十分に考慮して考えることによって、現実的な解決策や提案につなげることが大切です。

適切なデータや判断の根拠を探す

合理的思考力を高めるには、「なぜそういえるのか」を示す根拠を探しましょう。ここで注意すべきことは、データや根拠の質と量です。

例として、「A社の業績が大きく伸びたのはなぜか」についての2つの説明を見てみましょう。

【Q:A社の業績が大きく伸びたのはなぜか】

説明1

A社の業績が大きく伸びたのは、2年前に就任した新社長のおかげだ。

SNSでも新社長の人柄が話題になっている。

説明2

A社では2年前に大きな変革を行い、新体制に移行した。

A社の年次報告書を確認したところ、新体制ではB氏が新社長となり、
A社の伝統と現代の社会的課題を意識した新ビジョンを掲げた。

ビジョンの決定には一般社員も関わり、その結果、
従業員のエンゲージメントが大きく向上したと報告されている。

新ビジョンを体現する新しい事業が始まり、社外の評価も高い。

以上のことが、新体制下でもA社の業績向上に寄与していると考えられる。

説明1と説明2を比較すると、より納得感の高い説明は後者です。説明1の判断の根拠が主に「SNS」や印象であるのに対して、説明2では「年次報告書」に記載された新体制の概要や社内の事情、新事業に対する社会的評価を根拠としているからです。

分析から先に進んで「当社もA社にならって業績を伸ばそう」と考える場合にも、両者に大きな違いが出てきます。説明1では「SNSで話題になるような人を新社長に迎えよう」という判断がされかねません。しかし、説明2では、「重要なのは社長の変更よりも社員が賛同し前向きに業務に取り組めるビジョンとその実現方法である」と判断できるでしょう。

人は感情で動くことも考慮する

合理的思考の説明で「感情を抜きにして考えること」などの表現が用いられるケースがあるように、合理的思考に慣れてくると、自分や他人の感情を無視しやすくなります。

しかし、ここに合理的思考の罠があります。「人間が自分や周囲の感情をもとに判断する」傾向があることを軽視してしまうことです。

例えば、自社がA社に提供している業務管理システムの契約更新時期が迫っているとしましょう。A社に次期の契約を持ちかけたところ、管理システムの質やカスタマイズの内容自体に問題はないとしながらも、更新をしないと言っています。なぜでしょうか。

更新をしない理由を確認すると、自社の担当者Bが失礼な物言いをしていたことが明らかになりました。担当者Bが用いる表現は、システムの善し悪しに影響は与えません。しかし、A社側は、連絡をとるたびにBの言動によって嫌な気分を味わっていたのです。

合理的思考を進めるに当たっては、目的・条件、根拠、論理的正しさをベースとしつつ、結果に大きな影響を与えるであろう人間の感情も考慮しなければならないのです。

失敗を想定して「プランB」を考える

合理的思考においては、導かれた結論が常に望ましい結果を生むわけではないことにも注意しなければなりません。よりレベルの高い合理的思考をするには、「失敗を想定する」必要があります。

人間の心の動きや発達、行動について知見を蓄積してきた心理学でも、人間の感情や行動を100%予測することはできません。同様に、合理的思考が導く判断も完璧ではありません。社会情勢や関係者の感情が想定を上回って変化する可能性は常にありますし、他社が新しい技術やサービスを発表して市場が大きく変動することもあります。

だからこそ、1つの計画・施策だけで対処できると考えず、プランBやプランCも考えておくべきなのです。「自社にとって望ましい展開」を想定したプランAの中で、大きく変更されるかもしれない要素について「もし〜だったら」と前提を変更し、別パターンの推論と対策を行いましょう。

合理的思考を意識して日々実践することで、こうした「合理的思考のクセ」を身につけることができます。