管理職育成 "1+3"のサイクル ~役割を果たせる管理職を育てる方法とは?~

published公開日:2021.10.27
管理職育成 “1+3”のサイクル  役割を果たせる管理職を育てる方法とは?
テレワークの普及や人材の多様化などを背景に、組織を率いる管理職の重要性がますます高まっています。それにもかかわらず、「自社の管理職がうまく機能しない」という悩みの声があちらこちらから聞こえてきます。そこで今回は、管理職が管理職としての能力を発揮できない理由を明らかにしながら、それを踏まえた管理職の育成方法をご紹介します。

管理職としての役割を果たせない管理職が増加

管理職育成

部下の指導や育成、チーム・組織としての目標達成、メンバーへの経営理念の浸透など、様々な役割を担う管理職。近年は、プレイングマネージャーとして、プレイヤー業務とマネジメント業務の双方が求められるようになったほか、コロナ禍でテレワークが普及し、働き方の変化への対応も求められるなど、その役割はますます複雑化しています。

そんな中、管理職の働きぶりを見ている経営層や人事担当者の皆さまから、「部下の育成が不十分」「マネジメントの知識はあるのに実行されていない」「プレイヤーから脱却できていない」といったお悩みが多数寄せられています。これはつまり、管理職が管理職としての役割を十分に果たせていないということ。これまでの仕事ぶりが評価され管理職になったはずなのに、なぜ様々な問題が浮かび上がるのか。まずは、管理職としての役割を果たせない理由がどこにあるのか、そこから確認していきます。

管理職としての「正しい自己認識」はできている?

管理職が管理職としての役割を全うするには、当然、その役割を正しく認識していなければなりませんが、それだけでなく、管理職としての働きに対する正しい自己認識、つまり自分自身のできている点とできていない点を正しく認識する必要もあります。しかし管理職に限らず、「自己認識」が正しくできている人はどれだけいるでしょうか。正しい自己認識はそう簡単にできるものではないことは、このコラムを読んでいる皆さまも実感していると思います。

では、管理職に焦点を当てた場合、正しい自己認識を阻む要因はどこにあるのか。その一つが、これまでに培ったプレイヤースキルです。そもそも管理職へ昇格するケースは、個人で高い成果を上げそれを評価された場合がほとんどです。
管理職にプレイングマネージャーとしての役割が求められるのは先述したとおりですが、自身がプレイヤーとして動くことで短期的に組織に成果をもたらし、それが評価されることで、例えば部下の育成ができていなくても「自分はマネジメントができている!」と勘違いしてしまうことが挙げられます。特にテレワーク環境下では、一人ひとりの働きが見えづらく評価が「成果主義」に偏ってしまいがちなため、この傾向がますます強まっているようです。

また、「市場の環境がよくないから仕方がない」「部下やメンバーの力量が足りないせい」など、"言い訳"につながりやすい要素も、自己認識をゆがめてしまう一因。このほかにも、「管理職は忙しい、時間がない」「管理職になっているのだから、一定以上のレベルに到達しているはず」「メンバーの人数も違うし、そもそも業務内容が違うから」などの理由で、他部署の管理職を見て学ぶ機会や他者と比べる機会が減り、自己認識と他者認識のギャップに気づかないことも影響していると考えられます。

正しい自己認識ができなければ、どんな教育を実施しても何の効果も得られないと言っても過言ではありません。そのため、管理職としての役割をきちんと果たせる管理職を育成するには、正しい自己認識を促すことが不可欠なのです。

管理職育成に欠かせない"1+3"のサイクルとは?

ここからは正しい自己認識を踏まえた、管理職育成のポイントを見ていきます。

管理職育成

当社では管理職育成において、1.管理職の役割や責任範囲を理解させる、それをベースに、2.現場でマネジメントを実践する、3.内省と自己認識を促す、4.必要な知見をインプットする、の3つのサイクルを回して前へと進ませる"1+3"のサイクルを推奨しています。それでは、1から4を深掘りして考えていきましょう。

  • 1. 管理職の役割、責任範囲の理解

管理職の役割や責任範囲を理解させるには、当たり前のことですが、まずは管理職の役割と責任範囲を明確化することが必須です。会社として求めている役割は何か、どのような裁量を持っているのか、達成すべき目標や実現すべき姿はもちろんのこと、何をすべきで何をすべきでないのか、といった具体的な行動まで明確化することがポイント。また、それら内容を管理職への昇進時に伝えて終わりではなく、昇進後も定期的に伝え、"忘れない"状況をつくることが大切です。

なお、管理職に求められる役割をもっと詳しく知りたい方は、掲載中のコラム管理職が果たすべき役割と求められる6つの仕事も参考にしてください。

  • 2. 現場でのマネジメントの実践

管理職としての役割、責任範囲を理解してもらったら、次のステップはその実践です。その際ポイントとなるのが、『7・2・1の法則』。これは、ビジネスにおいて人は70%を仕事上の経験から、20%を先輩・上司からの助言やフィードバックから、10%を研修などのトレーニングから学ぶという人材育成の法則です。

この法則にあるように、仕事上の経験によって学びを得ることは非常に大切ですが、それを成長につなげるには、今までとは異なるスキルや考え方が求められる"ストレッチな業務経験"を積ませる必要があります。例えば、プレイヤー時代には求められなかった部門を超えた連携・調整、自分が任された組織の変革など、管理職としての能力を高める経験を意図的に積ませるとよいでしょう。

また、もう一つの大切な要素が、部下への仕事の任せ方です。「この資料、来週までにまとめておいて。任せたからあとはよろしく!」という任せ方では、部下が伸びないだけでなく、任せる側である管理職の成長も見込めません。「意義づけ」→「つまずき予告」→「再意義づけ」→「自己決定」という4つのステップでアサインする『任せ方2.0』に則り、部下に仕事を任せる。そして、これら『7・2・1の法則』『ストレッチな業務経験』『任せ方2.0』をキーワードにマネジメントを実践させることが重要です。『任せ方2.0』については、指示の仕方を変えれば部下はみるみる変わるで詳しく解説していますので、ぜひそちらも参考にしてください。

  • 3. 内省と自己認識

次のステップでは、実際の行動や振る舞いで気になった点を、管理職本人の上司から定期的にフィードバックすることで、内省と自己認識を促します。1カ月に1回、30分~1時間程度、直属の上司と対話する機会を設け、役割の達成度合いや成長した点、より伸ばしてもらいたい点、また今後取り組んでほしいことなどを伝えましょう。

フィードバックする際のポイントは、対象者の状況に合わせ、「ティーチング」と「コーチング」を使い分けることです。例えば、管理職に昇進したばかりなど、課題に対する解決策が全くわからない管理職に対しては、必要なノウハウを詳しく伝える「ティーチング」を用いることが有効です。一方、既に同じような経験をしたことがある、解決策を自分で考えられる場合は、質問を駆使して考えを整理させる「コーチング」が効果を発揮します。

また中には、早い段階で諦めている、できない理由ばかり探し始めた、といった管理職も少なからずいるでしょう。そんなときは、あえて厳しく接して、注意喚起をすることも一手です。

  • 4. 必要な知見のインプット

現場でのマネジメントの実践、それに対してのフィードバックで終わりではなく、そこで明らかになった課題をもとに、足りない知見や新たな知見をインプットする必要があります。管理職に求められるマネジメントの知見は、PDCAや戦略策定・浸透、部下の育成・評価、労務管理、予算管理など多岐にわたり、またそのレベルも幅広いため、昇進時、2年目、3年目...と定期的な研修で基本事項を確認するだけでなく、一人ひとりが抱える課題に合わせた研修を受講してもらうことが効果的。それをもとに、もう一度「現場でのマネジメントの実践」につなげるという流れです。

自社での知見インプットが難しいときは、外部の研修を取り入れるのもよいでしょう。当社では、一人ひとりのニーズに合わせてテーマを選べる公開型研修のほか、テレワークにも対応したオンライン研修を多数提供していますので、ぜひご相談ください。

管理職への昇進は"生まれ変わり"であることを忘れずに

今回のコラムでは、管理職としての役割をきちんと果たせる管理職を育成するための"1+3"のサイクルについて解説しました。そのベースとなる「管理職の役割、責任範囲の理解」を起点に、「実践」→「内省と自己認識」→「足りない知見のインプット」という3つのサイクルを繰り返し回していくことの重要性はご理解いただけたと思いますが、ここで忘れてはいけないことがもう一つ。管理職へのステップアップは、単なる役職の変化ではなく、"生まれ変わり"ともいえるほど大きな変化を伴うということです。

管理職になることで、これまでの経験・スキルが活かせない、誰しもがそんな壁にぶつかります。そのため、特に管理職になったばかり、そしてこれから管理職になるという社員に対しては、管理職に求められる役割や知識・スキルは、若手・中堅時代とは全くの別物であること、そして管理職として通用しない成功体験や自分だけにしか通用しない法則を捨てる必要があることをあらかじめ伝え、管理職としての意識や心構えを醸成しておくことが大切です。

スキルが高い、能力があるから管理職に登用したとはいえ、管理職としての役割を全うできる管理職を育成するのは思いのほか難しいもの。本コラムを参考に、自社の状況を振り返り、効果的な管理職育成につなげていただければ幸いです。

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