あなたの部下が指示どおり仕事をしない理由

published公開日:2016.11.10
本コラムは東洋経済オンラインに掲載された当社コンサルタントによる3回連載の寄稿記事です。第1回は、部下が指示どおりの仕事をしない原因について、東京大学の中原淳准教授との共同の調査研究を基に解説していきます。
※ 肩書は調査当時のもの

指示の仕方が間違っている場合が多い

「あそこまで説明したのに、どうして失敗してしまうんだろう......」
「こんなに細かく指示しなきゃいけないんだったら、自分でやってしまったほうが早く終わるよ」

管理職の方々のこんなぼやきは、日本全国津々浦々で生まれていることでしょう。今も昔も、西でも東でも、部下は指示どおりに動かないものです。

若手社員が「指示待ち族」と言われるようになって久しいですが、こちらからやるべきことを伝えなければ自発的に動かない。かと言って、指示を細かく伝えると、「上司の小間使いにされている」「もっと自由な権限を与えられる仕事がやりたい」と言い出す始末。それならばということで、管理職自身が仕事を進めていこうとすれば、今度は圧倒的に時間が足りない。結果、言うとおり動いてくれない部下に四苦八苦しながら、残業を続けて頑張る。今この瞬間も、管理職の皆さんが現在進行形で苦労されている様子です。

すべて管理職が悪い?

このような現状を打開しようと、様々な取り組みをされている管理職の方も多くいらっしゃるでしょう。世の中には、「部下との接し方」「人の動かし方」「成果を出すマネジメントの方法」などの情報がたくさんあふれています。企業が主体となって、マネジメントに関する研修を行うことも、もはや常識となりました。

しかし、それらで言われている解決策は、総じて「部下が動かないのは、管理職の責任です」というものばかり。詳しい内容と言っても「コミュニケーションとは、相手を慮った行動なので、云々」「部下に興味を持って、人間関係を築かなければ云々」というような話ばかり。これでは、管理職の方々がさじを投げてしまうのも仕方がありません。

このような、いわば「勘と経験と度胸の成功法則」を脱するために、2015年初旬、350社の中堅・中小企業に勤める2,800名を対象に大規模なアンケート調査を行いました。企業内人材育成に関する研究の第一人者、東京大学の中原淳准教授との共同の調査研究です。

※ 肩書は調査当時のもの

この調査の目的を一言で表現するのであれば、「国内の99.7%を占める中小企業における人材開発のメカニズムを、科学的アプローチで解き明かそう」というものです。大規模な調査と統計的な解析を基に、「たまたまその人だから成功できた成功法則」ではなく、万人が活用できる成功法則を見いだそうという研究を行ったのです。

調査結果からは「うまく部下を動かす上司像」が浮かび上がってきました。部下をうまく動かしている上司は、部下に仕事を任せる際にきちんと目標咀嚼(そしゃく)を行っているようなのです。「目標咀嚼」は聞きなれない表現ですが、分かりやすく言い換えると「『なぜ、その仕事を行わなければならないか』を分かりやすく説明する」という行動です。

具体的には「自分の職場の戦略や目標を、優先順位を提示した上で、部下にかみくだいて説明できる」「自分の職場の戦略や目標を細分化し、部下に仕事を与えることができる」「現場の状況を把握し、職場の戦略や目標を的確に微修正できる」といったものです。これまで語られていた「コミュニケーションのひと工夫、つまり大事な"ひと手間"」は、この「仕事を任せる際の目標咀嚼」だったのです。

目標咀嚼を怠ってしまうと・・・

では、この目標咀嚼を怠ったやり取りのイメージと、その結果を見ていきましょう。もしかしたら、皆さんもこんな仕事の任せ方をしてしまっているかもしれません。

上司:Aさん、ちょっといい?

部下A:はい、大丈夫です。

上司:実は、来月から、部門横断のコストダウンプロジェクトが始まるんだ。で、そこにAさんに参加してほしいんだ。

部下A:え!? 私が......ですか?

上司:そう。全ての部門から1人出すことになったから、うちからはAさんを推薦しといたよ。詳しいことは、総務部長からの連絡で分かると思うから。部門の代表として、バシッとよろしくね!

部下A:え......。あ、はい。......ちなみに、どんな内容なんですか?

上司:え? それは、また総務部長から聞いてよ。とにかく、部門の代表だから、しっかりよろしくね。

部下A:はい......分かりました。

上司:うん、じゃあよろしく。

いかがでしょうか?もしかしたら、読んでいてドキっとした人もいるかもしれません。出てくるのは、「Aさんならできる」「バシッとよろしく!」のような「気合」で、仕事の意義や目的、目標はまったく出てきません。

このような任せ方をしてしまった場合、結果はどうなるでしょうか。部下は任された仕事の意義をまったく理解できないので、頑張って取り組んでも見当違いな結果に終わってしまうか、適当に仕事に取り組んでしまうことになります。

結局、管理職は忙しいまま

結局、見かねた皆さんが仕事を巻き取り、管理職の皆さんは忙しいまま。部下は経験を通した貴重な成長の機会を逸するだけでなく、往々にして、自分の取り組みの何が足りなかったのかのフィードバックも得られずモチベーションも下がる。そして次の仕事も同様に......というスパイラルダウンを引き起こすことになります。

任せ方1.0のスパイラルダウン|人材育成コラム_5

それでは、どうすればできるようになるのか。目標咀嚼をきちんと行い、部下が気持ちよく動ける任せ方の詳細につきましては、次回お伝えいたします。