豊かな経験と技術を持つ高齢者・シニア人材の活用で人手不足時代を支える

published公開日:2017.06.19
少子高齢化が進む日本は、今や労働力不足は待ったなしの状態と言われています。その打開策の一つとして注目されているのが「高齢者活用」。今回は、高齢者の雇用を推進するに当たって、企業が取り組むべき対策や注意したいポイントをご紹介します。

働く高齢者は700万人超え

世界でもトップレベルの長寿国である日本。各種統計※1 によると、65歳以上の人口(高齢者)が占める割合は2017年4月1日時点で27.5%(概算値)。これが2030年には31.6%、60年には39.9%まで上昇することが予想されています。一方で、日本の労働を担う生産年齢人口(15~64歳)は、10年の63.8%、15年の60.7%から、30年には58.1%、60年には50.9%と右肩下がりで、今後さらなる労働力の減少が見込まれています。

GDPの低下や現役世代が担う社会保障費の増大――――。労働力人口の減少が日本経済に与える影響は大きく、日本経済の活力を維持・向上させていく観点から、少子化対策や女性活用、高齢者活用、外国からの移民の受け入れなど、様々な対策が議論・推進されています。

このうち、高齢者の活用にスポットを当ててみると、高齢者の就業者数は2015年時点で730万人と12年連続で増加。就業者総数に占める高齢者の割合も11.4%で過去最高となりました※2。生産年齢人口が減少する中でも働く高齢者が増えていけば、日本の経済成長、ひいては社会保障も安定していくことになるため、より多くの高齢者が活躍できる場を整備していくことが私たち企業には求められています。

「指導役」「戦力」として活躍してもらうためには?

高齢者の就業率が高まるに連れ、当社でも「高齢者活用」についてのご相談を受けることが多くなり、推進体制の整備や高齢者のキャリア形成などの課題について、できる限りのアドバイスをさせていただいています。

では、以前にも増して企業が高齢者活用に力を入れている背景には何があるのでしょうか。それは、2013年4月に改正・施行された「高年齢者雇用安定法」です。この改正は、「急速な高齢化の進行に対応し、高年齢者※3 が少なくとも年金受給開始年齢までは意欲と能力に応じて働き続けられる環境の整備」を目的として行われたもの。65歳未満を定年と定めている企業は、①定年の引き上げ、②継続雇用制度の導入、③定年制の廃止のいずれかの対応を行うことが義務付けられ、高齢者活用は企業が対応すべき重要テーマとして位置付けられるようになりました。

上述した3つの雇用確保措置の実施などにより、着実に高齢者の働く場が増えていますが、高齢者に期待どおりの活躍をしてもらうためにも、受け入れる企業側として気を付けたいことがあります。高齢者に期待する役割は、主に「指導役」と「戦力」の2つ。まずは指導役をお願いする場合の留意点から見ていきたいと思います。

当社では、高齢者が指導役を務める際は、高齢者と指導を受ける社員とをつなぐ"翻訳機能"を設ける必要があるとお伝えしています。40年近くも同じ会社にいると、例えば社内用語や業界用語を当たり前のように使ってしまいますが、特に指導が必要な新人・若手には何のことだか分からないケースがほとんど。とは言っても、そういった特殊な言葉を使うことで円滑なコミュニケーションが取れることも多いため、会社・業界ならではの用語が不要という訳ではありません。誰にでも分かる正確かつ適切な言葉に"翻訳"する社員がいれば、それだけ指導を受ける側の理解がスムーズに進むということです。

また、退職準備教育などのプログラムを実施し、指導する技術をあらかじめ身に付けてもらうことも大切です。例えば研修会や自主勉強会を企画し、その際の講師を社内の高齢者に任せることも一案です。講師を担当することで指導役としての役割を理解し、スキルを習得できるのはもちろん、その場で若手へのノウハウも伝達できるといった相乗効果が見込まれます。実際に退職前プログラムを導入している企業からは、「若手への技術伝承が順調に進んでいる」との声が聞かれるようになりました。

一方、「戦力」を期待する場合は、当人が持っている戦力を明らかにし、期限を決めて引き継ぎを行う必要があります。幅広い人脈を維持することが戦力として残ってもらう目的の一つですが、高齢者が残る年数には限りがあります。人脈をはじめとした高齢者の財産を企業の財産に変えるためにも、引き継ぐ期限を設定しておくことが大切です。

高齢者人材を無駄にしないために

ここまで、高齢者雇用において期待される2つの役割を、任せる際の注意点と共に考えてきました。最後になりましたが、高齢者にどのような役割を期待し、どんな仕事をお願いするにせよ、活用方針を明確に打ち出し、期待する役割を明確に伝えることを忘れてはいけません。「役職が変わったにもかかわらず、以前の立場から発言し混乱を招く」「自分の立場が理解できず、なぜ仕事をしているのか分からなくなってしまう」...。これらは高齢者雇用でよくある課題です。このような事態を生じさせないためにも、活用方針や役割設定をクリアにした上で、高齢者の状況や希望に合わせた仕事内容・就労条件を整備する。働きぶりを適切に評価する仕組みをつくり、意欲を維持・向上させるための取り組みや能力開発の場を提供することも重要です。

高齢者にとって働きやすい職場を整備しておかなければ、働く意欲と能力のある貴重な資源を消費するだけで終わってしまいます。"生涯現役"で働きたい高齢者を支え、人手不足時代の人材を確保するためにも、いま一度、自社の高齢者活用の枠組みを点検してみてはいかがでしょうか。

  1. ※1 出典:
    「人口推計」(総務省統計局、http://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.htm)、
    「日本の将来推計人口(平成24年1月推計):出生中位・死亡中位推計」(国立社会保障・人口問題研究所、http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/newest04/gh2401.pdf
  2. ※2 出典:
    「統計トピックスNo. 97」(総務省統計局、http://www.stat.go.jp/data/topics/topi970.htm
  3. ※3 厚生労働省令で「55歳以上」が高年齢者とされています。(「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律施行規則」(昭和46年9月8日 労働省令第24号))