リテラシーとは?意味・種類・リテラシー向上のポイント
リテラシーとは何でしょうか。近年よく耳にする言葉ですが、しっかりその意味を答えられる方は少ないかもしれません。
本コラムでは、ITリテラシーや情報リテラシーなど情報分野におけるリテラシーの意味、金融リテラシー、ビジネスリテラシーの概要や、リテラシーが高い人の特徴、リテラシー教育のポイントを解説。社員のリテラシー教育にぜひお役立てください。
リテラシーとは何か?
まずは、リテラシーという単語自体の意味について簡単に見ていきましょう。
リテラシーの意味や使い方
近年の使い方から簡単に説明すると、リテラシーという言葉の意味は「情報やメディアを使いこなせる能力」となります。
もともと、英語の「literacy」は「読み書きの能力・識字能力」を意味する言葉。その意味がより広く解釈されるようになり、「知識や情報を収集し、有効活用する能力」という意味合いで、さまざまな言葉と一緒に使われています。
近年、特に耳にする関連語では、「ITリテラシー」や「情報リテラシー」、「メディアリテラシー」などが多いでしょう。また、健康関連では「健康リテラシー」「メンタルヘルスリテラシー」という用語も見られます。これらは、特定の分野に関する知識や理解力、知識の活用能力を意味します。
コンピテンシーやモラルとの違い
リテラシーとの違いを問われる言葉として、「コンピテンシー」や「モラル」があります。コンピテンシーとは「能力」という点で類似性があり、「モラル」とは「〜してはいけない」という観点の部分で共通性があるためでしょう。しかし、詳しく見ていくと、両者の違いがはっきりします。
コンピテンシーとリテラシーの違い
コンピテンシーとは、辞書的には「能力・適性」という意味です。特にビジネス分野では、「ある業務において、安定的な成果を出している人材に共通して見られる行動特性」を指します。
リテラシーとコンピテンシーは、「能力」という点で、一見同じような言葉に見えるかもしれません。しかし、リテラシーは知識をつけて問題を解決する意味合いが強い一方で、コンピテンシーは業績や成果につながる行動特性という意味合いが強くなっています。そのため、「リテラシーを持ったうえで、それを具体的な成果に結びつけられる行動特性がコンピテンシーである」とイメージするとわかりやすいかもしれません。
なお、リテラシーとコンピテンシーは共にジェネリックスキル(汎用スキル)と呼ばれており、業界や業種を問わず、さまざまな場所・場面で必要となるスキルとされています。
また、ジェネリックスキルに近しい言葉として、ポータブルスキルや移転可能スキルなどもあり、最近では、人材採用における評価ポイントとしても注目されています。
モラルとリテラシーの違い
モラルとは、「道徳」や「倫理」を表す言葉であり、リテラシーとは性質が異なるものです。一般的に、人々が生活していく中で守るべきルールや規範、それらを反映した個人の良心などを指します。
例えば、日常生活におけるモラルは、善悪の判断や安全な集団生活を送るための基準とされ、ビジネスシーンにおいてのモラルは、社会的信用の獲得やコンプライアンスの観点で重視されます。同時に、チームメンバーや顧客等と信頼関係を構築し、ビジネスを円滑に進めるためにも重要です。
リテラシーとの違いは、モラルが社会生活全般において求められる物事や行動の善悪に焦点を当てている点にあります。リテラシーは、特定の分野の知識やそうした知識を活用するスキルに注目するもの。「AをするにはBが必要」などのように、必ずしも善悪の判断に焦点を当てているわけではありません。
リテラシーの種類
リテラシーは、各分野で多様な語と結びつけられて用いられます。今回は、主にビジネスに関係が深いリテラシーの種類を見ていきましょう。
ITリテラシー
ITリテラシーは、コンピューターやサーバ・ネットワーク、インターネットの使い方など、IT全般における活用スキルを指す言葉です。より細かな分類として、情報リテラシー、ネットリテラシー、コンピューターリテラシーがあります。
情報リテラシー
情報リテラシーは、膨大な情報の中から目的に合った必要なものを適切に取捨選択できるスキルを意味する言葉です。ITリテラシーの同義語として扱われる場合もあります。
総務省によれば、狭義には「IT機器の活用や操作スキル」という意味。そして、広義には、「機器の操作能力だけでなく、情報の活用に関する知識とスキルも含む」としています。
また、ITリテラシーの文脈からさらに範囲を広げ、新聞や雑誌、他者からの伝聞など、IT機器の活用によらない情報の収集や活用まで含めるケースもあります。
文脈によって多少定義は異なりますが、全体としては、「IT機器などを用いた情報の収集・活用を中心とする知識や能力」というイメージです。
参照元:総務省「平成10年版 通信白書」情報リテラシーの定義ネットリテラシー(インターネットリテラシー)
ネットリテラシー(インターネットリテラシー)は、インターネットを使ううえで、さまざまなリスクを認識し、それらのリスクを回避または低減させる対策をとりながら、適切に活用する知識やスキルを意味します。
ネットリテラシーとして具体的に想定されている項目の例には、次のようなものがあります。
- 著作権や肖像権など、違法な情報に関するリスクの認識と対策
- 不適切な投稿など、有害な情報に関するリスクの認識と対策
- 迷惑メールやSNSでのいじめなど、不適切な情報の発信・接触に関するリスクの認識と対策
- フィッシングやネット上の売買など、不適正取引に関するリスクの認識と対策
- インターネット上の情報による過大消費、インターネットへの依存、歩きスマホなど、不適切な利用に関するリスクの認識と対策
- プライバシーの侵害、個人情報の流出など、プライバシーに関するリスクの認識と対策
- ID・パスワードの不正利用やウイルスへの感染など、セキュリティリスクの認識と対策
特に私生活や仕事に関する画像や活動をインターネット上に公開する場合は、個人情報や機密情報の漏洩を行っていないか、細心の注意を払わなければなりません。情報を取得する側としても、迷惑メールやフィッシングサイトから詐欺に巻き込まれたり、ID・パスワードを盗まれたりしないように気をつける必要があります。
コンピューターリテラシー
コンピューターリテラシーは、コンピューターをはじめとする、IT機器を安全に使用でき、目的に応じてスムーズに操作できる能力を指します。具体的には、キーボードやマウスの適切な操作、アプリケーションの使い方の知識や活用能力です。
仕事でパソコンやスマホ、タブレットなどのIT機器を使う機会が多い現在、コンピューターにインストールされているアプリケーションの選択・利用に加え、社内システムの使い方も迅速に習得しなければなりません。
アプリケーションや業務に使うシステムは、日進月歩で発展しています。一度習得したら完了ということはありませんので、効果的に使い続けるためにも最新情報を確認し、必要なトレーニングを行う必要があります。
メディアリテラシー
メディアリテラシーは、先述した情報リテラシーとほぼ同じ意味で用いられることがある言葉です。主にメディアを通じた情報の取得や取捨選択、発信などを適切に行うための知識・スキルを指します。
情報リテラシーとメディアリテラシーを使い分ける場合は、情報リテラシーを「IT機器を活用した情報の取得・活用」とし、メディアリテラシーを「IT機器の活用の有無を問わず、広くテレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webサイトなどを通じた情報取得・活用」と考えるとよいでしょう。
総務省では、特に放送分野のメディアリテラシー3要素として、以下をあげています。
<総務省によるメディアリテラシーの3要素(放送分野)>
- メディアを主体的に読み解く能力
- メディアにアクセスし、活用する能力
- メディアを通じコミュニケーションする能力。特に、情報の読み手との相互作用的(インタラクティブ)なコミュニケーション能力
現在、インターネットの普及によりメディアからは膨大な量の情報が日々発信されています。その中には、特定の立場に立脚した情報・主張もあれば、真偽が定かではない情報もあるでしょう。
ビジネスパーソンは、そのような大量の情報から、適切なものを主体的に選択・活用する能力が必要です。よって、読解力はもとより、論理的思考力や批判的思考力も欠かせません。
参照元:総務省「放送分野におけるメディアリテラシー」金融リテラシー
金融リテラシーとは、その名の通りお金に関する知識を持ち、主体的に判断できる能力を指します。投資や資産形成のほか、金融商品の知識や家計の管理、特殊詐欺への備え、金融危機といった時事問題の把握などが含まれます。
金融広報中央委員会による2022年の調査において、日本人はインフレや分散投資に関する知識が、経済協力開発機構の上位10か国の平均よりも低いことが指摘されました。他方、特殊詐欺の被害報告が日々発生しています。成人年齢の引き下げにより、計画的に金融商品を活用する知識・スキルの早期習得も課題となっています。
ビジネスパーソンにとっては、適切な金融商品の取引やコンプライアンスの向上、資金に関するリスクマネジメントなどで金融リテラシーが必要となるでしょう。適切な知識とその活用能力があれば、金融トラブルを未然に防ぐことができます。
ビジネスリテラシー
ビジネスリテラシーとは、ビジネスの現場で必要とされる知識や能力全般を意味し、「社会人基礎力」とも呼ばれるものです。
具体的には、タイムマネジメント力や論理的思考力、情報の読み解き、統計の知識、データ分析力、会計の知識、労働法の基礎的な理解、コミュニケーション能力など、課題解決能力につながるさまざまな知識・スキルが含まれます。
ビジネスリテラシーは、基本的なビジネススキルや職業人としてのマインドセットともいえます。就活や新人教育の場で身につける例が多く見られますが、社内でも等級・階級ごとに求められるビジネススキルを定義しておくと、社員の主体的取り組みを促しやすくなります。
リテラシーが高い人の特徴
リテラシーが高い人には、どのような特徴が見られるのでしょうか。具体例は分野ごとに異なりますが、情報や情報の取得、活用に高いスキルを持っている人の共通点もあります。その共通点とは、次の4点です。
業務効率化を図れる
多くのリテラシーに共通する要素に、情報収集や機器に関する知識・活用があります。リテラシーが高い人は、効果的な情報収集・分析・活用を行えるため、業務全体の効率化に長けています。
近年は、特にIT人材の育成やDX推進など、ITリテラシーをベースとした業務効率化、生産性向上の促進が国レベルで進められてきました。感染症流行を機に拡大したテレワークでも、ペーパーレス化やクラウドサービスの活用にあたり、情報リテラシー、パソコンリテラシーの向上に取り組んだ企業も多いでしょう。
また、外部環境の変化が激しい中で、「いかに正しい情報を素早くキャッチするか」というメディアリテラシーも欠かせません。業務によっては、国際情勢の変化がもたらす金融分野への影響もチェックする必要があります。
目的に合わせて情報や機器を適切に扱える能力が高い人は、こうした知識や技術により、業務の無駄を省いた迅速な対応ができるようになります。
的確なリスクマネジメントを行える
それぞれの分野に応じたリテラシーは、当該分野において「何がリスクになるか」という判断にも大いに役立ちます。そのため、リテラシーが高い人はリスクマネジメントにも長けています。
例えば、ITリテラシーやメディアリテラシーの場合、情報の取得や利活用において、不適切な情報源の判別、フェイクニュースや主義・主張の根拠の分析・判別などを、リテラシーが低い人よりも効果的に行えるでしょう。テレワークなどで問題になりやすいセキュリティ問題にも、原因と対策を理解したうえで対応可能です。
金融リテラシーの場合、金融商品の購入検討や世界的な金融危機、日本の金融分野の動向、特殊詐欺の判別など、資金面のリスク低減・回避に貢献できます。
円滑なコミュニケーションができる
リテラシーが高い人は、円滑なコミュニケーションでも力を発揮します。
例えば、ITリテラシーが高い人の場合、従来の電話やメールに加え、チャットツールやビデオ会議ツールなど、さまざまなコミュニケーションツールを活用できるでしょう。各ツールの基本操作とともに、どのような場面でどのコミュニケーション方法がより効果的か、活用上の注意点は何かを理解していますので、目的に応じた使い分けが可能です。それらの知見を共有し、チーム全体のコミュニケーション力向上にもつなげられるでしょう。
ITリテラシー以外の分野でも、当該分野の基本的な知識を活用し、上手に説明することができます。プロジェクトにおける課題は何か、その原因はどこにあるのか、問題解決にはどのような対応が可能かなど、具体的な分析・提案の場面で活躍できるでしょう。
正確な情報発信による信頼性向上に貢献できる
SNSやオウンドメディア活用の動きが拡大する昨今、企業が自社アカウントをつくり、SNSやオウンドメディアで情報発信を行うケースもあるでしょう。このとき、担当者のネットリテラシーやメディアリテラシーが低いと、不適切・不正確な情報を発信してしまう恐れがあります。
例えば、安易にトレンドにのった発信をしてしまい炎上するケース、不正確なデータをもとに情報発信して自社の信頼性を損なうケースなどがあります。不適切・不正確な情報発信は、個人や組織の名誉を傷つけ、自社の社会的信用を失う恐れが非常に高いものです。
情報リテラシーをはじめ、正確な知識とその活用ができる人は、こうしたリスクに意識的に対処できます。自身が発信しようとする情報の正確性をチェックし、他者の名誉を損なう発信を避け、自社の信頼性向上に大きく貢献してくれるでしょう。
社内におけるITリテラシー教育のポイント
このように、各種リテラシーは、ビジネスやその周辺領域において、非常に重要な能力となっています。リテラシーが高い社員の育成は、業務効率化や信頼性向上、リスクマネジメントなどにおける直接的な対策として有効なのです。
そこで最後に、社内におけるリテラシー教育に関するポイントを3つご紹介します。今回はITリテラシー教育の観点からご紹介しますが、他分野のリテラシー教育にも応用可能です。
社内のシステムや環境を整備する
社員のITリテラシーを高めるには、まず、実際に操作して理解を深められる機器・システムの導入や、利用に必要な環境を整備しなければなりません。
具体的には、パソコン、スマートフォン、タブレット、周辺機器などを支給し、それらを活用するためのID・パスワードを発行しましょう。ファイルなどの保存先にクラウドサービスを活用する場合、そのシステム設定や従業員などへのID・パスワード発行も必要です。
また、業務で使用するアプリケーションの購入、インストールを行い、実際に従業員が使えるよう環境を整備します。定期的なアップデートも行いましょう。
このように、実際に触れて学べる環境を整えることで、ただ座学で知識のみを覚えるやり方よりも効率的かつ実践的にリテラシーを高めることができます。
ITリテラシー教育を実施する
社内で実際にリテラシー教育を実施する段階では、社員のITリテラシーレベルがどのくらいか、自主的な学習が可能かどうかを見極めましょう。
リテラシーが低い場合、自主的な学習を促しても勉強方法自体がわからなかったり、教材の説明を理解できなかったりするケースがあります。このような場合は、集合研修などの形で、講師による操作手順や画面を具体的に見ながら学習できる機会を設けましょう。
ある程度自主的に学習できる場合は、集合研修よりも各自のタイミングで学習を進められるe-ラーニングが効果的です。スキルが高い人ほど「忙しくて時間がとれない」という課題を抱える傾向がありますので、5分程度で1ユニットを終了できるなど、すき間時間に学習できる教材がおすすめです。
また、学習中に疑問が生じた場合に質問できるサポート制度も効果的です。すでに高いITリテラシーを持っている従業員や外部の研修会社などに、相談対応や個別課題に応じた研修を依頼するとよいでしょう。
定期的なレベルチェックや資格取得支援を行う
リテラシー教育は、学んだあとにきちんと定着しているかどうか定期的にチェックすることも重要です。
具体的なチェック項目は、特定のアプリケーションについて「○○ができる」などを段階的に設定したり、情報収集や分析の能力について、「適切な情報源から情報を得ている」「フェイクニュースかどうかを判別できる」などを設定したりするとよいでしょう。