タフアサインメントとは?経営人材育成やリーダー育成を促進

published公開日:2023.11.28
タフアサインメントとは?経営人材育成やリーダー育成を促進
目次
人材育成方法として注目される「タフアサインメント」は、育成対象である社員の実力を超える課題をあえて与え、急激な成長を促すものです。多くのメリットがある一方、不適切な課題設定は対象社員の主体性や意欲にマイナスに働くことも。

本コラムでは、タフアサインメントのメリット・デメリットや実践ポイントを解説します。

タフアサインメントとは

「タフアサインメント」は、人材育成を促すマネジメント手法のひとつです。本人の実力を超える業務や目標にチャレンジさせることでポテンシャルを引き出し、能力を大きく開花させたり劇的な成長につなげたりするための施策です。

  • それまでより高いレベルの業務を担当させる
  • より大きなプロジェクトに参加させる
  • プロジェクトのリーダーに任命する
  • 他部署や社外との交渉が必要な部署で新たな経験を積ませる

など、これまでのやり方では簡単に解決・達成できない課題を与える点が大きな特徴です。

タフアサインメントは経営人材の育成に活用されており、いずれ経営層や管理職になる(なってほしい)社員を育成対象とする事例が多く見られます。他にも、一般社員をリーダーへ成長させたい、新人の職域を拡大させたいといった目的にも活用できます。

経営人材の育成を目的としてタフアサインメントを行う場合、育成対象となる社員は現在の業務から抜けなければなりません。その社員が現場で大きな戦力となっている場合は、それまでの業務を引き継げる人材も必要となります。

タフアサインメントを成功させるには、本人の努力以外に、現場の環境整備や上司の理解など、多角的な視点での育成戦略が求められます。

タフアサインメントとストレッチアサインメントの違い

タフアサインメントは、本人の実力以上の課題を与え、大きな成長を促す施策です。これと同様の手法に「ストレッチアサインメント」があります。結論から言えば、両者はほぼ同じものと言ってよいでしょう。

能力の向上には、現在の実力よりも少し高いレベルの課題が必要だと言われています。現在の能力で比較的簡単に対処できる範囲は「コンフォートゾーン」と呼ばれ、ミスなく安定してこなせる業務などが、ここに入ります。

これに対して、背伸び(ストレッチ)をしなければ対処できない範囲が「ストレッチゾーン」です。ストレッチアサインメントという名称は、ストレッチゾーンの課題を割り当てることを意味しています。

タフアサインメントもストレッチアサインメントも、育成対象社員の成長を効果的に促すには、ストレッチゾーンの課題を与えなければなりません。こうした点で、両者は同じと言えるのです。

あえて違いを探すとすれば、ストレッチアサインメントは「ストレッチゾーンにある課題を与える」という視点をより明確にしている点があげられるでしょう。

なお、ストレッチゾーンを超える範囲は「パニックゾーン」と呼ばれます。本人の今の実力では頑張っても対処できないレベルの領域です。タフアサインメントでもストレッチアサインメントでも、パニックゾーンにある課題を与えると育成施策の失敗につながりやすくなります。

タフアサインメントのメリット・デメリット

タフアサインメントは、適切に実施すれば育成対象社員にとっても会社にとっても、大きなメリットを得られます。しかし、やり方を間違ってしまうと、本人のやる気を奪うだけでなく、離職につながる恐れもあります。

タフアサインメントを実施する前に、どのような点がメリットにつながるのか、何が失敗の要因になりやすいのかを確認しておきましょう。

タフアサインメント 4つのメリット

タフアサインメントが成功した場合に得られるメリットは、次の4つです。

  • 主体性、当事者意識を高められる
  • 経営人材としての視点を習得させられる
  • 効率的に業務拡大を進められる
  • リーダーや管理職を育成できる

主体性、当事者意識が高められる

タフアサインメントでは、背伸びしなければ対処できない課題が与えられます。それまでの知識やスキルでは不十分なため、「解決に向けてどのような知識・スキルが必要か」を調べ、実際に習得しなければなりません。育成対象者は、これを自分で見いだし、取り組むことも求められますので、主体性や当事者意識が欠かせないのです。

育成対象者の主体性を発揮しやすくするためには、本人が自ら取り組みを進められる環境を用意する必要があります。e-ラーニングや研修への参加機会など、自ら学べる仕組みづくりや相談しやすい雰囲気づくりが大切です。

経営人材としての視点を習得させられる

それまでの業務では、目の前の仕事を期限までにミスなく仕上げることで十分だったかもしれません。しかし、タフアサインメントでは、より高レベルの業務への対処や広い視点での課題解決が求められます。

タフアサインメントで大きく成長するには、育成対象者自身が「なぜその課題を与えられているのか」を理解しなければなりません。「どのような人材になることが求められているか」を組織全体におけるポジションとして理解する必要があるのです。

日々のタスクとプロジェクト、プロジェクトと事業全体、ひいては会社全体の方向性や未来を関連付けて考えることで、高い視座を養うことができます。これこそ、経営人材に求められる視座に他なりません。

効率的に業務拡大を進められる

タフアサインメントは、経営人材の育成だけでなく、一般社員の育成においても効果的です。例えば、比較的シンプルな業務を安定してこなせるようになった新人を対象に、少し複雑な業務を割り当てるなどの方法です。

一般社員の業務拡大に活用する場合も、本人にとって難しすぎない程度の課題を与えるようにしましょう。中堅社員や管理職にとって簡単な課題であっても、育成対象となっている社員にはパニックゾーンにある課題かもしれません。ストレッチゾーンの課題を適切に選び、相談に応じながら業務の習得や定着を目指すことが重要です。

目標となる業務を自分でできるようになれば、自信が高まり、次の業務習得やレベル向上へのモチベーションにもなるでしょう。

リーダーや管理職を育成できる

そして、何よりもタフアサインメントはリーダーや管理職の育成につながります。これは、育成対象者である社員だけでなく、育成担当者である社員にとっても当てはまります。

例えばプロジェクトのリーダーを育成するためにタフアサインメントを実施する場合、育成対象者はリーダーへの昇格に向けた成長機会を得られると同時に、指導を行う側の社員は、さらに上位の視点で指導する必要があるからです。

育成担当者にとっては、他の社員の能力を評価し、コンフォートゾーンとストレッチゾーンを意識した課題の与え方を学ばなければならないでしょう。能力を適切に評価し、課題を与えるスキルを養うことは、より大きなプロジェクトや部署の責任者として活躍するための大切な能力の向上につながります。

タフアサインメントのメリットをより引き出すには、育成担当者や人事担当者が中堅社員に求められる要素をより明確に把握するとよいでしょう。ALL DIFFERENTの「中堅社員研修」では、プレイヤーとしての成果創出の基盤となる主体性や、後輩育成などの組織としての成果も意識した視座の獲得をお手伝いしています。タフアサインメントの実施に向けた準備としてのご活用もおすすめです。

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タフアサインメント 3つのデメリット

タフアサインメントのデメリットは、不適切な課題の設定や社員の性格や状況に合わないことなどから発生します。具体的には、以下の3つです。

  • パニックゾーンの課題は成長を妨げやすい
  • ストレスに弱い社員には過大な負担となる
  • タイミングを誤ると失敗しやすい

パニックゾーンの課題は成長を妨げやすい

タフアサインメントの大きなメリットは、それまで育成対象者が十分に発揮していなかった能力などを大きく引き出せる点です。しかし、急激な成長を期待してパニックゾーンにあるような難しすぎる課題を与えてしまうと、成功体験を得られるどころか自信喪失につながり、非常に大きなストレスを抱えてしまう恐れがあります。

はじめから「できるわけがない」と見切りをつけてしまうような課題に取り組み続けることは、至難の業。ストレスへの対処自体が困難になり、体調を崩してしまうかもしれません。無理に取り組み続けて重大なトラブルが発生する可能性もあります。

パニックゾーンの課題は、たとえ優秀な人材を対象としていても、その成長を妨げてしまうのです。

ストレスに弱い社員には過大な負担となる

タフアサインメントでストレッチゾーンにあると思われる課題を与える場合でも、本人の特性によっては、そうしたやり方自体が合わないというケースもあります。ストレス耐性が低い社員、新しいことを覚えたりチャレンジしたりすることが苦手な社員などです。

例えば、新しいアイデアや手法を生み出すより、定型業務をより効率的にこなすほうが得意な社員がいます。そうしたタイプは、タフアサインメントで新しい領域に挑戦させるより、定型業務をより速く処理したり、精度を上げたりするようなトレーニングや工夫を与えるほうが、モチベーションが上がりやすい場合があります。

適性の低い社員に対して、無理にタフアサインメントを実施すれば、健康に支障をきたす、離職につながってしまうなどのリスクがあるでしょう。

タフアサインメントの目的や求める人材像を明確にした上で、それに合った育成対象者を選定することが重要です。

タイミングを誤ると失敗しやすい

管理職や経営人材の育成を目的にタフアサインメントを行う場合、対象となる社員は普段から忙しく仕事をしていることが多いのではないでしょうか。

その場合、多忙な社員に新しい課題を与えても、そもそも対処する時間的あるいは体力的余裕がないケースがあります。多忙な状況では、本来ならストレッチゾーンに入る課題がパニックゾーンになっているかもしれません。

タフアサインメントを行う際は、与えようとしている課題に育成対象者が対処できる状況にあるかを慎重に見極めてください。対処できないと思われる状況の場合は、課題を与えるタイミングをずらす、もともとの業務量を調整するなど、新しい課題にチャレンジできる環境づくりが不可欠です。

タフアサインメントの実践ポイント

タフアサインメントを実施するには、以上のようなメリット・デメリットを把握し、デメリットを抑えられるような仕組みづくりが重要です。5つのポイントを意識しながら、育成担当者がしっかり成長できる体制を整えましょう。

(1)目的と評価基準を明確にする

1つめのポイントは、タフアサインメントを行う目的と育成対象者に対する評価基準を明確にすることです。

既に述べたことですが、タフアサインメントには「どのような人材を育成する必要があるのか」という目的が欠かせません。会社のミッション・ビジョンと矛盾せず、会社全体の今後の発展に必要な人材像を明確にする必要があります。育成したい人材の姿と育成対象者への評価基準にも、一貫性を持たせてください。

評価基準には、結果だけでなく、実力を超えた課題にチャレンジしたこと自体を評価する基準、どのようにチャレンジしたかというプロセスを評価する基準も必要です。難しい課題に挑戦する以上、失敗はつきもの。その失敗が成長の糧となったことを実感できるような評価方法をとりましょう。

(2)育成担当者と育成対象社員に目的と評価方法を共有する

育成担当者と育成対象者は、タフアサインメントを実施する目的と評価基準を理解する必要があります。目的を知らないまま課題に取り組むと、望ましくない方向性の解決策を講じたり、指導の一貫性が保たれなくなってしまったりするからです。

タフアサインメントを行うこと自体への同意を得るとともに、どのような課題を与えるか、その取り組みをどのようにサポートするかを事前に共有することで、安心して挑戦できるでしょう。もちろん、育成対象者の上司からの理解も必要です。

(3)課題に対処しやすい環境を整える

目的や評価基準が明確になり、本人から同意を得たら、タフアサインメントで与えられる課題に対処しやすい環境を整えましょう。

例えば、チームリーダーとしての役割を与えるのであれば、メンバーに仕事を割り振ったりチームの方向性を決定したりする権限が必要です。それまで担当してきた業務は他の社員に引き継ぐか、業務量を調整しましょう。課題に対処するために新しいツールを使う必要があるなら、その使用権限や使用できる環境も整えてください。

(4)ストレッチゾーンから課題を与えて見守る

繰り返しになりますが、課題はストレッチゾーンから与えるようにしましょう。簡単すぎる課題では成長につながらず、難しすぎる課題は自信や意欲を失わせてしまいます。育成対象者本人にとって「背伸びをすれば解決できそう」と思える範囲であることが重要です。

課題を与えたあとは、育成対象者が主体的に学び、解決方法を探らなければなりません。指導を行う育成担当者は「こうすればいいのに」と感じることがあるかもしれません。しかし、積極的な介入もまた成長を鈍化させてしまいます。

育成担当者は、「見守る」ことを意識してください。育成対象者が試行錯誤する機会を奪わず、かつ放置もしないことが重要です。「いつでも相談を受け付ける」という姿勢を見せ、相談を受けたらヒントを出す程度にとどめましょう。

(5)定期的にフィードバックを行う

タフアサインメントに限らず、人材育成を行う際は定期的なフィードバックが不可欠です。育成担当者と育成対象者が一緒に振り返りを行える場を頻繁に設定しましょう。

振り返りでは、育成担当者からのポジティブフィードバックや、あらかじめ定めた評価基準に従った評価を行い、成長を確認してください。

もし課題の対処法に困難を感じている場合は、まず本人に課題を分析させ、解決案を考えさせます。行き詰まるようであれば、育成担当者がヒントを出してあげるとよいでしょう。

適切なタフアサインメントで効果的な人材育成を

タフアサインメントは、育成対象となる社員の実力を超える難しい課題を与えることで、大きな成長を促すマネジメント手法です。一方で、与える課題を誤ったり、適性が低い社員を育成対象に選定したりすると、逆に成長を阻害することになりかねません。

適切な課題設定には、社員の能力をきちんと評価・分析するとともに、現在の業務状況の把握が必要です。これには、人事担当者や管理職がビジネスリーダーに求められる要素を把握しつつ、自らも育成対象者のやる気を喚起していきましょう。

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