コンテクストとは?ビジネスでの使い分けと人材育成方法
ビジネスにおける「コンテクスト」は、業務効率化や人材育成に大きな影響を与えます。ハイコンテクストなコミュニケーションには文脈理解力の育成が必須。人材育成では、まずローコンテクストな指示やフィードバックがポイントです。
本コラムでは、コンテクストとは何か、その特徴や使い分け、人材育成への活用方法を解説します。
コンテクストとは?
「コンテクスト(context)」には、分野によってさまざまな意味があります。まずは一般的な意味とともに、コンピューティングや言語学などでの使われ方を、次にビジネスシーンにおける使われ方を見ていきましょう。
コンテクストの一般的な意味と使い方
コンテクストの最も一般的な意味は「文脈」です。より日常的な言い方では、「背景」「状況」「前提」などとも訳せます。
コンテクストという言葉は分野によって、より細かなニュアンスをもって使われています。例えば、コンピューティングや言語学です。
例えばコンピューティングでは、グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)に「コンテキストメニュー」という用語があり、ユーザーが行った操作の位置やタイミングに応じて表示されるメニューを意味します。
言語学では、言葉の使い方や言い方のバリエーション、談話要約に関わるコミュニケーション状況などを表現する際にコンテクストという用語が使われます。
ビジネスシーンにおける用例
ビジネスシーンにおけるコンテクストの意味は、「背景にある事情」や「前後関係」「前提条件」です。
ビジネスにおいては、さまざまな場面で多様な種類のコミュニケーションが発生します。それらのコミュニケーションで前提とすべき価値観や要件、情報といった意味合いとして理解するとよいでしょう。
ちなみに、マーケティング戦略のひとつに「コンテクストマーケティング」があります。これは、消費者がもつ背景事情や心理などをもとにして、そのニーズに合ったサービスや商品を提供しようという戦略です。
コンテクストマーケティングでも、やはりコンテクストという言葉は、背景や前提を意味するものとして使われていることがわかります。
人材育成におけるコンテクストの明確化と共有
このような事情により、「暗黙の了解」を基盤とする文化から多様な人材が活躍できる文化への変革が求められています。
人材育成担当者や管理職の方が、自社におけるコンテクストを言語化しながら人材育成を進めることが、こうした変革の鍵となるのです。
ハイコンテクストとローコンテクストの違い・特徴
とはいえ、コンテクストを常に明示しなければならないわけではありません。多くの背景事情や前提をもつ「ハイコンテクスト」と、事情や前提が明示された「ローコンテクスト」を上手に使い分けることがポイントです。
それには、ハイコンテクストとローコンテクストの違いや特徴を押さえましょう。
ハイコンテクストは大量の前提条件を省略できる
ハイコンテクストとは、背景事情や前提条件が多く、複雑であるような状況のことです。そうした条件は必ずしも毎回明示されるわけではなく、むしろ省略されることが多いでしょう。前提に関する情報量が多く、共有に時間を要することが多いためです。
そのため、ハイコンテクストなコミュニケーションでは、「暗黙の了解」も多くなります。慣れている人同士であれば効率よくやりとりできるというメリットがある一方で、慣れていない人にとっては混乱の元になるというデメリットがあります。
例えば、次のような例を見てみましょう。
-
<A社の営業担当者>
自社のウェビナー運営代行サービスの成約を目指している。
-
<B社の担当者 >
就活・転職活動のノウハウを伝えるウェビナーの運営代行を探している。
以下の背景事情・前提条件がある。 - 20代向けのビジネススキル診断アプリを手掛けている
- ウェビナーでアプリ利用者を増やしたい
- 簡潔な情報共有より悩みに寄り添う共感的な姿勢に価値を置く
- メールやチャットは使えるが、DXはあまり進んでいない
- B社の創業者は転職活動の失敗で人生の大きな転換点を迎えた人物
このケースでは、A社の担当者は、20代向けの就職・転職活動ノウハウを伝えるウェビナーの運営代行を提案する必要があります。ウェビナーの内容には、ビジネススキルに関する内容を何らかの形で盛り込み、診断アプリへの登録を促す流れも欠かせません。
そして、ただノウハウを伝えるのではなく、就活・転職活動を行っている20代の悩みを分析し、共感しながら情報を伝える内容での提案が求められるでしょう。B社の創業者が苦労したエピソードなども盛り込めると、よりB社の担当者に響くかもしれません。
ウェビナーで使用するスライドは、B社では十分に作成できない可能性もあります。そこで、オプションとして資料作成のサポートまたは代行を提案する選択肢も見えてきます。
A社の担当者が以前からB社の事情を知っているのであれば、こうした提案はスムーズにできるでしょう。
- そうでなく、かつ前提条件も共有していない状態で提案を行えば、ウェビナーのターゲットやテーマ設定、受講者への伝え方を誤って受注に至らない
- 受注しても受講者にとってわかりにくいスライドのままウェビナーを実施してしまう
といった恐れがあるでしょう。
顧客とのコミュニケーションでは、背景事情や前提をお互いにどの程度、共有できているのかを知らなければなりません。同時に、条件などを毎回確認していると煩わしく、スピード感に欠ける対応になってしまいます。
効率的かつ効果的に進めるには、ハイコンテクストなやりとりへの対応力が欠かせません。どのようなコミュニケーションが顧客との信頼関係構築に結びつくのか、さまざまな前提条件を聞き出せるのかは、「Win-Winの関係を構築する」ための要素を学ぶ必要があります。当社では、効果的なクライアントコミュニケーションを学ぶ研修をご用意しておりますので、ぜひご活用ください。
ローコンテクスト
ローコンテクストは、ハイコンテクストとは逆に、背景事情や前提条件がシンプルな状況です。メンバー同士が事情や前提を共有していなくてもコミュニケーションが可能で、「暗黙の了解」が少ない状態と言えます。 ローコンテクストでは、「相手もわかっているだろう」という前提がないため、物事の目的や条件などを、その都度しっかり言語化して伝えなければなりません。 伝えるべき情報を細かく言語化するため、工夫しないとコミュニケーション効率が下がってしまうというデメリットがあります。言語化になれていない人にとっては、「やりにくい」と感じられることもあるでしょう。 一方で、業務の目的や条件が明示されるため、新しいメンバーでも仕事を進めやすい環境であるという大きなメリットもあります。 例えば、次のようなOJTの場面を想定してみてください。
育成担当者Aさん | Bさんに資料作成の指示を出す。 「展示会のスケジュールを調べて、表にまとめておいてください」 |
---|---|
新入社員Bさん | 指示を受けて資料作成を進めようとしているが、以下の点で疑問がある。 ・何の展示会について調べる? ・どうやって調べる?インターネット検索?資料? ・いつも参加している展示会は何? ・これまで参加していない展示会の情報はどうする? ・どのファイルにまとめる? ・いつまでに終わらせる? ・作ったファイルはどこにアップする? またはローカル保存してチェックしてもらう? ・どのタイミングで報告する? |
Bさんは会社での業務に慣れておらず、共有している情報が少ない状態です。そのため、Bさんが抱える疑問点に対してAさんは言葉で伝えたり、実際に操作して見せたりするでしょう。
こうしたローコンテクストの状態から業務を始めることで、Bさんは業務のやり方を習得しやすくなります。
ローコンテクストで実践する人材育成5つのポイント
実のところ、人材育成はローコンテクストの典型的な場面のひとつです。新入社員など新しくメンバーに加わった社員を育成対象とする場合、育成対象者は自社の企業文化、顧客情報、ツールの運用ルールなどを把握していません。
特に顧客情報やツールの運用ルールなどは、新人研修などの集合研修を終えて現場に配属された際に直面する大きな課題。「そんなことは知っているはず」と思えることでも、言語化して伝えるべきケースは多いはずです。
そこで、人材育成の場面で意識すべきローコンテクスト4つのポイントを、先述したOJTの場面を用いてご紹介します。
(1)指示内容や要求している作業の工程を分解する
先ほどのOJTの例において、Aさんは「展示会のスケジュールを調べて、表にまとめておいてください」とだけ伝えていました。これに対して、Bさんは
- 何の展示会について調べる?
- どうやって調べる?インターネット検索?資料?
- どのファイルにまとめる?
といった疑問を持っていました。これは、「展示会のスケジュールを表にまとめる」という作業工程に関わる疑問です。
よって、Aさんは、Bさんに任せる業務の工程を分解し、何をどの順番で進めればよいか教える必要があるとわかります。
工程の中には、Bさんにとって既知の部分があるかもしれません。それでも工程を分解して示しておくことで、Bさんが何を知っていて、何を知らないのかを明確にできるでしょう。
Bさんが知らない部分を中心に説明すれば、ローコンテクストでありながら比較的効率のよい指示の出し方が可能となります。
(2)5W1Hを使って指示を出す・情報共有する
工程の分解とともに欠かせないことが、5W1Hを意識した指示です。今回の例では、以下のような形で指示・情報共有をするとよいでしょう。
When いつ | 今日の15時までに |
---|---|
Where どこで | 自席(のパソコン)で |
Who だれが/に | Bさんが/Aさんに |
What 何を | 展示会のスケジュールを作って報告する |
Why なぜ | 新サービスの発表とリード獲得のため |
How どのように | 1.過去に参加した展示会の今期の開催情報をインターネットで調べる 2.参加したことがない展示会のうち、新サービスに合うものをインターネットで探す 3.調べた情報を指定のエクセルファイルに入力する 4.ファイルへ入力したら、情報に誤りがないかチェックする 5.チェックが終わったら、Aさんに報告する 6.必要に応じて情報を修正する 7.作成したファイルを共有フォルダの指定場所にアップロードする |
5W1Hは、工程ごとに細かく設定することも可能です。「どこで」「だれが」など、すでに共有していたり、わかりきったことであったりする場合は、省略してもよいでしょう。
(3)「もし〜なら」と条件を明確にする
業務を進める際に、もともと想定されている流れとは異なる進め方が必要になることがあるかもしれません。そうした場合に備え、「もし〜なら」と条件付けをしておくことも効果的です。
例えば、「今日の15時までに報告する」という指示を出していたものの、Bさんが作業に手間取り、15時までに完了できなかったとしましょう。入力やチェックが終わっていないためAさんに報告する段階にはなっていません。しかし、そのままBさんからの報告がなければ、Aさんは状況を知ることができません。
この場合、Aさんは次のような条件をBさんに伝えることができます。
「もし15時までに終わらない場合は、作成途中でも構わないので一度報告に来てください」
また、Aさんが多忙で15時に部署内にいないケースも考えられます。そのような場合、Aさんは
「作業が終わった時に私が部署内に見当たらない時は、チャットで私にメンションして報告してください。部署に戻り次第、確認します。報告してから次の指示があるまでは、セミナー動画の○○を見ておいてください」
などと伝えるとよいでしょう。
(4)見本やテンプレートなど、完成イメージを共有する
5W1Hの「How」については、言語化して伝える以外に、見本やテンプレートを示して完成イメージや作業工程を共有する方法も考えられます。
展示会スケジュールをまとめた表でいえば、過去に作成した同様のファイルのコピーをBさんに共有し、「この形式で作成してください」または「この表にある情報を新しいものに書き換えてください」などと指示できます。
見本やテンプレートがあれば、入力すべき項目や体裁が一目でわかります。過去に作成したファイルなら、それまでに参加していた展示会の名称や時期をヒントに、作業を効率化できるかもしれません。
言葉で説明されるより実物を見せてもらうほうが理解しやすいという人もいますので、育成対象者の特性に合わせて選んでみてください。
ハイコンテクストな状況には文脈理解力が不可欠
OJTとは異なり、今まさに大きく動いている現場の業務では、より迅速な判断や対応が求められます。効率化のため、業務に必要な知識を各メンバーが既に持っていることを前提に、話が進められる場面が多いからです。
こうしたハイコンテクストな現場に対応するには、他のメンバーが共有している知識やスキルを、新しいメンバーも習得していかなければなりません。端的に言えば、それを可能とする文脈理解力を育てておく必要があります。
文脈理解力を育てるポイントを4つに分けてご紹介しましょう。
(1)土台となる知識を習得する
文脈理解力は、土台となる知識を習得することで育てやすくなります。土台となる知識とは、業務に必要な基礎的な知識やスキルです。
基礎的な知識やスキルを習得する中で、質問力も高めていきましょう。知らない部分やわからない部分を質問することで、わかる部分を増やしていくのです。
こうした知識があれば、いずれ、さまざまな前提をもとに推測・判断できるようになっていきます。
(2)多くの社員が持っている知識を習得する
一般に通用する基礎的な知識やスキルに加えて、自社でのツールの使い方、用語の理解なども習得する必要があります。
自社で使っているツールについては、例えば、
- ビジネスチャットでのメンション、スレッドのルール
- 進捗管理表や顧客管理表の使い分け、使い方
- 通話記録の入力方法、記載すべき内容
- メールの件名のパターン、社外へ送信するメールのテンプレート
- などが考えられるでしょう。
用語の理解では、
- 自社でよく使う用語とその意味
- 一般的な業界用語の調べ方・参照先
- 自社でのみ通用する共通の言葉(略称・独自の言い回しなど)
などを知ることで、より文脈を理解しやすくなります。
(3)業務遂行で重要な情報を記録・共有する
リアルタイムに進行する案件の情報共有も重要です。それには、現在の業務に関わる議事録や顧客とのコミュニケーション履歴などを関係者が確認できるようにしておく必要があります。
議事録やコミュニケーション記録には、
- なぜそのような判断になったのか
- その業務の目的や位置づけは何か
- その業務が関わるプロジェクトの目標と目標達成時期はいつか
- どのようなメンバーが関わっているか
など、重要な情報が含まれています。
判断の結果だけを見ると「不合理なのではないか」と感じられることでも、その背景を知ることで納得できるものがあるでしょう。単純で無意味な業務に感じられていたものが、全体における位置づけを知ることで、非常に重要な業務であり、そこで何が最も重要なのかに気づけるかもしれません。
(4)質問しやすい雰囲気をつくる
最後に欠かせないのは、質問しやすい雰囲気づくりです。
新しいメンバーは、ハイコンテクストな現場で「暗黙の了解」となっている情報を知らずに入ってくることが多いもの。なるべく早くそうした情報を共有し、業務の効率化や生産性向上につなげるためにも、「あれ?」と思ったことを放置しない文化の醸成が大切です。
ただ、忙しい現場において、小さな質問の全てに誰かが答えなければならないという状況は効率的ではありません。そこで、「マニュアルや社内の情報共有サイト、インターネット、書籍などで調べてもわからない部分、曖昧な部分があったら、質問する」というルールも必要に応じて導入しましょう。
コンテクストを使い分け効果的なコミュニケーションへ
ビジネスシーンには、ハイコンテクストな場面もあれば、ローコンテクストな場面もあります。迅速な判断や対応が求められる現場では、さまざまな前提条件を省略したハイコンテクストなコミュニケーションで業務効率化を図れます。一方で、前提知識を持たない新人の育成や文化的な背景が異なる多様な人材が参加する場所などでは、さまざまな情報を言語化して明示するローコンテクストな方法を用いるほうが効果的でしょう。ハイコンテクストにせよローコンテクストにせよ、ポイントは、相手との情報共有をいかに行うかという点です。ALL DIFFERENTでは、若手社員を対象としたオーラルコミュニケーション研修を実施しています。本研修には、上司や先輩社員への報連相、お客様とのコミュニケーションなど、さまざまな場面で役立つポイントが満載。ご参加いただいた方の93%にご満足いただいております。自信をもってお届けする本研修を、ぜひ人材育成にお役立てください。